トウカイテイオーのフォーム改良が行われてからしばらく。トウカイテイオーの次のレースが決まり、そこへ向けての最終の追い込みが行われていた。確か、前世のトウカイテイオーは若葉ステークスに出たはずだったのだ。が。
今度行われる、そのレースの名は、【弥生賞】。
「なぁテイオー。今度のレースは弥生賞にしようと思うんだが」
「え?若葉じゃないの?」
練習が終わったスピカの部室で、トウカイテイオーと沖野氏が次のレースについて相談していたことを覚えている。私はと言えば、それを机の上で横目に眺めていただけだ。
「フォームの完成度を確認したい。若葉じゃあ皐月賞までの間隔が無さすぎると思うんだよ」
「そういうこと。なるほどね、いいよ。弥生賞に出よう。トレーナー」
「だが、判っているかもしれないが、勝つことは厳しいかもしれない。無敗の三冠は難しいかもしれない。それでも、いいか?」
「…カイチョーに並べないのはちょっと残念だけど、大丈夫。並べなくても、超えればいいんだからね」
なんというか、フォームの改良を言い始めたときから、急にトウカイテイオーが大人びたような気がして仕方がない。アプリのイメージだと、シニアに上がるまでは「ボク無敵!向かうところ敵なしだー!」という人を舐めた感じだったのだが。
今のテイオーは、アプリで言うところのシニア級有馬記念手前ぐらいな感じであろうか。大人びたというか、決意を秘めたというか。天真爛漫な女の子が、清濁併せ吞む女性になった感じというか…。
「お?ポン太が起きてる?おーい!」
そんなどうでも良いことを考えていたら、トウカイテイオーに呼ばれてしまった。呼ばれたのなら仕方がない。ピョンと机を降りてトウカイテイオーの脚元へ。するとトウカイテイオーの腕が伸び、私の脇に手を添えて自らの膝の上へ。いつものスタイルである。とりあえず鳴いておこう。
「相変わらずもこもこしているなぁこいつ」
「でしょー?いやぁー。マックイーンもゴルシもウオッカもスカーレットも、みんなすごく癒されてるよ」
「そのくらい、見ていたら判る。ただ、ま。構いすぎるときがあるのが玉に瑕だな」
「う。それはごめんなさい。ついつい…」
「まぁいいさ。今はちゃんと練習と分けているしな。さて、あとは今後の練習方法だが…」
私を膝に置いたまま、更に今後の戦術を論議する2人。興味津々であるが、まぁ、私が聞いたところで特に役には立たないので、ひとまずはトウカイテイオーの膝の上というこの状況を堪能させていただこう。美少女の膝の上。これだけで至福であることは間違いないのだ。それに相手はモフモフ陥落済み。
まぁ、そうは言っても手で持たれているので身動きできない。仕方がないので顔を腹に押し付けておこう。
「マックイーンの走法のコピーっていうのもなーって思っててねー。ってあははは、くすぐったいよポン太ー!」
「まぁ、確かに他にも走法があるにはあるが…ってそいつ、今日はまた甘えるなぁ」
「可愛いからいいかなぁ。えへへ」
テイオーはそう言いながら、私の頭を撫でてそのまま背中へ手が流れる。うん。心地よいので一鳴きしておこう。
「あはは、気持ちいいんだねー?」
「テイオー、ちょっと俺にも撫でさせてもらってもいいか?」
「いいよー?」
沖野氏の手も伸びてきて、私の尻尾を撫でる。あぁ、そこそこ。そこは気持ちいい。ありがとうと意味を込めて、更に一鳴き。
「…やっぱこいつ可愛いな」
「だっよねー!」
ふふふ。モフモフはどんな時も勝つのだ。
■
そして迎えた弥生賞。私はと言えば、当然のことながらトレセン学園で待機である。
『タヌ吉は連れていけないのですか!?』
『まぁ…レース場はさすがになぁ』
『それでもタヌ吉と一緒に応援したいのです!』
