勇者とサキュバスパーティーにてお送りしています。 作:あたいTSバンビーナ
「ほぉら、出しちゃえ雑魚勇者!」
「ぐっ! も、もう我慢が……!」
サドっ気を感じさせる攻め立てる女の声。なにかを我慢できなくなったような男の短い悲鳴。あとベッドが軋んで肉を打つパンパンッって音。なにしてるってナニをしているに決まっている。セックスだよ。
倒れた勇者に股がる女には、小悪魔チックな羽と尻尾が生えている。淫魔のサキュバスだ。
「いっちゃえ! いっちゃえ! 雑魚勇者は情けなくサキュバスに出しちゃえ!」
「うっ!」
激しく攻め立てられ限界までは早かった。しかし、快楽のなかに違和感があり、射精の瞬間にサキュバスの下腹部に描かれた淫紋が怪しく光る。
サキュバスの口許が弧を描いて笑みを作る。妖艶でいて何処か作り物のような美しい笑みをだ。
「あはぁ……満たされてるぅ。ねぇ、あんたはどんな感覚? 気持ちよかった? そ・れ・と・もぉ~」
勇者は自身のなかから、なにかを喪失した感覚に苛まれる。精だけではないなにかを吐き出してしまったような、本来ならあり得ない感覚。
戸惑った様子の彼に、より一層と満足げにサキュバスは高笑いする。
「アハハハッ! あんたが今出したのは貧弱な雑魚セーエキだけじゃないの!
「なん、だと……!?」
「じゃあ、経験値を吸われちゃった本当の雑魚ザコ勇者くんは~、サヨナラ」
嘲笑を浮かべたまま、勇者の経験値を強奪した慢心を隠すこともない。ただ食べ終わったお菓子の袋を捨てるように彼を始末しようとした。命は奪わずに生け捕りにして、サキュバスの里へ連れ帰って見世物にしてやろう。そんな魂胆を胸にジワジワと爪を伸ばす。
いつもであれば、決して勇者に通用するはずもないサキュバスの爪は──やはり、いつものように容易く勇者の肌に弾かれた。
弾かれちゃった。
「えっ、ちょっ……この!」
一突き二突きしても現実は変わらないし、勇者も微動だにしない。三突き目はもう鬱陶しそうにした彼から顔面グーパンのカウンターをお見舞いされた。
「ふんっ!」
「ごぺぇ!?」
男女人外平等パンチによって多少冷静になったサキュバスは目を白黒させる。
──レベルドレインしたのに勇者強くね?
「あれ、レベルドレインしたはずなのに……あれぇ!?」
「ちゃんと見ろよ。経験値が10ほど、俺の子種と一緒に吸われちまっただろ」
「じゅ、じゅう……」
勇者とてアホではない。性欲に飲まれて快楽に流されてサキュバスと行為に及んだことに間違いはないが、出す数瞬前にはレベルドレインについて思い出していた。それでも問題はないと結論付けたからバッチリ
だが、サキュバスとしては納得できるはずもない。奥の手とも言える手段で得られたものは、生命力溢れる精液とカッスカスの経験値のみ。ちなみに
「でっ、でも! レベルドレインしたらLv.99の勇者でもお顔トロトロになって成すがままに! Lv.1の雑魚勇者になっちゃうって読んだもん!!」
「お前の脳みそトロトロか??? ハッ、どうせ春画で得た知識だろ」
呆れ鼻で笑って見下してくる勇者にサキュバスはぶちギレた。頭が緩く尻の軽い種族と呼ばれる彼女らだが、人一倍性文化と感度は敏感であった。
「はぁぁぁ!? 春画なんかをエロ同人と一緒にしないでもらえますぅ!?」
「どう、じん…? お前らサキュバスってエロ方面だけ未来に生きてんのか? その数パーセントだけでも頭に養分やれよ。胸に詰まりすぎて頭スカスカじゃねぇか」
「スカって、いやぁ……私
「文章どころか一単語すら聞き取ってくれないのなんなん? 頭の養分の話してんのに、畑の養分のクソの話まで思考飛ぶのなんなん?」
未来というか別世界の住人によってもたらされた知識だがどうでもいい。サキュバスの性文化が1世代進化したとかどうでもいい。そしてスカに興味はない。
賢者モードの勇者はしれっと着衣を済ませて剣を構える。もちろん、目の前のサキュバスに向かって切っ先を向ける。
「……ま、なんでもいいか。殺すし」
「え゛っ」
「生かしとく理由ないし、もうスッキリしたし」
「後半でしょ! もう用済み扱いな理由後半がメインでしょ!?」
「うん。あとは失った経験値もお前殺したら戻ってくるしちょうどいい。むしろ生かしておいた場合のメリットなくね? 俺、勇者。お前サキュバス、アンダスタン?」
「ひぇっ」
急に合理的な理由で殺意を向けられて、か細い悲鳴がサキュバスの喉をついた。冷や汗が止まらない。
「あ、あたし役に立つわよ……?」
「疑問系で自己アピールするな」
「はいっ、すみません!」
「特技は?」
「せ」
「性的なサービス以外で」
「ック…スッーー,ソウデスネー」
サキュバスのアイデンティティが否定された。
「で“せ”の次、なんて言うんだ? セックスとか捻り無いこと言わないよな。というか言い切らなかったかお前?」
「言ってないです言ってないです! せっ、生活の補助的な……料理とか掃除とか、人並みには」
「人、並み? モンスターがなに言ってんの? ぶっ殺すぞ」
