幽霊にセクハラしても罪にはならないですよね?   作:ボトルキャプテン

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第53話 お岩さんともっこりブリーフ

 はーちゃんがお岩さんを取り押さえようとした瞬間、お岩さんは片手ではーちゃんの手首を掴み、ギリギリと締め上げる。とてつもない力にはーちゃんは悲鳴を上げる。

 

「きゃぁぁっ!!」

「お前さん、随分大きいんだねぇ。天狗か何かかい?」

「うぅ…………」

 

 お岩さんは痛みに悶えるはーちゃんをグイッと引っ張り、おぞましい顔にギラギラと瞳孔が開いた目ではーちゃんを額がぶつかるスレスレまで近けて目を見つめる。はーちゃんはあまりの恐怖に腰を抜かしてしまった。戦意を失った事を悟ったお岩さんは花ちゃんとはーちゃんを離した。窒息寸前だった花ちゃんはゲホゲホと咽び泣く。

 

「は、花子さん!?花子さん大丈夫ですか!?」

「ゲホゲホッ、なんて力じゃ」

 

 花ちゃん達を退いたお岩さんはそのまま玄関を手を触れずに開けて中へと入って行く。お岩さんはそのまま下を向いて見ると、おくまが鬼の様な形相で立っていた。

 

「おや、可愛らしい人形だねぇ」

 

 お岩さんがおくまに手を伸ばそうとした瞬間。天井に這わせていた髪の毛がお岩さんの首に巻き付き、吊るし首をする様に引っ張り上げた。だが、お岩さんは首を締め上げられながらも涼しい顔をしながらおくまを見下ろす。

 

「お客に失礼じゃないか、作法を教えてやろうか?」

 

 そう言った瞬間、お岩さんは首に巻き付いたおくまの髪の毛をブチブチと音を立てながら引きちぎり、おくまの頭を掴み上げ、玄関の外へと投げ捨てた。お岩さんはそのまま玄関を上がり、茶の間をゆっくり歩く。

 

「伊右衛門さまぁ…………伊右衛門さまぁ?」

 

 家の中を見渡しながらお岩さんが探し回る。タンスの横を通り過ぎようとした瞬間、隙間から手が飛び出して来てお岩さんの腕を掴み、そのまま隙間に引き込もうとする。

 

「なんだい、この手は。どっから出てるんだよ」

「私は隙間女。これ以上行かせないからね。 メリー!今よ!」

 

 すーちゃんの合図と共にメリーがお岩さんの背後に回って首元に果物ナイフを突き付けた。

 

「あたし、メリー。今、あなたの後ろにいるの」

 

 メリーとすーちゃんが先手を取ったかのように見えたが、

 

「あんた、南蛮の娘じゃないか。やれやれ伊右衛門様は好き者だねぇ」

 

 聞き覚えない名前を聞いてメリーは首を傾げる。

 

「い、伊右衛門?誰それ?」

「もしかして龍星の事? だったら人違いよ。ここに伊右衛門なんていないわ。帰って!でなきゃ─────」

「でなきゃどうする?あたいを殺すかい?」

 

 お岩さんは果物ナイフの刃をぎゅっと握り締める。手から血が滴り落ちるとメリーとすーちゃんは怯んでしまった。それを見逃さなかったお岩さんは、

 

「ほら、どうしたんだい?この刃物であたいを殺すんだろ?やってご覧なさいな」

「あ……あ……」

「メリー!しっかりしてよ!こ、これ以上掴んでられない…………!」

「あんたも、そんな所に隠れてないで出てきたらどうだい?」

「いや、い、いたいっ!」

 

 一旦刃物を離し、血が滴る手ですーちゃんの腕を掴み、引っ張り上げてすーちゃんを引き摺り出した。お岩さんはすーちゃんの腕をギリギリと締め上げると、すーちゃんは悲鳴を上げる。

 

「いやぁぁぁっ!いたいっ!いたいっ!」

「こんなもんで根をあげるなんて情けないねぇ」

「や、やめて!」

 

 そこに、隠れていたくねくねが割って入り、お岩さんの腕にしがみついた。

 

