勇者とサキュバスパーティーにてお送りしています。   作:あたいTSバンビーナ

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一人称になってる。なっちゃった。


2.えーえすえむあーる

 ちょちょいとゴブリンの集落を壊滅させた。高台から勇者を見つけ鐘を鳴らそうとしたゴブリンも門番として配備されていた槍を構えたゴブリンも、上位種らしき大柄なゴブリンも祭司的なゴブリンも皆々消え去った。光に飲まれた者から縄が糸となって()()()()ように全部がなくなった。生き物なんて皆等しく経験値、儚いね。

 サキュバス──ミュカは案内をしっかりと行い、剣から放たれた極光が集落を崩壊させる様を震えて見ていた。そんなに怯えなくてもお前にこれを放つことはない。

 

「それって安心していいって訳じゃなくて、あたしが弱いから斬るだけで済むって意味よね?」

 

 正解だ。この短時間で頭が回るようになったなぁ。命の危機を迎えて世代を跨ぐことなく適応力が上がったのだろうか。時たまレベルアップを経ずに能力が上がるのはこの世界の神秘だと思う。

 あと思ったより経験値の入りが少ないな。

 

「こっちチラチラ見ながら言うの止めてもらえない? 生きた心地がしないから」

「そうか、よかったな。お前の野生の本能は正しく機能してるらしいぞ」

「そう? ありが……ねぇ、それってあたしを未だに経験値にしようと(ぶっ殺そうと)してるってことじゃない?」

 

 お礼を言おうとしていたが、はたと言葉を止められた。褒められて反射的に喜びそうになったが、必要あらばぶっ殺すぞという意図はちゃんと伝わったようだ。

 

「もしかして、未だにあたしの命って綱渡り状態なんじゃ……」

 

 そうだよ、と口にはしない。実際のところサキュバスを倒したところで得られる経験値は微々たるものなので効率が悪い。正直レベリングとしてのコスパは良くないので敢えて狩るほどのこともない。けれど、舐められたら負けた気分になるのでマウントは取る。上を取られるのはセックス(あのとき)以外許容できない。

 

「でも取り敢えず、エルとあたしはパーティー成立ってことでいいのよね? ねっ?」

「いいけど、マジで家事出来るんだよな?」

「余ってるスキルポイントつぎ込めば、ちょっとしたシェフ並みになれるわ」

「採用!」

「やったー!」

 

 これでサバイバル中に塩で焼いただけの硬い肉や、苦味の強い謎の野草を食べる生活とおさらば出来る。なまじ高い毒耐性があると食材にこだわらなくても生きていけるようになるから困ったものだ。

 

 つまり、料理下手は俺の怠慢ではなくパッシブスキル毒耐性のせいだ。

 そして、レベルを上げると勝手に上がってしまったパッシブスキルの責任は、俺にやられて経験値になった奴らにあるとも言える。許せねぇよな、許せないから仲間のモンスターも経験値にした。順序が逆に思えるかもしれないが鶏と卵の問題みたいなものだろう。気のせいだ。

 

 ──ちなみに料理スキルは、レベルを上げれば勝手に上がるパッシブスキルとは別のアクティブスキルに該当する。アクティブスキルはレベルアップ時に取得するスキルポイントを使うから、家事力を上げてる余裕なんてない。

 

「ちなみにお前の家事スキルがもしもカスだった場合、俺が適当に狩ってきた魔物の丸焼きになる」

「魔物を買うの?」

「Not買ってくる。適当に狩る、ハントしてくるんだよ。たまに猛毒持ちもいるからドキドキだぜ」

「そんなドキドキいらないわよ! 家事スキル上げまくってやるから絶対毒持ちのお肉はやめて! あたしろくに毒耐性ないのよ!」

 

 耐性系統のスキルは適当に戦闘繰り返してたら、パッシブスキルに生えてくるというのに。ろくに戦闘して生きてこなかったんだな。毒竜(ヒュドラー)あたりと戦わせてやろうか? たぶん何回か死にかけたら、毒耐性が自然と生えてくるはずだ。

 

「竜種と戦うとか余裕で死ぬわよ。てか死にそうになるなら、自然と生えてくるって言わないのよ。あらんかぎりに無理やり取得してるじゃないの」

 

 これを無理やりと言われれば、俺のパッシブスキルが全部無理やり取得したことになる。まぁ、人族とサキュバスは当然のように他種族だ。価値観の違いくらいある。

 

