色んな奴らが剣と盾の伝説のある地方に襲来するそうです   作:砂原凜太郎

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それぞれの襲来

 アローラ地方 ウラウラ島 ラナキラマウンテン頂上。

 ここには、アローラ地方最強のポケモントレーナーを決める戦い。ポケモンリーグがある。

 人々に選ばれた四天王。それを突破したトレーナーは、現最強ともいえるトレーナー、チャンピオンに挑むことになっている。

 今、そのチャンピオンに、一人の青年が挑もうとしていた。

 

 チャンピオンの玉座に座るのは、アローラにおける異変を、伝説のポケモン、ルナアーラと共に解決した少女、ムーン。

 挑むのは、彼女のライバルの一人。金髪で、赤い爪痕にファスナーの付いた黒い服を身に纏った青年。グラジオ。

 

「今日こそチャンピオンの座、奪わせてもらうぞ、ムーン!!」

「望むところ!!行くよグラジオ!!」

 

 グラジオのメガアブソルとムーンのルナアーラが相打ちで倒れ、残るポケモンは互いに一体。グラジオは幼少のころから、ムーンは旅を始めた時から共にいる、最強のパートナー。切り札を繰り出す。

 

「来い、聖獣シルヴァディ!!」

「行くよ、ジュナイパー!!」

 

 グラジオが繰り出したのは、四足歩行の生物であり、水掻きと獣の脚を持つ、合成獣(キメラ)の様な人口ポケモン、シルヴァディ。

 ムーンの切り札は、緑の木の葉のフードを被った、フクロウの様なポケモン。ジュナイパー。

 そして、この二体のポケモンが場に出た時、二人が一番初めに使う技は決まっている。

 

「行くぞ、オレ達のゼンリョク!!」

「いっくよ~、私達のゼンリョク!!」

 

 グラジオの右腕に光る、黒のZリング。ムーンの右手に輝く、白のZリング。そのリングにはまったクリスタルが、共鳴する。

 そして、技の発動の儀式とも取れるポーズを決める。グラジオは両手を使い、大きく体で『Z』の文字を体現する。

 ムーンは顔を両手で隠すようなポーズをとり、低い体勢からおどろおどろしい動きで上半身を上げ、驚かすように両手を広げる。

 お互いが放つ、ゼンリョクの切り札。Z技。お互いに、これで決める。と言う意識がみなぎった。

 

「行くよ、ジュナイパー、【シャドーアローストライク】ッ!!」

 

 ジュナイパーの周囲に、無数の矢が出現する。飛び上がったジュナイパーは、矢と共に鋭く突っ込んでいく。

 

 対するシルヴァディにも力がみなぎり、目が輝いた。シルヴァディは、かつてタイプ:フルと言うコードネームの元、専用のディスクを使う事でどんなタイプにもなれるポケモン。しかし、現在ディスクフォルダーに、その核となるディスクは入っていない。即ち、今のタイプは通常のノーマルタイプ。この状態では、シルヴァディのタイプにより技のタイプが変化するシルヴァディのブレイククローは、ゴーストタイプを持つジュナイパーには通用しない。しかし、彼のZ技はその属性の概念を通り越し、ジュナイパーに大ダメージを与える。

 

「属性の概念を超越しろッ!!シルヴァディ、【マルチブレイクレボリューション】ッ!!」

 

 無数の属性の爪が、ジュナイパーの矢を砕いていく。

 そして、無数の攻撃が消えた時、またジュナイパーの矢も尽きた。

 自らが矢と化すように突っ込んでいくジュナイパー。シルヴァディも、残った自身の爪で対応する。

 

「オオォォォッ!!」

「はあぁぁぁッ!!」

 

 爪と矢が拮抗する。闇のオーラと全属性のオーラがぶつかり合い、けたたましい煙を上げた。

 そして、煙が晴れた時……。

 

「フッ……何も、無いな……。」

 

