相羽ういはの憂鬱   作:鯖太郎

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相羽ういはの憂鬱Ⅲ ②

ういはとアルスの初配信も終わり、遂に俺の順番が回ってきた。配信は時間を重ねるごとに人が増え、遂に5000人もの人が俺の第一声を待ちわびている中、俺はマイクのスイッチをオンにした。

 

「はぁぁぁ………俺さぁ……どうしたらいいかな……」

 

記念すべきU-tuber黛灰としての第一声は……ため息だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

時は遡り初配信リレー2日目1番手の相羽ういはの配信前日。

各種配信用のソフトの確認やOBSについて事前に月ノ美兎さんから3人で教わる予定、だったのだが月ノさんに急遽呼び出しがかかったため樋口楓さんに教わることになった。

が、樋口先輩の説明が、この辺パーッとやって、とかこれをグッとやれば、などといった感じのもので隣のふたりは終始頭にハテナが浮かんでいた。一応助太刀にえるさんに来てもらったがえるさんもえるさんで感性で話してきたためハテナが増えただけだった。

そのため場所を改めて俺が2人に使い方や注意する点などを教え、ついでにまとめたメモにして渡しておいた。

 

「へぇー…黛さんほんとにパソコン詳しいんですね…」

 

と言っていたあたり、リリさんの言う通りアルスや桜さん、リリさんのことについては知らないのだと思う。実際未来人夕陽リリと宇宙人桜凛月としての配信を同期3人で見届けたあとかけた通話ではういはが凝られた設定に感心しきっていた。

 

「お二人共めちゃくちゃ作りこんできたじゃないですか!厨二病かと思いました!あはは!」

 

彼女たち2人からしてみれば本当のことを厨二呼ばわりされた訳だがそこには触れないでおこう。なんか桜さん黒っぽくなってたし。あれなんなんだっただろう。

 

そんなこんなで迎えた俺たち2日目の初配信リレーだったんだけど、ういはが恐らく突拍子のないことをやり出すのは目に見えていたのでどうにかアルスと俺の常識人とういは、という構図にしたかった。ツッコミ役は多いほうがいいですよ、と剣持先輩がしみじみと語ってきたからね。

 

そして始まったういはの初配信。当初北高U-tu部らしからぬ清楚な見た目と雰囲気を醸し出していたため、遂に北高に清楚が現れた!などと言われていたんだけど…まあ、ういはが清楚とか笑っちゃうよね、とアルスに言ったら

 

「いや、まゆくん笑わないじゃん」

 

俺結構笑ってるつもりなんだけどな…

 

そんなことはどうでも良くて、ういはは何を思ったのかヘリウムガスを吸引し始めた。初配信っていうみんなに声や顔を覚えてもらう機会に声を変える奴がいるだろうか。ういはならやりかねないという覚悟がなければ危なかったね。

 

そんなこんなで比較的無事終わったういはの初配信。後は椎名先輩に続く第2の大福などとありがたいあだ名をデビュー前から貰っているアルスだ。既にネタキャラ扱いされつつあるし、さすがにこれ以上変なことはしないでしょ。やるとしたらセルフで頭をイジるくらいかな。

 

「本日はお忙しい中、お集まり頂き、ありがとうございます。この度、アルスアルマルは、とても痛々しい黒歴史なるだろう初ツイートをした件について謝罪と釈明会見を行いたいと思います」

 

そう思ってた俺を誰が責められようか。初手ヘリウムガスと初手謝罪会見の同期でしょ?俺なんにも用意してないんだけど。

この瞬間この3人の中で俺がこの2人をリードしていくっていうことが視聴者に伝わってしまった。せめてういは1人対俺たち2人なら何とか一瞬張り合える瞬間が出来たかもしれないのに俺1人でういはの制御なんてできるわけが無い。これから朝起きてから夜寝るまで、もしかしたら寝てる最中にもういはに振り回される可能性がとても高い。俺の胃持ってくれよ…後で胃薬買ってきてもらおうかな。ほんとに。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

時の流れは残酷なもので、あっという間にういはとアルスの初配信が終わり俺の配信開始から30分程経過し、そろそろ締めに入らないといけない時間帯になっていた。どうやらコメント欄を見る感じだと既にまゆママだのママずみだの保護者枠は確定したらしく、俺の良くない予想は大的中してしまった。

最後に同期3人で企画をやりましょう!とういはが言い出した1人1コマ漫画を書いて3コマ劇場をやる…んだけど、ういは以外パソコンに絵を描くツールなんて持ってないし、アルスはいらすとやを駆使した画像を作っていた。俺はどうにかマウスで殴った。殴っときゃだいたいオチるでしょ。そもそも1コマ目2コマ目知らないのにどうやってオトせって言うのさ…。そんなことをボヤくとまたコメント欄がまゆママで埋め尽くされる。苦労を分かってくれるのはありがたいけど、見ず知らずの大人が俺の事をまゆゆだのママだの呼んでくるのはちょっと気持ち悪いね。この辺も慣れるんだろうか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お疲れ様ですー!!」

 

「おつかれさまー」

 

「お疲れ」

 

無事初配信リレーを終えた俺たち3人は通話でお疲れ様会をしようということで通話を繋いでいた。ちなみに俺の乾杯ドリンクはリップノイズ対策用に置いてたリンゴジュースとガーナのボトルチョコ。

 

