URAのブラックリスト入りをした俺がひょんな事からJSウマ娘のトレーナーになっちまったのが去年の夏だったのが遠い昔の様に思えてしまう。そんな年明からちょっとした時期。
世間の奴らはそろそろ就職準備しなきゃとか、入試に受かれるかなぁとかと現実に向き合い子共を卒業する寂しい思いをしているらしいが、俺はそれよりも彼女のレースの事で頭が一杯で仕方が無かった。
八月から今まで俺と彼女は、様子見と言いながら大会に出る事に凄んでしまって居ていつ、何処の大会に出るかすら考えて居なかった。
が、そろそろ参加しなければ俺の存在意義と彼女の目的が本末転倒してしまうので遂に腹を括って大会に参加する事になった。
って事で俺たちが目指すのは秋の非公式アマチュアレース。その名も『府中アマチュアカップ〜秋の陣〜』。
トレセン学園がある府中市はその特徴を利用したウマ娘を用いた町おこしを図々しく画策しており、その中の一つにこのアマチュアレースが有る。
こんなネーミングセンス皆無のイベントを設立した理由としては、最初トレセン学園からちゃんとスター選手を借りたオールスター戦で行おうと思っていたが、ギャラが高かった(発生するとは市が思わなかった)為、市民の皆さんが市民の皆さんを楽しませるというセルフイベントに成り下がったと自治会の会議で決まったらしい。
こんな残念な真実があるアマチュアカップ。
だが、今回はコイツを利用させて貰って、祭理ちゃんを一躍街の有名人にしてあげよう。
なので、今日は良バ場に祭理ちゃんをお呼びしての作戦タイムをする事にした。
「という事で、祭理ちゃん秋に向けて本腰を入れて練習を始めるよ」
「うん...そろそろレースにでなきゃだよねトレーナーさん」
「アタ坊よ!」
「そんじゃ今回のレースの特徴を発表する」
「わーぱちぱちぱち」
「まず肝心の距離は『小学生低学年の部』に出場予定なので、マイル距離プロレースの半分である800mになります」
「おー」
「そして会場が府中市民陸場競技場(調べたらガチであった)の300mトラックなので、トラック二と三分のニ周分になります」
「何かちゅーとはんぱー」
「そして一番の問題部分は...」
「わー?」
「芝でもターフでも無い事だ!」
「ウマ娘のレースを何だと思っているんだー、この税金どろぼー」
最近の子というのは難しい辛辣な毒舌をズバズバ言うのがトレンドなのかな?めっちゃ相槌が野次めいているのだけど。
まぁ、それは置いておいて、一つこれから彼女がレースをする為に必要な事がある。
「ねぇ、祭理ちゃん」
「どうしたの、トレーナーさん?」
「そう言えば、ウマの名前決まった?」
「あ!決まってないよ、どうしよう」
やっぱり決まってないか...
君達に一応教えて置こう。この世界でレースに出るウマ娘は本名とは別に芸名やペンネーム感覚で自分の名前を偽ってレースに参加している。
まぁ、偽名とわかる様に全文字カタカナで名乗るという制約付きだがね。
だから、当時まだ居なかった某緑スーツの学園長秘書があんな人間味のある名前を名乗って居るのも納得できるだろう?