「まだ隠れてたのかい?黙って隠れていれば、見逃してあげたのにねぇ」

 

 左手ですーちゃんの腕を掴み、右手でくねちゃんの髪の毛を鷲掴みにして持ち上げる。

 

「きゃぁぁぁっ!」

「退きな小娘!」

 

 くねちゃんを突き飛ばすと、騒ぎで目を覚ました小さいおじさんがゲージから顔を出した。

 

「うるせぇなぁ、こんな遅くに何騒いでんだぁ?」

「なんだい?この汚らしいネズミは?」

 

 お岩さんはゲージに顔を近付ける。おぞましい顔を目の当たりにしたおじさんは腰を抜かしてしまう。お岩さんはおじさんを睨み付けた。

 

「あんた、伊右衛門様はどこにいるんだい?」

「い、伊右衛門?だ、誰だそれ?」

 

 おじさんが首を傾げると、お岩さんはバンとゲージを叩いて威嚇する。

 

「嘘つくんじゃないよ!  どこに隠したんだい!?」

「な、なんなんだよ、もしかしてあんちゃんの事か?あんちゃんなら2階の奥の部屋だけど」

「ふんっ、最初からそう言えばいいんだよ」

 

 おじさんの指刺す方向を向いて階段をギシギシとゆっくり上がり始めた。階段を登り終えると、廊下にはお菊さんが正座をしながらお岩さんを見詰めていた。お岩さんは、お菊さんを睨み付ける。

 

「まだ居たのかい?」

「お岩様。この先には民谷伊右衛門様はいらっしゃいません。お引き取りくださいまし」

 

 お菊さんは正座の姿勢から、上体を前傾させて座礼をする。

 

「その作法…………あんた、どっかに奉公してたかい?」

「はい。生前は武家屋敷の侍女としてご奉公しておりました」

「へぇ、通りで。けど、その部屋には伊右衛門様がいるんだ、退いとくれよ。会いたいんだよ」

 

 お岩さんが目から血を流しながらお菊さんに言うと、お菊さんは両手を広げて行く手を阻む。

 

「なりません!この先に居るのは福島龍星様で御座います。民谷伊右衛門様ではありません!」

「御託並べてんじゃないよ!」

「ああっ!」

 

 お菊さんを張り倒し、お岩さんはドアの前に立つ。

 

「伊右衛門様…………いるんだろ?」

 

 俺は思わず口元に力を入れる。返事をしなかった途端、お岩さんは豹変してドンドンとドアを叩く。

 

「伊右衛門様ぁぁぁっ!伊右衛門様ぁぁぁっ!!ここを開けて下さい!伊右衛門様ぁぁぁっ!!」

「お岩様、お止め下さい!ここにはおりません!」

 

 張り倒されたお菊さんが再び立ち上がってお岩さんにしがみつく。だが、お岩さんはお菊さんを掴んで壁に叩き付ける。

 

「邪魔をするなって言っただろぉぉっ!!」

「がはっ…………」

 

 お菊さんは鼻血を流し、そのまま倒れ込む。痺れを切らしたお岩さんがドアを手を触れずにこじ開けた。ブリーフ一丁で正座していた俺はケツに力を入れる。

 

メリーや花ちゃん達が止められない幽霊、かなりヤバい。

 

 だが、お岩さんはお菊さんが書いてくれたお経のおかげで俺の姿が見えないのか、目の前にいるのに辺りを見渡していた。

 

「伊右衛門様ぁ?居るんだろう?隠れてないで出来ておくれ」

 

 少しずつ俺に近付いて来る。俺は幽霊に触れることが出来る為、ゆっくり場所を変えようと立ち上がろうした。

 

だが、その時。

 

 足に虫が這うようなビリビリ感が迸る。

 

そう、足が痺れちゃった。

 

 突き刺さる様な痺れに耐えながらゆっくり、ゆっくりと立ち上がってお岩さんから離れようとした。それと同時に、お岩さんがこちらに顔を向けて下半身を凝視していた。

 

ん?どこを見ているんだろうか?

 

 俺が下に目を向けて見ると、ブリーフにお経が書かれていないのに気付いた。そこにあるのはもっこりとしたブリーフ。


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