そうは言われても私、狸なんですよね   作:灯火011

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夏合宿と竹細工

 梅雨も明けて、いよいよ夏合宿の日となった。私はと言えば、マックイーンの膝に乗せられて、沖野氏の車で合宿地である海岸沿いへと目下移動中である。エアコンが効いているので、マックイーンの体に密着していても実に快適だ。

 メンバーは5人。テイオー、マックイーン、スカーレット、ウオッカ、ゴルシである。スペシャルウィークはドリームトロフィーシリーズに向けての準備のために実家へ帰省、サイレンススズカは欧州へと遠征に向かったとのことだ。

 他にも、同じ合宿地にリギルの面々と、数チームのウマ娘達が来るらしいと、テイオーと沖野氏が話していたことを覚えている。

 

「部屋割りはくじ引きの通りな。確認するが、テイオーとゴルシの2人で相部屋、スカーレットとウオッカとマックイーンの3人の相部屋だ。間違うなよー」

 

 そういえば私はどこに泊まるのだろう?トレーナーの部屋であろうか?

 

「あ、それでポン太はボクとゴルシの部屋で良いんだよねー?」

「ああ。世話、しっかりと頼むぞ」

「うぅ…タヌ吉ぃ…」

「そんな声出さないでよー。くじ引きだから仕方ないでしょ、マックイーン。別に門限までは構えるんだしさー」

「それはそうなのですが、やはり一緒に寝たいのです!」

「おいおいマックイーン、鍋に入れすぎたポップコーンじゃねーんだから少しくらい我慢しろってー」

 

 じゃれあうスピカの面々に連れられて車を降りてみれば、そこには少しボロい旅館が鎮座していた。なるほど、沖野氏の財布はなかなかに厳しそうである。…お、そして少し海岸沿いに竹やぶがあるじゃあないか。これはなかなか良い立地だ。

 

「リギルは確か個室のホテルと聞きましたが…全然違いますわね…」

「…悪い。俺の財布じゃこれが精いっぱいだ」

 

 そんな悲しい会話を聞いたような気がするが、私はただのタヌキである。強く生きてくれ、沖野氏。そして、各々が部屋に荷物を置く間、私は旅館のロビーで沖野氏と待機しつつ、旅館の方々と戯れていた。やはりタヌキというのは珍しいのであろう。よっぽど尻尾を触られたわけだが、まぁ、年配の方から若い方まで笑顔に出来たので、良しとする。

 

 

 さて、皆が練習に出るということで、スピカの面々と一緒に海岸のパラソルの下に連れてこられて来た私である。隣には沖野氏がパラソルの下で椅子に座り、さっそくウマ娘達へと指示を飛ばしている。

 

「テイオー!マックイーン!もっと蹴り足を意識しろ!ウオッカはまっすぐ走れ!体幹を意識しろ!スカーレット!下を向くな!ゴールドシップは真面目にやれ!」

 

 はい!と全員が答えた。まさに精が出るというやつであろう。

 

 …さて、海の合宿の醍醐味と言えば何であろうか。食事?旅館?海?ああ、確かにそうであろうと私も思う。しかし、やはりウマ娘さんと来ているわけで、そうなればこれしか無かろう。

 

 ウマ娘さんの水着姿である。

 

 しかも全力で運動しているしなやかな肢体。汗が浮き出るその肌。実に見ていて気持ちが良いモノである。とはいえ学校指定の水着なので、可愛いやセクシーという感想は出てこない。むしろかっこ良い、機能美、という言葉が頭に浮かぶ。浮かぶものの、その姿で抱きかかえられれば、皆のたわわを感じることが出来る。しかも私は夏毛。これを最高と言わんとして何という。ま、とはいえ私はタヌキである。彼女らに笑顔が浮かべばいいので、大人しくもふられ撫でられるようにしよう。そうしよう。ということで、パラソルから出て、彼女らが練習を行っている海側へと歩みを進めてみよう。

 

「おーなんだ、ポン吉も海は珍しいんかー?」

 

