「……ちょっと男連中、折り入って話があるんや」
七月も半ばを過ぎた頃、いつものように晩酌に付き合わされていた俺と柳也は、晴子のそんな言葉に杯が止まる。
「来週の金曜日、あの子……観鈴の誕生日やねん。ここにいる三人でサプライズパーティー開いてやろうと思てな」
晴子は少し声のトーンを下げつつ、部屋を隔てる襖を見やる。
「サプライズパーティー?」
「せや。これまであの子の誕生日、満足に祝ってやれへんかったからなー。今回は気合入れたろう思うんや」
『清酒・鬼殺し』とラベルが貼られた酒を自分のコップにつぎながら、晴子が続ける。当の観鈴は既に向こうの部屋で神奈や裏葉と一緒に寝息を立てているし、本気でサプライズにするつもりらしい。
「パーティーやるのは構わないが、プレゼントはどうするんだ。金ならないぞ」
「うちもない。というわけで、全部手作りするで!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……そんな晴子に押し切られる形で、その翌日から男だらけのプレゼント作りが始まった。
「……誰が男だらけや? うちは立派な乙女やで?」
「地の文を読むなっ!」
「細かいことは気にせんでええ。それより、口より手を動かすんや……いったぁ!」
そう言った直後、青色の布に針を通していた晴子が叫び声をあげる。どうやら、勢い余って針で自分の指を刺してしまったらしい。
「フッ。晴子はいつまでたっても上達しないな。俺を見ろ。法術で針と糸を操っている分、指を刺す事もないぞ」
「ぐっちゃぐっちゃやけどな」
「う、うるさいやいっ」
法術の才能はあっても、俺に縫い物の才能はないみたいだ。ステゴザウルスを作っているつもりが、ただのミノムシのようになっている。
「だが、晴子殿も上等な鳥ができているではないか。それは鴎か?」
「アホ、プテラノドンのつもりや。角があるやろ」
そんな話をしながら、俺達はちくちくと恐竜のぬいぐるみを作っていた。見ての通り、結果は散々だが。
「そう言う柳也は進んどるんか? 図鑑見ながらやったら、楽勝やろ?」
「……縫物など、女子供の仕事だ。俺にできると思うか?」
何とも言えない顔をしつつ、俺以上に無様な布と綿の集合体を掲げる。どうやら、縫い物の才能がないのは血筋らしい。
「なぁ晴子、もう下手に作るより、ポテトに色を付けて渡した方が喜ぶんじゃないか?」
「あの子が好きなんは恐竜や。何が何でも、恐竜のぬいぐるみを作るんや」
晴子はそう発破を掛けるが、それこそポテトを緑色に着色して、新種のポテトサウルスだと説明してもあいつなら信じるかもしれない。
法術を使いすぎて精神的に疲れたせいか、俺はそんな支離滅裂なことを考えていた。
「……やはり、事情を話して裏葉に指導してもらった方が良いのではないか?」
「そういうわけにはいかんで。裏葉さんには普段から観鈴と一緒に料理を担当してもらってるんやし、最近は神奈ちゃんにべったりや」
そういえば、昨日もみちると遊びに行くという神奈にずっと付き従っていたな。本当に俺達だけでやるのか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……それから更に数日後。
今日はぬいぐるみの件は棚に上げて、料理に取り掛かっていた。
「ええか。ケーキにプレゼント、それにチキン。これが誕生日の三点セットや」
「……そうだったか?」
「せや」
……まぁ、俺も誕生日を祝われた記憶はほとんどないから、何も反論はできないんだが。
「で、チキンは柳也の担当やったな。首尾はどうや?」
「生憎、野生の鶏は見つからんな。山に行けば、野鳩や雉くらいならいるかもしれんが」
「真顔で何言っとんのや。スーパーに行き」
「そう言うが、金はないぞ」
「居候と同じようなこと言うんやな、この前、町内会で剣道部の助っ人してたし、日当もらったんやないんか?」
「もらったが、全て裏葉に預けた。きっと、今頃着物代に消えているだろう」
さも当然のように言う。俺は見たことないが、柳也は裏葉の尻に敷かれているのか?
