そうは言われても私、狸なんですよね   作:灯火011

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※『ウマ娘』と『タヌキに転生した奴』の『ほのぼの』です。


夏合宿は続く、そしてリオナタール

 夏合宿が続き、夏が深まり始めたころ。私が作る竹ザルもいよいよ完成が近づいてきていた。その間、トウカイテイオーは練習前に毎朝、私の横で編み方を学び、そこそこの手付きになってきていた。ただ、途中から状況が少し変わり、テイオー以外にも一人、生徒が増えている。

 

「もうちょっとだねー、ポン太」

「タヌ吉です。うーん…ええと、こうで、こうですわよね」

 

 メジロマックイーンが途中から合流したのだ。ある時に、どうもテイオーが練習に来るのが少し遅いとマックイーンが部屋に突撃してきたわけで、そうなれば当然のように私の横で竹を編み始めた。ちなみにゴールドシップは日々竹ひごをどこからか持ってきて、好き勝手に何かを編んでいる。

 そうやって、気づけばテイオーとマックイーンに挟まれながら竹ザルを編む日々が続き、私を見てテイオーとマックイーンがザルを編むものだから、少し落ち着かなかった。何よりも私の手付きを見て作っていくものだから、私も気を使って彼女らが部屋にいる間にしか作業が進められなかったのだ。

 一週間がたち、二週間が経ち。いよいよ私のザルも日の目を見るという日に、彼女らのそれも完成を見た。

 

「できましたわ!ふふ、教えていただいて感謝します。タヌ吉」

「ボクも出来たー!ポン太、ゴルシ、ありがとー!」

 

 喜びながら、私を撫でる二人。もちろん見た目は世に出せるようなものではない。しかし、それでも2人が自分の手で編み、完成させたもの。縁起としては最高であろう。

 

「おー。2人ともやーっと作り終わったのか。ゴルシちゃんは籠まで作ったぜー?」

 

 そしてその隣で竹細工を量産しているゴルシがいる。いやぁ、君はもし競争バを引退したとしても安泰だなぁなどと心底思う。ウマ娘ブランドの竹細工、とかものすごく人気が出そうだ。

 

「ゴルシは器用すぎー」

「ゴールドシップさんは器用すぎます」

「そうかー?コツ掴めば楽勝だぞー?」

 

 そう言いながらゴールドシップは、残った竹ひごを纏め始めていた。その脇ではテイオーとマックイーンがお互いの完成品を見て、わいわいと盛り上がっている。さて、こうなってしまうと私の作ったこの竹ザルはどうしようかと思う。本来はマックイーンのために編んでいたのだが…。ま、何かで使うかもしれないので、私の籠に入れておこう。そうやってごそごそとやっていると、不意に体の脇に手を添えられて、抱かれた。目の前にテイオーの顔が見えたので、マックイーンに抱かれたようだ。

 

「本当にありがとうございます。タヌ吉。良い体験ができました」

「本当、ありがとうねー。ポン太。面白かったー」

 

 そう言って頂けるのなら幸いです。そう意味を込めて一鳴きする。その声に、テイオーとマックイーンは笑みを浮かべて、私を撫でてくれた。それならばと頭を擦り寄せておく。するとさらにわしゃわしゃと頭と腹を撫でられたので、もう一鳴き、気持ちいいと鳴いておいた。ふと彼女らを見上げると、目尻が下がり、口角が上がっている。うむ。彼女らが笑顔になるのが一番である。

 

「そうそう、テイオー。皆さんが噂しておりましたよ。クラシック三冠、あなたが確実だと」

「ボクも聞いたことがあるよ。マックイーンは天皇賞春秋制覇は確実だって」

 

 お?そうか、もうそんな時期だよな。と思いつつ、マックイーンの顎に頭を擦り付ける。こそばゆそうに目を細めるマックイーンだが、その口から出たのは強者のそれであった。

 

「ここまで来たのです。楽しみにしてますわよ、テイオー。あなたと最強をかけて、有馬で走るその日を」

 

 挑むようなその口調。テイオーも負けじと言葉を返していた。

 

「ボクだって!だからマックイーンも天皇賞、負けないでよね!」

 

 青春であろう。ただ、その間に挟まれているのが私タヌキであるというのが何とも間抜けである。ま、ひとまずは2人に擦り寄っておこう。

 

「はー、お熱いこって。ま、私は気分で走るだけだけどなー」

 

 そう言って肩をすくめたゴルシ。いや、君は本当にいつ練習して、いつレースで走ってるんだい?確かになんか時々レースで勝ったとは聞くんだけどもな…。

 

 あくる日、私は海岸には出ずに、旅館で過ごすことにした。というのも、連日の猛暑で流石にばてて来たからである。幸い旅館はエアコン完備であるため、非常に涼しく、快適に過ごすことが出来ている。そして、私が作ったザルは誰にあげようかねぇ、などと考えていたわけであるが、全く思いつかずに七月を終えようとしている。