という訳で今からは祭理ちゃんの選手名を考えていきたいと思う。
さて、どうしようかな。
「祭理ちゃんはどんな感じのネームがいい?」
「んー、楽しそうな名前!...いやカッコいいの!、やっぱりかわいいのにしようかなぁ」
「OK、イメージ付かないと考えにくいからね、よーく想像してみて」
「うーん、むむむむむ...」
これからの祭理ちゃんの選手人生で永遠に付き纏う第二の名前。しっかり決めて貰おう。
「...ジオニックファクトリーとか?」
「驚異のメカニズム?」
「じゃあ、シノハラゼロシキ」
「暴走しそうな名前」
「ならミツビシタケミーでどう!」
「バリエーションが多そう」
「おもむきを変えてイナヅマガンダイバー」
???「行くわよ、お姉様!」「誰?!」
「セブンスライトエバー」
「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ...」
「フュージョニングマイソロジー」
「間違えても相手を光に帰すなよ?」
「エクスタシードッキング」
「一万二千年前に居そう」
「じゃあ逆に何にしたらいいの!」
「うーん、もっとオリジナル感があるものにしたいね」
何かどこかで聞いた事のある名前が乱立してた気がしたんだが、祭理ちゃんもそういった趣味を持っているのかな?余計な詮索はやめよう。
「そうだな、自分の本名に沿った感じでも身内以外には気付かれないんじゃない?」
「えー。じゃあ『ハマノパレード』とか?」
「!良いじゃないのそれ!絶妙にそれっぽい」
「えー!この名前すごいダサいよ?」
「いや、これぐらいが丁度いいんだって」
ハマノパレード、今までの案だったたらこれが一番しっくり来る。
苗字のハマノにパレードは祭(フェスティバル)の項目の一つから持って来たのか。
無骨ながら何か光るものがある。
「じゃあ、祭理ちゃん改めてハマノパレード。これからも頑張っていきましょうか」
「結局、これになっゃうの〜!...ま、いいかな。トレーナーさんが決定してくれた名前し、喜んで名乗らせても〜らおっと」
つー事で浜野祭理ちゃんにハマノパレードという新たなる名前を授けてあげたので、この後は祭理ちゃんの練習方向を決めていった。
いつもだったら俺が独断でメニューを調整していたが時間が迫った今は彼女の意見も尊重していきたいと思う。
俺はあくまで初心者のペーペーなので俺が感じ取れなかった感覚を彼女の体験で補い一つの完成形に落とし込む為だ。
そんな事をしていて、気付いたら結構時間が経ってしまった。
日はオレンジ色が弱まり、良バ場の疫病神達も帰宅を検討し始めている。
此方もトレーナーと担当ウマ娘の絆と閃きの必殺メニューが爆誕し、粗方今日やる事が終了。
さてと、今日は遅いし祭理ちゃんを送ってやれば今日の営業は終了かな。
「じゃあ、祭理ちゃん。今日は日が落ちて来たし俺が送ってあげよう」
そう言いながら振り向くと、その場にはさっき隣に座って居た彼女は居ない。
「あれ、祭理ちゃん?」
咄嗟に空気に話しかけていた俺の光景を見た人間が居ないか、恥ずかしさから探すが幸い居なかった。
安心して彼女を探し始めると、直ぐに見つかった。祭理ちゃんはちょっと離れた店の固定電話の前に突っ立っていたのだ。
心配される前に家族にでも連絡しているのかな?あの家には娘コンプレックス野郎が居るし、アイツにでも約束されてるのか。けど、それ抜きでも偉い子だよ祭理ちゃんは。
「なぁ、祭理ちゃんってしっかり者だよな。店に来た時はちゃんと帰宅の連絡してんだからさ」
「おん?何言ってんだお前さん。今日は此処にお泊まりのご予定なんだろ?
あと、前みたいに人前で分かりやすいオイタはやめろ。弁論が出来なくなる」
え?急に親父何言ってんの。
お泊まり?手を出す?全くもって意味不明だ。ボケたのか?
「待ってくれ、お泊まり会とかそんな話聞いて無いけど」
「あ、何言ってんだ本当に。俺が確認した時、別に良いとかどうとか許してたじゃねーか」
別に良い、あ!そういえばメニュー制作中に親父がなんか話しかけてた時があったような気がする。
まさか、その時に...