 フィールドに倒れ伏していたのは、シルヴァディだった。ムーンのジュナイパーは、全身傷だらけでボロボロになりながらも、これがチャンピオンの相棒の力だと言わんばかりにその眼でグラジオを見据えている。

 それを見たグラジオは、自らの負けを悟り、全てを出し尽くしたかのように、脱力した。放った言葉は、己への自嘲だったのかもしれない。

 

「さすがだねグラジオ。ボクがここまで追い込まれたのは久しぶりだよ~。」

 

 一方ムーンは、バトルが終わったと分かった瞬間、そう砕けた態度で、グラジオに接する。

 

「フン。いくら追いつめても、負けては意味が無い。」

 

 一方グラジオは、自らをあざ笑うかのようにそう言った。

 

「そんな事ないよ。グラジオのゼンリョクの技は、それこそどんなトレーナーの技にも及ばないと思うよ?」

「お前にも、か?」

「うん。今回は運が良かっただけ。ジュナイパーは、シルヴァディとモクローだった時から戦ってるんだもん。弱点を心得てただけだよ。」

「逆に、オマエのポケモンの弱点をオレが付けたためしはない。オレもシルヴァディも、まだまだ未熟だ。」

「そっか。それじゃぁ、次の挑戦を楽しみにしてるよ。グラジオ。」

 

 グラジオに、ムーンはそう言った。

 

「その事なんだがな、」

 

 しかし、グラジオは、ムーンの顔を真剣な顔つきで見る。

 

「どうかしたの?」

 

 ムーンが問いかければ、グラジオは覚悟を決めたようにこう言った。

 

「しばらく、オマエには挑戦しない。いや、出来ないんだ。」

「え?」

 

 ムーンがその言葉を聞いて、三秒間放心。理解するのに五秒。冗談じゃないと分かるのに二秒。たっぷり十秒固まって、

 

「ええええええぇぇぇ!?」

 

 特大の声を上げて驚いた。

 

「どどどどど、どういうこと!?もうリーグに来ないの?もしかして、ウルトラビーストこのことで?」

 

 アローラに未曾有の大災害を巻き起こした、ウルトラビースト達。グラジオ、ハウ、ムーンと、島を守るカプ四神、ポケモン協会とエーテル財団が協力し、そのすべての捕獲に成功した彼ら。

 現在ウルトラビースト達は、謎のUBネクロズマを除いて、グラジオの手持ちとなっているのだ。

 

「いや、そういう訳(ウルトラビースト関連)じゃない。オマエには一から話しておく。」

 

 そう言うと、グラジオはムーンに向きなおった。

 

「リーリエの進境は聞いてるな?」

「うん。カント―でジムバッジを集めながら、確かポケモンマフィア退治に協力してるんだっけ?」

「ああ。中々に頑張っているそうだな。あと、今回の話なんだが、実はお前に話があって来た。ポケモンバトルはそのついでだ。」

「用事?グラジオがいなくなるのと関係あるの?」

「ああ。しばらく、他の地方に修行に出ようと思う。」

 

 大真面目な顔で、そう言った。

 

「え!?リーリエだけじゃなくて、グラジオも行っちゃうの!?」

「ああ。」

「行先は?」

「……止めないんだな。」

「え?」

「止めるものだと思っていた。オマエならな。」

 

 そう言うグラジオに、ムーンは明るい笑みを見せた。

 

「う~ん。そうだね……、確かに寂しい。グラジオがいなくなるのも、しばらくはバトルも出来ないのも。けどさ……キミが選んだ道なら、止めないよ。」

「そうか……俺はガラル地方に行く。今度は、そこのチャンピオンになって戻ってくるさ。」

「そっか。チャンピオングラジオとの対決、楽しみにしてるよ!!」

 

 そう言う彼女を、フッと、いつもより優しそうな笑みを浮かべ、グラジオは手を振って、チャンピオンの間を去って行った。

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 ホウエン地方 天空の塔

 