 

 暇になったので、旅館の中を歩いていると女将さんやオーナーに会い、体をモフられた。もちろん体をコロンと横倒しにして腹を見せて撫でてもらう。

『あらータヌキちゃん。本当にひとなつっこいこと』

『タヌキってだけで珍しいのにな。大人しいし。これだったら害獣じゃないのにな』

 そうでしょう、そうでしょう。世間一般では私は害獣だけども、私はモフモフタヌキ。しかも人懐っこいというおまけつき。だからもっと撫でてくれてええんやで、と一鳴き。

 

 そうやって昼間は旅館の中でゆったりと過ごし、一日のんびりと過ごすのがここ数日の過ごし方だ。

 

 時折夏バテで運ばれてきたナリタブライアンの近くで一日過ごしてみたり、さぼっているゴルシの横に寄ってみたりとしていたがまぁ、実に平和な日々である。

 

 そしてある日の夜。夕食後に私は、テイオーに連れられて旅館の外へと散歩に来ていた。とはいえ、目下テイオーに抱き抱えられたままなので、私は首を動かして景色を楽しむぐらいだ。遠くで聞こえる波の音、近くで聞こえる虫の音、時々聞こえるカエルの鳴き声が夏の夜を演出している。

 その中をテイオーはゆっくりと歩いていた。特に何をするでもなく、空を見上げて、私を抱いて。

 

「相変わらずタヌキ君は可愛いな」

 

 そうしていると、不意に声がかかる。テイオーが体をそちらに向けると、私の体も一緒にそちらを向いた。すると、そこに居たのはシンボリルドルフその人であった。浴衣を着て、姿勢よく立っている彼女からは威厳すら感じるほどだ。

 

「カイチョーもそう思うんだ。よかったね、ポン太」

 

 可愛いと思われる事、それは有難いと思う。しかし、ルドルフは私を吸ってだらしない笑顔を浮かべていたこともあるわけで、こう、カッコよいルドルフを見るのが少し違和感がある。

 

「あれ、でもカイチョー。なんでここに?」

「少し話したくなってな、良いか?テイオー」

「ん、いいよ」

 

 彼女らはそう言いながら、近くにあったベンチに座り、ぽつぽつと話を始めていた。私はと言えばその間に座らせられ、2人から撫でられ始めている。まぁ、撫でられて、相手が笑顔になるぶんにはタヌキ冥利に尽きるので、好きなだけ撫でていただいて結構。夜間なので暑さも控えめであるしね。

 

「テイオー、どうだ。菊花賞に向けて調子は上がっているか?」

「ん。もっちろん!タイムも上がっているし、合宿も順調だよー。カイチョーは?」

「私も順調だ。8月に行われるサマードリームトロフィー、負けるわけにはいかないからな」

「そっか。カイチョー、かならず見に行くからね!」

「ありがとうテイオー」

 

 間に挟まっていていいモノか。少し悩んだが、まぁ私はタヌキ。大人しく撫でられていよう。

 

「あ、そうだカイチョー」

「ん?どうした、テイオー」

 

 何かを思い出したようにテイオーは声を上げていた。と思ったら、天真爛漫な笑みではなく、挑むような笑みでルドルフに視線をやっていた。その顔をみたルドルフは、思わず背筋を伸ばしているようだ。

 

「ボク…いや、私は貴女を超えてみせる。だから、それまでドリームトロフィーで走っててよね」

「…は。はは。何を言うかと思えば」

 

 ルドルフも同じような、余裕のある笑みを浮かべていた。しかし、その目は笑っていない。

 

「簡単に私を追い越せるわけがないだろう?まずは、私に並んでから話をしろ。テイオー。まずはクラシック三冠を獲ってみせろ。最後の冠、菊の冠を獲ってみせろ」

「判ったよ。見ててよカイチョー。カイチョー…ううん、貴女に並ぶ、その瞬間を」

「…ああ。見届けるよ。トウカイテイオーが私に並び立つ、その時を」

 

 言いながら、二人は握手を交わしていた。いやしかし、その下で大人しくしている私の場違い感がすごいのだが。まぁ、気にしないでおこう。

 

 そして何であろうか。トウカイテイオーのシンボリルドルフを見る目が、ただの憧れから、ライバルを見る目になった感じがした。

 

 

 ルドルフと別れたトウカイテイオーは、私を抱えたまま旅館への帰路へ就く。静かな闇の中で、誰に語り掛ける訳でもなく、トウカイテイオーはぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。

 

「…三冠は確実、なんて囃し立てられているけど、絶対にそう簡単には行かない。確信を持ってそう言える。だって日本ダービー。ボクはすぐ横に来ていたあの娘のことが忘れられないんだから」

 

 あの娘というのは、おそらく…トウカイテイオーに迫って2着であったリオナタールの事だろう。確かにテレビ越しに見ただけであったが、気迫も実力もテイオーに迫る相手であったと思う。

 

「あの末脚は本物だよ。ボクの全力をもってしても、ぎりぎり勝てたあの娘。正直言うとさ。ダービーは2400だからボクが…いいや、私が勝ったと思ってる」

 

 私はテイオーの言葉の意味は判らない。何せ、菊花賞は3000メートルで、リオナタールもテイオーも走ったことはないはずなのだ。競う前からそんなことを言うなんて、いったい何があったのであろう?

