そうは言われても私、狸なんですよね   作:灯火011

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「テイオー。なぁ、テイオー?」
「なぁにゴルシ」
「お前さぁ、なんか雰囲気変わってねーか?フォーム改良あたりから」
「そう、かなぁ?ボクは全然変わってないと思うんだけど」
「なんつーか、前まで、『ボクは最強さ!』って疑いもせずに宣言していただろ?でも、今は、…そう、勝利に貪欲になったっていうんかな」
「勝利に貪欲…」
「ま、ゴルシちゃんの気のせいかもしれねー。悪いなテイオー」

「ううん。変わったかも。ボクはクラシック三冠を獲って、それで。…シンボリルドルフに並ぶんじゃなくて超える。そう思うようになったから」

「そっか。お前スゲーやる気じゃん。応援してるぜ?テイオー」
「ありがとね、ゴルシ」


メジロマックイーンの悲願

 トウカイテイオーが皐月賞を獲ってから数日後。そのトウカイテイオーはと言えば、よりフォームの改良とスタミナ増強のための訓練に勤しんでいるようだ。

 

『最近かまえなくてごめんねー?ポン太』

 

 そう言われて撫でられた時のテイオーの顔が印象的だった。前に見たときと同じで、目が笑っていなかったのである。その顔は、何か覚悟を決めた、そういう笑顔を浮かべていたのだ。

 

『テイオー、ちょっと気を張り詰めすぎてる感じもするんだよなー』

『ゴールドシップもそう思われます?』

『そりゃあなぁ。ゴールしか見ていないというか、畏怖すら感じるというか』

『シンボリルドルフ会長のようですわね』

『あー、言われてみりゃなぁ』

『でも、テイオーを見ていると私もゴールを見ないと、と気合が入ります』

『天皇賞も近いし、マックイーンは特に頑張らなくちゃなぁ』

『ゴールドシップ?貴女も貴女のレースがあるのですわよ?』

『ゴルシちゃんは勝つからいーの』

 

 とはゴルシとマックイーンの談である。ただまぁ、それが判っても特に私に出来ることはあんまりないので、隙あらばトウカイテイオーの脚元にすり寄るぐらいである。少しでも気晴らしになればいい。

 

「なーにーポン太?甘えん坊さんだなぁ」

 

 ただ、テイオーが気を張り詰めすぎている、と言われていても、私が足元に寄ればしかりと胸元に抱いてくれるし、笑顔もそのままであるからそんなに変わっていないような?

 

「ほーら、もふもふー!やっぱりポン太は可愛いなぁ」

「テイオー?タヌ吉ですよ?」

 

 マックイーンが不機嫌そうに言葉を掛けながら近づいてくるのも、いつもの光景だ。だが、前の弥生賞の時にポン太という呼び方、認めたのではなかったであろうか。

 

「えー?ポン太って認めてくれたじゃーん」

「あ、あれは弥生賞の勝利のご褒美です!もう認めていません!」

「えー!?ケチー!」

 

 なるほど。彼女らなりのご褒美だったわけか。いまだに私の名前ダービーは続くらしい。ともかくとして、ほっぺに頭をすりすり。テイオーの体温を感じつつ、もふもふをテイオーに感じていただく。

 なんせテイオーはフォームの改良が終わったとはいえ、まだまだその先がある。ストレスがかかっていることだろうし、私の体で少しでも気持ちが安らげば、それが一番いいことだ。

 

「そういえばマックイーン。天皇賞頑張ってよね」

「もちろん頑張らせていただきますが…どうしたのです?テイオー」

「だって、マックイーンがもし負けたら、張り合いがないもん。クラシック級無敗三冠ウマ娘と、シニア級天皇賞春秋制覇ウマ娘。有馬で対決なんて、素敵じゃない?」

 

 テイオーはそう言いながら私を撫でつつ、マックイーンに笑顔を向けていた。

 

「…それは、素敵ですわね。ではテイオー。貴女もせいぜい、負けませんよう」

「当然。ボクは無敵のテイオー様だよ?」

「私だって、誇り高きメジロのウマ娘。負ける気はさらさらありませんわ」

 

 マックイーン負けじと笑顔で答え、2人は握手を交わしていた。うーん、ライバルとは実に、良きモノかな。ただ、前世では彼女らの戦いは一度きり、天皇賞春の時だけだ。

 

 願わくば彼女らの対戦が何度も実現するように、満足に戦えるようにと切に願う。

 

 

 それから時が少し流れ、トウカイテイオーの皐月賞から2週間後。メジロマックイーンが目指してた天皇賞春のレース当日である。私はと言えば、相も変わらず部室でお留守番である。やはりレース場へは私は入れないらしい。

 

『ああータヌ吉ぃ…』

『マックイーン?君のレースだよ?まったくもー、早くいくよー。じゃーいってくるねポン太』

 

 私をモフってなかなか出発しないマックイーンを、テイオーが引っ張っていく姿はちょっと微笑ましかった。

 

