相羽ういはの憂鬱   作:鯖太郎

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相羽ういはの憂鬱Ⅲ ③

デビューしてから1週間ちょっと経った。夏休みは中学生の時よりも短くなったのに課題の質と量は増えていて、要領よくやっていかないとすぐにキャパオーバーしてしまいそうだ。それに加えてこのうだるような暑さ。元からあまり気温の変化や雨風など自然の猛威には全くの無力な俺が登校という名のハイキングなんてできるはずもなく、自由参加となった超常現象研究部には顔を出すことなく、施設にこもって子供たちの相手をして、課題をノルマ分、気が乗れば翌日のノルマも少し手をつけながら残った時間は配信と睡眠というライバーと学生の2足のわらじを完璧に履きこなしていた。ういはは配信時間こそ長くないものの、ゲームや料理、雑談など色んな企画を行っている。アルスはなんかまた謝ってた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あ、始まりましたか?」

 

「これでいいんじゃない?」

 

満を持して同期のぶるーずで初コラボ配信を行うことになり、今日は各々の家からマイクラをプレイしよう、ということになった。

北高U-tu部には共同のサーバーがあり、配信外でもそのサーバーを使って遊ぶことも出来る。これのおかげで予期せぬ突発コラボが生まれたり、大型コラボを企画して予定合う人全員で攻略したり、などと北高U-tu部の目玉コンテンツになっているのである。

…しかし、ういはがやろうと言い出したものの何やるかは全くの不明である。……なにやるの?

 

「ひとまず観光でもしましょう!」

 

というわけで俺たちは北鯖を色々見て回った。先輩たちがサバイバルのみでこれまでの建築物たちを作り上げていたのか、と思うと生徒であるものの配信者として尊敬の意を抱かずにはいられない。

途中同い年の先にデビューした人達とばったり遭遇したりなんやかんやあったりしたが、それなりに面白い配信になったんじゃないかな。他の人の建築物を壊したり景観を破壊したりしてはいけないからクリーパーには今までで1番緊張したけどね。

俺も先輩方に負けないよう個性的な建物を…自発的に建てようとは思わないけどぶるーずで、とか大型コラボで作っていく機会があればやりたいな。拠点はひとまず隠れ宿みたいにするつもりだから大きな家を建てるつもりはないしね。

 

配信後3人で反省会と称して通話を繋いでいたけどアルスもかなりこの世界でやり込みたいような感じだったのでこれからマイクラ配信が増えそう。コツコツやるのはアルスの性格にも合ってそうだしね。

ういははあんまりゲームをがっつりやるつもりではないらしいけどどうだろう、思いつきで色んなことをやるから無茶ぶりに対処できるように準備しておかないとな。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「暑い…溶ける……」

 

「あづー…ボク煙とか出てない?焼けてない??」

 

「もう、2人とも鍛え方が足りないんですよ!ちゃんと普段から運動して外に出てないからこんなことになるんですから!ほら、シャキッとして!!」

 

「そもそもさ、この暑さの中ここまで俺とアルスが来れたことを評価してくれてもいいんじゃない?」

 

「そぉだよぉぅ…」

 

コラボ配信から数日後、超常現象研究部の活動で駅前に集合させられていた。無茶ぶりに対処しなきゃと考えてはいたけど配信以外でも振り回されるとは…真夏のこんなに暑い日にわざわざフィールドワークをするのは非効率的すぎる、もっと涼しくなってからにしないかと提案したものの、それはういはによって却下された。曰く、

 

「黛さんそうやって先延ばしにして結局いつ言っても家から出てこないじゃないですか!なので明日で決定です!いいですね!返事ははいかYes以外認めません!」

 

だそうな。まあ、実際冬に提案されていたら寒いからと言って断っていたけどそんな四季の極端なところで外を歩き回る活動はどう考えても非効率的そのものだしピンピンしてるのはういはだけだと思うんだけど。

 

しかし悲しいかな、一度やると決めたういはの心を動かすことができる人間はこの世にはいないのである。アルス?俺?弾き飛ばされて終いだろう。俺たちの担任は既に制御を諦めて俺たちに任しているけど一度も成功していない。例えあの月ノ美兎先輩をもってしてもういはを制御するのは難しいかもしれない。神?知らん。そんなもの俺は信じてない。

こうして半ば強制的にこの夏の暑さを思う存分に味わうことの出来る地獄の散歩に引きずり出された訳だが…

 

「しっかしこんなに晴れますかねぇ…未来より暑いかも」

 

「こんな地球が暑いとは知らんかったぁ…」

 

未来人も宇宙人も現代の地球の暑さにやられていた。多少俺よりかは立てている分ましなのだが…問題は横のこれだ。

 