 

「菊花賞じゃあ間違いなく、距離適性は彼女が有利なんだ。私は東京優駿を走り抜けたとき、息が上がってた。でも、彼女はゴールの後に息が全く上がっていなかった。だから、多分、リオナタールの適性は中距離じゃない。長距離だ。だからあの末脚はまだ中途半端にしか使えていない。隣で走ってよく判ったよ。彼女の脚は、長距離で生きてクる脚だって確信をもって言える」

 

 一人語っているテイオーの顔は無表情であった。が、目だけはギラギラと輝いている。

 

「もちろん、他のウマ娘も有力者しかいない。全員意識しなくちゃいけないけれど…」

 

 そう言って私を抱く腕に少しだけ力が入った。

 

「今、私が突き放すべき相手はただ一人。リオナタールだ。たとえ距離適性が私に不利でも、絶対に、前に行かせない。行かせるはずがない」

 

 いつもの少女然としたテイオーは、そこには居なかった。ここにいるのは、真剣に勝負を挑み、勝利を掴み取ろうとする競技者そのものであった。私はその雰囲気に呑まれてしまい、静かに抱かれていることしか出来なかった。そして、もう少しで旅館に到着するという時に、

 

「お…?テイオー。どうした、眠れないのか?」

 

 浴衣姿で涼んでいる沖野氏と出会った。と同時に、テイオーの雰囲気が柔らかくなる。

 

「あ、トレーナー。うん。眠れなくてちょっと散歩。でも、落ち着いたから大丈夫」

「そうか。まぁ、なんだ。菊花賞は厳しい相手ばかりなのは確かだ。だが、テイオー。お前が最有力ウマ娘であることは変わらない。ま、だから今日はしっかり寝て、明日からしっかりと練習を積み重ねよう」

 

 流石沖野氏。テイオーの不安をよくわかっていらっしゃる。テイオーは沖野氏の言葉を聞くと、いつもの爛漫な笑みを浮かべていた。

 

「もちろんだよ。ボクは無敗で三冠を獲って、カイチョーに並ぶ。そして無敗のままカイチョーを超える。そうなるために頑張ってきたんだからね!」

 

 そうやって意気込みを確認し合うテイオーと沖野氏。実に見てて気持ちが良いものだ。テイオー自ら編み上げた竹細工のように、しっかりと努力が結果となり、形を作りますように。そう祈らずには、いられない。

 

 

 負けた。クビ差で負けた。ダービーウマ娘、目指していたのに。誰よりも練習したのに。誰よりもトレーナーを信頼していたのに!

 

 あの、強いトウカイテイオーに負けた。

 

 …クソ、クソ!クソォ!!勝ちたい!次こそは、次こそは勝ちたい!

 

 トウカイテイオー!

 

 この夏の間に、追い抜いてやる!

 

 この夏の間に、誰よりも練習してやる!

 

 この夏の間に、先頭でゴールできる実力をつけてやる!

 

 世間はトウカイテイオーの三冠の色、まさに一色だ。でも、でも!

 

 私はトウカイテイオーより上にいく!菊花の、京都レース場の主役は、この私だ!




Wiki風⑤

リオナタール(欧字名:Leo Natal、■■■■年8月25日生まれ~)は、日本の競走馬、種牡馬。

主な勝ち鞍は菊花賞、有馬記念がある。

トチノオーが凱旋門賞に挑む際、国内レースを休養する形になった。その際に活躍した馬の一頭。その年の菊花賞を獲り、4歳ながら有馬記念を先頭で走り抜けたものの、故障が発覚。種牡馬入りとなった。

有馬記念では昨年度のトチノオーのタイムよりも-0.5秒という好タイムだったため、故障が無ければ翌年、トチノオーの対抗馬になるとも見込まれていた。

なお、過去に存在したメディアミックス作品「ウマ娘」に同名のキャラクターが出ていたことが判明、更に、そのウマ娘にて、リオナタールの参考にされていたと言われている実馬「レオダーバン」に戦績も似ていると噂が立ち、一部界隈で人気が出た馬でもある。
――――――――――
????氏「トチノオーが出ていないから有馬を勝てた馬だ。そう言われるのが一番悔しかったですね。故障さえなければ一度、トチノオーと走らせてやりたかったと、今でも思っています」
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