 ホウエンの片隅にある、古塔。その頂上には、一人の少女がいた。黒と赤の服、灰色の街灯に身を包んだ彼女は、ホウエンの海。そのずっと奥を見ていた。

 

 一陣の風が、彼女のフードを持ち上げ、素顔を露わにする。

 

「……予感がする。」

 

 ぽつり、と、そう呟いた彼女。ふと立ち上がり、塔を下りて行く。

 数階降りたところにある壁画。そこには、禍々しい巨龍の様なポケモンが描かれていた。彼女の持つレックウザに似て非なるポケモン。その名は……

 

「ムゲンダイナ……【ブラックナイト】が訪れる……か……。これは行くしかないかな~。」

 

 そう呟き、マントを翻した。

 

「ゴニョ……。」

「ん?どうしたシガナ?寂しいのか?」

 

 ふと話しかけて来た、ぬいぐるみの様な愛くるしいポケモン。彼女の持つ囁きポケモンゴニョニョだ。

 シガナという愛称をつけ、彼女はかわいがっている。

 

「大丈夫。また戻ってこようよ、ここにはね。」

 

 再び屋上に戻って来た彼女は、シガナを肩に乗せ、塔を飛び降りた。

 

「ニョ~~!!」

 

 悲鳴を上げるシガナ。

 

「頼むよ、ボーマンダ!!」

 

 落ちていく彼女のその言葉と共に投擲されたモンスターボールからは、赤い翼持った水色のドラゴンの様なポケモン。

 ドラゴンポケモンボーマンダが降臨した。

 彼女が脚に装着したアイテム、メガアンクレットに着けられた、輝く石に触れれば、ボーマンダの首輪に付いた石と反応し、光に包まれたボーマンダの姿が変わった。

 翼は繋がり三日月のような形にになり、より飛行に特化した姿へと変貌する。

 ボーマンダはシガナと少女を回収し、飛び立った。

 

「ニョ~……。」

「ゴメンってシガナ。もうしないよ。」

 

 驚いて目を回すシガナを撫で、少女は笑った。

 

「さ~てと、ムゲンダイナ、このヒガナ様がいくからには、首を洗って待ってろよ~。」

 

 不敵に笑った少女は、そう言い、ガラルへと向けて飛び去って行った。

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 イッシュ地方 とある町の一軒家

 

 自然豊かなイッシュ地方。とある町の一軒家。その二回には、かわいくデフォルメされた看板がかかった部屋がある。

 

 [エイプリルのへや]

 

 クレヨンでそう書かれた看板には、かわいいフォッコのイラストが描かれている。

 一軒家の中でも広々とした一室。かわいいもので埋め尽くされたそこには、髪を無造作に伸ばした少女がいた。

 パジャマに身を包んだ彼女はそのすみれ色の瞳でテレビを眺めている。彼女がエイプリルなのだろう。

 そんな彼女が、普通の人と違う点があるとすれば、両足が義足な事だろう。コンプレックスがあるのか、その表情は何処となく暗い。

 

「レディース&、ジェントルマン!!」

 

 テレビには、【中継 ガラル地方】の文字が映っている。画面の中央に映る浅黒い肌の、恰幅のいい男が、そう声を上げている。

 

「今宵は無敗のチャンピオン、ダンデのエキシビションマッチをお届けしましょう!!」

 

 その言葉と共に、巨大なバトルフィールドに煙が立ち上る。

 その煙の中から、褐色肌の、マントを羽織り、黒のユニフォームを身に纏った男性が現れる。

 彼こそが、ガラル地方のチャンピオンにして、十年間無敗の記録を保持する最強のポケモントレーナー。チャンピオン、ダンデだ。

 隣には、その相棒、リザードンが現れる。

 

 歓声を上げる観客に、彼はマントをひるがえし、脚を肩幅に広げ、グッ、と踏みしめる。

 そして、右手をまっすぐ上にあげ、親指、人差し指、中指の身を挙げた独特のポーズを取った。

 彼のキメポーズであり、人呼んで、『リザードンポーズ』。

 それを見た少女は、ダンデを応援するように右手の形を作り、掲げる。しかし、その目は悲しそうだった。

 