 それはそうとしてまた、暇な一日である。しかも今回はシンボリルドルフなどの面々も応援に出ているらしく、校内に残っているウマ娘と言えば、知り合いはほとんどいないという有様だ。とはいえ引きこもっていても仕方がないので、部室の近くをのっそりのっそり探索しているわけだ。

 

「お?こんなところになんでタヌキ?」

 

 ん?と思って声のする方に首を向けてみれば、鹿毛っぽいツインテールな髪の毛のウマ娘が、ジャージ姿でこちらを伺っていた。それならば、と。足元にすり寄りご機嫌を取る。

 

「わっ!?はー…やたらと人懐っこいねぇ?」

 

 そういうとウマ娘さんは腰を落として、私の撫でようと手を伸ばしてきたので、それならばと頭を押し付ける。モフモフをどうぞ。

 

「おー…これはこれはふっかふか。気持ちいいねー。もしかして君、スピカのタヌキ?」

 

 そうだよーという意味を込めて一つ鳴いておく。まぁ、トレセン広しと言っても私以外のタヌキを見たことはない。

 

「これは可愛いわ。こりゃテイオーとかマックイーンがはまるわけだわ」

 

 独り言をつぶやきながらも、私をモフるウマ娘さん。ええぞええぞ、もっとモフれ。今日はスピカもリギルもおらんのだ。時間は有り余ってるんだ!そう意味を込めて腹を見せてコロンと横になる。

 

「おお…これはふっかふか…」

 

 夢中になるがよい、ウマ娘さん。撫でられるこちら側としても、美少女に撫でられることは冥利に尽きる、というか心地が良いものである。そしてウマ娘さんはにっこにこで私を撫でているので、もふもふをご満悦していただいているようだ。

 

「あ、ちょっとまってね…ええと、はい、おいもだぞー」

 

 おいも…?ふむ、確かにお芋である。しかしなぜにこのウマ娘さんはお芋などお持ちなのであろうか?もしかして、スピカやリギル以外の練習のお供にはお芋が普通なのか?

 

「いやぁー…実はタヌキにいつでも会っていいようにお芋持ち歩いてたーなんて…恥ずかしくて誰にも言えないよねー…あははは」

 

 お?そうなのか。よく見ればウマ娘さんの顔がちょっと赤い。まぁ、そういうことなのであればいただくことにしよう。口を開けて、ウマ娘さんの指をかまないようにお芋を咥える。お、これはふかしいも。判ってるじゃないか。

 

「おー、食べた食べた。可愛いよねぇ、本当」

 

 そう言いながら私の頭を撫でるウマ娘さん。うん、こういう出会いも悪くはない。

 

 

 お芋をウマ娘さんから飽きるほど頂いたわけで、腹ごなしがてらトレセン学園内を散歩しながら、マンボとかいう鷹と遊んでいる。最初の頃は喧嘩をしたものであるが、ある時からあちらが妙に落ち着いて近寄ってきたので、和解して現在に至る。

 

 まぁ、遊ぶと言ってもお互い甘噛みで軽くじゃれ合う程度である。

 

 とはいえ、鷹とタヌキでは機動力が違うので、もっぱらマンボが私の背中に乗っているような形だ。時折嘴でちょっかいを出してくるのがまぁ、野生らしいというか。

 

「マンボー…どこにいったんですかぁー…」

 

 お?マンボは私の背中におるよ。そう思いながら声のするほうに歩みを進めると、仮面をしている妙なウマ娘の姿があった。

 

「マンボ…あ、マンボー!探しましたよー!」

 

 マンボはウマ娘さんの姿を確認するやいなや、私の背中から離れてウマ娘さんの肩へと移っていった。素早いな。

 

「まったく!勝手にどっかにいかないでくださいよーマンボー」

 

 というか君、逃げ出してたのね?だめよ飼い主を心配させちゃあ、と意味を兼ねて一鳴きすると、『硬いこと言うなやー』と言わんばかりに逆に一鳴きされた。

 

「タヌキさーん!いっつもマンボを連れてきてくれてありがとうございマース!ジャーキーデース!」

 

 そう言いながらウマ娘さんは元気に、私の目の前にジャーキーを差し出して来た。本来はマンボ用であろうか、ウマ娘の肩あたりからすごく視線を感じる。『お前食うんかそれ』って囁かれている気がする。とりあえずお茶を濁す感じで匂いだけを楽しもうか。

 

「タヌキさーん?食べていいですヨー?牛のジャーキーなので、食べてもだいじょーぶ!」

 

 食べたいのは山々なんだけど、そのマンボの視線が痛いんだ。『タヌキオメー…』って言いたげなその瞳がね?ま、でもそこまで言うのなら…。

 

「おお、食べた、食べたー!可愛いデース!」

 

 喜んでいただけたようで何より。ちらりとマンボを見てみれば、口をあんぐりと開けてこちらを睨んでいた。悪い悪い。今度また遊ぶから勘弁して、という意味を兼ねて一鳴きしておこう。

 

 