 最初に反応したのはゴールドシップである。…なんで君鯛をお持ちで?今晩の夕食か何かか?え?というか今獲ったの?そうあっけに取られていると、わき腹に触られる感覚があり、視線が宙に浮かんだ。

 

「よいしょっと…あぁ、暑いですけれど、モフモフです」

 

 そうやって言いながら私を胸に抱いたのはマックイーンである。うん。なるほど。たわわを感じる。とはいえ炎天下で密着はやはり暑い。有難いのだが暑い。

 

「ねぇマックイーン。ポン太、口開いちゃってるよ。暑がってるって絶対!」

「あら…?本当ですわね」

 

 テイオーの言葉に、マックイーンは私を砂の上に置いた。そして、2~3度頭を撫でる。

 

「相変わらず可愛いですわね。では引き続き参りましょうか。テイオー、ゴールドシップ」

「もちろんだよマックイーン。あと10本。まっけないよー!」

「えー…ゴルシちゃんもうギブアップなんだけど」

「いいからいきますわよ!」

 

 テイオーが先頭で走り出し、マックイーンはそう言いながら、ゴールドシップの耳を引っ張って走り出していた。うーん、ゴールドシップはやはり、元のお馬さんに違わずに気分屋であるらしい。それでいて速いのだから魅力的だとは思う。

 

 

 さて、というところで私は手持ち無沙汰となったわけだ。首を上げてあたりを見回してみたのだが、ダスカとウオッカはちょっと距離が離れていて甘えに行けそうにはない。かといって海に飛び込むわけにもいかない。流されても嫌であるし、人間の時ですら髪の毛がぎっしぎしになったり体中が砂だらけになるのが海水浴というもの。この毛皮のタヌキで海に入ったら、砂まみれの毛並みぎっしぎしになってしまうことであろう。そう考えながら、前足をちょっとだけ波に当てて、海水浴の雰囲気だけを楽しんでいたのだが。

 

 暑い…暑すぎる。暑すぎるのでスピカのパラソルの下へ帰ろう…と思ったのだが。

 

「…え、えええ?こんなところに、タヌキが…!?」

 

 聞いたことのないウマ娘の声が聞こえてきたので、視線を上にあげてみれば、栗毛でありながら、髪の毛の一部が白くなっている癖毛のショートヘアのウマ娘がシートの上に座っていた。こりゃいかん。ちょっと戻る場所を間違ったようである。しかし。

 

「か…かわいいけど、かわいいけど…噛まれない?噛まれないかなぁ…?」

 

 少し怯えながらも、私に興味津々なようだ。まぁ、スピカの面々は今、練習に励んでいるとこなのでこのウマ娘さんと少し戯れよう。私は噛まないし人懐っこいぞーと一鳴きして、ぽてぽてと歩みを進める。そしてウマ娘さんが撫でられる位置で、お腹を見せてコロンと横になる。相手が怯えているのなら、無理に近づかないのもまた処世術である。

 

「む、無防備過ぎませんか…?タヌキさん…?え、ええと」

 

 そーっと手を伸ばしてくるウマ娘さん。うーん、ライスシャワーのようなおどおどした感じがすごく好感を持てる。が、その体躯はライスシャワーのそれじゃない。身長も高めであるし、そして、実に豊満である。

 

「あ…ふかふかですぅ…」

 

 私の腹にウマ娘さんの手が沈んだ瞬間、ウマ娘さんの顔もへにゃりと蕩けた。うむ。眼福眼福。もっと撫ででよいぞと意味を込めて一鳴きしておく。

 

「あぁー…かわいいです…この子…可愛いです…!」

 

 そして次の瞬間には抱きかかえられて胸元へと押し付けられた。おお。これは…夏毛と相まって実にたわわを感じることが出来たのである。あぁ、実に冥利に尽きるというものだ。そうやって暫くたわわなウマ娘さんと戯れていた私である。が、ウマ娘さんがちらりとスマホを見た瞬間。

 

