報われない愛のおはなし   作:加賀崎 美咲

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第3話

 とおい、とおい、むかしのはなし。

 

 キャメロットにお城が立つよりも前の、もっと昔の話。

 

 ブリテンは今よりも、ずっと小さな島だった。

 

 狭い島なのに、妖精はいっぱいいた。いっぱいいたから、みんな争った。

 

 あの山に住みたい。あの綺麗な景色を独り占めしたい。川で水遊びがしたい。

 

 理由はいっぱいあったけれど、方法はいつも一つ。

 

 殴って、蹴って、食って、刺して、斬って。殺す。気に入らないやつ、邪魔なやつを気の向くまま痛ぶる。

 

 たくさんの血が流れた。

 

 本当にたくさんの血が流れた。

 

 それでも、誰も止めようとはしなかった。

 

 自分の楽しいことの邪魔になるなら、誰かを殺すのは当たり前のことで、みんなが仲良く生きられる世界を作るなんてめんどくさいこと、誰も考えない。

 

 そんなことより、もっと楽しいことをしていたい。だから世界は変わらない。誰も変えようとしない。

 

 優しい人はそんな当たり前をおかしいと言った。

 

 みんなが笑って、殺し合うこともなく、穏やかに過ごせる。そんな優しい夢のような世界を、優しい人は作りたいと言った。

 

 そして私たちの旅が始まった。

 

 優しい人、救世主と呼ばれたトネリコ。と、その一行。

 

 不死身のエクター。

 

 排熱大公ライネック。

 

 始まりの騎士トトロット。

 

 そして私、初代妖精騎士『モードレッド』。

 

 トネリコは色々なことを知っていた。巡礼の鐘を鳴らし、厄災を退け、妖精たちの氏族を少しずつまとめていく。

 

 トネリコは初めから、その手順を知っていて、あとはどう上手くこなしていくか。それはとても長い旅だった。私の作ったトネリコの靴が、何度も代替わりするくらいの長い旅路。

 

 少しずつ、ブリテンは良い国になっていった。痛めつけるのを我慢して、話し合う妖精たちが増えた。もっと暮らしが仲良くなるように、手を取り合う妖精たちが増えた。

 

 私はその為に、トネリコにさせられない汚いことをした。

 

 北に行っては争いあう部族の今代を両方滅ぼした。

 

 東でか弱い妖精たちを奴隷のように酷使する嫌な妖精の腹を裂いて、動物たちの餌にした。

 

 西だと豊かな森を独り占めするいじっぱりをバラバラにして肥やしにした。

 

 南ではトネリコを害そうとした村が一つ海に沈んだ。

 

 こんなことを何度も、何度も。トネリコには言えない。上手く黙ったまま終わらせた。

 

 トネリコは救世主だから。こんなことをする必要ない。優しい人だから。みんなに好かれる救世主が、こんな後ろ暗いことをしていいはずがない。

 

 だから私が代わりにやった。彼女の代わりにやった。

 

 ずっと綺麗なままでいて欲しい。汚いのは私だけで十分だと、本気で思っていた。

 

 トネリコの評判に傷をつけない為、元の名を捨て、仕事をしている時は仮面を被って正体を隠した。

 

 そして仮面卿なんて名前がつく頃、私の殺した妖精たちの死体の山が一つの地方に変わった。

 

 けれど、それもやっと終わる。ついに、このブリテンに平和が訪れようとしていた。

 

 私たちの冒険は無駄じゃなかったんだ。

 

 トネリコは人間のウーサーが組織した円卓軍と協力して、六の妖精氏族をまとめ、その徴となる王にはウーサーがつくことに決まった。

 

 そんな大冒険の終わりが半年前のこと。

 

 ロンディニウムで行われる戴冠式に向かう足取りの軽い旅の途中、今日はもう遅いからと森で野宿をすることになった。

 

 私が焚き火の近くで、森の獣たちが来ないか見張る不寝番をしていると、こちらに近づく誰かの足音。

 

 トネリコだった。少し眠そうに瞼をこすりながら来ると、目が合うと笑って私の横に腰を下ろした。

 

 焚き火に照らされて、トネリコの金の髪が煌めいていた。

 

「モードレッド。私たちの旅も、ようやく終わりが見えてきましたね。これまでの長い間、本当にありがとう。あなたには何度も助けられた」

 

 お礼なんて不要と伝える。だって私は、あの日、滅びようとしていた私を見つけてくれた、あなたの役に立ちたくて、今日まで一緒にきたんだ。

 

 そう伝えるとトネリコは少し恥ずかしそうにして、これからのことを話しだした。

 

