そうは言われても私、狸なんですよね   作:灯火011

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そいでもって

 考えるだけならばタダである。ということで、トウカイテイオーがケガしない世界なんていうものを考えていたわけであるが、タヌキである私に出来ることは実際のところ何一つ無い。そのような考えに行きついたのだが。

 

 それを差し置いてもトレセン学園には行ってみたい。

 

 トウカイテイオーがいるのならば、おそらくその年代の名馬たちがいるのであろう。マヤノトップガンにナリタブライアン、そうとくれば当然ビワハヤヒデ、ウイニングチケットにナリタタイシンのBNWの存在も忘れてはいけない。

 

『今日もふっかふかねぇ』

『本当ですねぇ。さ、タヌキちゃん。甘栗よ』

 

 存在を忘れてはいけないが、今、私は目下、おばさまがたにグータラ処世術中である。餌を貰い、そしてお腹を見せるのは当たり前として、鳴き声も忘れちゃあいけない。タヌキの鳴き声は結構可愛いのだ。

 

 そして甘栗。実に良いチョイスです。噛めば噛むほどにしみいる栗の甘さ。

 

『おいしそうに食べるわねぇ』

『本当にねぇ』

 

 実際美味しいのだ。美味しいものは美味しく頂かなければ損である。そして体をおばさま方に更に更に摺り寄せることも忘れ無い。処世術である。

 

 

 

 さて、思い立ったが吉日という言葉があるように。トレセン学園を訪れようと思い立ってからしばらく。

 

 私はタヌキながらにお世話になったおばさま方と、警官の方々にお礼を竹で編んでいた。小さいながらの竹のザルだ。

 とはいっても、所詮私はタヌキ。例えば、タヌキがただザルを持ってきたところで「あらーミカンほしいのー?」だの、「あらかわいいわねぇ」と言われるだけであろう。別れの品どころか、それでは本末転倒もいいところである。

 

 ゆえに一つ考えた。

 

 近くの竹やぶからそこそこ古い竹を材料として牙で切り出し、それを交番の前に持ってくる。そしてそれを、皆が見ている前で少しずつ編んで行くという、大道芸を思いついたのだ。作っているところを見せて、完成したら、今までのお礼ということで、おばさま方と警察官の方々に譲渡すれば、ただ完成品を持っていくよりは意味が伝わるであろう。

 

 無論、人が見て騒ぎになることは考えたが、このタヌキの体で出来ることは少ない。それに、竹籠を編めるタヌキとなれば、話題になり、トレセンの門も少しは開かれるのじゃないかという下心もある。

 

 まぁ、逆にどっかの動物園に入れられるかもしれないが、その時はその時。夜逃げしてトレセンに駆けこむまでだ。テイオーとマックイーンならなんとかしてくれると信じている。

 

 ということで今日も少しずつだが竹を編む。口で竹を引き裂いているので、竹の太さや厚さ、長さが一定じゃない。つぎはぎ、なんとかザルを編む。後ろ足で交点を抑え、前足で竹を交互に入れて。本来は囲いを竹を太く割って作りたいところだが、そんな道具も力もないので捻り捻り縁取りの形に。

 

 そんなことをやっていたら一週間が過ぎ、二週間がすぎ。気づけばもう少なくとも一か月はたっている。幸いにしていまだどこかの施設には入っていない。

 

 ただ途中で『見ろよ!このタヌキなんか編んでるぜ』『わぁー!本当!可愛い!ってかこのタヌキ器用ね!?』とか『マーベラス!すごいこのタヌキ!』とか、『うわぁ…本当に編んでるよこのタヌキ。テイオーの言ってたタヌキってこの子だよね…?』とか、『ウマったーにあげちゃお!』だとか色々言ってきたり絡んできたウマ娘や人々がいたお陰か、食べ物に困ることは本当に無くなった。サツマイモと甘栗は実際のところ在庫過多だ。

 更に、せっせせっせと竹を編むうち、評判を聞きつけたのかどこぞのラジオ局だのテレビ局だのが取材に来ていたようであるが、残念ながら私はただのタヌキ。知らぬ存ぜぬただし媚びはする。

 

 そうして忙しない日々を過ごしていたころ、おばさま方に交じって、今日も一人、全く見たことのないウマ娘がやってきた。 

 

『あらぁ…今日も器用に作るわねぇ』

『最初見たときは何をしているのかって思ったけど、上手ねぇ』

「ほー、お前タヌキなのにやるじゃんか」

 

 聞いたことのない声だと思い、竹を編む手を休めて上を見てみれば、そこには今までのウマ娘よりも一つ身長の大きい、白髪のウマ娘が立っていた。しかも、テイオーやマックイーンとは違い、服の上からでも見て取れるぐらいのグラマラスボディ。こりゃまたタイプの違う美人ウマ娘さんだ。

 

「今度私にもそれ、あー、竹細工っていうんか?教えてくれよ、な?な!?」

 

 な!?と言われても返答の手段を持たないので、とりあえず足にすり寄っておこう。冬毛のタヌキだぞ。もっふもふやぞ。

 

「うぉ!?なんだオメー、人懐っこいなー」

『そうなんですよ。この子、すごく人懐っこいんです』

『しかも頭もよくて。竹ザル、私もらっちゃいましたもの』

『私もなんですよー』

 

 そうなのだ。すでにおばさま方にも、警察官の方々にも竹ザルの譲渡は終わっている。一か月で五枚のザル。タヌキになってから新記録だ。

 というわけで、実は旅の準備はこの一か月でほとんど完了している。食料も確保、移動手段もおそらく大丈夫。そして今編んでいる竹細工は、テイオーとマックイーンへのお土産に他ならない。中身は人間なので、どうしてもお土産ぐらいは持っていきたいのだ。

