追記 サブタイトル変えました『解散』→『解雇』
あのクソやろ...親父のワガママとその場のノリで見事、常連の浜野さんの娘さんをコーチする羽目になった俺。
今日はあの話の続きをするってゆうか、今日から練習をするらしい。
ハッキリ言って早すぎると思うのは俺だけか?
まずは選手との顔合わせとか打ち合わせした後からやるのが普通だと思うのだが、アイツらは初日初対面で彼女の特性も何も分かって居ない状態の俺にぶっつけ本番のコーチングをしろというのだ。
もしかしたら一流の本物トレーナーだったらそれでもいけたかも知れない。
だが俺は唯の一般市民で元過激派ウマ娘ファン。
一応スター選手のトレーニングメニューは網羅し尽くしてはいるが、あのメニューはトレーナーが作った選手のスペックとこれまでのデータがソースのその選手専用のワンオフメニューな訳だ。
故に手元のコイツはアテにならない。
だがそれはこれからちょっと長い付き合い(?)になるであろう少女と二人三脚で作っていけば良い。
だから今回の練習はガッツリ行く訳ではなく、今から来るだろう小学二年生の特徴を測ってやらないといけないって事だ。
「まずはこの年齢での短距離、マイル、中距離、長距離を走って貰うか」
そう今回俺がやるべき事を声に出して転がしていると、俺が居る小学校のグラウンドに三人の人影が見えた。
二人は知っている。俺を面倒事に巻き込んだ悪魔共、もとい親父&浜野(父)のコンビだ。
そして、
「やった♪やった♪レースのれんしゅ」
呑気に鼻歌を歌っている年相応の栗毛の少女が一人。
「やぁ、おはよう。××君。今日から娘を宜しくお願いするよ」
「おお、逃げずに此処で待っているとは、覚悟を決めたな」
「爽やかに挨拶しても無駄だ。オメーらのやった事は一生忘れねぇからな...」
何が覚悟だ。今俺が背負っているのは憎悪と憤怒だっつーの。
まぁいい。この話は後でするとして、まずばあの少女からだ。
「こんにちは。今日から君の担当になったアマチュアトレーナーの××だ、宜しくね。そう言えばお嬢ちゃんのお名前聞いていなかったね。お兄さんに教えてもらってもいいかな」(イケメンスマイル)
「.....うぅ...」
あれ、おかしいな。人と接する時は笑顔で自己紹介じゃなかったっけ?それにさっきの笑顔は何処に行った?
兎に角、目の前の少女は緊張でもしているのか『うぅ』とか『あぅ』と、うめく事しか出来ていない。
「ほらまつり、あの"おじさん“に挨拶してあげて。これからまつりを見てくれトレーナーさんだからね」
あ“?誰がおじさんだって⁉︎もう一回言ってみろ、永遠に愛娘と会えなくしてやる。
そうこうしていると浜野の腐れ父親が助けて船を出してくれていた。
「えぇと...浜野祭理です...宜しくお願いします」
「よーしまつり、いい子だぞう。言ってないのに『宜しく』何て言えちゃうとは流石僕の娘だ!」
おい、待ってくれ。コイツ重度のバカ親だ!
娘が一般的な社交儀礼しただけで最大評価しちゃうとか結構ヒドイレベルの。
それに祭理って名前の子も照れてそのまま浜野(父)の後ろにまわっちゃうし。
「えっと、よし祭理ちゃん。俺は君のレースの大会を目指す事に協力したいんだ。だから、まず祭理ちゃんの強さを測りたい。協力してくれるかな?」
娘コンプレックス全開の親父の事にいちいち突っかかってたら日が暮れるので、大人の足越しにしゃがんで本題の彼女に問い掛ける。
人見知りの子供と面と向かって会話するのは逆効果だと思ったので、耳だけは此方に傾けてくれていると信じて会話を試みる。どうだ?
「...うん、やってみる」
父親の足から顔を覗かせた少女はコクっとうなづいた。
タッ、タッ、タッ、タッ、タッ。軽快な足音が俺に近づき遠ざかる。
音を出している正体は200mのグラウンドをぐるぐる周っている一人の少女。
「よし、あと二周、頑張って祭理ちゃん!」
「はっ、はい!」
いや、走ってる途中だから答えなくても良いんだけど...まぁ元気があるのはいい事だよな。
あと、受け答え出来るその体力を走りに使ってくれると俺は嬉しい。
あの後祭理ちゃんは俺の指示を素直に受けてくれて、さっきの緊張が無かったように張り切ってグラウンドを走ってくれた。
彼女が走ると当然ながら右往左往する尻尾、上下する体、そして真っ直ぐ前を見ている真剣な眼差しが見える。
それを見て俺は昔、高性能双眼鏡を使って眺めたトレセン学園のウマ娘に共通している事に気づいた。
ウマ娘というのはどんな個性、性格を持っていても、結局『走る』という動作に情熱を感じている生き物だと、そう実感する。
レースという晴れ舞台に立った彼女達全てに感じれたあの何とも言えないキラキラしたオーラは、目の前の少女にも例外なく纏われていた。
「はぁっ、はぁっ、××さんどうだった?わたしの走り、すごかったでしょ!」
ラスト二周を走り切り、此方に祭理ちゃんが駆け寄って来る。その顔はうっすらと汗が流れた良い笑顔だ。
これからどんなキツイ事があったとしても、彼女のこの笑顔は消える事が無いだろうか?
