入学して1ヶ月近くが経過し、相変わらず学校に着くまでの山登りで教室に辿り着く頃にはもう死にかけになっているのが日常になってきた。今日も早朝ハイキングコースを全身で満喫していたところにトドメをさすが如く、台風並のパワーを持ったあいつがやってきた。いや、進路の予測ができない分台風よりもタチが悪いかもしれない。
「黛さんおはようございます!」
「おはよう。」
「黛さん元気ないですよ?ほら、もっと大きな声で!」
「痛い痛い。痛いから。折れるから。」
ういはがべしべしと背中を叩いてくるんだけど力の加減ってものがないのか…めちゃくちゃ痛い。多分背中赤くなってる。あとアルスはニコニコしてないで助けて欲しいんだけど。
◇◇◇◇◇◇
授業中しっかり体力を回復した俺は即座に回復した体力を削られる場所へと足を運んだ。以前体調不良(仮)で部活をさぼ…休んだことがあったんだけど次の日のういはは大型犬のように絡んできた。
通学路で捕捉されるや否やこちらを押し倒さん勢いで追求され、最初はかわしていたのだが、だんだん適当な嘘を考えるのがめんどくさくなりサボった旨を伝えると…いや、やめておこう。思い出しただけでもどっと疲れる。
そんなこともあってか俺は望まない形でそれ以降は皆勤賞になっていて、今日も例に違わず進まぬ足取りで部室へと足を運んでいたのだが…
「黛さん!」
「なに?」
「Webサイト作りましょう!」
「え、なんの?」
「私たちの部活のですよ!超常現象研究部として色々世界の謎を解き明かすのに情報を募る私たちのサイトがないなんて許し難いですよ!」
一体誰が許さないんだろう。とまあ、こんな感じで超常現象研究部のサイトを作る事になったんだけど正直それくらいなら寝起きでもできる。ういはの要望を聞きつつ適当に作っていく。
「まあ、こんな感じだね。どう?うい…」
「ダウト!」
あれ、ういは?なにしてんの?なんで女子4人でダウトしてんの?いや、いいんだけどさ…女子には女子の世界…か。
速攻で暇を持て余した俺は触っていたパソコンで適当に遊んでいた。学校のセキュリティを外したり、タイピング練習をしたり、その後はもう適当にネットサーフィンしてた。あ、あのゲーム続編出るんだ。
「まゆゆ終わったよー?」
「黛さーんやりますよー?」
桜さんとういはがこちらに手招きしてきた。どうやら俺はハブられてなかったらしい。よかった。
「じゃあ黛入ってきたし罰ゲームありにしますか?」
「そだね…罰ゲームの内容はどぉするの?」
「1位の人の命令を聞く、ってどうでしょうか!」
「いいんじゃない?」
「じゃあやりましょうか!」
◇◇◇◇◇◇
その後の流れは大富豪の各々の地域でルールが違ってくるから、お互いのルールを説明して1番メジャーである(とおもわれる)ルールを適応した。第1戦はういはが大富豪、俺が富豪、その後は桜さん、リリさん、アルス。第2戦ではまたもやういはが大富豪、富豪になったのは桜さん。俺は平民でリリさんが貧民、大貧民はまたもアルスだった。そして第3戦もまたもや…
「上がりですっ!」
「つえぇ…ういはろつえぇ…」
「ういはちゃんまぁじでつよいね…」
「あはは…いやぁ、なんか仕組んでるんちゃうか!って思ったくらいやわ…」
「私、神に愛されてますね!」
「あながち否定できないんですよねぇ…あがりっと。」
「リリ先輩も上がっちゃったよぉぅ…えぇ…」
「黛さんが負けるとこ見たいので皆さん頑張って下さいよ!」
「ういは?なんか俺悪いことしたっけ?気に触ることしてたら謝るからさ、なんで?」
「特に理由は無いですけど黛さんが悔しがるとこ見たいので!」
「こんな理由で負けるのやだなぁ…はい、おつりつきーん!」
「げ、桜さんまで…まあ、アルスには勝てるでしょ。」
「んふー、舐めてもらっちゃぁ困るぜぇ?オラァ!」
やけに口の悪いアルスは口調とは裏腹に4を2枚という微妙な数字を出してきた
「えぇ…アルスさすがにバカにしてない?」
俺はKを2枚出してあと1枚。9だけどこれで上がれるでしょ。アルス大貧民だったし1を2枚持ってるわけ…
「まゆくん甘いよオラァ!」
「えっ?嘘、大貧民なのに1を2枚持ってたの?」
「いやさぁ、最初の手札ジョーカーと2もあってめちゃくちゃ強かったんだよぅ…ういはちゃんに取られちゃったけど…」
