勇者とサキュバスパーティーにてお送りしています。   作:バンビーノ

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4.石鹸はソープ、ソープは――

 装備品の整備や備品の補充に街の各所を歩いていれば、何度かドブさらいをしているサキュバスを見かけた。性的なイメージしかない種族のサキュバスが、汚泥にまみれながらどぶさらいをしている。普段なら性的な魅力で視線を引き付けられるであろうに、物珍しさだけで行き交う住人の視線を集めていた。

 毛先がピンクなブロンドヘアは後ろで括ってポニーテイルにされている。それだけならイメチェンで済ませてもいいがゴム手袋と長靴を履いている姿は色気が激減しておりサキュバスのアイデンティティを揺るがしていた。なんなら肌面積の広い服も色気より清潔感の欠如を助長している。

 

 ドブさらいは命の危険がないため新人冒険者向けの依頼だが、嫌煙されてある理由がこれである。

 初歩的な採取の依頼なんぞより遥かにギルドからの評価点が上がる。とはいえ、所詮は新人向けのレベルでルーキー以外でやるやつなんて皆無に等しい。

 なによりもサキュバスの色気を削り取るほどの臭いと汚れ。普段であればよほど切羽詰まったやつ以外はやらない、文字通りの汚れ仕事だ。

 

 小腹が空いていたので露店で買ったフランクフルトを噛りながら、そんな愉快な光景を肴に麦酒を呷りサキュバスを指さして煽る。

 

「ははっ、おもろ。サキュバスがドブさらいしてるぞ。滑稽だな」

 

 そのサキュバスは一瞬だけ怪訝な顔をしたあと、指をさし返して激昂した。

 

「エルぅ!? 人が働いてるのに、なんであんたは優雅に酒を飲んでるのよ! 人でなし!」

「うるせぇ、俺じゃなくてお前がサキュバスで人じゃねぇだろ。この人でなし」

「だから言葉の綾じゃん! それに真面目に働いてるんだからちょっとは労ってくれてもよくない?」

 

 ――この街は季節の節目にそこそこの報酬額で人を雇い街の清掃がされるのだが、それ以外は基本的に格安賃金で冒険者ギルドに依頼用紙が貼られているだけだ。だから時期によっては結構汚い。

 今の時期、溝にもヘドロがこびり付き始めていたはずなのだが、見る限りかなり綺麗になっている。手を抜かずに真面目に掃除していたのは確かなのだろう。

 ……ほどほどに手抜きをするだけの知性がない可能性も否定できないが依頼をしっかりこなしているのは事実だ。

 

「あたしもフランクフルト食べたい! お腹空いた!」

「別にいいけどお前に触れられなくないんだよな。汚ねぇし」

「あんたがさせた依頼のせいですけど?」

「契約の血判押させたのは受付のリゼットだろ。つまり、悪いのはリゼットであって俺のせいじゃない」

「たしかにそうかも……?」

 

 相変わらずのアホさ。どぶさらいの前に知育とかした方がいいのかもしれない。どうせサキュバスは痴育か恥育とかしかしてないのだろう。燐欄の視線は露ほども通じた様子はなく異臭を放ったまま近づいてくる。

 

「けどあたしが頑張ったのも事実だし、エルがフランクフルト食べさせてよ。ほら、あーん」

 

 口を開けたミュカが物欲しげにこちらを見つめてくる。それならばとフランクフルトを咥えさせれば、どことなく背徳的な光景。はぐはぐと肉棒を咥えさせているという字面と光景がいけないのか、サキュバスの特性か淫靡な雰囲気が漂い──どぶにまみれた姿が全てを台無しにしていた。あと、かなり臭い。触れられなければいいかと思ったが、食事中にどぶ臭いのはシンプルに不愉快だった。

 食いきるまで待てなかったのでフランクフルトを押し込む。

 

「ほごぉお!?」

「よし、汚れと臭いがとれるまで宿に帰ってくるなよ」

「おぇっぷ、むひゃひうんひゃないはひょ!」

「食いながら喋るなよ。汚いやつだな」

「もごごご!!!」

 

 臭いついでに思い出した。臭い消しも買い足しておかなきゃいけない。夜営のときにあると便利なんだよな。魔獣がいくら寄ってきたところで負けないが、下手に命の危険がないから気配を感じても身体が起きてくれないんだよな。だから、ある日朝起きたら食料が食い荒らされてたときは心底困ったもんだ。

 その点、臭い消しを拠点周辺に巻いておけばだいたいの獣は感知できなくなる。ついでに、なにか仕出かしたときに自分に振り撒けば軍用犬の追跡も撒ける優れものだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ――2日後、半べそかいた小汚いサキュバスが帰ってきた。サキュバスというより見目が綺麗なだけの放浪者かもしれない。

 俺は放浪者とパーティーを組んだ覚えはないし、不本意ながら組むことになったサキュバスは2日前から失踪している。ドアを閉めようとするが半べそかいた浮浪者は必死に抵抗する。汚い手でドアノブに触れるなよ、臭いが移るだろうが。