沖野氏とマックイーンは最後まで言い合っていたが、流石に決まりは決まりなので私は置いていかれた形である。でもそのうちマックイーンの活躍でなんか連れていかれそうな気もしている。ま、そこは人の都合に任せよう。私はどう転んでもタヌキなので仕方が無いことである。そしてチームスピカの面々も全員応援に行ってしまっているため、私は本当に何もやることが無い。
ただ、出来ることはある。祈ることだ。トウカイテイオーが無事に今回のレースを勝って、無事に皐月賞を獲れますように。
ひいては、ダービーを獲り、前世では走れなかった菊花を走り切れるように。
守護神が付いているというのならば、今日はちょっと、トウカイテイオーの元に行ってやってくれ。そう思いながら私はスピカの部室を後にして、学園内へと歩みを進めていた。
実際部室にいてもやることが無い。それであればせめて誰か知り合いのウマ娘さんと戯れたい。邪な思い5割ぐらいで歩いていると。
「む。君は」
シンボリルドルフと出会った。いつもの通りではあるが、私が脚にすり寄ると例に違わず、彼女も私を持ち上げて腕に抱いた。
「ふふ、そうか。今日はチームスピカの面々がいないのだな」
その通りです。そう意味を込めて一鳴きして、肩に顔を預けた。横目で見るシンボリルドルフの顔は、非常に整っておりいつまでも見ていたくなるようだ。
「であれば。生徒会室に連れていこう」
え?とシンボリルドルフの顔を、自分の首をひねって正面から見る。そこにあったルドルフの顔は、微妙に目尻が下がり、口角が上がっていた。つまり、微笑んでいたのである。可愛いなぁ、と見惚れていたら生徒会室の扉の前までルドルフの歩みが進んでいた。そして、片手で彼女は扉を開ける。
「会長。会議お疲れ様です。次のイベントの資料なのですが…え?会長、何をお持ちになっているのですか?」
「会長。会計は終わらせておいた。次は何…は?タヌキ?」
腕に抱かれたまま生徒会室の扉を潜ってみれば、そこに居たのは2人のウマ娘であった。両者とも黒髪で、片方はなかなかメイクを決めていて、片方は…武人のような雰囲気である。そして2人とも表情が硬い。
「エアグルーヴ、ブライアン。待たせてすまない。目を通しておこう。で、このタヌキは最近噂になっている、スピカが保護しているタヌキだ」
そう言いながらシンボリルドルフは私を机の上に置いた。
馬の方のエアグルーヴといえば、牡馬と互角にやりあった女帝のイメージが強い馬であろう。だからだろうか、ちょっときつめといっては何だが、メイクがそれっぽい。
ブライアン、ということはナリタブライアンであろうか。あの鼻の上に貼ってあるテープは、シャドーロールの再現だろうか。お馬さんは本当に強かった。3馬身、5馬身、7馬身差と差がついて行ったクラシック三冠は強烈すぎて忘れることは出来ない。だからこそ、こういう武人の雰囲気を醸しているのだろうか。しかし、2人とも美人であり、非常にかっこも良い。ウマ娘さんである。
「タヌキ、ですか。…噛んだり暴れたりしないのですか?」
そう言いながらエアグルーヴは、私を遠巻きに見ている。うーん、非常に警戒されている感がある。あんまりこう、人々に警戒された経験がないのでちょっとショックである。
「暴れはしないよ。それに人懐っこいんだ」
「どれどれ…ほう。こいつは触り心地が良い」
間髪入れずに触ってきたのはナリタブライアンだ。最初は頭をそーっと撫でてきたので、間髪入れずに頭をすり寄せる。ブライアンは少し驚いたようだが、それでも手を離さずに私の頭を撫でている。そして見逃さない。無骨なウマ娘さんかと思っていたが、口角が少し上がって目尻が下がっているではないか。やはりモフはタヌキにて最強。
「だろう?エアグルーヴも撫でてみるといい」
「…では」
続けてエアグルーヴも私を撫でようと手を出してきたので、コロンと転がり腹を見せる。と、驚いたような顔で私を見下ろしていた。
「会長、このタヌキ、警戒心が無さすぎでは?」
「あぁ、少々、人に慣れすぎだとは思っている」