 案外散歩をしていると時間というのは進むもので、スピカの部室に戻った頃には既に5時を回った時であった。既にそこにはゴールドシップが戻ってきていて椅子に座り、一人将棋をしていた。ちょっとシュールである。

 

「お?ポン吉じゃん。どこいってたんだオメー」

 

 校内を適当にめぐってたわーと、意味を込めて一鳴きしたがまぁ、判るはずはないか。それにしても他の面子はどうしたのであろうか?まぁ、とりあえずゴールドシップの膝に乗っておこう。

 

「お、なんだなんだ。今日もお前は甘えん坊だなぁ」

 

 タヌキですから。処世術ですよ処世術。そう思って私はゴルシの顔を見る。

 

「撫でてほしいんかー?ほれほれ」

 

 そう言いながら私を撫で始めるゴールドシップ。やはりこう見ても美人のウマ娘さんだ。笑顔が良く似合う。もうさ、そんな表情をされては仕方がない。甘んじてその手を受け入れようじゃないか。

 

「今日は私以外帰ってこないし、お前を独り占めだぜ。ポン吉よー」

 

 ほー、そうなのか。まぁ、確かに天皇賞春が行われるレース場は京都であったはずなので、確かに日帰りというのは無理か。とはいえなんで君は帰ってきたの?

 

「で、聞いてくれよポン吉。マックイーンがよー。天皇賞勝ったんだ」

 

 お。マックイーンが勝ったか。安心安心。

 

「それでよー、夜にライブがあるってんで準備をしてたんだわ」

 

 ああ、ウイニングライブだったか。前世ではなかったことだが、確かにウマ娘の世界ではあるんだったな。ウイニングランの代わりのそれが。

 

「でだぜ?そのライブを見ようとしてた私に、マックイーンはなんて言ったと思う」

 

 てんで見当もつきませんが。

 

「ゴールドシップ!貴女はかえってタヌ吉の面倒を見てください!だとよ。トレーナーからも頼まれちまったんで、ゴルシちゃん全力疾走。多分レースより速かったぜー」

 

 あー、マックイーンなら確かに言いそうである。今日の朝、私と別れるときですら相当名残惜しそうにしていたわけだからね。にしてもゴールドシップ、ご苦労様です。と意味を込めて、頭をゴールドシップのお腹に擦り付ける。モフモフを堪能してくれ。

 

「おお?んだよくすぐってーなー。ま、心地いいけどなー」

 

 ゴールドシップはそう言いながら、私を両手で掲げ上げ、私のお腹に顔を埋めた。

 

「…猫吸いならぬタヌキ吸い。ほー…これはハマるかもしれねー…」

 

 や、そこで呼吸されるとむず痒いのですが。いやいやそこで顔を擦られると更にくすぐったいんですよゴールドシップ!流石にいやいやと四つ足をじたばたさせると。

 

「悪い悪い。一度やってみたくてよー。あ、そうだ。飯食ってねーだろ?ちょっと準備すっから待ってろー」

 

 私は床に置かれて、ゴールドシップはロッカーへと離れていった。であれば私はその足元でしかりと待たせていただこう。もちろん、格好はお座りである。

 

「ほーらポン吉。ドッグフードとニンジン、あとサツマイモな」

 

 皿に出されたそれを、私は口を開けて咀嚼する。案外とドッグフードは美味しいのだ。カリカリしていて食感が良い。ニンジンはジューシー、サツマイモは甘くてデザート感覚。実に良い夕飯だ。

 

「おーおー食え食え。食って食って太ればタヌキ鍋だなー」

 

 いや、冗談にしてもそれはちょっとキツいよ?そう思いながらゴールドシップの顔を見る。野郎、笑ってやがる。

 

「冗談だって。安心して食えー。マックイーンの瞳が黒いうちは鍋にはしねーからさー」

 

 安心できるような、安心できないような。一抹の不安を抱えながら、食事を再開する。あー、カリカリが良い…。カリカリが…。

 




wiki風②

トチノテイオー(欧字名:Totino Teio、■■■■年4月20日生まれ~)は、日本の競走馬。

日本競馬が誇る至宝、トチノオーの初年度産馬の一頭。世界の怪物と言われた父、トチノオーの血を濃く受け継ぐ馬の一頭である。

主な勝ち鞍は皐月賞、東京優駿、凱旋門賞(■■■■年,■■■■年)。

幾度の骨折、故障を乗り越えて、凱旋門賞制覇を成し遂げた様から、かの奇跡の名馬トウカイテイオーと重ねられ、『帝王』と愛称を名付けられている。

 東京優駿を勝利した年、年度代表馬最有力候補であった。が、ケガにより休養。結局年度代表馬になったのは、同トチノオー産馬で、牝馬でありながら菊花賞・有馬記念を勝利したトチオトメ※1。

現在はダートに転向し、競走馬としては高齢の8歳ながら、GⅠ競争である帝王賞で勝利を掴み取るなど、その活躍はいまだ続いている。

――――――――――

トチノテイオー氏「親父に比べると、どうってことない戦績ですまない」
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