ソードアート・オンライン ~剣の世界で弾を放て~   作:レゾナ

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第13話

七十五層ボス部屋……この部屋の中で立っているのはキリトとレン、そしてヒースクリフこと茅場晶彦だけである。

 

キリトとレンの名前を叫ぶ彼らの仲間たち。

 

しかし、彼らは振り返らない。

 

彼らはそれぞれの愛剣、キリトは「エリュシデータ」と「ダークリパルサー」を……。

 

レンは「レッド・ザ・グラスホッパー」をそれぞれ手に持つ。

 

茅場は左手を動かして、再びウィンドウを操作した。

 

すると、二人と茅場のHPが同じ長さに調整された。

 

レッドゾーンギリギリ手前、強攻撃がクリーンヒットしたら、一発で終わる位置で……更に、茅場の頭上に【Changed into mortal object】

 

不死属性を解除したというシステムメッセージが表示された。

 

茅場はウィンドウを消して、床に突き刺していた剣を抜いて十字盾の後ろに戻した。

 

二人の意識は冷たく澄んでいた。

 

そして二人は目を閉じ仲間たちに心の中で詫びを入れて……目を開けて神経を研ぎ澄ませる。

 

彼らに勝算はないといってもいい。

 

それ程にヒースクリフが使う「オーバーアシスト」は危険なのだ。

 

「オーバーアシスト」は言うなれば人の出来るスピードを越えるスピードを出す事など人間を越えなければ勝てない程の力を持つのだ。

 

しかし、それでも二人には関係なかった。

 

((これはデュエルじゃない……単純な殺し合いだ……そうだ……俺は、あの男を……))

 

「「殺す……っ!!」」

 

鋭い呼気と共に吐き出すように言いながら、二人は床を蹴っていた。

 

キリトは自身の右手に持つエリュシデータを右薙ぎに、レンは自身の持つレッド・ザ・グラスホッパーを上段から振り下ろす。

 

茅場はそれらの攻撃を……盾でキリトの剣を、剣でレンの剣を受け止める。

 

火花が散り、三人の顔を明るく照らした。

 

金属がぶつかり合う衝撃音がゴングとでも言うように、三人の剣戟が一気に加速し始めて、周囲の空間を圧した。

 

今、彼らはSAOという中での戦いではなく現実のように戦っている。

 

その理由は二人の相手が茅場晶彦だという事だ。

 

茅場晶彦はこのSAOの創始者、つまりこの世界の事を誰よりもよく知っている。

 

それはつまり……ソードスキルの事も知っているという事だ。

 

ソードスキルには使用後に技後硬直というものがある。

 

そしてそれは上位の技になっていくにつれて時間は増えていく。

 

茅場はそれら全てを把握している。

 

この戦いは一瞬でも気を抜けば終わる戦いだ。

 

ゆえに、二人はソードスキルを使わず、ただ己の本能に従い、剣を振り続ける。

 

二人の限界まで加速された知覚により、二人の両腕は通常時を上回る速度で動き、自分の目にすら剣の残像が数本に見えた。

 

だが、茅場はその全てを舌を巻くほどの正確さで叩き落としていく。

 

しかも、少しでもスキが生まれると鋭い一撃を二人に対して放ってくる。

 

それをキリトは反射神経で、レンは動体視力でそれぞれ弾き逸らす。

 

局面はいわゆる膠着状態に陥った。

 

二人は少しでも茅場の思考と反応を読もうと、茅場の両目に集中させた。

 

茅場……ヒースクリフの真鍮色の両目はあくまでも冷ややかなままだった。

 

かつて、キリトとのデュエルの時に見せた人間らしさは欠片すら見当たらなかった。

 

そしてそれが隙となってしまい、レンは盾で強く地面に叩きつけられてしまう。

 

「がっ!?」

 

「レン!?くそぉ!」

 

そしてキリトは怒りに我を忘れ、《二刀流》スキルの最上位ソードスキル《ジ・イクリプス》を発動する。

 

「キリト、止めろ!」

 

レンは叫ぶが時既に遅く、スキルは発動した。

 

レンの叫び声とヒースクリフの勝利を確信した笑みを見て、キリトは自分の失策に気づいた。

 

キリトは焦りと恐怖で、自分のセンスではなくシステムに頼ってしまった。

 

一度発動したソードスキルは止められない。

 

その後、硬直時間が課せられてしまう。

 

しかも、キリトの放つ攻撃の軌道は全て茅場に把握されている。

 

キリトの放っている剣は全て、茅場の十字盾に防がれている。

 

その最中、キリトは心中でアスナに謝った。

 

(ごめん……アスナ……せめて、君だけは……生きてくれ……)

 

そしてキリトが放った最後の左突き攻撃が、十字盾の真ん中に当たり火花を散らした直後、キリトの左手に握られていたダークリパルサーが、砕け散った。

 

「さらばだ……キリト君」

 

技後硬直により動きの止まったキリトに対して、ヒースクリフの剣が真紅に染まりながら迫りキリトの体を切り裂……きはしなかった。

 

(キリト君は……わたしが……守ってみせる!!)

