そうは言われても私、狸なんですよね   作:灯火011

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黄金船とKing of cool

 目まぐるしい勢いで街中の景色が流れていく。八王子の街中はあっというまに通り過ぎ、日野ののどかな街並みを超え、多摩川を渡って国立へ。

 ウマ娘にしっかりと抱えられているとはいえ、なかなかの恐怖感がある。恐らく時速は五〇キロは出ているであろう。ウマ娘が転んだり、私が落ちたりしたらひとたまりもない。ということで、しっかりと四つ足でウマ娘の服をつかんでおく。

 

「お?なんだオメー怖いのか?このゴルシちゃんが落とすわけねーだろう?」

 

 なんていい笑顔で言ってくるもので、一瞬あっけには取られたものの、やはり怖いものは怖い。それを察してか、左腕の力を少し強めてくれた。

 

「ま、そう言ってもタヌキだもんなオメー」

 

 その通りです。と思いつつ顔も肩に引っ付けて、絶対に落ちない覚悟を持った。なんてことをやっていたら、視界に『府中』の二文字の青看板が映る。と、同時に地面には府中市街なんていう文字も出てきていた。

 

「ちょっとここからジェットコースターだ!」

 

 そう言うとウマ娘は迷うことなく、府中市街の方へと駆けていく。その先の道も細やかに曲がっていくウマ娘の姿から、もしや?トレセンに近い?と私の疑問が、「日本トレーニングセンターまで残り1キロ」という看板を見て確信に変わる頃、ウマ娘は何かを見つけたのか、急に方向転換をして別方向に駆けていった。

 

「ハッロー!マックイーン」

 

 そして、信号で止まっている黒塗りの車の窓を叩いたかと思えば、そんな言葉を大声で叫んでいた。そして、叫ばれた方の車の後部座席の窓が開き。

 

「なっ…!?朝から非常識な!?どなたで………あぁ、ゴールドシップさん。ごきげんよう」

 

 驚くことに、メジロマックイーンがその黒塗りの車の後部座席に座っていたのだ。

 

「オハロー!メジロマックイーンに狸のおっ届け物でーす!」

 

 そう元気よく叫ぶウマ娘を横目に、私はずいっとその黒塗りの車の中に叩きこまれた。ついでに頂いていた果実類もだ。

 

「は!?え!?ちょっ!?タヌキ?なんでタヌキですの!?」

「あれー?マックイーン。高尾のタヌキに会いたいですわ~。なんて言ってたじゃん」

「確かに言いましたが!…え?まさかこのタヌキ、高尾のタヌキですの?」

「そうだぜ?竹籠持ってんだろ?」

 

 私の事は高尾のタヌキで通じるらしい。そういえば、TVだか新聞だかの取材をうけたような気がする。それにしても、メジロマックイーンがこんな高級車に乗っているとは思わなかった。ウマ娘のマックイーンは、まさにお嬢様なのだろうか?しかもただの車じゃない。運転手付き。その運転手もただの運転手というわけでもなく、後ろから見る姿はやり手の執事という感じだ。

 

「…確かにあの時、タヌキと一緒に置いてあった籠ですわね。もしかしてゴールドシップさん、まさか高尾から無理やり連れてきたんじゃ!?」

「んなことしねーよ。八王子の近くの浅川でトレジャーハントした帰りに見つけたんだ。人に囲まれてたから救出したまでよ」

「…はぁ。まぁ、そういうことにしておきます。あぁ、それにしても」

 

 しかしこれは状況が全く読めない。なぜ私はここに連れてこられたのだろうか?呆然とマックイーンの顔とゴールドシップと呼ばれたウマ娘の顔を交互に見るだけだ。

 

「相変わらず可愛いですわね、あなた」

 

 マックイーンはそういうと、私を両手で持ち上げ、抱えた。

 

「あら?以前よりも毛並みが悪いような…?」

 

 確かにここ最近手入れをさぼっていたのと、少し街中を歩いていたから、毛並みはちょっと悪くなっている自覚はある。

 

「あー、そうそう、そいつで頼みがあったんだよ」

「頼み、ですの?」

 

 マックイーンは首を傾げていた。私も首を傾げる。この話の中で何を頼むのであろうか?

 

「タヌキってイヌ科だろ?貰った果物んなかにブドウがあったんだよ。こいつが食べちゃダメなはずなんだ」

「そうなんですの?」

「ああ。それに高尾から移動してきて八王子にいたってことは、他にも何か食ってる可能性もあるからな。だから、いい獣医に連れて行ってほしいなって。マックイーンなら出来るだろ?」

 

 え?ブドウって食べちゃダメだったのか。というかタヌキってイヌの仲間だったのか。全く知らなかった。言われてみれば耳とか口元はイヌのようである。そして、マックイーンの様子をちらりと見ると、少し真面目な表情を浮かべていた。

 

「なるほど。そういうことならお安い御用です。じいや」

「はい。お嬢様を学園にお連れした後、しっかりと獣医に連れて参ります。…たしかに、毛並みも少々、悪いようですな」

「ええ。私もそう思います」

 

 ゑ??