 雑談に興じている間に、拠点にしてる街のギルドに着いたが、案の定ここまですれ違った人間からは不躾な視線をチラチラと送られる。剣をチラチラと抜き身にして見せてやれば、サッと視線が外された。なんだよ、シャイな奴らだ。

 

「シャイって……もしかして、エルの住んでる国では鍔鳴りが会釈の代わりだったりするわけ?」

 

 そんなイカれた国で暮らすわけがない。子供から主婦まで帯剣しているとか治安悪すぎだろ。鍔鳴りはただの『今から決闘を申し込んでぶった斬りますがよろしいでしょうか?』っていう紳士的な挨拶だよ。

 

「老若男女が帯剣してる国で暮らしなさいよ。エルに十分お似合いじゃない」

 

 ムカついたので鍔鳴りしたら土下座された。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ギルドにミィヤの冒険者申請とついでにパーティー登録に来た旨を伝えたが反応が芳しくない。ギルド内でミィヤが土下座して悪目立ちしたのがいけなかったか。くそっ、さっそく足を引っ張りやがって……!

 

「はぁ……それもそうなんだけれど、違うくてね」

 

 受付のロリばばぁエルフのリゼットにため息を吐かれた。

 毎度のことだが背丈は人族の幼女の癖に、要所要所で妖女じみた年季を感じさせる所作がなんともちぐはぐ。

 

「ギャップ萌えってやつよね」

 

 こらこら、後ろのサキュバス。耳元でワケわからんことをコショコショささやくな。くすぐったくて気持ちいいだろうが。

 

「おい、エル。あんた本当にサキュバスとパーティー組むのかい? 手先が器用で斥候向きのエルフとか鍛冶を生業にしながらも剛力なタンクのドワーフ、高い身体能力と五感が売りの獣人とが基本だろうに」

 

 エルフお婆ちゃんの余計なお節介、というわけでもないか。確かにサキュバスを連れ回していれば、かなりの確率で()()()()()で見られる。真面目に冒険する気もなく毎夜と言わず日がな一日酒池肉林やってんだろうなって。ここに来るまでにもかなり見られていた。

 まぁ、今までパーティーを組むこともなくソロでやってから大概変人として見られてきているので今さらな話とも言える。気にくわない態度を取られれば、いつものように鍔鳴りからデストロイすればいい。舐められたら負け、つまりこっちから吹っ掛けてぶちのめせばいいって寸法よ。

 

「毎晩ヤりたいだけなら、そこの娼館に行きなよ。金はしこたまあるんだろ?」

「たまを、シコ……なんて言った?」

「あんたがなに言ってんだい??? 本人を前に言いたかないけど、本当にこんなのが仲間で大丈夫なのかい?」

「ひっど!」

 

 大丈夫じゃないかもしれないが、それがそいつの平常運転だ。

 あと、ヤリ目じゃない。そんな理由ならとっくに経験値にしてるんだよなぁ。お前もデストロイしてやろうか? 短くない付き合いだから時間効率を気にせず丁寧に経験値にする(ぶっ殺す)のもやぶさかじゃないぞ。

 

「ああ、あんたはそういう奴だったね。他人を経験値として見る癖、治せってんのに素振りすら見せやしないね」

 

 癖というか事実だからな。知ってるか、経験値稼ぎに対象の種族は関係ない。もっと言えば、同族同士でも経験値って入るんだぜ。条件はあるけどな。

 

「あーあー、聞こえない聞こえないねぇ!」

 

 耳を塞いで喚こうとも事実だ。

 

 ──加えてその条件さえ満たせば、他種族よりも経験値効率がいい。俺に常識と良識が芽生えてなければ、毎日狩りに出てたであろうほどに旨味(うまあじ)だ。

 俺に社会常識を叩き込んだ師匠曰く、種族として追い詰められ同族による殺し合いにまで発展したときに、より強い個体を残すことで《種》として生き永らえさせるためではないかと言う。この事実を知る者が少な過ぎて他の推察を聞いたことがないのだが、そのあたりどうだろうか?

