ソードアート・オンライン ~剣の世界で弾を放て~   作:レゾナ

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第9話

「ユイちゃん、見覚えのある建物とか、ある?」

 

「うー……」

 

アスナに問い掛けられたユイは、難しい顔で周囲の建物を眺めていたが、首を左右に振って

 

「わかんない……」

 

「まあ、はじまりの街はおそろしく広いからな」

 

キリトはそう言いながら、ユイの頭を撫でた。

 

「そんじゃあ、中央広場に向かうか」

 

キリトの言葉にうなずいて、アスナとユイ、レンとシオンとフィリアは歩き出したが

 

(なんか……人が少ない?)

 

周囲を見ていたアスナは、首をかしげていた。

 

(シオン、何だか……変じゃない?)

 

(うん、私もそう考えてた。フィリアは?)

 

(同じく。いくら何でも人が少なすぎる)

 

三人の意見は一致したようだ。

 

つまりこれは皆感じている異変。

 

「ねぇ、キリト君……何だか、人が少なくない?」

 

アスナはキリトもそう思っているのか聞いてみる。

 

「ああ、それは俺も思ってた……この街には少なくとも、二千人は居るはずなのに……ほとんど見当たらない」

 

「確かにな……いくら何でもおかしい」

 

レンも同意見だ。

 

キリトとレンの言うとおり、<はじまりの街>には《軍》の本部も存在するために、住んでいるプレイヤーの数は二千人近く居るはずなのだ。

 

それなのに、五人が見つけてるのは店に立つNPCのみ。

 

プレイヤーの姿がほとんど見当たらないのである。

 

NPC売り子の元気な掛け声が静かな街に響き渡り、むしろ寂しい感じがした。

 

それから5人はしばらく街中を歩き、見つけた男性に子供が集まるような場所について聞くと

 

「東七区の川べりの教会に、ガキのプレイヤーがいっぱい集まって住んでる」

 

という情報を得た。

 

そして、その男性からは信じられない情報も手に入れられた。

 

それは《軍の徴税隊》である。

 

なんでも、街に住んでるプレイヤーからお金やアイテム。果ては装備まで奪っていくらしい。

 

それから二人は、男性が教えてくれた教会に向かった。

 

「あのー、どなたかいらっしゃいませんかー?」

 

先に入ったアスナが聞くが、中に人影はなく、返事も無かった。

 

「誰も居ないのかな?」

 

「いや、でもここで合ってる筈だけど……」

 

場所は合ってる筈と、アスナとシオンは首を傾げた。

 

すると

 

「いや、居るぞ」

 

「ああ、居る」

 

とキリトとレンが即答して

 

「右の部屋に三人、左に四人……上にも何人か居るな」

 

「同じくだな」

 

と、指差した。

 

「……索敵スキルって、壁の向こうの人数まで解るの?」

 

「……すごいね、索敵スキル」

 

索敵スキルを習得してないアスナとシオンが、驚いたように聞くと、キリトは自慢気そうに

 

「熟練度九百八十からだけどな。便利だからアスナも習得しとけよ」

 

「まあ、気配で大体はわかるな。そこにスキルの恩恵もあるんだ。見つけられない訳がない」

 

そう言った。しかしレンの方はあまり参考にはならないのではなかろうか。

 

「いやよ、修行が地味すぎて発狂しちゃうわよ……それはそうと、なんで隠れてるのかな……」

 

首を傾げながらアスナは、一歩奥に入って

 

「あの、すみません。人を探してるんですが!」

 

最初よりも大きく、アスナは声を出して再度問いかけた。

 

すると、奥右側の扉が恐る恐るといった様子で開き

 

「……《軍》の人じゃ、ないんですか?」

 

中から顔だけを出しながら、女性が問い掛けてきた。

 

「違いますよ。上の層から来たんです」

 

アスナとキリト、レンとシオンとフィリアの五人は、剣どころか防具すら着けていない。

 

軍所属のプレイヤーは常に、ユニフォームの重武装を身に着けているので、見ただけで軍とは無関係とわかってもらえるはずである。

 

やがてドアが開き、一人の女性プレイヤーがおずおずと姿を現した。

 

暗青色のショートヘアに黒縁の大きなメガネを掛けていて、その奥の深緑色の瞳は怯えをはらみながら見開いていた。

 