 

「では、トリミングのプロフェッショナルの元にお連れ致しましょう。数日、お時間を頂くと思いますが」

「かまいません。じいや。私はここからゴールドシップと一緒に登校します。よしなに」

 

 そういうとマックイーンは、私を席に置いて、さっと車から降りて行ってしまった。ゑ?つまりこれは、獣医に連れていかれるということでいいわけであろうか?

 

「お気をつけていってらっしゃいませ」

 

 その言葉を最後に、ドアが閉まる。さて、車に残ったのは私とやりてのじいやさん。

 

「ではタヌキ様。腕の良い獣医と、腕の良いトリマーの元へお連れ致します」

 

 呆然とする私を尻目に、車が無情にも発進する。窓の向こうにはマックイーンとゴールドシップが仲良く歩いていた。…ん?ゴールドシップ?ゴールドシップ??ゴールドシップ???どこかで聞いたような…。

 

 あ、そうか、宝塚!

 

 そうかー。あの破天荒なお馬さんがウマ娘になるとああいう感じになるわけだ。確かに初対面で訳の分からないタヌキを抱きかかえる訳だ。しかも二度目の邂逅の時には、なぜかいい笑顔で写真を撮られていた。あれも、ファンサービスが凄く多かった元の馬を思えば、納得がいく。

 しかもあの美貌。白い毛に長身でグラマラス。確かに、確かにゴールドシップだ。

 

 そう考えを深めつつ外を見れば、どうやら府中の街中から離れていく様子。あぁ、無常。

 

 

 ゴールドシップにメジロマックイーンの元に連れていかれ、さらにマックイーンのじいやに預けられて、それから一週間。

 

 正直この一週間は目まぐるしかった。血液検査やら、レントゲンやら、触診やらを受け、更に数日間、その病院で経過観察をされ、食中毒もないということで、退院。

 その際に正しく食べてはいけないものの知識を入れた。犬というのは、チョコがだめ、たまねぎやネギもだめ、ニラやニンニクもだめ。らっきょうもだめ。ブドウやレーズンもだめ、アボカド、マカダミアナッツもだめ。と来たもので、他にも結構食べ物に制限があったことに驚きだ。

 ということは、道中ウマ娘さんに頂いた肉まんも本来はダメだったということか。あれ、玉ねぎとかニンニクが入っているしなぁ。いやしかし、人間と違う身体で、こんな弊害があるとは思わなかった。

 

 だが、あのウマ娘さんに伝えたい。ダメだと判った今でも、あの優しさは忘れません。肉まんの暖かさと、あの優しさは何事にも代えられんのです。

 

 そしてその食べ物に関する衝撃の真実を知った今現在。メジロ家お墨付きの有名な犬のトリマーさんに体を洗ってもらっている。

 

『はーいいい子ですねー。次はお腹洗いますねー』

 

 おお、そこは実に良い所です。ああ、肌まで洗われる感じが心地よい。おばちゃんのシャンプーも、こんなに心地よいものがあるのかと思ったものだが、やはりプロはプロ。餅は餅屋というところで、実に夢見心地だ。

 

『本当にタヌキちゃん大人しいねー。はーい、次は頭洗うからねー』

 

 頭ですね。さっと差し出し、目を瞑る。

 

『おおっ?まさか自分から頭を預けて来るなんて。君、頭いいねー』

 

 それほどでも。というかトリマーさんのシャンプーが気持ちいい。いつまでもうけていたいと思うほどだ。しかしながら、幸福な時間は終わりを告げる。

 

『はーい、シャンプーも終わり、しっかり乾かすからねー』

 

 ドライヤーの時間だ。まぁ、別に嫌いではないが、マッサージなどで言うところの最後に行う肩たたきのような感じであろうか。温風で全身を乾かされながら、首や体を振って、自らも水気を飛ばす。

 

『はーい乾いた。じゃあ最後に…』

 

 乾燥が終わったと思ったら、鋏を取り出して来た。シャリシャリという音とともに、私のふっさふっさの毛が切り取られていく。むう、自慢のもふもふが…。

 

『うーん、やっぱり毛玉も多いかぁ。野生だったんだから仕方ないだろうけど』

 

 何?毛玉が多い?という意味を込めてトリマーさんへと顔を向ける。

 

『でも安心してねー。しっかりと手入れをして、ふっかふかにしてあげるから!』

 

 ぜひよろしく頼みます。という意味を込めて、一鳴きだけしておいた。

 

 そして結局、病院とトリマーの元から解放されたのは、預けられてから二週間がたったころであった。

 最後にトリマーの元を離れる際に、自分の体を一度だけ鏡で見たが、改めて、自分がタヌキであると再認識するに至った。目元が黒く、しかしこめかみは茶色、毛のせいか少しずんぐりむっくりで、足は黒い毛が生えている。しっぽの先も黒く、どこからどう見てもタヌキである。