「………あぁぁああー!?もうこんな時間…!?みんなをまたせてますうぅううう!」

 

 と、途中で慌てたように私を置いて、海へと飛び出していってしまったため、私はといえばあっけに取られたまま、また急に手持ち無沙汰になってしまった。

 

 仕方がないので改めて海岸を見回してみれば、スピカの面々は気づけば海で泳いでいて、いつのまにか海岸に来ていたリギルの面々はビーチフラッグで足腰を鍛えている。先ほど海に飛び出ていったウマ娘さんも、3人ぐらいのウマ娘さんと海で泳いでいる。あれ、そのうちの一人はマチカネフクキタルじゃあないか。相変わらず福の物を付けているなぁ。

 

 まぁ、それはそれとして、私は今フリーということだ。

 

 それならばと、マックイーンとテイオーのザルを編めるじゃないかと思い立ち、浜辺沿いの竹林へと足を運ぼうとしたまではよかった。のだが。

 

「おー?ポン吉じゃん。どっこいくんだ?」

 

 ゴールドシップに見つかってしまい、そのまま彼女と一緒に歩いているような形になっている。まぁ、特に遮ってくる感じでもないのでぽてぽてと歩みを進めた。

 

「…竹やぶ?」

 

 その通りと一鳴き。そして、私は早速材料集めに勤しもうと、手近な竹を前足で押さえつける。ただし生の青竹だと牙で刈り切れないので、枯れかけている奴を狙って、少しづつ少しづつと傷をつけていく。

 

「お?もしかしてお前、竹で何か作ろうってんか?…ふーん」

 

 ゴールドシップはそう言いながら、私を抱きかかえてしまった。えーと、こうなると私は何も出来ないのだが。ひとまず離してほしいと思いながら少し暴れる。

 

「暴れるなってー。ま、今日の所は私に見つかったと思って諦めな」

 

 今日のゴルシの腕は私の力では開くことは無く、その脚でスピカのパラソルの下まで連れ戻されてしまった。すると休憩中のスピカの面々につかまり、そして同じように休憩に来たリギルの面々にモフられ、更にトレーナー達にモフられ、極めつけに宿の従業員さんらにモフられと息つく暇がなかった。

 そして気づけば、疲れからか宿の布団の中でテイオーに抱えられながら、すっかり眠りこけてしまったのである。

 

 

 翌日。私が旅館の部屋で起きると、なんと驚くことにそこには、竹ひごが山のように積まれていた。隣には良い笑顔のゴールドシップが座っている。

 

「お?起きたかポン吉。ほら作ってきてやったぞー竹ひご!さっそく作ろうぜ!」

「んー…ごるしぃ…朝からうるさい…ってうぇええ!?何この竹!?」

「お、やぁっと起きたかテイオー。ほら、こっち来いって。一緒に竹細工やろーぜー」

 

 これは有難い。というかゴルシ、君は有能すぎないか?一晩でこれだけの竹ひごを作ったのか。すごいな。ありがとうと意味を込めて一鳴きし、さっと竹ひごを足元へと引きずり込む。そして早速、ゴールドシップが持ってきた竹ひごを私は数本後ろ足で押さえて、前足と口で編みこんでいく。まずはマックイーンの分の竹ザルでも編もうかと手を動かし始めたわけなのだが。

 

「竹細工?あれ、ポン太。その竹どうするの?」

「こいつが竹で何か編むってのはお前も知ってんだろー?ポン吉を真似すりゃ出来るってー。ほら、テイオーの分。出来んだろ?」

「おー?やったことはないけど…ま、まぁ、竹細工ぐらい編めると思うよ?ボク、無敵のテイオー様だし」

 

 私の隣でゴールドシップとテイオーが真似をして竹を編み始めた。とはいえ、そんな簡単に出来るものではない。親から学び、練習し、そして数年かけてようやくひと様の目に見せてもいい具合になるのがこういう細工物である。まぁ、今のこのタヌキの体では、仕上がりに期待は出来ないのだ。ただし、才能はあるところにあるので、実はテイオーが上手という可能性もある。

 

「んーー!難しいなぁ!ボク無理かもしんない!」

「そうかー?簡単だぞー?」

 

 テイオーは四苦八苦と言った具合であろうか。首を傾げながら、編みはじめ、そして解いてなおしてを繰り返している。しかしゴールドシップはコツをつかんだようで、その速度はものすごく速い。というか編み方を良く知っているような手つきだ。…君本当にウマ娘?