ふと、そんな事が頭に浮かぶ。
「うん、良い走りだったよ。この走りを伸ばせば、レースでも一着を取れるかも」
「え⁉︎一着が取れちゃうの!うれしー、やったー!」
さっきより彼女の笑顔が一層輝かしくなった。
こんな物を見せられたら、俺だって自然に何だか嬉しくなって来る。
「そうだぞ祭理ちゃん。これから俺ともっと練習してもっと強くなって、優勝を目指そうか。頑張るぞー、応!」
「うん、まつりがんばる!ってキャッ、」
感情の高まりが抑えきれなくなって思わず祭理ちゃんを持ち上げる。
思ったより、この歳の女の子って軽いんだなぁ...
「あはははは、そーれっ」
「/////...」
彼女は一瞬驚いて固まったが満更でもない顔を見せてくれた。
あら可愛い。自分にも子供が出来たらこんな可愛さを持つのだろうか。
そう変な事を思った矢先、
「オイィィィィ!僕の娘に何やってんだオラァ!」
あ、やべ。父親がいる事を忘れてた。
親父と話し会っていた浜野(父)が凄い形相でこっちにやって来て俺の手から祭理ちゃんを引き離し、宝物に触れるように彼女の安否を確認すると
「大丈夫だったか!祭理。あぁ、僕の判断が悪かった。まさかトレーナーがあんなロリコン野郎だと気付けない何て俺は父親失格だよ。嫌な思いをしたよね。さぁ、帰ろうか」
そう言って、帰るように祭理ちゃんを促した後。
「この野郎!俺の大事な娘に手ェ出しやがって、ゆ“る“さ“ん“!やっぱりお前のURAのブラックリストの噂は本当だったんだな。てか、俺はあの店のマスターに用があったんだ。息子のお前には一つも頼もうとは思わなかったのに、なんでこんな事になったんだ。ふざけんな!」
手のひらくるりんぱで俺を罵倒し始めやがった。何かイラつく。
だけど、何で俺が此処で彼女にコーチをしなきゃいけないのかは俺も疑問だが、それ以外は俺の失態だ。
結局俺は昔と何も変わってはいなかったらしい。
手を出した子の年齢が下がっただけでやっていた事は過激で最低で品が無い。
ははっ、次はどんな罰を背負うんだろう。
罰金かな?それとも豚箱行きか?
まぁ、どっちでも良いよ。どっち道俺は女児にセクハラかました犯罪者のレッテルを一生背負うのは同じだしな。
そんな俺が全てを諦めかけていた時、誰もがあの子があんな事を言い出す何て思いもよらなかった。
「お父さん、私がだっこしてって言ったの」
「ああ分かった、祭理。祭理も辛かったよな。ってヘァ⁉︎」
「だからトレーナーさんはわるくないよ」
「祭理、何を言って...」
「トレーナーさんは悪く無いよ?」
「ヒェッ」
何か分からんが祭理ちゃんが俺を庇ってくれた。
何故だろう。俺は彼女を傷つけたんじゃ無かったのか?
「あと、お父さん。もうこれから練習には来ないで」
「な、何故だ祭理!アイツは君をたった今いやらしい手で触ったじゃあないか。もし、トレーニングを続けるなら僕は君の親としてあの汚い馬の骨を監視する必要が、」
「誰が汚い馬の骨なの?」
「誰がって、あの変態アマトレーナーのことぉ...」
「私は私のお父さんを悪く思いたく無いんだけどなぁ?」
この一言がトドメになったのか、これ以上あのヒステリック野郎は俺についての悪口を言わなくなった。
そして祭理ちゃんは何事も無かった様に俺に笑顔を向けてくれて、
「つぎの練習たのしみにしているからねトレーナーさん。また会おうね」
と一言言ってグラウンドを去って行った。
「女ってのはどんな歳してても怖いもんだな。実感したよ。呆けてないで俺たちもさっさと行くぞ」
「ッ、ああ分かったよ。俺達も帰ろうか」
彼女が何であの時こんな行動をしたのかは分からない。
多分彼女が俺に運命的なナニかを感じたとかの気まぐれなのだろう。
そして、この時の俺の行動が全ての始まりだとは今も思いたく無い。
この後、彼女の父親を見た者は居ないという...