「はぁ。剣道がどれだけ強くても、飯の種にならんかったら意味ないわ……」
晴子ががっくりと肩を落とす。余談になるが、柳也は剣の道で生きてきたというだけあって、町内はおろか、県内にも敵はいない程の腕前らしい。いっそ、剣道教室でも始めて月謝を取れば儲かると思うが。
「そんなことより、晴子のケーキ作りはうまくいっているのか?」
「バッチリやで!」
俺が話題を変えると、晴子はサムズアップしながら胸を張る。
「本当か? 一昨日に一度試食として出されたが、フォークを刺した瞬間に崩れ去ったぞ?」
「ああ、あの消し炭が料理とは、世も末だな」
ここぞとばかりに、俺と柳也が攻勢に出る。
「ちゃうわっ! あれは……ちょっとオーブンの温度設定を間違えただけや!」
「ちょっと間違えたからって、スポンジケーキがあそこまで炭になるか?」
「やかましいっ。そこまで言うなら居候、あんたが焼いてみ?」
「ぐ……!」
「生クリームホイップしたくらいで手伝った気になってもらわれても困るでー?」
「ぐぬぬ……」
そう言われると返す言葉がない。くそ、法術でケーキを焼ければ……!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……そんなこんなで迎えた、観鈴の誕生日当日。
「「観鈴、誕生日おめでとう」」
どうにか完成したぬいぐるみらしきものを小綺麗な包装紙で包み、なんとか形になったケーキを添えて、観鈴の誕生日を祝う。
「……にはは。ありがとう。嬉しいな」
さすがに一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべながらお礼を言ってくれる。
チキン用の鶏を用意するために佐久間リサイクルショップに回収品仕分けのバイトをしに行ったり、ケーキ作りについては恥を忍んで聖に聞きに行ったりと紆余曲折あったのだが、あの笑顔を見れただけでこれまでの苦労が全て報われたような、そんな気がした。
「でも、サプライズパーティーも嬉しいけど、来年の誕生日には皆で一緒にケーキ作りたいな」
「まことじゃ。それならば余も大手を振って手伝ったと言うに」
「止してくれ。より悲惨なことになるだけだぞ」
神奈が意気揚々と手伝いを進言したが、柳也に一蹴されていた。悪いが、神奈が料理するイメージはない。
「あらあらまあまあ。それでは柳也さまには、今度上達したという裁縫の腕前を披露して頂きましょうか」
「つ、務めで疲れていない時にな」
そう言ってチキンをかじりつつ視線を逸らす。結局、柳也も裁縫の腕も最後まで上がらなかった。
「まぁ、確かに裏葉が手伝ってくれりゃ、来年はもうちょっとマシなケーキ作れるだろ」
時折スポンジの焦げた部分に当たりながら、生クリームが若干硬めのケーキを口に運ぶ。正直、晴子の作ったケーキもお世辞にもうまくはない。観鈴はうまそうに食っているが。
「うんうん。それで、誕生日プレゼントに往人さんとデートするの。観鈴ちん、ナイスアイデア」
「むぐっ!?」
……一瞬、パサパサのスポンジが喉に詰まりそうになった。
「……観鈴、それは来年でも許さへんで」
「が、がお……」
堪らずいつもの口癖が飛び出して、晴子がそれを咎める。
そんな二人を俺や柳也、神奈達が微笑ましく見守る。
……願わくば、来年もその次の年も、この賑やかな誕生日が変わらず迎えられますように。
~あとがき~
どうも、トミーです。
今年もこの季節がやってまいりました。毎年恒例、観鈴の誕生日SSです。
今回は去年のようなクロスオーバーでなく、純粋にAIRの登場人物だけでやってみました(柳也達は出ていますけど)。
少し短めですが、笑って楽しんでいただけたら嬉しいです。
改めて観鈴、誕生日おめでとう!