 

その声が頭の中に響いた直後、キリトの目の前に凄まじい速度でアスナが立った。

 

(アスナ……なぜ……!?)

 

アスナの後ろ姿を見たキリトが瞠目した。

 

システム的麻痺により動けない筈のアスナが、キリトの前に立った。

 

キリトを守るために、胸を敢然と張り、両腕を精一杯に広げて……アスナの姿を見た茅場にも、驚愕の色が見えた。

 

だが、斬撃は誰にも止められない。

 

しかし

 

ダァン!!

 

そんな銃声が聞こえてヒースクリフの剣が僅かに逸れる。

 

キリトは振り返らない……なぜならそれを放った人物が誰かを知っているから……。

 

「させっか……!」

 

レンの放った銃弾によって逸らされたヒースクリフの剣はアスナを襲う。がしかし、それはアスナに掠る形で終わった。

 

レンの放った弾丸によってヒースクリフの剣が振るわれる筈だった場所から少しだけ違っていた為、アスナは致命傷は負わなかったのだ。

 

「キリト、アスナ……お前たちが決めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

そんな珍しい親友の叫びを聞いたキリトは駆け出す。アスナも同様にだ。

 

二人はそれぞれの剣を両手に持ち……

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

二人は叫び声を上げながら、その剣で

 

ヒースクリフの胸を貫いた。

 

「やった……やったぞ、レン!」

 

キリトは親友のいた場所を見る。しかし

 

「え……?」

 

そこには親友、レンの姿はなかった。

 

「ふふっ……まさか……最後の最後で銃を使ってくるとは思っていなかったよ……」

 

そう、ヒースクリフは諦めたように呟く。

 

「おい、どういうことだ!?」

 

「……銃スキルによって使われる弾丸……それらはこの世界には存在しない……」

 

ヒースクリフはいきなり独白のように語り出した。

 

「……何を言っている?」

 

「……ならばどこから調達しようかと考えた……そして考え出した……ないなら作ればいいと……」

 

「作れば……いい……?」

 

そしてキリトの頭の中のパズルのピースが填まっていく感覚があった。

 

「まさか……」

 

「その通りさ、キリト君……弾丸は、HPを消費する(・・・・・・・)事によって生成される」

 

「「え……?」」

 

その言葉を聞いたシオンとフィリアはそんな声を出す。いや、その声しか出なかった。

 

「一発に使うHPは相当な物だ……彼が一発弾を放てばそれだけで……彼のHPは全損……する……」

 

そう言って……ヒースクリフは消滅した。

 

ゲームはクリアされました……繰り返します……ゲームはクリアされました……繰り返します……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

レンは気がついた時、夕焼けの中にいた。

 

「?あれは……?」

 

レンはふと、下を見る。

 

そこには瓦解していく巨大な、建造物があった。

 

それはまぎれもない……レンが二年間を過ごした浮遊城、アインクラッドだった。

 

「中々幻想的な光景だろう……」

 

ふと、レン以外の声が聞こえた。

 

そこに居たのは、ヒースクリフではなく、現実世界での研究者という風体の茅場晶彦だった。

 

「あれは、どうなってるんだ?」

 

「比喩的表現……と言うべきかな」

 

レンの問い掛けに、茅場は静かに喋りだした

 

「現在、アーガス本社地下五階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置でデータの完全消去作業(アンインストール)を行っている。あと十分ほどで、この世界の何もかもが消滅するだろう」

 

「皆は……?」

 

「安心してくれたまえ。生き残った全プレイヤー、六千百四十七人のログアウトは完了している」

 

それを聞いてレンは安心する。

 

自分は皆を守れたんだと再確認出来たから……。

 

「……俺は、なぜここにいる?」

 

「それは君と話をしたかっただけだよ」

 

レンはずっと思っていた質問をした。

 

「なんで……こんなことをしたんだ……?」

 

その質問は、この事件を知った全ての人間が思っただろう質問だった。

 

レンの質問に、茅場は苦笑を漏らして、数秒間沈黙すると

 

「なぜ……か。私も長い間忘れていたよ。なぜだろうな。フルダイブ環境システムの開発を知った時……いやその遥か以前から、私はあの城を、現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出すことだけを欲して生きてきた。そして私は……私の世界の法則を超えるものを見ることができた……」

 

そう言うと茅場は、静謐な光を湛えた瞳をレンに向けて、すぐに顔をアインクラッド城に戻した。

 

その時、風が少し強く吹いて、茅場の白衣を揺らした。

 

アインクラッド城は既に、半分近くまで崩壊していて、雲海の中に消えていっている。

 