『なぁ、本当に祭理ちゃんを泊めてくのか?浜野さんに聞かれたら激怒しそうだが...』
『良いよ別に、問題は特に無いんなら。やれる事をやれば良いさ。...ット、アトヤラナキャコトハナカッタッケナ...』
『そうトレーナーさんも言ってますし今日は泊まっていくねおじさん』
『お、おう分かった。泊まるんならゆっくりして行っておくれよ』
『ありがとう!じゃあトレーナーさん、今日は丸一日お世話になります』
あああ!思い出しだぞって、もう手遅れじゃん!
どーすんのよこれ、接し方次第で俺児ポ法で捕まるよマジで。
ま、まずは一旦落ち着くんだ俺よ。
相手はまだ純粋な小三の少女だ、ああいう好奇心が強い子とはこっちが手を出さぬ限り、薄い本みたいな展開になる訳ないじゃ無いか。てか、させるかっつーの!
そうだ。それに、俺とあの子には十歳という長くて短い年月が大きい差としてあるんだし、もしかしたら彼女の中の俺は歳の離れた兄程度のポジションだと思っているかもしれない。
もしそうなら俺は彼女の(KENZENな)義理の兄でも何でも演じ切ってやるさ!どけ、俺が祭理のお兄さまだぞ!
カポーン
「いいお湯だね、トレーナーさん!」
「あ?あ、ああ。ふ、普段使ってる風呂場だからお、俺はあんまりだなぁ!」
アウトォォォ!俺、死刑!
何で何だろうね、俺が祭理ちゃんと風呂入ってんのかなぁ?俺も理由を聞きたいよ。
状況を説明すると俺は今、祭理ちゃんと風呂に入っているよ。やったね!(ヤケクソ)
どうしてこんな事になったかというと、数分前に突然タオル一枚の祭理ちゃんが現れた。
いや、そんなことある訳無いと思った諸君、俺も一瞬俺の正気を疑って確かめた。ほっぺつねったら痛かった。
そして今の事態が本当だと理解した俺は紳士的に祭理ちゃんが俺が入っている事を知らなかったのだろうとそう予測し、立ち去ろうとした。だが、祭理ちゃんが一言
『トレーナーさん二度手間になるのは色々勿体無いからいっしょに入ろ?』
何が勿体ないのかは知らんが、彼女が混浴を勧めて来た。
突然のハプニングまではブッダもキリストも許してくれただろうが、確信犯は違う。
どんな徳を積んだとしても、少女と裸の付き合い(意味浅)をしただけでジ・エンドさ。
俺はあの世でも歴史上のウマ娘の尾を追っかけたいので当然断ったが、彼女は何かに取り憑かれたように頑にそれを許さない。
そして挙げ句の果てに、
『お風呂から出たらこの事をお父さんに言うけど、良いのかな?こんな事でトレーナーさんとの絆を消したくないよ』
と、前に自身の父親にやったお願いという脅しをかけて来た。
流石の俺もこの言葉には抵抗が出来ず。あえなく、彼女と共に入浴をしてしまった。
一応言っておく、俺は悪く無い。
彼女の幼い女体を直視するのは日本男子の精神に反すると思い、苦し紛れに窓の奥を見遣る。
雲一つない夜空には強い街の光でも消えない一等星がポツポツ輝き、太陽にライトアップされた月が周りの闇を紫に変えた。
こんな日のナイターレースはさぞ走ると気持ちが良いだろうと自然に想像してしまう。
視線を彼女にチラッと移すと彼女は髪をこれでもかとゴシゴシ洗って居た。
さっき、背中を流したいと申し出ていたのを断った事を根に持っているのだろうか。
彼女はこれからどんな成長をするのだろうか、夢が広がる。
今日の様な夜の闇を割く、カッコいい娘になるのか。それとも多くのファンに愛されるスーパーアイドルになっているだろうか。
一寸先の未来の闇も見方を変えれば可能性の塊である。そう思えた俺の気持ちは湯気と共に黒色に溶けて消えて行った。
次回は遂に初レース!
祭理ちゃんもといハマノパレードの活躍をご期待下さい!