 

 などと考えていたら、美人な大きいウマ娘の手が私に伸び、一気に視界が空中へと浮かんだ。

 

「おお、ふっかふかだ。なぁ、お姉さん方、こいつの名前ってなんかあんの?」

『いえ。みんなタヌキって呼んでますよ』

『最近は竹細工のタヌキって異名がありますけど、私達にとってはタヌキですよ』

 

 そんな異名があったのか、と思う。そして同時に、ウマ娘の顔がドアップで私の視界いっぱいに広がった。

 やはり目を引くのは見事な銀髪であろうか。マックイーンの髪とどことなく似ているそれは、腰の近くまで伸びる見事なもの。まつ毛やまゆ毛も同じ色ですごく艶やかである。目の色は銀色っぽくみえるが、少し赤みがかっている。ここから見えるウマの耳も、先ほどちらりと見えた尻尾も、見事な毛並み。

 

 そしてなにより「たわわ」である。

 

 畜生道に落ちたからといっても、当方、前世は男だったもので、どうしても意識が行く。テイオーと違い実にたわわ。ありがとうございます。と意味を込めて、鼻を顔にこすりつける。実はこれ、なかなかもふもふで評判がいい。

 

「うおっ!?くすぐってーなー。っていうか、本当に人懐っこいなこいつ」

『でしょう?あ、アナタも餌やってみる?』

「お?初対面の人がやっても食べるのか?」

『ええ!ほら、ミカン。口までもっていってみて』

「サンキュー。ほら、タヌキ。ミカンだぞー」

 

 美人さんに抱きかかえられたままで餌をもらえるとは恐悦至極。

 

「おお、食べた食べた。こいつぁ可愛いな!」

 

 途端に笑顔になるウマ娘。いやいや、貴女の笑顔も素敵です。と意味を込めて今度は頭をほっぺにすりすり。更にもふもふ攻めだ。

 

「くすぐってーなー!ははは!」

 

 満足いただけているようで、もふもふタヌキとしては、冥利に尽きます。

 

 

 そして数日後、ついにというか私はトレセン学園に足を向けようと、決意を固めた。頂いた食料は失礼のないようにしっかり食べ、保存食糧は竹籠へ。頂いた毛布はしっかりとたたみ、更に失礼のないようにゴミなどはしっかりと片付ける。

 

 その姿に何かを感じたのか、おばさま方や警察官の方々は。

 

「そうかー、そろそろどこか行くのか?まぁ、元気でやれよ」

「お前がいたから貰えたマックイーンのサイン、大切にするわ。元気でな」

「あらタヌキちゃん!片付けちゃって…またここにおいで?いつでもおばちゃんたちは待ってるからね!」

「そうよー! お風呂に入りたくなったらいつでも来なさい!」

 

 そう私に声をかけてくれた。有難さが身に染みる。何せ私はただのタヌキだ。この命、何かがあれば明日消えるぐらいの儚いもの。そんな自分に良くしてくれたアナタ方の事は一生忘れはしまい。

 

 出発は深夜3時すぎ。残念ながら、竹細工を編むタヌキ、としてある程度有名になってしまったため、昼間は囲まれてどうにもできない。つまり、下手に電車は使えなくなってしまった。始発で府中へ!作戦失敗だ。

 となれば、ここ高尾駅から徒歩で府中まで行くしかない。実は道順は簡単で、駅前の道を少し進めば【甲州街道】へと出る。記憶が正しければ、甲州街道を新宿に歩いて行けば、東京競馬場のすぐ脇にでることが出来る。そして、東京競馬場の近くにトレセン学園があった…というアプリの設定であったはずなので、おおよそ20キロから30キロ移動すればたどり着けるはずだ。

 

 タヌキの移動速度は正直私自身にも判らない。しかし、高尾の山奥から高尾駅までのんびりと歩いていたら、たどり着くことが出来た。それならば、道が分かっている府中までなら容易であろう。

 

 籠を口にくわえ、忘れ物が無いかを確認し…おっといけない、一つ忘れ物をしていた。本日の当直の方に一応のあいさつをしていこう。

 

 コンコン、とドアを前足で叩くと、間髪を容れずに、警官の方が表に出てきた。

 

「お、どうした?」

 

 そういう警官に対して、私は足へと体を擦り付ける。

 

「お?お?なんだ、タヌキ。またやたらとなつっこいな」

 

 そうして次の瞬間には、さっと体を離して、道路の近くまで歩みを進めた。私なりの別れの挨拶だ。

 

「…あぁ、そうか、今日でお前、どっか行くんだな」

 

 一鳴きする。

 

「竹ザル、ありがとうな。大切にする」

 

 もう一度、鳴く。

 

「みんなには言っておくから。達者でな」

 

 有難い。達者で、と意味を込めて2度鳴いた。

 

 そして、私は少しだけ背中が引っ張られる思いをしながら、約数か月お世話になった我が理想の住処を、後にしたのだ。

 




トレセン学園内で発売されている某雑誌の小さな某コラムより


★今週のおすすめトレーニングコース★

 甲州街道(国道20号)を抜けて高尾山へのルート。距離は往復で100キロ程度のコースだが、ウマ娘レーンが完全に整備されているため、初心者にもおすすめ。
 体力面を見て平地だけのトレーニングに切り替える、強度が欲しい時は山を往復するなど多方面のニーズにもこたえられるコースとなっている。 
 休日は人間の観光客が高尾山に上っているので、速度の出しすぎ注意。

 なお、途中高尾駅近辺では、一度、町田街道を曲がり、裏道を通って駅前に出ることをお勧めする。一匹の人懐っこいタヌキが交番に住み着いているとの噂。
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