にじさんじ甲子園2021妄想小話集 作:あおい
アイツは天才だから。
だから、敵わない。
アタマも、肩も、守備も、打撃も。
アイツに、選手として俺が勝ってる部分なんてない。
だからって、負けたくないんだ。
4月。
監督が直々に海外からスカウトしてきたアイツは、とにかくうるさかった。
あとカワウソの着ぐるみで学校生活を送るやべー奴だった。
「Wohalaw! Namaku Miyu Ottavia, panggil saja Miyu karena…… kalau ada Me and You, pasti jadi ada Miyu hahaha!」
(ウォハラー! 私の名前はミユ・オッタヴィア、ミユって呼んで。なぜなら……私(me:ミー)とあなた(you:ユー)がいたら絶対にミユがいることになるから! あはは! *1)」
「Berang-berang menginspirasiku untuk akrab dan menghibur banyak orang, jadi ayo tertawa bersama!」
(カワウソが、私がたくさんの人と仲良く楽しめるように応援してくれるんだ。だから一緒に笑おうよ! ٩( ‘ω’ )v*2)」
開口一番、そんな挨拶をかました訳だ。
…………いや、今では悪かったと思ってる。
語学堪能成績優秀な舩木キャプテン以外、俺らって普通の県立校の生徒な訳で。
つまりは英語ですらアレな訳で。いわんやインドネシア語なんて…ねぇ?
監督が訳してくれるまでポカーンとしちまって、微妙な空気にしたのは非常に申し訳なく思ってる。
ただ、ミユ・オッタヴィアの才能と実力は本物だった。
ゾーンに来たボールをビタッと止めるフレーミング、実際よりも体を大きくどっしりと見せる構えは投手を安心させて実力以上の実力を存分に発揮させるだろう。
数日前まで中学生だったとは思えない新入生だ。
木下先輩も、平塚も、コミュニケーションには難儀してるみたいだけど。
それでも、菊川先輩と俺は、夏の大会までに正捕手の座は奪われると覚悟した。
その位、差があった。
平塚やら外山は呑気に、美人の女子部員が6人も入ったって喜んでたけどさ。
俺はブルーだったわ、新入生の入部初日は。
褒める時はクールと言って欲しいらしい、はしゃぎ屋ミユ。
普通の実力で安心したせとみやとクレアさん。……クレアさんは練習後にグラウンドの端っこで畑作ってたから、ある意味ぶっ飛んでるなぁとは思ったけど。
後はなんか、ふとした隙に拝みたくなるフミ様とモイラ様。自称神様と女神様を名乗るやっべー奴ら何だけど、なんか普通に様付けで呼びたくなるんだよな。
最後に何言ってるか、3回くらい真面目に聞き直したアルス・アルマル。一瞬、ミユみたいに外国語を喋ってるパターンかと思ったら日本語だった。しかもそんな日本語とインドネシア語でミユとコミュニケーション成立させてる、やっべー奴だった。
……せとみやは普通で助かるなぁ。アイツだけだ、癒やし感じられるのは。
初めての練習試合。
アルスが試合を作って、モイラ様が抑えた。
打線も、疲れが見えた先発を中盤以降に捕まえて一気に畳み掛ける事に成功して逆転、そのまま押し切っての8回コールドだった。
そんな試合の最後、ちょっとしたハプニングが起こった。
コールドを決めたホームランを打った梶原先輩に、興奮したクレアさんが抱きつき、抱え上げたのだ。
仮にも成年男子に近しい体格の男子を一息に持ち上げたゴリr――怪りk――力強さにもビックリしたわけだけど、普段は清楚なクレアさんが抱きつくという事象に男子部員は目に嫉妬の炎をたぎらせていた。
帰りのバスの中、ずっと「ふわふわ……やらかい……いい匂い……」としか喋らないbotになってしまった梶原先輩は気付いてなかったみたいだけどな。
まったく。うらやま──げふげふ!! けしからん。
…………まあ。それはさておいてもだ。
興奮冷めやらぬ思考が冷めて来たアタマで試合を振り返る。
俺がキャッチャーマスクを被ったとして、アルスを6回2失点でまとめられるだろうかって、自問した。
1年と考えれば、将来有望な奴である事は間違いない。けど、純粋に今のアルスの実力を鑑みれば、中学生に毛が生えた、それこそ極普通かちょい劣るくらいの1年生なんだ。
それを、ミユは打ち気を逸らし、はぐらかし、時折見せる真っ直ぐを速く見せ。自分は1番打者としてチャンスを構築していく。
隙がない。
完成度が高すぎる。
菊川先輩は、それでもミユから再び正捕手を奪還しようと頑張っているけど……厳しいだろう。
ああいう奴がプロに行く、たぶんそんな選手だ。
正捕手は怪我でもなければミユが確定、控えに菊川先輩。
……なら。俺は?