「それじゃあ僭越ながら、リーダーの私、相羽ういはが乾杯の音頭務めさせていただきます!」

 

誰も何も言ってはいないが俺たち3人のリーダーはういはになった。なんだかんだ俺達を先頭に立って精神的にも物理的にも引っ張り続けてるのはういはだし、それが順当だろうということで異議なしでの決定だった。

そしてもうひとつ決まったこととして、俺たち3人のグループ名は「ぶるーず」になった。3人のイメージカラーが青系統だからぶるーず。安直だけど分かりやすくていいんじゃないかな。ひらがなにした理由は

やはりういはがひらがなの方が可愛くて馴染みやすいと言ったからだ。しかし、ブルーズだといわゆるブルースなどに検索被りするから良かったかもしれない。

まあ、そんなわけで俺たちぶるーずのお疲れ様会が始まる。

 

「「よっ!」」

 

「ぶるーずとして長く楽しく活躍出来る事を祈って、かんぱーい!」

 

「「かんぱーい」」

 

こうして改めてぶるーずの決起集会が始まった。

俺はその後配信した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「黛さんずるいですよ!私あの後すぐに寝ちゃったのに…ふあぁ…」

 

今日も登校中に捕獲された。40分足らずとはいえ初めての配信活動。ういはなりに緊張して気疲れしたんだろうか、珍しく寝過ごしそうになったんだろうか、珍しく寝癖がついていた。

 

「ういは寝癖つきっぱなしだよ」

 

「え、まじかぁ…急いでたから気づかなかったわぁ」

 

何となく寝ぼけているのかふわふわしてるういはの後ろからいつも通りもちもちしたのが来た。

 

「ういはちゃんボクの櫛使う?焼け石に水かもしれないけど…」

 

「ありがとうございますアルスさぁん…なおりますかねぇ…なおってます?」

 

「うーん…ダメっぽいね。」

 

なかなか頑固な寝癖は櫛で梳かす程度じゃ太刀打ちできなかった。するとその時

 

「可愛い後輩がお困りのようですねぇ、夜見のマジックでなおして差し上げましょう!」

 

「それとも私の薬使いますか?1発でどうにか…これ…あれ、これ何の薬だったっけな…」

 

1ヶ月程先にデビューしたSMC組の夜見さんと葉加瀬さんがそれぞれの特技で助け舟を出してくれた…けど多分良くて現状維持運が悪けりゃ髪が爆発するとか身長が縮むとかありそう。

 

「ありがと〜でもトイレでなおせるから大丈夫!アルスさんしてもらいなよー」

 

「うぇ!?なんでボクなのさ!寝癖ついてないからいらないよ!」

 

「じゃあ今度寝癖ついてる時はやってあげますねぇあ〜」

 

「任せろぉー」

 

「い、いらないよ…」

 

しかし葉加瀬の自身は一体どこから出てくるんだろうか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「いやぁ~大変やったねぇ〜」

 

「そうですねぇ…わたしに至ってはもう…通信環境が悪いとかいう次元突破してましたもん…」

 

今日も放課後は誰に言われるでもなく部室に集まり、2日間にわたる初配信リレーが無事(?)終わったことをお互いに労っていた。

リリさんはほんとに大変だったと思う。珍しく初配信後は落ち込んでいたし、剣持さんにはほんと助けられた、としおらしくなっていた。さすがに俺もあの状態のリリさんを弄ろうとは思わなかった。

 

「絶対WiFi新しいやつ契約します。なるはやで。」

 

「ボクは強い回線のところをたまたま契約してたから助かった…」

 

ちなみに俺は師匠がどうせパソコンやるんなら強い回線持っとけ、という鶴の一声、及び出資により施設にはつよつよ回線が通っている。

ちなみに何故か防音室もある。なにかご都合主義のようなものを感じたが、損することでもないので有難く使わせてもらってる。

 

「月ノさんに報告してきましたぁー!お疲れ様ってお菓子とジュース貰ったのでみなさんでパーティしましょ!黛さん、机の上のもの片付けて貰えます?」

 

「了解。リリさん、テーブルに伸びてないでシャキッとしてくれる?片付けるよ?」

 

先程からテーブルに根っこでも生えたかのようにリリさんがベチャっとくっついていた。

 

「私がこうなってようとじゃまになっとらんやろがい!そもそも黛さんじゃ私動かせないんじゃないですか?」

 

「ういはがいるじゃん」

 

「他力本願っ!?」

 

「黛さん貧弱だから仕方ないですねぇ、ういはちゃんがやってあげましょう!」

 

「いやいやいやいやいや大丈夫です、動けます、動けますから、未来人自分で動けますからーほらほらーリリちゃん俊敏ーリリチャンカワイイヤッター」

 

「おおー普段から未来人を名乗るとはなかなかプロ意識が高いですね…私ももっとアイドルらしく振る舞わないと!」

 

「あははは……」

 

後々話を聞いたら動揺して口を滑らせてしまった。体中の穴という穴から汗が吹きでて、本気で終わったと思った。あの時ういはちゃんが私に未来人のRPを授けてなかったらほんとにやばかった。

焦りすぎて最後の方変なこと言ってたしあの慌てっぷりは見てて面白かったからヨシ。




スイヤセン…なんかもう色々忙しくって全然更新してませんでした。
これからも気まぐれ更新するかもしれないので気が向けばまたよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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