そうは言われても私、狸なんですよね   作:灯火011

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タヌキの日々。あとテイオー。

 沖野氏とテイオーがなにやら話し込んでいた日から数日後。私は今、混乱の極みにいる。なぜならば、なぜかトウカイテイオーがフォームの改良に、本気で挑んでいるからだ。

 

「違いますわテイオー。脚はこう蹴りだして、腕はこう」

「ええっと…こう?」

「先ほどよりはマシになりましたが…まだ脚を振り上げすぎる癖があります」

「うう…難しい!」

「難しいに決まってます。元来の走り方を変えるのですから」

 

 トウカイテイオーの走り方は、大股で、しかも足を水平に近いところまで上げてから降り下げ、その反動で地面を蹴るスタイルだった。ウマ娘の身体能力を活かした、人間には無理な走り方だった。しかし、今行っているのはメジロマックイーンのように、比較的人間の走り方に近い、刻むような走り方である。

 

「はー…ポン吉よぉ。あいつらよくやるなーって思うよな」

 

 そして私はといえば、その光景を見ながらゴールドシップに抱かれていた。相変わらずのたわわっぷり。ありがとうございます。しかし名前が安定しないのはゴルシらしいというか。

 

「ま、テイオーの走り方は確かに速いんだけど、脚にはツレーだろうからな。私ぐらい頑丈なら全く問題ねーけどよ」

 

 その通りだと私も思う。というか前世のキミも頑丈だった。たしか引退後もほっとんどケガというケガをしていないはず。その頑丈さの一部でもテイオーに分けてほしい。そうすれば万事解決だと思う。そう思いを込めて鼻をゴルシのほっぺに擦り付けた。

 

「お?相変わらず人懐っこいなぁオマエ。うーん…」

 

 悩むような声を出して、私を胸から離すように腕を伸ばし、空中にぶらりんとさせるゴルシ。どうしたんであろうか?

 

「お前さー、狙ったようにすり寄るよな。めっちゃ可愛いんだけど中に人でも入ってねーか?」

 

 はて?私はただのタヌキ。そんなことはございません。そう意味を込めて鳴く。

 

「…んなわけねぇか!ま、テイオーとマックイーンが真面目にやってるうちにモッフモフを堪能せにゃ損ってやつだ。おーら、よしよしよし!」

 

 そう言ってゴールドシップは私をベンチに横に置くと、お腹をわしわしと撫でてきた。よかろうよかろう。好きなだけ撫でるがよい。決して「中に人がいねー?」と言われてドキっとしたわけではない。

 

 そしてその間にも、マックイーンとテイオーのフォーム改良は進む。時間がかかるかと思われたそれであるが、流石トウカイテイオー。徐々に徐々にそのフォームを取り入れているようだ。

 

「あ、掴めてきたかも」

「本当ですの?」

「うん、こう、脚はこう振って、手はこんな感じ?」

「…すごいですわ。そうです。では忘れないうちに一周、追い切りましょう」

「オッケー!じゃあ、いくよー!」

 

 よーい、ドン、などという掛け声と共にターフを駆ける2人。テイオーの走りは、大股の走り方ではなく、マックイーンのような、そこまで大股ではなく、しかしながら前傾で腕を大きく振り、足を後方に蹴りだすような走り方。

 

 今までのトウカイテイオーの走り方を見ていると違和感しかない、関節の柔らかさを一切感じさせない堅実な走り。しかし、その走りであってもマックイーンに食らいつくトウカイテイオー。

 

「はぁっ、はぁっ。どう!?マックイーン!」

「いい形にはなってます。あとはそれを走りこんでいけばモノにできるとは思います」

「本当!?」

「ええ。…ですが、改めて問います。クラシック三冠。その夢は本当に難しいものになるかもしれない。それは重々承知の上、なのですか?」

「当然だよ。でも、ボクは勝ちに行く。カイチョーに全力で走るボクを見せに行く」

「そこまでの覚悟をお持ちなら。頑張ってくださいませ。テイオー。さぁ、もう一本行きますわよ!」

「望むところ!」

 

 良い青春である。それにしてもなぜトウカイテイオーは急にフォーム改良などと言い始めたのであろうか…?実は前世のトウカイテイオーもフォームの改良に勤しんでいたとか…?確かに私が知らないだけで、その可能性は大きい。

 

「ポン吉ー?何固まってんだー?」

 

 いかんいかん。つい考え込んでしまった。今はゴルシともっふもふの交流会。甘えな損というやつである。それにしてもゴルシ、君は走らなくていいのかね?