「それはルールだからね。仕方ない。」
一瞬焦ったけどアルスの手札は残り5枚。さすがに負けるわけ…
「革命だよぉぅ!!」
負けた。
◇◇◇◇◇◇
結局最後の最後でアルスの大逆転勝利の前に屈した俺はういはの命令に従うことになった。くっそ、あのツルツルまんじゅう…
「じゃあ黛さん、私と一緒にリングフィッ○アドベンチャーやりましょう!これが命令です!」
「嫌だ。」
「なんでですかぁ!」
「いや、ういはのフィジカルに俺ついていける自信ないもん。」
「えぇ…でも命令なのでリングフィッ○アドベンチャーはやってもらいますよ!」
「じゃあ疲れるまでね。」
「それだったら黛さんすぐ辞めるじゃないですか!」
「ごめん、黛が運動してるとこ私ほとんど見た事ないわ。」
「いや、リリさんだってそんな動ける方じゃないでしょ。」
「はっ、黛?さては夕陽リリが運動出来ることをご存知でない?」
「ご存知でないね。なんか言ってみてよ」
「シャトルラン80回。」
「え、リリちゃん凄いやん!」
桜さんが食いついてくれたので逃げるしかないね。俺?見学してるか保健室に逃げてた。
「ういは、R○A以外で何かない?」
「そうですねぇ…じゃあ今度みんなでお出かけしましょう!で、黛さん、その時にちゃんと来てくださいね?これで許してあげます!」
「えぇ…外あんまり出たくないんだけど…」
「一日耐久とどっちがいいですか?」
「あー、お出かけ楽しみだなー。」
「うむ、よろしい。」
◇◇◇◇◇◇
今日は予定がある人が多く、いつもより早めに解散した後、俺はリリさんに呼び止められた。
「黛さん。大切なお話があるのでちょっといいですか?」
「何?」
「愛の告白とかじゃないのでそんな気がまえなくていいんですけど、ちょっとあまり人に聞かれたくない話なので場所を変えましょう。」
そういうとリリさんは俺を近くの神社に連れ出した。しばらくどう話し出すべきか悩んでいる様だったが、数分後決心が着いたのか話し出した。
「単刀直入に申し訳ないんですけど、私はこの時代の人間じゃありません。」
…ちょっとよく分からない。
「信じて貰えないと思います。現在私があなたに示すことのできる証拠は一切ないですし、何か情報を伝えたりする事は出来ないので。ただ、事実として知っていて欲しいんです。そして目的があって今未来人がここにいるということも。」
「まあ、信じるか信じないかは一旦保留しておくけどさ、目的?っていうのはなんなの?」
「それは…相羽ういはの監視です。」
「え?ういは?」
「そうです。彼女は神に近しい存在であり、2019年の8月11日、初めてその力を使ったのです。」
いきなり自分が未来人宣言した後にういはが神?ういはの提案かなにかでどうにか同調したところで、いやそんなわけないでしょ!って笑いものにするつもりだろうか。あまりにも荒唐無稽にも程がある。
「なに?ドッキリなの?そういうのなら早くネタばらしして欲しいんだけど。」
「ドッキリじゃないです。これは…ちょっと信じて貰えないと思いますが、それでも話だけは聞いて欲しいんです。」
「そこまで言うなら聞くだけ聞くよ。」
「すみません、ありがとうございます。で、相羽ういはが神という話ですが、おそらく彼女はまだ無意識の領域にあるのです。その域に干渉できるのは夢を見ている時だけ。なのでまだ今は大きな問題はありません。」
「どういうこと?じゃあ今はそれっぽい夢を見てるだけってこと?」
「まあ、今のところそうなんですが、2019の8月11日、彼女は夢で見たペガサスの羽根をむしり取り、それを実際に現実世界に持ち込んだんです。」
ペガサスの羽根をむしり取る女子高生…その時は中学生か。そんなのがいるわけないでしょ…。ういはがいつも俺の事折れそうとか腕もげちゃいそうって言ってるのはふざけ半分で半分はガチなのか。
「じゃあ、あのういはがいつも胸に刺してる羽根って…」
「そうです。いつまで経っても汚れないのは定期的に変えてるとか漂白しまくってる訳じゃなく、この世界のものの干渉を受けないからです。違う世界のものと等しいですからね。」
「その理由は分かった。でも、なんでリリさんはここに来てういはの監視をしてるのさ。」