簡素な濃紺色のプレーンドレスを着ていて、手に持ってるのは鞘に収まっている小さい短剣。

 

「ほんとに……軍の徴税隊じゃないんですね……?」

 

安心させるために、アスナは微笑みながら頷き

 

「ええ。わたしたちは人を探していて、今日上から来たばかりなんです。軍とは何の関係もないですよ」

 

と、アスナが言った途端

 

「上から!? ってことは、本物の剣士なのかよ!?」

 

甲高い子供の叫び声と同時に、女性の背後のドアが開け放たれ、中から数人の小柄な人影が走り出てきた。

 

その直後、反対側のドアも開き、同じく数人駆け出してきた。

 

二人が呆気にとられながら見守っていた中、眼鏡の女性の周囲に並んだのは全員、少年少年と言ってもいい幼いプレイヤー達だった。

 

下は十二歳から、上まで十四歳くらいだった。

 

全員、興味津々に二人を眺め回している。

 

「こら、あんたたち! 部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」

 

女性が慌てながら子供達を部屋に押し戻そうとしたが、誰も言うことを聞いていない。

 

この中では、女性だけが二十台だと思われた。

 

少しすると、二人を眺め回していた子供の一人が

 

「なんだよー、剣の一本も持ってないじゃんか。ねえあんた、上から来たんだろ? 武器くらい持ってないのかよ?」

 

少し落胆した様子で、キリトに問いかけた。

 

「い、いや、ない事はないが……」

 

キリトが眼を白黒させながらも答えると、子供達の顔が明るい表情になって

 

「見せて、見せて!」

 

と、言い募ってきた。

 

「こら、止めておけ」

 

「なんだよ~邪魔すんなよ~」

 

レンが止めに入るが子供達の声には邪魔すんなという感情が乗せられる。

 

「剣はな。この世界ではすべてだ。そして上から来た俺たちにとっては剣は生命線なんだ。それを易々と見せる訳にはいかない」

 

「ちぇ、なんだよ~」

 

「見せてくれたっていいじゃんかよ~」

 

子供達がどういうと、レンは諦めたように

 

「わかった、じゃあこうしよう。今度剣を見せてやるから今回は我慢だ。我慢は出来るか?」

 

「うん、出来る!」

 

「よし、それでいい」

 

レンは子供達の頭を順番に撫でていく。

 

「な……なんか……」

 

「レン……」

 

「「子供の相手、慣れてない?」」

 

キリトとアスナの言葉がハモった。

 

「?ああ、現実じゃあ、結構子供の相手とかやってきたからな。その関係だ」

 

レンは軽く説明する。

 

「すみません、時々しかお客様なんて来ないものですから……」

 

女性は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「い、いえ、構わないですよ……」

 

「……あの、こちらへどうぞ。今、お茶の準備をしますので……」

 

二人を部屋に通した。

 

二人は女性プレイヤーが出したお茶を一口含むと、女性プレイヤーが首を傾げながら

 

「それで、人を探してるという話でしたが」

 

「あ、はい。ええと……わたしはアスナ、この人はキリトといいます」

 

「どうも」

 

アスナが名乗ってから、キリトの名前を言うとキリトとそろって頭を下げた。

 

「それで、こちらがレン君で彼女がシオン、彼女がフィリアです」

 

アスナは続けてレンとシオン、フィリアの名前を言う。

 

「どうも」

 

「「こんにちわ」」

 

「あっ、すみません。名前も言わずに。私はサーシャです」

 

女性プレイヤー、サーシャも頭を下げた。

 

「で、この子が、ユイです」

 

アスナは寝ていたユイを起こさないように、髪を優しく撫でた

 

「この子、二十二層の森の中で迷子になってたんです。記憶を……なくしてるみたいで……」

 

「まあ……」

 

泣きそうなアスナの言葉を聞いたサーシャは、大きな深緑色の瞳を眼鏡の奥で見開いた。

 

「装備も、服以外はなんにもなくて、上層で暮らしてたとは思えなくて……それで、はじまりの街に保護者とか……この子のことを知ってる人が居るんじゃないかと思って、探しに来たんです。で、こちらの教会で、子供達が集まって暮らしていると聞いたものですから……」

 

「そうだったんですか……」

 

