ソードアート・オンライン ~剣の世界で弾を放て~   作:レゾナ

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第10話

あの後、再び教会へと戻ってきたキリト達は……戦場を見ているような気がしていた。

 

「ミナ、パンひとつ取って!」

 

「ほら、余所見してるとこぼすよ!」

 

「あーっ、先生ー! ジンが目玉焼き取ったー!」

 

「かわりにニンジンやったろー!」

 

「ケイン、まだあるから大丈夫だよ。ジンも横から取らない!」

 

あのレンが……子供達のお世話をしながら自分もご飯を食べているのだ。

 

「レンって子供の面倒見がいいんだな……」

 

キリトの言葉に

 

「そうだね。私も初めて知った……」

 

うんうん、とフィリアもシオンの言葉に頷く。

 

巨大な長テーブル二つに所狭しと並んでいる大皿には、卵やソーセージ、野菜サラダが盛られているが、それを二十数人の子供達が食べている。

 

「でも、凄く楽しそう」

 

アスナはその食事光景を見て、微笑んでいた。

 

アスナが居るのは、少し離れた丸テーブルで、キリトとユイ。サーシャも一緒に座っている。

 

「毎日こうなんですよ。いくら静かにって言っても聞かなくて」

 

サーシャは若干呆れた様子で話すが、その表情は優しい。

 

「子供、好きなんですね」

 

その表情を見たアスナが言うと、サーシャは照れたように笑みを浮かべて。

 

「現実世界(向こう)では、大学で教職課程取ってたんです。ほら、学級崩壊とか長いこと問題になってたじゃないですか。子供達を私が導いてあげるんだーって、燃えてて。でもSAO(ここ)に来て、あの子達と暮らし始めたら、何もかも見るて聞くとは大違いで……むしろ私が頼って、支えられてる部分が大きいと思います。でも、それでいいって言うか……それが自然なことに思えるんです」

 

「何となくですけど、解ります」

 

サーシャの言葉に、アスナはうなずいて視線を横に動かした。

 

アスナの隣の椅子でユイが真剣な様子でスプーンを口に運んでいる。

 

アスナはそんなユイの頭を、そっと撫でた。

 

ユイという存在感がもたらす温かさは、アスナにとって驚くほどのものだった。

 

キリトと触れ合っている時の、胸の奥が切なくなる愛しさとはまた違う、眼に見えない羽根で包み、また包まれるような温かさと、静かな安らぎを感じた。

 

ユイはあれから数分後に目覚めた。

 

だが、目覚めてすぐに長距離移動や転移をする気にアスナはなれなく、サーシャの強い勧めもあって一泊したのである。

 

つまりは一日経過している。この一日の間にレンはそれぞれの子供達の対応方法などを把握したのだからすごい、とキリトは感心する。

 

そして問題は解決したかに思えるが……まだ当初の問題が残っている。

 

一拍して起きたユイの調子は快調のようで、アスナとキリトはひとまず安心した。

 

だが、基本的には状況はなんら変わっていない。

 

微かに戻ったらしいユイの記憶によると、はじまりの街に来たことはないらしいし、そもそも保護者と暮らしていた様子すらないのである。

 

そうなるとユイの記憶障害並びに、幼児退行といった症状も不明であり、これ以上は何をしたらいいのかもわからない。

 

だが、アスナの気持ちは固まっていた。

 

(これからずっと、ユイちゃんの記憶が戻るまで一緒に暮らそう……休暇が終わって、前線に戻る日が来ても、何かしらの方法はあるはず……)

 

ユイの髪を撫でながら、アスナが考えていると、キリトがカップを置いて

 

「サーシャさん……」

 

サーシャに声を掛けた。

 

「はい?」

 

「……軍のことなんですが。俺が知ってる限りじゃ、あの連中は度が過ぎることはあっても治安維持には熱心だった。。でも昨日のあの連中は犯罪行為を普通にやっていた」

 

「それには俺も同意見だな。という事はああなったのはここ最近という事か?」

 

そんなレンとキリトの疑問にサーシャは持っていたカップを置いて

 

