グレン=レーダス。ボクはこの男と知り合ってからまだ数年しか経過していないが彼の実力は少なくとも買っている。今はもう帝国宮廷魔導士団特務分を辞めてしまっているがまだ関係は続いている。彼が執行官ナンバー3《女帝》を失って引きこもり生活を送るようになった後も一か月に一度ぐらいの頻度で彼に会いに行っていた。イヴさんには「そんなに気に掛ける必要があるの?」と言われたけど、ボクには彼を気に掛ける必要がある。それはイブさんも知らないようだが彼とは切っても切れないような縁があったりする。
そして彼は最近、引きこもりを止めて帝国魔術学院に非常勤講師として勤めるようになったらしい。彼が働く決意をした理由は何なのか分からないが働くようになったのならばそれが一番だ。ずっと引きこもりの生活を送ったとしても彼は一歩を踏み出せない。執行官ナンバー3《女帝》が死んでから人と関わる事を拒絶するようになった彼が非常勤講師としてでも、学院に勤めるようになるとすればそれは一歩を踏み出す。もう一度、魔術と関わる一歩を……。
「君がもう一度、魔術と関わるとは個人的には意外だったよ」
目の前に座っている人物…グレン=レーダスに言うと彼は少し時間が経ってから答えた。
「…やりたくねぇよ。だけどセリカの奴が脅してきやがって」
セリカさんなら確かにやりかねないな。あの人とは何度か顔を合わせたことはあるけど不気味な人だったということだけ記憶している。
「まあ、そんな感じだとは薄々思ってたよ。君が自らの意志で魔術と関わるなんてことをするとは思っていなかったからね」
「…さようですか……それで今日は何ようだ?」
「ああ、そうだったね。今年から妹が帝国魔術学院に通う事になっているはずだから、よろしくと言っておこうと思ってね」
「オレはお前の妹だからって贔屓したりしねぇぞ。それにオレが学園でまともに仕事していると思うか?」
「まあ、そうは思わないけど……でも、君のことだから彼女たちと真摯に向かう時がいずれ来るとボクは思っている。だからその時のために言っておこうと思ってね、それに少なくともボクの妹は君のことを気に入ると思っているから」
妹とは二年近くあっていないけど…それまでの彼女ならボクは知っている。彼女は非常に正義感が強く、悪を許さない性格をしている。そこは良いのだけど…正義感の強さは反発を生むことも少なくないと思う。妹はそれぐらいじゃへこたれないし、ルミアも近くに居るんだから大丈夫とは思うがやっぱり保険はしておいた方が良いだろう。
「気に入るだと……そんなことねぇと思うけどな。オレとしてはお前がそんなに妹想いだとは思いもしなかったが」
「そうかい…妹のことを気に掛けるのは兄として普通のことですよ」
「…そうかい……そう言えば、お前の苗字、オレは知らない。だからお前の妹もオレは分からないんだが」
こいつには知らせてなかったか。だけどバレるのも時間の問題だろう。
「大丈夫だよ。いずれ分かる…」
その後も少し会話をしてボクと彼は別れた。