 

 

 それからというもの、毎日毎日、マックイーンとテイオーはフォームの改良にいそしんでいた。その分、私との触れ合いは比較的少なくなっている。とはいえ。

 

『ほら、タヌ吉!ニンジン!ニンジンです!』

『いーや、ボクのリンゴのほうが好きだよねー?ポン太ー!』

 

 わしゃわしゃされながら美少女二人に手ずから餌を頂けること、なんと至福か。かと思えば。

 

『おーたぬぬん。ウオッカ様がブラッシングしてやるぞー』

 

 授業を抜け出してきたと思われるウオッカ…そう、ウオッカである。今の今までウォッカと勘違いしていたが、期待の新人という新聞の記事で「ウオッカ」となっていた事に、ここにきて気づいたのだ。

 

 前世において数十年、そしてタヌキ生少し。新たな気づきである。何事も思い込みでは見てはいけないな、などといまさらながらに学ぶことが出来た。

 

『おー、相変わらずモッフモフしてやがるなぁ』

 

 そりゃどうも。私を机に乗せ、横にして右手でブラッシング、左手で追うように撫でる。見事な二刀流を見せるウオッカ。ボーイッシュながら、その顔は非常に美しい。更にちょっと笑顔を浮かべている。こりゃあ眼福というもの。お礼を込めて、数回鳴いておく。

 

『おお、鳴いた!?気持ちいいのか―?』

 

 その通りですという意味を込めて更に一鳴き。そして四つ足ですっと立ち上がり、ウオッカの手にすり寄る。

 

『あったかいなぁオマエ』

 

 そりゃあタヌキですからね。しかも完璧に手入れのなされたタヌキ。自慢じゃないがそこらの狸とは格が違う。お手入れをして頂けるから。感謝感激。

 そう考える私を、ウオッカは目を細めて撫でる。優しい手つき、優しい表情。実に幸せなひと時だ。

 

『ウオッカ!あんたまーた授業抜け出したでしょう!』

『んー?硬いこと言うなってスカーレット』

『硬いことって…!あんたねぇ!』

 

 その後、ダイワスカーレットが合流し、やかましくなるのもいつもの事である。

 

 

 なんとなくテイオーの脚もどうにかなりそう。そう思い安心しながら今日も今日とてタヌキをやっているわけである。そして最近、別のウマ娘がチームに所属していることを知った。

 

 スペシャルウィークとサイレンススズカだ。

 

 ただ、もうこの2人はトゥインクルシリーズ、つまりテイオーとマックイーンの走る舞台からは身を引きつつあるらしい。それを聞いたときに思ったことは、やっぱり年代おかしいよね?という疑問である。前世では、スペシャルウィークとサイレンススズカが活躍したのは、テイオーとマックイーンが活躍した約5年ほど後の事。しかし、ここウマ娘の世界ではテイオーに先んじて、前途の2人が活躍しているとのこと。

 

『スペちゃんのジャパンカップはすごかったよー?凱旋門を獲ったウマ娘を突き放してさー!ボクも熱中しちゃったもん!』

 

 とはテイオーの言葉だ。ということは、やはり歴史が前後しているのだろうか?まぁ、考えてもよくわからない。ただ、その後の話で。

 

『スズカさんも天皇賞秋のケガから復帰されて、アメリカのG1を獲っていますから。次は凱旋門も、という声もあがっておられます』

『ほんとすごいよねー。後からトレーナーから聞いたけどさ、実際引退を考えるケガだったんでしょ?』

『らしいですわね』

 

 マックイーンとテイオーが話をしているのを聞いて、一つ確信したこともある。

 

 サイレンススズカが現実では『天皇賞秋で故障して安楽死した』馬なのだ。ゆくゆくは凱旋門も…?などと期待されるほどの速い馬だったので、記憶に残っている。

 

 その馬は本来、安楽死。実際、ウマ娘は人間の形をしているので死、とは言わないまでも多分、きっと引退をする運命であったのだろう。

 

 だがしかし、現実としてサイレンススズカは現役で走り、そして凱旋門も狙えるかもしれないという活躍をしている。

 

 これはつまり、この世界は前世の『馬』の魂を引いてはいるが、その運命は変えることも可能だ、ということの裏打ちではないだろうか。

 

 だからこそ、テイオーはフォームの改良に勤しんでいるのであろうか?

 

 …とはいえ考えても判るものではない。私は所詮ただのタヌキ。出来ることと言えば、食う寝る遊ぶ、モフられる。それだけだ。

 

 ただまぁ、それが彼女らの癒しの一つにでもなるのであれば、喜んで。

 

 

 そんなことを考えながら日々のテイオー達の練習を見ていた私であるが、おどろくほど特にその日常に変化は無かった。モフられ、餌を食べさせられ。まぁ確かに愛玩動物としては十二分の生活だとは思う。思うのだが。中身が人間なのでいまいち物足りなくなってきている。

 

 今まで不安だったこと、それらが満足する域にまでになると次の事をしたくなる。我ながらなかなか傲慢な性格らしい。

 

 さて、とはいっても目下やることと言えば、練習前、練習後にモフられたり、適当にほっつきあるいてウマ娘にモフられる。最近仲良くなった『マンボ』と呼ばれる鷹と一緒に学園内を駆け巡る。そのぐらいの事しか無い。