「あ゙ぁ…○×*%°#&…」

 

アルスが完全に溶けきって元から怪しかった滑舌ももはや言語としての形を成していない。良くリスナーからもちもちした滑舌と言われているが熱でとけるところまでもちもちにならなくてもいいんだけど。

ほら、ここまでアルスがやられてるんだからういはも勘弁して…

 

「何言ってるか分からないですけどとりあえず行きましょ!歩いたら元気になりますからねー」

 

してくれないんだね。憐れアルス。…と俺。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

ただフィールドワークとは言いつつも我々超常現象研究部は超常現象を研究する訳では無いので、高校生の夏休みらしいことをやることをういはが勝手にフィールドワークと命名しただけだった。

なので第1回のフィールドワークは近くのカフェで作戦会議を行うこととなった。議題は「高校生の夏休みらしいことと言えば」

 

「じゃーリズムに乗って行きましょう!せーの、プール!」

 

「…え、ボク!?…えっとえっと…花火!」

 

ういはは会議とマジカルバナナの違いを分かっているのだろうか。

 

「ういは、カフェに来てるんだしあんまり盛り上がるような事はやめとこう。普通に案出ししていこうか。例えば夏祭りに行く、とかどうかな。」

 

「そうですね…ちょっと楽しくって舞い上がってましたすみません…それはそれとして夏祭り頂きです!」

 

一応店員さんらしき人に頭を下げておくと笑顔で大丈夫だと伝えてくれた。ありがとうございます。

 

「なんか私たち蚊帳の外になってへんかこれ…」

 

「ですね…ういはの暴走のとばっちりをアルスさんが受け、黛さんが制御する…我々、いらなくない「お2人は何か案ありますか?去年どのようにしてたとか参考になりますし!」

 

ういはの得意技、キラーパス。

 

「びっくりした…そうですね、バイトとかどうですか?」

 

「そやねー、高校生らしいと思う!1日だけのもあるっちゃんね」

 

「なるほど…バイトいいですね!ちなみに去年の夏休みお2人はバイトされたんですか?」

 

「私は近くの球場に単発で行ってました。仕事少ないし休憩時間長いので楽でしたよ?」

 

「私はやってなかったけど友達がスーパーの着ぐるみ着て風船配っとったけんちょっかいだしに行ってた…えへへ」

 

「ほおぉ…ちょっと詳しく教えて貰ってもよろしいでしょうか!」

 

「よかろぉ!まず場所はぁ…」

 

結局一日目はこうして案を出したり煮詰めたりして終了したのだが、それにしてもかなりの量が出てきた。2日に1個消費してギリギリ間に合わない程の計画がういはのノートには書き記されている。プールに花火に夏祭り、バイト、などなど…しかしういはが何も言わずに書き足していた虫取りは果たして高校生らしい行為なのだろうか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

さて、そんなわけで俺は今近くの山の中の公園にいる。そう。例の虫取りである。そして例にももれず暑い。そんなわけ、に俺が山の中にいるまでの過程が省略されることになるとは数ヶ月前の俺には到底考えられなかった。ただ、当初回ってきた予定では中央運動公園に集合し、それから山登りをすると書かれていて4人全員からやめてくれと秒速で返信が来たのはまた別の話。

 

「ちぇー…みんなで山登りしたかったのに…」

 

「そんなことして生きていられるのういはだけだから…」

 

「いやー、山登りとは言ってもこの山低いですし小学生もよく居ますよ?少年野球の新年最初はここに登ったってクラスの人も言ってたんですし。」

 

「いや、それにしても間違いなくボクたちの集合場所からは行かないでしょぉ…徒歩1時間かかるって書いてあったじゃん…」

 

「最初リリさん無言でグループ抜けたもんね」

 

「当たり前でしょう!?こんな猛暑の中1時間も山登りできるわけないでしょうが!…ういはろから鬼電来たので戻りましたけど…」

 

「こわぁ…そりゃ戻るわな…」

 

「りっちゃんも気をつけなよぉ…なぁにされるかわかんないんだもん」

 

「やだなぁアルスさん、そんな私が化け物みたいな言い方辞めてくださいよぉ!」

 

実際フィジカルモンスターだから間違ってはないんだよなこれが…

 

「黛さん何か失礼なこと考えてません?」

 

「あ、え、いや?そんなことないよ?」

 

宇宙人に魔法使いに未来人までいるけど、この中で1番人間離れしてるのはやはりういはに間違いない。

 

「さ、行きましょう!疲れてる場合じゃないですよぉ?今からハイキングですから!」

 

間違いない。


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