アスナの言葉を聞いたサーシャは、両手でカップを包み込みながら、視線を机に落とした。

 

「……この教会には、いま、小学生から中学生くらいの子供達が二十人くらい暮らしています」

 

サーシャの説明はアスナにとっても、身に覚えがあることだった。

 

宿屋の一室で閉じこもっていた頃は確かに、精神が崩壊する直前まで追い詰められていた。

 

「当然ですよね、まだまだ親に甘えたい盛りに、いきなりここから出られない、ひょっとしたら二度と現実に戻れない、なんて言われたんですから……そんな子供達は大抵、虚脱状態になって、中には何人か……そのまま回線切断してしまった子もいたようです」

 

語っていたサーシャの口元が、強張った。

 

「私、ゲーム開始から一ヶ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げしてたんですけど……ある日、そんな子供達の一人を一角で見かけて、どうしても放っておけなくて、連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めたんです。それで、そんな子供達が他にも居ると思ったら居ても立ってもいられなくなって、街じゅうを回っては独りぼっちの子供に声を掛けるようなことを始めて、気付いたら、こんなことになってたんです。だから、なんだか……お二人みたいに、上層で戦ってらっしゃる方も居るのに、私はドロップアウトしちゃったのが、申し訳なくて」

 

「そんな……そんなこと」

 

サーシャの言葉にアスナは首を振りながら、必死に言葉を探そうとしていたが、喉が詰まり声にならなかった。

 

すると、後を引き継ぐようにキリトが

 

「そんなこと、ないです。サーシャさんは立派に戦ってる……俺なんかより、ずっと」

 

「ありがとうございます。でも、義務感でやってるわけじゃないんですよ。子供達と暮らすのはとっても楽しいです」

 

「それならいいですよ。それを義務感でやってたら俺はちょっと許さないなと思ってましたけど……楽しいなら別にいいです」

 

レンは安心したようにそう言った。

 

サーシャはニコリと笑みを浮かべ、心配そうに眠っているユイを見て

 

「だから……私達、二年間ずっと、毎日一エリアずつ全ての建物を見て回って、困ってる子供が居ないか調べてるんです。そんな小さい子が残されていれば、絶対気付いたはずです。残念ですけど……はじまりの街で暮らしてた子じゃあ、ないと思います」

 

「そうですか……」

 

サーシャの言葉にアスナは俯いて、ユイを抱きしめた

 

そして気を取り直すように、サーシャに視線を向けて

 

「あの、立ち入ったことを聞くようですけど、毎日の生活費とか、どうしてるんですか?」

 

「あ、それは、時々お金や食材を届けてくれる人が居たり、私の他にも、ここを守ろうとしてくれる年長の子が何人か居て……彼らは街周辺のフィールドなら絶対大丈夫ってレベルになっていますので、食事代くらいは賄えてます。贅沢はそんなにできませんが」

 

「凄いですね……さっき街で話を聞いたら、フィールドでモンスターを狩るなんて常識外の自殺行為だって言ってましたよ」

 

それは、ここに来る途中で出会った男性プレイヤーが言っていた言葉である。

 

サーシャは、キリトの言葉にうなずいて

 

「基本的に、今はじまりの街に残ってるプレイヤーは全員そういう考えだと思います。それが悪いとは言いません、死の危険を考えれば仕方ないことなのかもしれないんですが……でも、ですから私達は相対的に、この街の平均プレイヤーよりお金を稼いでることにもなるんです」

 

サーシャの言葉に二人は、なるほどと納得した。

 

この教会の客室を借り切ってるのならば、月に百コルは必要になるはずである。

 

「だから、最近目を付けられちゃって……」

 

「……誰に、です?」

 

アスナが問いかけると、サーシャの穏やかな眼が一瞬険しくなって、言葉を発しようと口を開いた。

 

その瞬間

 

「先生! サーシャ先生! 大変だ!!」

 

部屋のドアが大きく開けられて、数人の子供が駆け込んできた

 

「こら、お客様に失礼じゃないの!」

 

子供達の非礼な行動に、サーシャは怒るが

 

「それどころじゃないよ!!」

 

赤毛の少年が眼に涙を浮かべながら、サーシャに駆け寄り

 

「ギン兄ィ達が、軍のやつらに捕まっちゃったよ!!」

 

