流行に乗るのも悪くは無いね。
俺の人生が可笑しな挙動をし始めたのは多分この時からなのだろうと思う。
だけど、その時の俺は其れ処では無かったし、そもそも未来を予知出来なかったから対処も出来なかった。
話すのなら、あの一通の手紙が俺の捧げて来た青春を奪った所から行こうか。
『...これらの行為により、××××様(俺の名前)に以下の処罰を命じます。
レース場への立ち入り、ウイニングライブ等のイベントへの参加の禁止。
名簿に登録されている現役、育成中のウマ娘及びトレーナー、各URA関連の関係者などへの接触禁止。
以上の項目を基本的に今後十年間(場合により変動)厳守して下さい。』
これがさっき言ってたあの長ったらしくて小難しい書類の肝心な部分だ。
もっと分かりやすくいうと『10年間ウマ娘に関わるな』って事だ。
最初コイツがURAから届いた時は頭の中に?しか浮かばなかったが今だったら分かる。あの時俺がやっていたのは所謂、迷惑ファンの所業だった。
それについて言い訳を言わせて貰うと、俺は元々親の職業の影響で物心つく前からウマ娘について触れる事が多かった。
そしてそんな場所で育った俺は見事、熱狂的なウマ娘のファンになった。
それはよくある話だ。だがここからが肝心。
そんな同年代の同類にもドン引きされる程のウマ娘好きだった俺に与えられていた環境は、あり得ない程に恵まれていた。
何てったって俺の育った街は日本のスターウマ娘がわんさか居るあの『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』(故郷がモロバレしてるのは内緒)だったんだからな。
こうして俺はイカロスの翼の伝承の様に光り輝く太陽というタブーに近づき海に落ちて死ぬ(出禁になる)運命を受けた訳だ。
そんな自業自得の言葉が似合う男になったのが18歳の春。桜が俺を嘲ける様に咲いた高校三年生の時だ。
これを見た親の反応は怒ったり泣くとかというよくあるリアクションでは無く「やっぱりか」とか「それ見ろ」とでも言いそうな呆れた顔をしていた。つーかそう言われた
「お前...まさかとは思っていたが、やっぱり一線を踏み越えたか」
親父、オメー息子が犯罪者予備軍になり掛けたらそれを止めるのがアンタの仕事だろ。
URAのブラックリスト入りによって半ば強制的に現実に戻された俺は、それによるショックにより少しの間気力が抜けた生活を送っていた。
そんな最中の夏。俺の未来は親の家業を継ぐ事が確定しているらしいので、同級生の輩が頑張って職探しやら勉強やらに精を出しているのに関わらず俺は学生生活最後の夏としてウマ娘以外の思い出作りを一人で作ろうと思っていた。
去年までならトレセン学園が主催している夏合宿にこっそり尾行して彼女達のあられもないスク水姿を拝んでいたのだが、今年からはそれが出来ないので仕方なく市民プールに浸かりに行った。
くそう、同年代のそれも唯の人間の肌なんて見ても何も感じねぇよ。
一般市民のホモサピエンス共の汚い水着姿を見て何だかこれじゃない感が溢れて来たので早めに切り上げた。
てか、一人で思い出作るのはハードルが高過ぎるしなんか虚しいからやめよう。
そう心に誓って、俺は府中市のとある喫茶店へ向かう。
ちょっとくすんだ茶色の壁が昔ながらの雰囲気を醸し出している。
ドアを開けるとカランカランとベルの音が鳴る所もポイントだ。
「おっ、早い帰りじゃねぇの。まさかプールやってなかったのか?」
「いや、やってたけどやめた。やっぱり人間の水着姿は俺の目には合わなかったよ」
店内に入ると誰よりも早く俺を出迎えたのは額縁に飾ってある、時代を飾ったの名レースの記事、記事、記事。
それをいつもの様に眺めながら俺はバーカウンターの奥に座った中年の男にそう答える。
「おいおい、そんな事言ってたらいつになっても孫のツラが拝めねぇっての」
「うるせぇ、出来たとしてもアンタには見せるかっての」
そう冗談めいてバーテンダー、いや俺の親父に言ってやる。
何を隠そう俺はこの『ウマ娘喫茶良バ場』の跡取り息子なんだからな。
ウマ娘喫茶とは所謂ウマ娘ファンのウマ娘ファンによるウマ娘ファンの為の店だ。
此処では多くのウマ娘好きが昼間からウマ娘愛を語り合っているウマ娘ファンの楽園...だったのが先代のお祖父ちゃんが現役だった時代。
今では高齢化した常連の老ぼれ共がコーヒー一杯で朝から晩まで孤独を紛らわす老人会の会場みたいになっている。
そのせいで新しいお客さんは来ず、利益がいつもギリギリで黒字と赤字を交互に点滅させている状況。
本当に良い迷惑だよ。
「まぁいいや、いつものお願い」
「分かった。小遣いからの天引きでいいな?」
そう言って出されたのは鮮やかな濃いオレンジの液体。
これぞ、良バ場名物120%にんじんジュース。
これを一気にグイッと呷る。
「あ"ぁ〜、美味い!もう一杯」
「ほれほれ、どーせ飲む奴が居ねぇんだからじゃんじゃん飲め飲め」
子供の時からずっと好きなんだよなぁこのジュース。いつ飲んでも飽きない。
カランカラン、そんな事をやっているとドアが再び開く。
そこにいたのは常連客の中でも最年少のおじさん。確か名前は浜野さんだっけ?