 霧吹きに入れた臭い消しを振りかけたら、小汚いサキュバスが吠えた。

 

「ひとりで孤独にどぶさらいをやり遂げたパーティーメンバーに辛辣すぎない!?」

「臭いまま帰ってくんなって言っただろ」

「仕方ないじゃない! 共同浴場に入ろうにも拒否されたしどうしようもないでしょ!」

「ちなみに女湯と男湯どっちに入ろうとした?」

「男湯」

 

 やっぱり、こいつ経験値にした方がいいんじゃねぇかな。

 

「なんでよ!? 浴場って欲情の隠語じゃないの!? しかもお風呂(ソープ)だなんて! そういう場所でしょ!」

「人類文化権にサキュバス文化を持ち込むなボケナス」

 

 こいつ、パーティー抜けて娼館にでも働きに行けばいいのに。というかソープは石鹸だろ。なんで石鹸(ソープ)お風呂(ソープ)になるんだよ。娼館の亜種とか知らんし、性知識だけ未来か別世界に生きてるのか?

 

「まあね! サキュバスの性知識は時空を超えるのよ」

「汚ねぇ胸を張るな……もう部屋のシャワーでいいから早く汚れと垢を落としてこい」

「やった。諦め半分でも帰ってきてよかったわ」

「諦めるまでに2日もかけて半べそで帰ってこられたらな」

「これが鬼の心にも涙ってやつなのね」

「俺は人間だが? 角が生えてるのはお前だろ。そして泣くことになるのはお前だ」

「言葉の綾、というかことわざじゃん! 鍔鳴りやめなさいよ!」

 

 人様に鬼だのなんだと吐く不届き者への宣戦布告(あいさつ)だってのに喧しいやつだな。

 もういいから、というか臭うから早くシャワー浴びてこい。首根っこを掴んでシャワー室へ放り込む。布面積の少ない水着みたいな服だ。濡れてもすぐに乾くだろう。どうせ服にも臭いが染み付いてるんだ。一緒に洗ってこい。

 

「エッチ特化の服なのよ。どぶさらいしたら、たまに跳ねたりする汚泥が全部身体につくのよね。おかげで身体中が臭くなったわ」

「当たり前だろ、明らかに服装があってないし汚れていい服を……いや、この機会に街中で過ごすように新しい服を買え」

「無理だけど?」

「なんでだよ。サキュバスのアイデンティティとか言ったら斬り捨てるからな」

「違うけど合ってたとしても斬り捨てるのはやめなさいよ」

「じゃあなんでだよ」

「だって、あたしお金持ってないし。よくよく考えたら浴場も男女関係なく入れるわけなかったのよね」

「パーティー組んでから気軽に軽犯罪起こそうとするんじゃねぇ」

 

 天は二物を与えずというが、お前は人じゃなくて魔物なんだからエロ以外のなにかを持って生まれておけよ。無一文で今まで生きてきたとか文明をなにも感じない。

 エロスのためだけに知性をつけた魔物以上魔族未満の、邪神が手慰みに適当に創りたもうた失敗作かなにかだろ。

 

「サキュバスにもお金の文化くらいあるし! ただ人間たちが使ってる通貨がないだけで……貸してくれない?」

「いいぞ」

「あっ、ごめんなさ……いいの!? 絶対に鍔鳴らされるかと思ったわ!」

「金くらい別にな。お前のその格好が改善されるなら文字通り安いもんだ」

 

 返そうとしなくても強制的に徴収するから安心しろよ。経験値に変換してでもな。

 何故かミュカがぶるりと身体を震わせて鳥肌のたった腕を擦る。どうせ露出の多い身なりのせいで冷えたんだろう、早くシャワーを浴びろ。

 

「さっさと汚れを落としてこい」

「なんだか寒気がするからそうさせてもらうわ……あっ、ムラついたら覗いて襲ってもいいのよ?」

「ふぅん、イラついたわ」

「聖剣を抜くんじゃないわよ! あたしがあんたの股ぐらにある性剣をヌいてあげるって話よ!」

「性剣ってなんだよ。いいからさっさと行け」

「さっさとイけ? あのね、女ってのは脳イキする男と違ってそんなにすぐピュッピュッしないのよ。ま、サキュバスは感度イジり放題だから、同人誌さながらの即イキ連続アクメだってお手の物だけどね!」

 

 そんなにいきたいなら逝かせてやろうかこのサキュバス。いや、残弾数のある男と違っていくらでもイケるとかどうでもいいんだわ。小汚いお前と話してても萎え続けるから、早く風呂に行けって言ってんだよ。

 

「わかったわ! じゃあこの話の続きはお風呂のあとね!」

「そうじゃねぇん、もう入りやがった」

 

 ……あいつ、性の話題になると早口でキモいなぁ。




下ネタで盛り上がると知見が広がる。恥見かもしれない。
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