「言葉の綾じゃん!? てか、あたしだって一応は人型なんだしいいじゃない!」
「羊みたいな角に悪魔のような尻尾、蝙蝠みたいな羽。ついでに牛のような乳。シルエット的には人より悪魔、というか種族的にも悪魔の一種だろ」
「乳はいいじゃ……ヒッ!?」
聖剣をぶんぶん素振りしながら近づいてくる姿はさながら悪魔のように見えた。安宿の部屋の家具は風圧だけでひしゃげ粉々にされ、サキュバスは遠くない未来の自身を重ねてしまった。
「いっ、命だけは! お金なら……お金ないけど! エッチな身体はあるから!」
「うるせぇ、経験値の入るティッシュがよぉ」
「せめて生き物としてみてくんない!? 勇者のくせに賢者タイム入ってんじゃないわよ!」
「生物なんて生きてりゃ経験値、死ねば土の養分だろ。つまり形として残る無機物より価値は低い」
「倫理観ぶっ壊れすぎてない??? なんで生死の境があんたの養分になるか土の養分になるかなのよ」
「ソロで勇者とかやってるとそこらへん曖昧になるよな」
「あんたソロ活動な……痛いッ!? イイイイイイイッヅァイ!?!?」
聖剣の先っちょでつつかれたサキュバスが死にそうなほど痛がった。半身がなくなったかような激痛にボロボロ涙が溢れて地面をごろごろとのたうちまわる。実在、HPバーが半分以上消失したし、それでなくとも魔族特効のある聖剣は致命的に痛い。なんなら彼女程度のサキュバスなら触れるだけでも泣く。
「誰がマスターベーション活動者だ。ティッシュって言ったことと掛けてんの? 命懸けで笑い取りに来るとはやるじゃん。許さんけど」
「ちちちっ違うわよ! ただひとりでの旅なんだって意味で言ったのよ!」
「ふぅん、まぁ信じてやるよ」
「あ、ありがっちょおぉぉぉ!?」
間一髪、ぞんざいに突き出された聖剣を身を捩って躱した。何度か口をパクパクとさせ、ハラハラと舞い散る髪が風に流されてようやく言葉が出た。
「なんでもう一突きしようとしてんの!? もう死ぬわよあたし!」
「ん? 安心しろ。お前を信じることと殺すことは両立できるし、そこに矛盾はない」
「は? えっ、なになんて、えっ? 倫理だけじゃなくて感情ぶっ壊れてんの?」
目がマジだった。途中まで
「あ、あの一応なんだけど、サキュバスって魔王軍所属もいるけど、大半がフリーなのよ? エルフとかドワーフみたいに独立種族として成り立ってるところもあるし、なんなら人族の街のなかで娼館経営してるところもあるし! サキュバスがいる街では性犯罪率はとっても低いって噂だし、そうやって人族に益をもたらしてもいるし! あたしたちだって共存できると思うの!」
「急に早口でめちゃくちゃ喋るじゃん。ハハッおもろ」
「話聞いて???」
勇者の空笑いはその場の空気を弛緩させるには至らなかった。だって、次こそ確実にぶっ殺すとばかりに霞構えになってるし。気持ち光を纏い始めた刀身が勇者の殺意メーター上昇を目視で伝えてくれる
壁際まで追い詰められたサキュバスは必死に頭を回す。生涯でここまで頭を使ったことはない。あまりに急激に酷使されたツルぴか脳みそは老いるかのようにシワを刻まれ──ひとつの答えを得た。
「あなたは経験値がほしいのよね? ねっ!?」
「うん。仕留めれるときに確実にぶっ殺しておきたいな。そう、お前みたいなやつのことさ」
勇者の優しげな笑顔を向ける。聖剣の輝きが増した。答えを提示する前に死んじゃうかもしれない。
「イイ笑顔向けんな! 爽やかさで中和しきれてない殺意がヒシヒシと伝わってんのよ!」
「いや、もう時間ロスりまくっててイライラしてきたから話ここで終わろうぜ」
すんっと能面のような真顔になった勇者にサキュバスの焦りと人生はクライマックスを迎えた。
もう
「あたしが! 魔王軍所属の魔物の、ゴブリンの集落の位置を教えると言ったら!」
「……」
「さっき言った通り身の回りのこともするし! 変化は使えるから、あんたが望むなら人の容姿にもなれるし!」
「……」
「あ、あの、なにか言っていただけると……」
聖剣の光が徐々に収まり、気持ち表情が柔らかくなった勇者はサキュバスの肩に手を起き、険のなくなった声で語りかけた。
「嘘だったら惨たらしく殺す」
「ひぇっ」
「さっさと行くぞサキュバス。時間は有限だ」
「あの、あたしミュカっていうんだけど。名前で呼んでくれない? 」
「なんでだよ」
「種族名で呼ばれると経験値として見られてる感じが凄いのよ。あと、あんたの名前も教えなさいよ。あたしも名前で呼ぶから」
嫌そうな素振りを見せる勇者に一抹以上の不安を覚えたミュカだが、渋々とした態度を隠す様子なく、それでも一応名前を答えた。
「エル・ロタシオン」
「めっちゃ嫌そうじゃん。さっきから不機嫌だけど男の子の日なの?」
「そんなもん人族にはねぇよ」
斯くして、他種族を躊躇いなく売り飛ばしたサキュバスは一命を取りとめ、生物を経験値としてしか見ていない勇者との冒険が幕を開けたのでした。
「さっさと行くぞサキュバス」
「だから名前で呼びなさいよ!」
……終幕は近いかもしれない。
RTAなら勇者は略してエロ。