「子供は次から次へ、いろいろな夢想をするだろう。空に浮かぶ鉄の城の空想に私が取り付かれたのは、何歳の頃だったかな……その情景だけは、いつまで経っても、私の中から去ろうとしなかった。むしろ、年を経るごとに、どんどんリアルに、大きく広がっていった。この地上から飛び立って、あの城に行きたい……長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった。私はね、レン君。まだ信じてるのだよ……どこか別の世界には、本当にあの城が存在するのだと……」

 

茅場の言葉にレンは不意に、自分達がその世界で生まれて、剣士を夢見て育った少年であるような感慨に捕らわれた。

 

「ああ、だといいな……」

 

だからこそ、レンはそう答える。

 

そして、再び沈黙が空間を支配した。

 

視線を動かすと、崩壊は城以外にまで及んでいた。

 

無限に広がっていた筈の雲海と赤い夕焼け空が、遥かかなたで白い光に呑み込まれて、消えていっていた。

 

気づけば、光の浸食は至るところで発生していて、ゆっくりと近づいていた。

 

「……言い忘れていたな。ゲームクリアおめでとう、レン君」

 

「俺なんかに言うんじゃなくてそれはキリトに言ってほしいよ……」

 

ポツリと告げられた言葉を聞いて、レンは右側に立っていた茅場を見た。

 

茅場は穏やかな表情で、レンを見ていた。

 

「……さて、私はそろそろ行くよ」

 

茅場がそう言って背中を見せると同時に、強い風が吹いて、レンは目を一瞬閉じた。

 

そして再び目を開くと、茅場の姿は消えていた。

 

茅場はどこに行ったのだろうか……現実世界に帰還したのだろうか……いや……そうではあるまい。

 

なぜか、レンは分かった。

 

茅場はこことは違う……どこかにある、本物の浮遊城、アインクラッドに向かったんだと……。

 

仮想世界の浮遊城はすでに、先端部分を残すのみであった。

 

自分達が到達したのは、四分の三の七十五層まで……見ることが叶わなかった七十六層より上の層が、目の前で儚く崩落していく。

 

世界を包み込み、消去していく光の幕も大分レンに迫っていた。

 

オーロラのように揺らめいている光が触れる度に、無限に広がっている雲海と夕焼け空そのものが、粒子のような破片を撒き散らしながら消えていく。

 

アインクラッド城最上部には、華麗な尖塔を持つ巨大な真紅の宮殿が存在していた。

 

ゲームが予定通りに進行していたら、レン達はその宮殿で魔王となったヒースクリフと戦うことになっていたのだろう。

 

主無き宮殿は、その基部だった最上層が崩落しても、定めに抗うかのようにしばらくの間、浮遊し続けた。

 

赤い夕焼け空をバックに一際深い紅に輝いている紅き宮殿は、最後に残った心臓のようだった。

 

やがて、破壊の光が容赦なく真紅の宮殿を包み込み、下部から無数の紅玉となって分解していき、雲海のなかに零れ落ちていった。

 

最後まで残っていた尖塔が崩れるのと、光の幕がその空間を飲み込んだのはほぼ同時だった。

 

巨大浮遊城アインクラッドは完全に消え去り、世界には幾つかの夕焼け空と雲の連なりと小さな水晶の浮島……そしてその一つに立っているレンだけだった。

 

「これで、終わりか……結局、親孝行は出来なかったな……」

 

それだけが……心残りだ……。

 

そうして、レン……本名、園田蓮司の意識は暗闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、現実世界にある病院……その一つの一室……。

 

「蓮司……」

 

「蓮司……」

 

園田蓮司の眠っているベッドの横で心配そうに見つめる男性と女性。

 

彼らの名前は園田総司(そのだそうじ)。そして園田冴子(そのださえこ)

 

共に蓮司の親である。

 

「蓮司……皆、起きているんだぞ?お前だけ起きないでどうする……?」

 

「そう蓮司……早く起きて……元気な姿を見せてよ……」

 

冴子は涙を流しながらそう言う。総司の方も涙を流してはいないが早く蓮司に起きてほしいと願っている。

 

そして……奇跡が起きた。

 

「………………………」

 

蓮司の目が…………ゆっくりとだが開いていくのだ。

 

「っ…蓮司?」

 

「蓮司……?」

 

二人は目を開いていく蓮司を見つめる。

 

「…………………………………」

 

蓮司は周りを把握する為か、目を動かしていく。そして自身の手を上げて見る。

 

その手はひどくやせ細っていた。

 

「…………………………………」

 

そして、蓮司は自分の親を見つめて

 

「…………………………ただいま、母さん、父さん……」

 

そう呟く。

 

園田蓮司は現実世界に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パタン……。

 

さて、と……ここまでが彼のSAOというVRMMOでの戦いの記録だ。

 

そしてこの物語は一旦終わりを迎える。

 

そしてこの物語には続きがあるんだよね……。

 

えぇと……そうそう、これだね。

 

この物語が彼の物語の完結……それじゃ、読み進めていこうか……。

 

彼の歩む新しい物語……無限の成層圏の物語を……。

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