ムード作りだって、ミユの底抜けに明るい性格が辛い練習でもみんなを前向きにさせている。
ベンチにただ座って、監督にそそのかされて黄色い声援を送る以外、自分は何が出来るんだろう。
そんな事を、帰りのバスの中でずっと考えていた。
「やらかい……ふわふわ……」
隣がずっとそんな事を呟いてたけども。
2年、夏の地区予選が始まった。
ベンチ。3番手の捕手。
アタマも、肩も、守備も、打撃も。
アイツに、選手として俺が勝ってる部分なんてない。
でも、これ以上ないくらいに絶好調だった。
アタマの冴えも、打撃も。
これ以上ないくらいに。
絶好調だったんだ。
でも、俺の居場所はベンチにしかなくて。
当たり前のようにスタメンマスクを被ったのはミユ・オッタヴィア。
日本の夏特有の湿度を伴った暑さに少し調子を落としていても、俺との差は歴然としていた。
夏の大会1回戦の相手は練習試合で戦った八束。
ただ公式戦ということで固くなっていたのか、1年生組を始めとしたみんなの動きがぎこちない。
1本が出ても後続が断ち切られる。
頼みのミユも、練習試合で相当マークされたのか厳しい攻めが多く出塁出来ない。
ジリジリとした、胃が痛くなるような投手戦は7回に動く。
外山がフォアボールを選び1死から出塁。
宮崎さんが詰まったショートゴロで結果的に送りバントの形になって2死2塁。
そして登場したのは八束キラーと化した5番梶原先輩。みんなの期待を背負った鋭い一撃が右中間を真っ二つに破って、遂に先制点をもぎ取る事に成功する!!
虎の子の1点をアルス、平塚の2人で抑えきって初戦を突破した。
レインボール高校、創設初めての初戦突破という事もあり、みんなで喜んだ。
俺も、悔しさがないと言えば嘘になるけど、みんなで勝ち取った1勝が嬉しくてたまらなかった。
次はプロ注目の選手を複数擁する優勝候補の江津だけど、ミユのリードがあれば勝てるかもしれない。
2年夏、2回戦。
4-5。
先輩たちの夏が終わった。
5失点。
ミユが泣いていた。
いつも明るく、みんなを笑顔にさせるミユが、泣いていた。
いつも泰然としていた自称神様と女神様も、魔法使いもシスターもJKも。
監督も、3年生も、みんなが。
なのに。
──…………俺は、泣けなかった。
2年、夏休み
外野手にコンバートする。
監督さんからの打診もあって、夏休みに外野手の練習を本格的に始めた。
俺がチームを勝たせられるなんてうぬぼれてない。
でも、なにか役に立ちたい。
試合に出たい。
ただ傍観しているしかないなんて、もう嫌だ。
ノックを受ける。
小学校の頃からキャッチャー一筋だったから、フライの目測が難しい。
自分の前後左右に広がる広大な守備範囲に怖気が走る。
それでも、やる。
やってやる。
もちろん本職の捕手だって、ミユに何かがあれば俺がマスクを被る訳だから投球練習にも付き合う。
2人用のブルペン、隣から響くミットのキャッチ音は高らかに。
アイツにキャッチングのコツや、何を考えているかを聞いたり、逆に俺からは簡単な日本語や平塚のピッチングの癖なんかを伝えている。
「ありがとう」「Terima kasih」そんな言葉を互いに伝え合う。
ミユはますます凄みを増していて、片や俺は牛歩の歩み。
それでも俺は。
ミユの笑顔が見たくて、頑張るのだ。
誰にも、伝えるつもりはないけどな。
追記。
何かニヤニヤニマニマ生暖かい目でフミ様に見られたから、500円握らせて焼きそばパン買いに行かせた。釣りは好きにしろ。
蓮沼君その2、秋の大会2回戦まではとりあえず予定。
レインボール高校、7/23時点で練習試合も含めて5試合、どれも面白いからみんな見てくれーーー!(ダイレクト布教