 ま、外野を気にしても仕方がないか。私ものんびりと編むとしよう。えーと、こっちを下にしてこれを上にして、そしてこっちに差し込んで…うーむ、久しぶりなのもあってなかなか思うように進まん。これは前途多難である。そう熱中してしばらく編んでいると。

 

「いっちょあっがりぃ!どーよポン吉!」

「ええ!?うっそぉ!?ゴルシ早くない!?」

「そうかー?朝飯前だったぞー?」

「ぐぬぬ…」

 

 気づけばゴールドシップは既に竹ザルを編み終えていた。早い。本当に何でもできるな君は。しかも結構完成度が高いし、端の仕上げも綺麗である。いや、本当、素晴らしい仕上がりなんじゃないのか、これ。

 

「なんでもーゴルシもそんなに手が器用なのさ!」

「そりゃゴルシ様だしな」

「答えになってないよ!」

 

 …いやしかし、こうウマ娘さんと一緒に竹細工を編むなんて、いったい人生どうなるのか分かったものではない。一度死んで、生き返って、こうやってのんびりと竹を編めるなんてなんて幸運なのかと思う。しかも前世とは違い、馬がウマ娘となっている世界である。そう思いながらも編み続けていると、テイオーがこちらの手元をのぞき込んで来ていた。

 

「キミってさー、本当にタヌキ?ボクより手先器用じゃんかー」

「テイオーよぉ。そうじゃねーって。ポン吉の手元を良ーく見てみろって」

 

 …それはそうとしてトウカイテイオー。竹はゴルシが言うようにそう編むものじゃないぞ。言葉は通じないとは判っているが…よく見ておきなさい。こっちを上にして、その下にこう滑りこませるんだ。

 

「ぐぬぬぬ…」

「ポン吉だって出来るんだからテイオーにだって出来るぜ?」

「むぅ。そうは言ってもさぁ…簡単そうにやるよねぇー。ええっと、この竹を上?かなぁ。うーん…あ、なるほど、コツが判ってきたかも」

 

 あいにくこちらは畜生道。言葉はせいぜいキュイだかしか発せられない。だから、見せてやらせる方法でモノを教えることとしよう。まぁ、居心地は良いので今はこれでいいだろう。それにしても、本来はトウカイテイオーの分も編むつもりだったのだが…ま、自前で成功を掴み取るという縁起も一つ、良いだろう。しっかりと編み方を先導するから、私についてきたまえ、トウカイテイオー。




Wiki風④

キューカンバー(欧字名:cucumber、■■■■年8月13日生まれ~)は、日本の競走馬、繁殖牝馬。

主な勝ち鞍は優駿牝馬、ヴィクトリアマイル、高松宮記念など。牡馬に勝るとも劣らない活躍を見せた。名前とその戦績から『精霊馬』などの異名をとる。

トチノオーとは春古馬三冠、秋古馬三冠などで争ったものの、ことごとく2着に敗れている。特に有名なものとして、トチノオーがレコードを出した■■■■年天皇賞(春)においては、キューカンバーがレコードペースでトチノオーに迫り、ハナ差の写真判定での決着と相成っている。

なお、併せ馬にて唯一トチノオーに先着しているため、現役当時はトチノオーの最強のライバルとも評されていた。

トチノオーの代表産駒の一頭であるトチノテイオーは、キューカンバーとトチノオーとの間に出来た子である。

――――――――――

キューカンバー氏『出るレース出るレースに絶対あいつがいるんですよぉ…救いはないんですかぁ…』
トチノオー氏『アイツ良いケツしてんだよなー』
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