 更に、トリマーさんに思い切り手入れをされたせいか、もふもふが更にもふもふと化していた。

 

 いや、ここまでもふもふにお手入れしていたただくと、なんというか気が引ける。

 

 こちらはただの野生のタヌキなのだ。確かに、少しTVなどで紹介されたのかもしれないが、それでもマックイーンのお世話になるなんて、なかなかどうしてあり得ないことだと私は思う。

 

 思うことは思うのだが、結局じいやの元から解放された後に連れてこられたのは、マックイーンの家、しかもその自室であった。時間にして夜であったが、じいやに連れてこられた私を見るや否や瞳を輝かせて、マックイーンは思い切りタヌキである私に抱き着いてきた。

 

「わぁ!じいや!ふかふかですわ!」

 

 そういったマックイーンの顔は幸せそうである。もちろん、ありがとうという意味を込めて、頭をマックイーンのほっぺに摺り寄せることを忘れない。

 

「お嬢様、それで、そのタヌキはいかがいたしましょうか」

「そうですわね。本来であればわたくしのペットにしたいところなのですが…」

 

 ゑ?マックイーンのペット?そうなれば、食と住は完璧なのでぜひお願いしたい。しかもマックイーンであればきっと、トウカイテイオーとも会えるであろう。

 菊花賞を走るトウカイテイオーという私の夢に、一歩近づけるかもしれない。

 

「連れてきたのはゴールドシップさんですし、高尾のタヌキとなれば、一番最初に見つけたのはトウカイテイオーです。ですので、チームのペットとして飼えるかどうか、トレーナーに相談してみるつもりです」

 

 おお!なるほど、そう来たか。確かアプリの設定だと、トレーナーの元に集まって練習をするという話だったはずだ。だがしかし、そうなるとマックイーンとトウカイテイオーのつながりは薄いような気がする。

 

「なるほど。お嬢様の所属するチーム『()()()』のペット、ですか」

「ええ。テイオーもおりますし、ゴールドシップさんもいますから、みんなで世話をすれば問題ないかと」

 

 あれ?そうだっけ?記憶の遠くにあるアプリの情報では、確かトウカイテイオーはライバルでこそあったけれど、確か違うチームだったような?まぁ、いかんせん遠い記憶なので、気にしないことにしよう。それに、なんにせよ今はトウカイテイオーと同じチームにマックイーンは所属しているわけだ。それなら何も問題はない。

 

「そうでしたか。では、明日のご武運をお祈りしております。それでは失礼いたします。お嬢様」

「ええ、おやすみなさい。じいや」

 

 そう言って執事のじいやはマックイーンの部屋を後にした。残ったのは、マックイーンとマックイーンに抱きかかえられているタヌキこと私だけである。別に逃げ出そうという気もないので、だらーんと四肢を投げ出している。特にやることもないので、周りを見渡してみれば、比較的シンプルな部屋であろうということが見て取れた。

 ベッドのふとんの色は白と緑色のツートンカラー。…もしかしてこれは、メジロマックイーンのお馬さんの主戦騎手の服の色だったりするのだろうか?魂を受け継いでいる影響なのだろうか?しかし質のよいふかふかした布団であることが見て取れる。

 

「さぁ。一緒に寝ますわよ」

 

 一向にかまいません。ここまで良くしていただいたなら全力でお付き合いいたしましょう!そして、マックイーンは私を抱えたまま、布団にダイブ。

 

「…あぁー!ふかふか!ふっかふかですわー!最高っにかわいいですわー!」

 

 ぎゅっと抱きしめられたままなので、特に出来ることは無い。無いのだが、少しだけ動かせる首をひねって、鼻でマックイーンのおでこを撫でておこう。

 

「あはっ、まったくもう。本当に人懐っこいんですから」

 

 そういうとマックイーンは、私を抱きかかえていた腕をほどき、そして仰向けになった。次の瞬間、今度はお腹をもたれて、マックイーンに掲げられた。つまり、高い高いの格好である。

 

「…高尾のタヌキ、だなんて堅苦しいですわよね」

 

 そうは言われても私、名無しのタヌキですのでよくわかりません。

 

「タヌ吉…そう、タヌ吉とお呼びしますわ」

 

 …タヌ!?

 

「ああ、タヌ吉。なんて可愛いタヌキなんですのー!」

 

 再びマックイーンの胸に抱かれる私ことタヌキ。いやまぁ、可愛さともふもふさを楽しんでいただけているのなら何よりです。と、思いながらもしっかりと頭を摺り寄せることは忘れない。その間にも、タヌ吉、タヌ吉と嬉しそうに呟いていたので、改めてメジロマックイーンの顔を見てみれば、満面の笑みを浮かべていた。こちらとしても、そのような顔を美少女にしていただけているのであれば、タヌキ冥利に尽きるというものだ。




一方その頃

「えっ!?タヌキさんに肉まんってあげちゃいけないの!?」
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