「おっ、浜野さんいらっしゃい。今日はいつもより早いねぇ、盆休みかい?」
いつもの様に親父が浜野さんに声を掛けたが、今日の彼は違った。
浜野さんはそのまま親父がいる場所の正面に立ちそのまま勢いよくバーカウンターに平手を置いて頭を下げて言った。
「頼むマスター。僕の娘をレースに出してくれ!」
は?
話を要約するとこうだ。
浜野さんの娘さん(8歳)はウマ娘のレース中継を見て自分も走りたいと言ったそうな。
だが子供の気は変わりやすい事を浜野さんも子の父親だから知っていた。だからこう言った。
「次の算数のテストで100点を取ったらレースに出してあげよう」
そして数日後、娘さんは約束通り算数のテストで見事満点を取ってやってきた。
そして、浜野さんは大層驚いた。実は娘さんの一番苦手な教科は算数だったからだ。
そして、此処まで努力して苦手な事をやって見せた娘に感化されそれ相応の事をやってやろうと浜野さんも漢を見せようとした。
それで、やるからには娘のコーチを誰かに頼もうと思ったが、知り合いにはパッとしない奴らしか居なかった。だからこっちにお鉢が回って来たらしい。
こっちから見たらどうでもいい話だが、浜野さん側から見たら藁にも縋る程の最後の希望が俺の親父だそうだ。
だが、親父はレースを見るのは好きだ。だが実際にコーチをやろうとは思ってはいなかったので、
「おい、我が息子よ。お前昔ウマ娘のコーチを目指して無かったか?」
「い、イッタイナンノハナシヲシテイルノカナ?」
「社会勉強だと思ってやったら如何だ?」
「やだよ!昔は血迷ってそんな事言ってたがURAの連中の通達を見て正気に戻ったんだ。
もう俺はウマ娘なんかに関わりたく無い」
「五月蝿い!やれと言ったらつべこべ言わずにやるんだよ!漢を見せろこの野郎」
「ヤメロ、その手を離せ馬鹿!これはおふざけでは済まされない話なんだぞオイ!」
ぎゃーぎゃー。必死に俺に荷を乗せようとする親父とやりたく無い俺の擦り付け合い。
どっちも面倒ごとには巻き込まれたく無いから当然だね。
「マスター達もコーチ、やってくれないのか...」
「「え?ちょっと待って」」
浜野さんが二人の醜い争いを見て絶望、そのまま自殺しそうなテンションで店を出そうになったので全力で止める。
「わ、悪い浜野さん。これはギャグ、そうギャグなんだ。ダ○ョウ倶楽部みたいな、ね」
「そうそう、俺はむしろ大歓迎だ。俺の手に掛かればどんな落ちこぼれだってあの伝説のウマ娘を超える存在にチョチョイのチョイよ」
「そ、そんな...ありがとう××君!君に任せて良いんだね?!」
はぁ、これで浜野さんも魔女化せずに済むよ...
ってあれ、俺今かなりヤバい事言わなかった?
「そうコイツも言ってるので大丈夫ですよ浜野さん。俺もこんな自慢の息子を持って嬉しいです」
「そんじゃそゆ事何でヨロシク。頑張ってね⭐︎」
何が『頑張ってね⭐︎』だバカヤロー!
ふざけんじゃねぇよ!何でこんな事を俺がしなきゃいけねぇんだよぉ!
まぁ、まずは書き溜め分だけ投稿して、反響と私の気まぐれでやって行きます。余り期待すると損するかもです。