そう言いながらもエアグルーヴは私の腹をさする。最強のモフモフポイントなのでぜひ堪能していただきたい。そう思いながらエアグルーヴの顔を横目で見てみれば。
「ふふ…柔らかい」
ふにゃりと笑顔を浮かべていた。うむ。やはりモフは世界を救う。
■
その日の晩。トウカイテイオーは、チームスピカの面々と一緒に、勝利を携えて帰ってきた。曰く。
「すごかったですわね。テイオー。訓練の効果が出ておりました」
「いやぁー!すごかった!なぁテイオー、最後にビューンって伸びたのすげーなー!」
「本当よね!走法を変えるって聞いたときには正気?って思ったけど…」
「へへ。そんなに褒めないでよー。それに、圧勝!ってわけじゃなかったしさー」
「いや。この短期間で走法と戦術を変えながらの勝利。俺は圧勝に近いと思っているぞ?」
無事に走法も身に付いていたようで、安心出来るような勝利内容だったようだ。沖野氏の表情も柔らかい。
「やめてよー。褒めても何も出ないよ?」
そう言いながらもテイオーはニコニコしていた。本人も納得の走りが出来たようである。それならばまず、祝福の意味もかねて。机の上から助走をつけて、さっとテイオーの胸に飛び込む。
「わわわっ!?危ないよポン太ー!?」
ははは、そう言いながらも笑顔じゃないか。さあ、祝福代わりだ。モフモフを堪能するがよい。そう意味を込めて鳴き声を出しておく。
「今日の所はポン太を認めましょう…」
「ポン太も祝福してくれてんのかねー?」
マックイーンとゴルシも笑顔である。
「ま、いっかー。モフモフだしねー。それに今日は勝てた。イメージ通りに勝てた。皐月賞への弾みがついたよ!みんな、応援ありがとう!」
その日は夜遅く、門限ギリギリまで彼女らはトウカイテイオーの今日のレースを語り合っていた。うん、実に青春である。さて、とはいえ私はタヌキだ。先に寝させていただこう。勝手に撫でてくれる分には問題ないぞと意味を込めて、丸まって机の上で寝ておくこととする。
そしてそれから、更に時が流れて皐月賞本番。
結果だけ言えば、トウカイテイオーは無事に勝利でゴールを迎えることになった。
ただし、それは史実と違い、差込みで、なんとその差はクビ。本来、私の知る馬のトウカイテイオーは1馬身差で勝利したはずなのだが。
『第4コーナーを抜けて先頭に立ったのは…トウカイテイオー!皐月直前に走法を変えて来たトウカイテイオーが前に出た!しかし2番手も追いすがる!どっちだ、どっちだ、どっちだー!』
実況もそう興奮するぐらいの接戦のレースであったらしい。
「いやぁ、危なかったよー」
そう私を抱き、皆と笑いながら語っていたテイオーの目は、笑ってはいなかった。そこに有ったのは猛禽類、はたまた捕食者。それの目であった。
そして、その目を私は昔に、しかりと見たことがある。
あぁ、懐かしいものだ。なぁ?トチノオー。
wiki風
トチノオー(欧字名:king of TOCHIGI、■■■■年3月13日生まれ~■■■年8月30日没)は、日本の競走馬、種牡馬。
日本競馬史上■頭目の中央競馬クラシック無敗三冠馬であり、日本史上初の無敗春古馬・秋古馬三冠馬であり、凱旋門賞馬。全てのGI競走を合わせると21冠馬でもある。G2・G3まで含めると、■■冠となる。
他に、■■■■年の■■五輪にて、サラブレッドには向かないと言われた馬場馬術にて優勝も果たしている。
■■■■年~■■■■年度代表馬および最優秀4.5.6.7歳牡馬、主戦騎手は■■の息子である■■■。■■■■年、顕彰馬に選出された。
勝ち鞍は多岐にわたり 当時の戦績は、『レース前だが結果は判る。1着はトチノオー。2着が勝ち鞍』という言葉で推し量られる。
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トチノオー氏『飛んで跳ねてたら世界獲れた。爺みてるー!?』