支配者ナナリー   作:Red_stone

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第4話

「さて。スザクさんはこちらですか。お兄様は――どうやら遅かったようですね」

 

ころころと車椅子が進んでいく。

まるで迷いが見えない――くせに一切操作している様子もない。

すいすいすい、と障害物に乗り上げることもなく進む。

 

「生徒会の皆さんは、まだ来ませんか――」

 

そして、当然の顔で進んでいく。

ランスロットを囲む黒の騎士団に向かって。

 

「――き、君は? ここは危ないから、体育館に」

 

黒の騎士団は彼女のことを脅威に思わない。

ただ、足の不自由な彼女を安全なところに下がるように言うだけ。

 

「勇気とは、つまるところ逃避にほかならない」

 

と、唐突に言った。

静止も聞かずに。

 

「――は?」

 

と、ぽかんとしている間にさっさとランスロットの前まで来てしまう。

ランスロットは動かない。

動力であるサクラダイトを停止させる罠にかけられてしまったから。

そしてパイロットは依然その中に。

まあ――機体が動かないからといって、さっさと出て行って投降するものはそうはいない。じっと息を潜めるしかない。

 

「おい――あぶねえぞ」

 

ここまで至ってもなお――黒の騎士団は戸惑い続ける。

危ないと言いはしたが……ランスロットは停止しているのだ。

座り込んでいる状態だし、いきなり崩れて彼女を押しつぶすといったことも考えられない。

危ないと言ったのはそう――ただランスロットが兵器であるから。

思いついたのが、ただそれだけであったというだけ。

 

しかし、本当に気が気でなかったのはランスロットの操縦者である。

彼――スザクはナナリーの兄の親友。

それに加えて彼自身も妹のように思っている。

そんな彼女が戦場に現れたのだ。

――そう、親友たる彼の親友が安全な場所まで退避させていることを疑っていなかっただけに、酷く動揺する。

 

じっと見上げている。

まるで世界のすべてを見通すように、ナナリーは迷いなく、疑いなくそこにいる。

 

「――おい、君」

 

黒の騎士団の一人が手をかけようとした。

――別に隠語ではない。

だれでもよくやる。

こいつ、俺の話を聞いてねえな、とか思った時には肩に手をおいたりするアレだ。

持っている銃だって明後日の方に向けていた。

 

――だが。

 

「待て! その子に手を出すな――君たちの相手は僕がする!」

 

スザクは息を潜めていたのが嘘のようにコクピットから飛び出した。

 

「はぁ!?」

 

まるで自分が年端もいかない少女に何かしようとしていたとでもいうように誤解された男は弁解を試みる。

そういうつもりじゃねえ、とか、むしろお前から守ろうとしてだな、とか。

そして、スザクが敵であることを思い出した頃には遅かった。

 

「こんな子にまで手をかけようとするなんて――」

 

殴り飛ばした。

親友の妹ということで力が入りすぎてしまったのだろう。

吹き飛んだ男はびくびくと痙攣している。

ギャグとかそんなのじゃない――本当に命が失われる危険な拍動。

緊急治療室に入れられるわけがないその状況……男の行く先は一つしかない。

 

「次は誰だ!?」

 

スザクはナナリーの前に立って声を張り上げる。

 

「――ぐっ!」

 

だが、状況はまるで逆。

引き金を引けば少女を撃ってしまうかもしれない。

敵は真実、盾になるつもりで少女のそばに居るのだろう。

だが、自分たちとしては少女を盾に取られたようなものだ。

うかつには撃てない。

これがスザクただ一人であったら違うのだろうが――

 

「懸命な判断です。同士討ちは良くない――誰を怨めばいいのかわからなくなってしまう。世界には無軌道な怨嗟が多すぎる……」

 

少女がつぶやいた。

その様はまるで、自らが死なないことを確信しているかのよう。

あまりにも堂々と、聞いている方としてはわけのわからない言葉を言い放つ。

 

「ナナリー? 何を言っているんだい」

 

スザクが戸惑いを隠せずに振り向く。

彼がわかったのはただ一つ、同士討ちはよくないという言葉くらいで……あれ? ルルーシュに影響を受けたのかな。何言ってるのか全然わからないなんて思っていた。

それよりも彼女を守ることが優先で。

 

「それよりも早くどこかに避難を――」

「スザクさん、あなたは可哀想な人です。もはや死神にも見捨てられたあなたは――どこにもたどり着けない。そう……全ての糸が切れてしまっている」

 

しっかりとスザクの目を見て言う。

なぜか目が見えている様子に一瞬嬉しく思いかけるが、彼女の言葉。

死神に見捨てられたと言う言葉だけが反響する。

 

「――ナナ」

「あなたはどこまでもそうであるしかない。流されるままに他人の糸を断ち切り、そして最後に何も得ていなかったことに気づく。救いはない。機械仕掛けの神はあなたを血の色に染め上げるだけ。希みは遠く、現実は紅い」

 

「そういうのはルルーシュに――」

「あなたには用がありません」

 

ぴしゃりと言った。

ついさっきまでまくしたてておいて、酷い言い草だ。

 

「ゼロに用があるのです。今ゼロにつなげる電話があります。それを使わせていただきます」

 

言葉こそ丁寧だが、有無を言わせない口調。

当然、黒の騎士団は反発する。

 

「そんなことができるわけがないだろう。大体、こっちからだってそうそう連絡はつかないのに……」

「あまり暇がありません。今から5分後に2階にある電話にかかってきます。それに同席させてもらいます」

 

「は? いや、そこって――確かに司令室に近いけど」

「それでは、そういうことで」

 

一瞥もせずに行ってしまう。

 

「へ? いや、ちょ――どうすりゃいいんだよ」

「とりあえず、俺達はこいつの見張りだし、連絡入れておけばいいんじゃないか」

 

「それも、そうだな」

「なあ、あんた――知り合いみたいだけど、あの女の子は一体何だったんだ?」

 

スザクに問いかける。

黒の騎士団メンバーが戦場で敵と一緒に呆然と少女を見送る――なんとうか変としか言いようのない光景。

 

「いや、目が見えなくて歩けない障害を持っているけど、普通の女の子だったはず」

「……普通に見えてたみたいだけど?」

 

「うん――おかしいな。ルルーシュに知らせたら喜ぶかな」

「ルルーシュ? 誰だそれ――」

 

「ああ。ナナリーの兄だよ」

「へぇ。中々にそいつも大変そうだな――」

 

「うん、口には出さないけど、あれで中々ナナリーのために苦労してるみたいで……」

「ってなんで俺たちは敵同士なのに、こんな話をしているんだ」

 

「――っは!?」

「お、おとなしくしやがれ。そうすりゃ危害は――」

 

黒の騎士団は慌てて銃を構えようとする。

だが、遅すぎる。

 

「おおお!」

 

スザクは男の顎を殴って意識を飛ばす。

なし崩し的に戦闘に発展する。

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