 

『マンボがタヌキと一緒にいマース!?』

 

 と、鷹の飼い主の覆面少女ウマ娘に叫ばれたが、結局足にすりよってモフモフさせておいたので問題ないであろう。ちなみにであるが、私は特に首輪などは付けられていない。自由奔放というやつである。

 

『ま、お前なら大人しいし大丈夫だろ』

『タヌ吉に首輪など言語道断です』

 

 という言葉を聞いたような気もするが、まぁ、そう信頼していただいているのならば冥利に尽きる。ただ、まだトレセンには慣れていないので、移動はそれこそ慎重に。と思っていたのだが。

 

『お狸様さまぁあああ!?おおおお!それに神々しい守護神様!あぁ…これは幸運が…!』

 

 などと言ってきた、やたらいろいろと縁起物を体につけているウマ娘さんとも出会った。出会った瞬間に。

 

『モフモフ!あぁー!多分この子を背負えばレースで勝てる!』

 

 と言われて思い切り抱きかかえられたので、軽く暴れて脱出しておいた。さすがに背負われてレースは出たくはない。

 

『あぁー!待って!せめてその守護神様にお祈りをー…!』

 

 そう叫ぶ彼女であったが、待つわけがない。こちらはタヌキ。全力で逃げさせてもらう。と思っていたのだが、結局彼女はウマ娘である。普通に捕まってしまった。

 

『なるほどなるほど…ほあー!すごいですねぇ!』

 

 そして独り言を語り始める彼女。一体私に何を見ているのだろうか?

 

『マチカネフクキタルー!タヌキ見なか…あー!ポン太ー!』

『おお!?これはこれはトウカイテイオーさん!このタヌキ、ポンタ様というのですか!』

『さ、様?うーん…みんな違う名前で呼んでるよー。でも、チームスピカの一員だよ!』

『ほうほう!では、お返しします!』

 

 マチカネフクキタル…マチカネフクキタル!?はぁー、菊花賞に勝ったお馬さんじゃないか、このウマ娘。でも縁起物を付けているのはなぜであろうか?名前がフクキタルだから縁起物をつけてるのだろうか?判らん。でも、テイオーと話す姿を見ていると、そんなに悪い娘では無いような気がする。そして、マチカネフクキタルは何の抵抗もなく、私をテイオーの腕の中に置くように、手を離した。しっかりとそれをテイオーは受け取る。

 

『あ、テイオーさん。そのタヌキは離さない方がいいですよ?』

 

 ふと、マチカネフクキタルはそんなことを真顔でテイオーに言っていた。だが、テイオーは特に気にする様子もなく。

 

『離す気はさらさらないから大丈夫ー!ありがとねー!』

 

 そう元気な声で、私を抱えたまま走り出した。ちらりとマチカネフクキタルを見れば、笑顔で、小さく手を振っていた。

 

『もっふもふーもっふもふー』

 

 テイオーは上機嫌だ。もちろん、頭を摺り寄せることを忘れはしない。こういう小さな積み重ねが処世術のキモである。

 

 それにしても妙なウマ娘であった。マチカネフクキタル。守護神様とかいってたなぁ。私の背に何を見たのであろう?というか守護神様って。…まぁ、居るとしたら誰であろうか。前世の母父でも憑いているのだろうか。はたまた、タヌキの父母が亡くなったか何かで憑いているのだろうか?

 

 うーん。判らん。判らんので、ま、とりあえず寝ることにしよう。テイオーなら私を落とす心配もないであろうからね。

 

『あれ、ポン太ー?寝ちゃったかー。ま、いっかー。可愛いしー!』




「沖野トレーナー。少々、よろしいだろうか」
「ん?これは、生徒会長。いいですよ」
「テイオーが走り方を変えた、というのは本当だろうか?」
「ええ、本当です」


「クラシック戦線の直前に賭けに出すぎではないだろうか?テイオーなら、今のままでも十分にクラシック三冠を獲れる実力があるはずだと認識している」
「ええ、獲れるでしょう」
「では、なぜ」
「テイオーからのお願い、という理由もありますが…」
「あの走り方、足に相当負担がかかることは生徒会長もご存じだと思いますが」
「…ああ、それは判る。判るが、だが、今のところ何も問題は」

「そう、そうなんですよ。今のところは何もない。だからこそ今のうちに抑える走りを覚えさせる。それが私の方針です」
「クラシック三冠を落とす可能性と天秤にかけても?」
「ええ。その価値はあります。それに―」


「クラシック三冠は必ず勝つ。貴女に並び立ち、追い越す。その想いは、テイオーの目指す先は変わっていません」


「…そうか、そうか。すまない。野暮なことを聞いてしまった。沖野トレーナー、今の話は忘れてほしい」
「気にしないでください。当然の事だと思いますから。ただまぁ、期待はして良いですよ」

「そうか。それは、非常に楽しみだ」
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