 

「どうだろうか? じゃあないんだよ。こんなギルドのカウンターでペラペラ喋っていい内容じゃないっての」

「聞き耳たててる奴はいないから大丈夫だろ。もし誰か聞き耳たててたら俺の経験値にしてやるよ」

「まぁ、あたしは知ってる内容だけど、そのサキュバスの子はどうなんだい?」

 

 ……あっ、いっけね。

 後ろを向けば、冷や汗を流しながら耳を塞いでいるサキュバスと目が合った。間違いなく聞こえていたようだ。

 短い付き合いだったな経験値。こんなことになるなんて残念でならない。カチャカチャと鍔鳴りを起こす。

 

「それはないでしょ!? エルが全部勝手に話したんじゃない!」

 

 確かにそうだが俺の非を認めることと、相手をぶっ殺すという意思は両立できるから問題ない。

 

 というのは嘘偽りなく本音なのだが、エロが主体で頭のおかしいサキュバスに知られたところで困ることでもなかった。

 抜きかけた剣を下ろすとミュカは露骨に胸を撫で下ろして安心したようだ。大袈裟な奴だなぁ。

 同族同士の経験値稼ぎなんて、人間みたいに脆弱なのに狡猾で時折倫理を捨てるような奴がいる種族が知ってからが本領発揮だから。頭緩い種族が知ってもどうにもならん。

 

「はぁ、そういう問題でもないと思うんだけどねぇ。それで? そこのサキュバス娘はパーティー組むなら、この用紙に名前を書いて拇印(ぼいん)を押しな」

「ボイン?」

「胸を持ち上げるんじゃないよ。いいから親指出しな!」

「ちょっ、そのナイフなに!? そ、そこのインクでア痛ー!?」

 

 サクッと指先を切られて血判完了。胸のことを弄られたからって大人げないロリばばぁだ。胸部に経験値が詰まってるわけでもない、被弾面積の増える脂肪の塊のなにに僻むのか理解に苦し……なんで朱肉を下げたんだよ。俺も判を押さなきゃらなんだろ。

 えっ、もしかして胸のことを触れられて頭に来たの? おいおい、別に俺は貧乳のことを見下してるわけでもないのにとんだ誤解だぜ。むしろ戦闘では身軽で有利とすら考えているし、当たり判定も狭くなるから被弾も減らせる。なのにそんな仕打ちか? 貧しい心の持ち主だな。おっと貧しいのは心じゃなくて胸だったか!

 

「おっと手が滑ったね」

 

 無詠唱で【握撃】が飛んできた。一瞬前まで立っていた空間が視認出来るほどに歪み、受け付けカウンターの一部を巻き込んで虚空に握り潰された。

 人族にはなかなか真似の出来ない魔法だ。少なくとも手が滑った感覚で易々と放っていいものじゃない。危うく俺だったらしき肉塊(ミンチ)に成り果てるところだった。レベル差があるからならないけど気持ち的にな。

 

「相変わらず勘がいいねぇ。無詠唱どころか事前兆候なし(ノーモーション)じゃないと当てられる気がしないよ」

「いやいやいや、当てたら死んじゃうでしょ! てか、こんなところでぶっぱなしていい魔法じゃないし!」

「一番よそ者のあんたが一番常識的なのウケるね。けど、残念だったね。エルの奴なら当たったところで死にゃしないよ」

「そこは死んでほしいなって」

 

 握撃って見た目は派手だし物理的な破壊力は高いけど、レベルに差があると途端に効きが悪くなるから仕方ない。雑魚ども乙。

 

「この頭に来る性格と価値観の狂いがどうにかなりゃ、あんたほどの腕なら王都に好待遇で迎えられたろうに」

 

 他国の王宮に呼び出されたことはあるけど、秘密裏に飼われてた魔獣を全部経験値にしてトンズラこいたんだ。精神作用する魔法の応用で魔獣を兵器化出来ないかって実験してたらしいんだけど、まるっと美味しく経験値とした頂いてきたぜ。向こうも公に出来ないから大事には出来ないって寸法よ。

 

「エルって実は強盗かなにかなの?」

 

 は? 世界の平和を願う勇者だよ。

 

「口閉ざしな? バレたら首が飛ぶようなオフレコ話に巻き込むんじゃないよ。もうこれ以上余計なこと話す前に書類の手続きを済ますよ」

 

 ──俺が話を逸らしたわけでもないのだが、異議申し立ては棄却された。解せぬ。




料理スキルは食べると害があるものを食用に出来るスキル。仕上がりは当人の腕前次第。

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