「フォー……。」

「あ、フォッコ……。」

 

 ベッドの上に居た、彼女の相棒フォッコ。フォッコの心配そうな声に、彼女は無理やり笑みを作り、対応する。

 

「大丈夫。ワタシは大丈夫だから。この通り、元気だよ。」

 

 そんな様子を見て、フォッコは心配そうに鳴く。

 

「大丈夫、元気、元気だから……。」

 

 そして、試合に向きなおる。試合では、ダンデと、ガラルジムリーダーの中で最強と言われるキバナが戦っていた。

 

「そろそろポケモンリーグが始まる……。あそこに出れば……」

「フォッ!!」

 

 そんな言葉をこぼした彼女に、フォッコは元気づけるように鳴いた。

 

「そうだね……私も、変わらないと……。」

 

 暗い決意と共に言ったその言葉に、フォッコはまた心配そうに鳴いた。

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 二日後、そこには、見違えるように変わったエイプリルがいた。

 短くカットした髪にメイク、露出高めな服を身に包み、アタッシュケースを持っている。

 

「本当に行くの?大丈夫?」

 

 彼女の母親らしき人物が、心配そうに言う。

 

「問題ないよお義母さん!!義肢も調子いいし。」

 

 明るく笑った彼女は、そう言ってその場で足踏みして見せる。

 

「それじゃぁね!!」

 

 そして、相棒のフォッコと共に、空港に向け走って行った。

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 アローラ発イッシュ経由ガラル便の飛行機内。アイマスクを着け、くつろぐグラジオは、頭の中で思考を巡らせる。

 

「(ガラルのチャンピオンリーグに出場するには、有力者の推薦状が必要だ……。まずは推薦状を手に入れる。なって見せるさ、無敗を下し、新たな王者に!!)」

 

 そして、より決意を固くする中、

 

『当機は間もなくガラル地方に着陸します、シートベルトをおしめになって……』

 

 と、アナウンスが流れる。

 アイマスクを外したグラジオが窓を見れば、そこにはガラル地方が見えていた。

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 濃霧で覆われた森。人気のない場所に、ボーマンダから飛び降りたヒガナが着陸する。

 そのままボーマンダをボールに戻した彼女は、フードで顔を隠した。

 

「(さてと……まずは情報収集と行こうかな。脅威を止める戦力、協力者も必要だ。ブラックナイトが自然に発生する確率は限りなく少なくて、人為的なもののはずだから、なるべく目立たないように……。)」

 

 そして、ここが何処か、周りを見て確認しようとした時、

 

「あれ?こんな所に……人?」

「なぁ、こんな所で何してるんだ?」

 

 そこには、二人の人間がいた。褐色肌の青年と白い肌の少女だ。

 

「(ヤバッ……!!)」

 

 余りにも序盤からのミスに、焦るヒガナだった。

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「着いた―!!」

 

 ガラルに付いたエイプリル。開口一番に、そう言い大きく腕を広げる。

 

「さ~てと、まずは何処にいこっかな~。ッてキャア!?」

「うわッ!?」

 

 空港を出て、歩み始めた彼女。しかし、角を曲がった瞬間、紫のコートを着た、白い髪の青年に激突した。

 

 倒れる二人。

 

「「あっ……、」」

 

 そして、偶然にも目が合ってしまった。

 

「そ、その……ゴメンねッ、ワタシの不注意で……、」

「やれやれ、まったく気を付けてくださいよ……ってあなた……。」

 

 ふと、義足に目がいく彼。

 

「え、ああ……その……。」

「その足では立ち上がるのも大変でしょう。まぁその……ぼくも不注意だったわけですし……何ならホテルまで送りましょう。」

 

 エイプリルを立ち上がらせる青年。一瞬この脚のせいかな?と思いかけたエイプリルだが、彼の瞳には、蔑み、憐れみといった感情は無かった。


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