「それは、ういはがこれ以上世界を大きく替えてしまうことを防ぐ為です。」
「ういはが?世界を?」
「はい。彼女は2019年、初夏に事故によって母を失い、相羽ういは自身も下半身が不随となる怪我を負いました。そして…」
「ちょっと待って、ういはが下半身不随?あんなに元気に動いてるじゃん。」
「はい、それもこの話と関わってくるのですが、たしかに彼女は事故によって下半身不随にたりました。そしてそれ以降父が最愛の妻を失った悲しみにより精神を病み、それ以降徐々に彼女に暴力を働くようになりました。反抗しようと思えばできたのかもしれませんが、いくら暴力を振るってこようとも父親は父親。それにいくら彼女がスポーツウーマンだとしても男女の力の差はありますからね。」
後々考えてみれば、リリさんが普通知りようがない情報をここまで知っているというのは未来人というのもうなずける。だがその時はそんな冷静に考えられなかった。話の内容がショッキングすぎた。
「そして、そんな日々が続いていた中、8月11日、彼女は全てをなかったことにしたのです。事故のことも、家族のことも。彼女はにはそれ以前の記憶がありません。あの夢から目が覚めた時から彼女にはアイドルを夢見る、男勝りのフィジカルを持った家族のいないひとりぼっちの少女なんです。そしてそれが世界の当たり前になっていて、この時代のういはを知る人々はそれが自然なことなんです。」
「つまり、ういはは無意識に家族を失う悲しみをもう二度と味わわないように家族の記憶と存在を消して、父親からの暴力を苦にしないようにそれに耐えられるフィジカルを手に入れたってことか。」
「そうなりますね。」
しかしこの話には少し矛盾があった。
「でも、ういはがそういう風に世界を書き換えたのならどうしてリリさんはそれを知ってるのさ?」
「それは…私が書き換えられる前の世界の人間だからです。」
「じゃあリリさんの世界は…」
「もうすぐ滅ぶ、という訳ではなありませんがこれ以上大きな変化が起こると耐えられないかもしれません。本来、多少未来の人間がが干渉する程度であれば世界の修正力が働いて何も起こりません。しかし、いるはずだった人間の存在が2人もなかったことにされ、それらの記憶や記録が失われるとなると、その先の未来に大きな影響がでてしまうんです。」
「にわかには信じ難いけどね。まあそうなんだろうね。」
「まあ、簡単に例えるとピサの斜塔みたいな感じです。未来の人が干渉するというのは建設中の工事現場に素人が勝手に出入りするようなものでして、完成に問題はそう出ません。」
「しかし今回は基礎が崩れたり、地盤が緩んだようなものです。今はなんら問題がないように見えますが高く積むにつれて徐々に傾きが大きくなって最終的には本来あるべき場所から大きくズレた場所に建物が建ってしまうんです。」
「でもそれじゃそのズレがリリさんの先の未来の崩壊に繋がるんじゃないの?」
「はい。なので最初は私も事故の前に行こうと思ったのですが、それより前に干渉することが一切できなくなってたんです。」
「それは…なんで?」
「分かりません。ですが、相羽ういはが干渉を拒んでる可能性があります。なのでそれを探るべくういはの監視を始めた、という形ですね。」
「じゃあ小学校の時の記憶は?あのころのリリさんは誰だったの?」
「高校での調査を円滑にするためにそういう風に記憶を植え付けさせてもらいました。それに関しては本当に申し訳ないです。」
「そっか……じゃあ、記憶オンリーでリリさんあんなにムカつくやつだったんだね。」
「いや、うん。それは…落ち着いたクールなやつだと思ってたんですよ…だからこっちからグイグイ行こうと思ってて…まさかこうなるとは…」
その後はいつも通り軽口の叩き合いをしながら帰った。事実を知った時最初俺はびっくりした。けど、過去は過去だし、それを無かったことにしても今こうやって話しているのは他ならぬ夕陽リリという人間だから。未来人だろうがなんだろうがリリさんがりりさんであることに変わりはないしね。
お久しぶりです。
いやー…難産でした。というのも最近色々忙しくってなかなか更新できませんでした。
過去の配信を色々見返して小ネタとかを入れまくってるのでニヤッとしていただけたら嬉しいです。
それではまた今度。