「方針が変更された感じがしだしたのは、半年くらい前ですね……徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人たちと、それを逆に取り締まる人たちも居て。軍のメンバー同士で対立してる場面も何度も見ました。噂じゃ、上の方で権力争いか何かあったみたいで……」

 

なるほど…とキリトは納得する。

 

そしてレンも納得する。要は軍内部で分裂が起こっているという事なのだ。

 

キリトは頭を掻きながら

 

「うーん……なんせ今でもメンバー千人以上の巨大集団(ギルド)だからなぁ。一枚岩じゃないだろうけど……でも昨日みたいなことが日常的に行われてるんだったら、放置はできないよな……アスナ」

 

キリトが呼ぶと、アスナは視線をキリトに向けて

 

「なに?」

 

「奴はこの状況を知ってるのか?」

 

キリトの奴という言葉の嫌そうな響きで誰か察したのか、アスナは笑いを堪えながら

 

「知ってる、んじゃないかな……ヒースクリフ団長は軍の動向にも詳しいし。でもあの人、何て言うか、ハイレベルの攻略プレイヤー以外には興味なさそうなんだよね……キリト君のこととか昔からあれこれ聞かれたけど、殺人(レッド)ギルドの<ラフィン・コフィン>討伐の時なんか、任せる、の一言だけだったし。だから多分、軍をどうこうするために攻略組を動かしたりとかはしないと思うよ」

 

アスナの言葉を聞いたキリトはうなずいて

 

「まあ、奴らしいと言えば言えるよな……でも、となると俺達だけじゃできることもたかが知れてるしなぁ」

 

キリトはそう呟くと、カップを持って飲もうとした。

 

しかしその手は止まった。同時にレンも動きを止める。

 

「誰か来るぞ。一人……」

 

「ああ……」

 

「え……またお客様かしら……」

 

キリトの言葉を聞いたサーシャが腰を上げた瞬間、ノックの音が教会内に響いた。

 

腰に短剣を吊したサーシャと付いていったキリトが連れてきたのは、《軍》のユニフォームに身を包んだ長身の女性プレイヤーだった。

 

「ええと、この人はユリエールさん。どうやら俺たちに話があるらしい」

 

ユリエールはレンとシオン、アスナにフィリアへと視線を向け頭を下げて挨拶をした。

 

「はじめまして、ユリエールです。ギルドALFに所属してます」

 

ALFというのは《軍》の正式名称と言ってもいいだろうか。正式名称はアインクラッド解放軍である。

 

その後、来られたユリエールから大体の事情をレン達は聞いた。

 

昨日、子供達を脅迫していた男達とは違う派閥にいる、それがユリエールらしい。

 

「はい。最初から、説明します。軍というのは、昔からそんな名前だったわけじゃないんです……。軍ことALFが今の名前になったのは、かつてのサブリーダーで現在の実質的支配者、キバオウという男が実権を握ってからのことです。最初はギルドMTDという名前で……、聞いたこと、ありませんか?」

 

「《MMOトゥデイ》の略だろう。SAO開始当時の、日本最大のネットゲーム総合情報サイトだ。ギルドを結成したのは、そこの管理者だったはずだ。たしか、名前は……」

 

「シンカー」

 

ユリエールが割り込みキリトの言葉を受け継いだ。

 

「彼は……決して今のような、独善的な組織を作ろうとしたわけじゃないんです。ただ、情報とか、食料とかの資源をなるべく多くのプレイヤーで均等に分かち合おうとしただけで……」

 

MMORPGの本質はプレイヤー同士競いあうものだ。ましてや、このSAOにとらわれた人の大半は熱狂的なプレイヤーだろう。それなのに分かち合おうなんて無理だろう。

 

