「市民の警察への反応はかなりよくなったようだな」
そこは警察内部でも上位の者達が使う会議室の一角。
「オールマイトが引退するというタイミングでの装備の投入はセンセーショナルゆえに、反対の声を押し流すことが出来たのが良かった」
「だがプロヒーローからしたら堪ったものではないだろう? 自分の仕事が奪われると思われそうだ」
「だから配備されている数も実際はかなり減らしてヒーローの需要を減らさないように調整しているんだ……このまま需要が無くなってヒーローからヴィランに転向なんてされたら本末転倒だろう」
「更に問題は個性没収装置だ……あれは本当に個性の没収なんてしているのか?」
「正確には書き換えだという話だな。個性が何らかの理由で変質するのは知ってるだろ?」
「確か手の接触型の個性持ちが、ごく稀にだが手を失った後に足の接触型になったり、尻尾を失った異形系の個性持ちの背中から翼が生えたりする現象だったか?」
「そうだ。その対象の個性因子を採取し、それをあの装置で
「眉唾物の技術だが、効果はどうなんだ?」
「実際に装置を使われた全員が注入された個性に書き換えられていたよ……手のシワが若干増える個性、踵の角質がやや固くなる個性、耳毛がちょっと増える個性とかにな……勿論個性を戻す作業も見たが……確かに個性は戻っていた」
「………ほう……凄い技術じゃないか」
説明を受けていた者は感心した声を出した。
「同質細胞の注入によって起こる因子の変質現象のせいか、拒否反応もなく異形系の者も異形になる前の身体に戻っていたな……個性を消すのではなく個性の変質を利用した書き換え……肉体の負担を考えた上手いやり方だが、命名を微妙に変えたのは書き換えという部分にあの
「オール・フォー・ワンか? 我々としては生きていてほしくはない人物だがな……」
「しかし個性没収装置は民間の反発が凄いことになると思ったら、意外と落ち着いていることに驚きだ」
「それもオールマイトの記者会見が効いているよ……頼れる象徴が居ないからこそ厳しい処罰もやむを得ないと世論は納得している」
「引退してなお、平和の象徴の威光は衰えずか……」
この場にいる人間達としては、有り難い話題ではあった。
「しかし警察官のイメージアップと同時にヴィラン達の隠れ家の通報案件も増えて今現場は大わらわだろ?」
「だが現場の声は概ね好評だよ。いつも受け取りだけして帰る現場よりよっぽど遣り甲斐があるってな……それに件の装備の存在がでかい」
「ゲシュペンストアーマーか……ありゃあ駄目だな……一度着たら誰でも着たがるし欲しがるだろう」
「治安維持という名目で警察組織にだけ貸し出しているのも装備の擁護に一役買っている所があるが」
「全てはあのCEOの思惑通りというわけか……」
「よせよせ、今あの人にへそを曲げられて見ろ? 下からの突き上げで俺達の居場所が無くなるだけだぞ?」
「公安はマークしているのか?」
「無理だろう?……昔それでCEOを怒らせて公安のヤバイところの人材を引き抜かれたと聞いたぞ? 今あそこは内部告発で組織の上層部ごと解体されるのを警戒して顔色を伺う日々だそうだ」
「いい気味だな。あいつらは個性が使えて此方は駄目ってのが俺は気に食わなかったんだ……だが公安から人材を引き抜くとかどんな手管を使ったのやら」
「あのCEOは不気味だが、会社自体はなんら瑕疵がないように見えるのが怖いな……叩けば何か出てきそうだが、そういう探り屋をあそこは相当警戒してるから情報を抜き取るのは相当に難しいと聞くぞ?」
「はっきり言ってあのまま善意の協力者として装備の貸し出しをし続けて欲しい所でもあるよ。あの装備の値段を見たか?」
「ゲシュペンストアーマーが一機で400億程度だそうだな……性能を考えるなら最新の戦闘機位の値段でも妥当な所だろう」
「しかしそんな高額なものポンと100も貸し出すとは……金持ちってのは突き抜けるとすごい感性になるもんだな」
「それもオールマイトのお陰らしいぞ? なんでもゲシュペンストアーマーや【アイアンコング】の攻撃モーションや稼働データに協力してもらったお礼だと」
「まさに神様仏様オールマイト様か……」
「だがゲシュペンストアーマーが400億ならあの化け物みたいな特機はどうなるんだ?」
「知らないのか? お値段は原子力空母とトントン位だと」
「ひえ~」
「それゆえにあの装備を狙う組織は増えると思うが……あの会社には
最近の会議は概ね支給された装備と世論の動向に対する対処を話し合うことが多いが、どれも警察にとってはプラスの材料が多く、上層部にとっても気分的に楽な日々が続いていた。
「後はCEOがヴィランや個性主義勢力に殺されないことを祈るしかないが……」
「余計なお世話だろう? あの会社の初めの頃、なんて言われたか忘れたか?」
「確か“あらゆる組織の墓場”だったな……」
それはとある整備工場の敷地内……警察に配備された例のロボット達を整備している工場であり、今や表の組織も裏の組織も注目する施設。
そこは代表が作った会社でも最重要機密が眠る場所でもあった。
そしてこの施設から命からがら逃げるもの達……彼等はいわゆる企業スパイでありロボットを奪取、又はデータだけでもいいので盗んでこいと言われたレアな個性を持つ凄腕たちであった。
「くそが……金に釣られてきたらとんだハズレくじだ!」
【収納】という物の大きさや重さに関係なく体内に一定量収納できる男は毒づいた。
一緒に潜入した【煙化】という強い個性を持つ女が機密がある敷地に入った瞬間、何者かにバラバラにされたのを見て、一目散に逃げたのだ。
一瞬だけ見えたシルエットは銀色の髪に銀色の目の女だった。
顔の造形は
やられた煙化の女は無意識でも煙になれるためおそらく無傷だが、バラバラにされると気絶した状態で元に戻ると聞いている。既に拘束されているにちがいない。
此方は複数の組織の同時進行だったが、ここに来る前に偵察系の個性の奴が何人も
此方は煙化と収納の個性で切り抜けられたが今自分が逃げられているのも警告のつもりなんだろう。
“次はない”
流石は闇の世界でも名が知られる防諜能力を持った会社だ……男は雇い主に改めてここのヤバさを伝えるべくアジトに急ぐのだった。
「どうですか首尾は?」
「まあまあだね。中を見れそうな奴だけ拘束したけど殺すつもりはないんだろう?」
「ええ勿論。殺さなくていいものは殺さないですし、もし殺すのであれば“専門”の者がいますから貴方は道理に沿った行動をしてくれればいいんです」
「子供やヒーローにあんだけ心を砕いているのにあんたはそういう所はきっかりしてるんだな」
「これでも会社を経営してますからね、勿論貴方達社員にも心を砕きますとも」
「いまだに自分が会社員してるなんて実感はないけどなぁ……」
「勿論これは時間外労働ですから残業手当の申請をしていって下さいね? 残念ですが個性の使用には手当がつけられないですけどね」
「……なんかその言葉、凄く会社員してる気分になったわ」
そう言って笑う彼女に代表も苦笑しながら「私もです」と答えるのだった。
代表の得意技
使える人材の引き抜き
提供されている装備の内訳
高機動汎用型のゲシュペンストが7割
高出力ハイパワー型のアイアンコングが2割
特機と言われるハイエンドモデルが1割
デットリーコングはそのハイエンドモデルに入ります(特機の中では控えめの性能)
代表が言っていた切り札はそのハイエンドモデルを超えた化け物という名のなにかです。