少年のその言葉に、サーシャは椅子を倒す勢いで立ち上がり

 

「場所は!?」

 

別人のように、毅然とした態度で少年に聞いた。

 

「東五区の道具屋裏の空き地。軍が十人くらいで通路をブロックしてる。コッタだけが逃げられたんだ」

 

そう言ってる少年の隣に、そのコッタなのだろう子供が居て、眼に涙を浮かべていた。

 

「解った、すぐ行くわ。……すみませんが……」

 

サーシャはアスナとキリトに顔を向けると、頭を下げた

 

「私は子供達を助けに行かなければなりません。お話はまた後ほど……」

 

「いや、俺たちで行きます」

 

「し、しかし……見ず知らずのあなた方にそこまでしてもらうのも……」

 

サーシャは申し訳なさそうに言うが

 

「大丈夫です。これでも俺たちは強いんで。そんじょそこらのプレイヤーには負けませんよ」

 

レンは強気でそう言って、気づいた時には駆け出していた。。

 

レンは駆けながら必死に始まりの町の街並みを頭の中に出していく。

 

(思い出せ、思い出せ……東五区の道具屋裏の空き地…東五区の道具屋裏の空き地……あそこを左にいけば近道か!)

 

レンは思い出した街並みの中からどういけば早くその場にたどり着けるかを計算して誰よりも早くその場にたどり着いた。

 

「おい、てめぇら」

 

「あ、何だよお前」

 

「俺たちは《軍》だぞ?刃向かったらどうなるかわかってんだろうなぁ?」

 

「ああ、刃向かってもいいぞ?お前ら如きに負ける程最前線の攻略組が勝てるかどうかは知らんがな」

 

俺のその言葉に《軍》であろう二人が顔を引き攣らせる。

 

「その顔……茶色の服装……ま、まさか……『赤い死神』!?」

 

「ああ、今となってはその二つ名がうれしく思うよ」

 

 

キリト達がやってくるとそこには顔をボコボコにされている《軍》の人間と手をパンパンと払っているレンの姿があった。

 

「れ、レン……早いな……」

 

キリトは息を整えながらそう言った。

 

「この程度なら造作もない。それにこいつらは未来ある子供達に恐怖を植え付けようとしたんだ。そんなのは俺は許さない」

 

レンがそう言うと

 

「みんなの……みんなの、こころが」

 

細いが、よく通る声が通りに響いた。

 

気づけば、いつの間に起きたのか。

 

アスナの腕の中で目覚めたユイが、宙に視線を向けて、右手を伸ばしていた。

 

キリトとアスナ、そしてレンと、アスナ達と一緒にやってきたシオンとフィリアが反射的にその先を見たが、なにもなかった。

 

「みんなのこころ……が……」

 

「ユイ! どうしたんだ、ユイ!!」

 

キリトが叫びながら手を握ると、ユイは二、三度瞬きをして、きょとんとした表情を浮かべた。

 

アスナも慌てて、ユイの手を握りしめ

 

「ユイちゃん……何か、思い出したの!?」

 

アスナが問いかけると、ユイも手を握って

 

「……あたし……あたし……」

 

ユイは呟きながら、眉を寄せて俯いた。

 

「あたし、ここには……いなかった……ずっと、ひとりで、くらいとこにいた……」

 

ユイは何かを思い出そうとするかのように、顔をしかめて、唇を噛んだ。

 

すると突然、顔を仰け反って

 

「うあ……あ……あああ!!」

 

その細い喉から、高い悲鳴が出た。

 

「ッ……!?」

 

それと同時に、アスナの耳にSAO内でノイズのような音が初めて響いた。

 

その直後、硬直していたユイの体中が崩壊するかのように激しい痙攣を起こした。

 

「ゆ……ユイちゃん……!」

 

アスナも悲鳴を上げながら、両手でユイの小さい体を抱き締めた。

 

「ママ……こわい……ママ……!!」

 

か細い悲鳴を上げているユイをアスナは、両手でさらに強く抱き締めた。

 

数秒後、その現象は収まって、硬直していたユイの体から力が抜けた。

 

「……とりあえず、戻るか」

 

「ああ、そうだな」

 

とにかく軍を撃退する事に成功した五人は教会へ戻る事になった。

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