「そこに台頭してきたのがキバオウという男です。彼は、シンカーが放任主義なのをいいことに、同調する幹部プレイヤーたちと体制の強化を打ち出して、ギルドの名前をアインクラッド解放軍に変更させました。更に公認の方針として犯罪者狩りと効率のいいフィールドの独占を推進したのです。それまで、一応は他のギルドとの友好も考え狩場のマナーは守ってきたのですが、数の力で長時間の独占を続けることでギルドの収入は激増し、キバオウ一派の権力はどんどん強力になっていきました。最近ではシンカーはほとんど飾り物状態で……。キバオウ派のプレイヤーたちは調子に乗って、街区圏内でも《徴税》と称して恐喝まがいの行為すら始めたのです。昨日、あなた方が痛い目に遭わせたのはそんな連中の急先鋒だった奴等です。でも、キバオウ派にも弱みはありました。それは、資材の蓄積だけにうつつを抜かして、ゲーム攻略をないがしろにし続けたことです。本末転倒だろう、という声が末端のプレイヤーの間で大きくなって……。その不満を抑えるため、最近キバオウは無茶な博打に出ました。配下の中で、最もハイレベルのプレイヤー十数人による攻略パーティーを組んで、最前線のボス攻略に送り出したんです」

 

それを聞いてレンはコーバッツ達を思い出す。

 

「いかにハイレベルと言っても、もともと我々は攻略組の皆さんに比べれば力不足は否めません。……結果、パーティーは敗退、隊長は死亡という最悪な結果になり、キバオウはその無謀さを強く糾弾されたのです。もう少しで彼を追放できるところまで行ったのですが……」

 

ユリエールはそこで一旦きると唇を噛んだ

 

「三日前、追い詰められたキバオウは、シンカーを罠に掛けるという強硬策にでました。出口をダンジョンの奥深くに設定してある回廊結晶を使って、逆にシンカーを放逐してしまったのです。その時シンカーは、キバオウの「丸腰で話し合おう」という言葉を信じたせいで非武装で、とても一人でダンジョン再奥部のモンスター郡を突破して戻るのは不可能な状態でした。転移結晶も持っていなかったようで……」

 

それを聞いたレンを除いた皆は絶句する。

 

「み、3日前にですか!?それで、シンカーさんは……?」

 

アスナが反射的にたずねると、ユリエールは小さく頷いて

 

「《生命の碑》の彼の名前はまだ無事なので、どうやら安全地帯までは辿り着けたようです。ただ、場所がかなりハイレベルなダンジョンの奥なので身動きが取れないようで……ご存知のとおりダンジョンにはメッセージを送れませんし、中からはギルド倉庫(ストレージ)にアクセスできませんから、転移結晶を届けることもできないのです」

 

「……お人好しがすぎたんですシンカーは……」

 

「要するに、軍で強い俺たちがいるという噂を聞きつけ助けて欲しいと言いにきたってわけか」

 

レンはそう言う。

 

ユリエールは唇を噛んでから言った。

 

「お会いしたばかりで厚顔きわまるとお思いでしょうが、どうか、私と一緒にシンカーを救出に行ってくださいませんか」

 

ユリエール深々と頭を下げた

 

「心証としては力を貸してあげたいのは山々だが……」

 

「無理なお願いだってことは、私にも解っています……。でも、黒鉄宮《生命の碑》のシンカーの名前に、いつ横線が刻まれるかと思うとおかしくなりそうで……」

 

大丈夫だよ、ママ。その人、うそついてないよ」

 

「ユ……ユイちゃん、そをなこと、判るの……?」

 

「うん。うまく……言えないけど、わかる……」

 

キリトはユイの頭を撫でたそしてニヤリとわらいレン達に言う。

 

「疑って後悔するよりは信じて後悔しようぜ。行こう、きっと何とかなるさ」

 

「相変わらずのんきな人ねえ」

 

アスナもユイの髪に手を伸ばした。

 

「ごめんね、ユイちゃん。お友達探し、1日遅れちゃうけど許してね」

 

「まったく……キリトもアスナもお人好しだな……」

 

「そう言いつつレンも行く気なんでしょ?」

 

フィリアは手を後ろで重ねながら身を乗り出してレンにそう聞いている。

 

「ありがとう……ありがとうございます……」

 

「それは、シンカーさんを救出してからにしましょう」

 

そしてレン達はシンカーを助ける為にレン達は教会を出て行った。

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