「もうすぐそのブリテンは統一されて、一つの国が生まれます。そうしたら楽園から派遣された妖精である私の役目も終わり」

 

 重大で難しかった役目から解放されるというのに、トネリコの面持ちは暗い。

 

「そうしたら、そうしたなら……。どうしましょうか?」

 

 何かを期待するような声色で、そんなことを聞かれた。私はトネリコの役に立つなら、何でも良かった。どんな簡単な雑事でも、難しい苦難でもやり遂げてみせる。

 

 むしろトネリコの使命が終わっただけのことで、私が彼女の下から離れるはずもない。

 

 私の全ては、ただトネリコが笑って欲しいから。その理由は出会った日から変わらない。

 

 私はずっとトネリコと一緒にいたいのだ。

 

 私の言葉を聞くと、「はい、そうですか」とトネリコはしばらくそっぽを向いたまま。

 

 鼻歌など歌って、何だか嬉しそうだ。トネリコが嬉しいなら、私も嬉しい。

 

「なら、まだまだ旅を続けることにしましょう。そうだ! 初めはアヴァロンに行ってみませんか? 帰郷なんて、新しい旅の第一歩にはピッタリじゃないですか」

 

 それは面白そうだ。ブリテンとは違う妖精の世界。トネリコの生まれた場所。きっと素敵な場所に違いない。

 

 もうすぐブリテンが生まれ変わる、今までで一番おめでたい日。それがやってくる。

 

 

 

 ●

 

 

 

「何で⁉︎ 何でなの⁉︎」

 

 地獄のように燃え盛るロンディニウム。めでたいはずの戴冠式は一瞬にして地獄と化した。

 

 ウーサーたち人間は毒を盛られ、輝かしい王都には火が放たれた。

 

 人間たちに統治されることを嫌がった妖精の一派の仕業だった。

 

 あちらこちらから、妖精の兵隊がやってくる。残りの円卓軍を殺し尽くすため。

 

 そして救世主を殺してこんなことが、二度と起こらないようにするため。

 

 まだ起きてしまったことを受け入れきれず、泣いたまま錯乱するトネリコを抱え、ロンディニウムの街だった場所を駆け抜ける。

 

 ロンディニウムの城は、脱出口をわたしが赤雷の一撃で作ったせいで半壊していた。廃城を尻目に私はトネリコを連れて逃げた。

 

 どこまでも逃げた。

 

 やっとの思いでロンディニウムを脱出して、郊外の森の中に身を潜めた。腕の中のトネリコはブツブツと何かを呟いている。

 

「もうダメだ。どれだけ手を尽くしても、言葉を尽くしても、妖精たちはダメなんだ。支配しなきゃ。あいつらの気持ちなんて、考えなきゃよかった」

 

 そこにあったのは裏切られた悲しみでなく、仲間を殺された怒りでもなく、あまりにも暗く深い絶望だった。

 

「私は妖精を許さない。私は妖精を救わない。私は妖精を許さない。私は妖精を救わない」

 

 トネリコに私は何もしてあげれない。

 

 後日、トネリコは毒を盛ったあの妖精を、魔術によってトネリコそっくりに作り替えて、処刑の身代わりにした。

 

 私はトネリコが手を汚すのを止められなかった。

 

 北の最果て。オークニーに向かう途中。灰の雨が降り続ける寒い世界。奇しくも、私たちの出会った日とよく似た日。

 

 何も期待していない瞳で、トネリコ。否、モルガンは道具()に言った。

 

「モードレッド。私はもう平和な方法で妖精を救いません。支配します。何もできないように。私が思うままに、この世界を動かせるように。そのための長い旅になります」

 

 ——そうやってこのブリテンに、今度こそ永遠の平和をもたらします。

 

 優しい救世主は死んだ。

 

 残酷で冷酷な女王が生まれた。

 

 四百年後、モルガンが最果てより帰還した。その日に私を使い、六の妖精氏族を半分に減らして、彼らを支配して、瞬く間にキャメロットを王都に変え、妖精國を建国した。

 

 妖精たちの時代が終わり、女王モルガンが統治する時代が始まった。

 

 それは暗黒の時代といっても良いのかもしれない。

 

 妖精たちには令呪が刻まれ、生きることの税として魔力を徴収した。出来なければその妖精は死ぬ。

 

 女王の役に立たない妖精は生きることを許されない。この国の全てはただ一人、女王のためにあるのだから。そうやってブリテンは生まれ変わった。

 

 私は妖精歴から仮面卿の名を引き継いだ。女王のためにどんな汚れも引き受けよう。そう名に誓って。

 

 いつからか、より多くを殺すために聖剣を授けられるようになって、女王の統治に逆らう沢山の妖精を滅ぼした。

 

 百年に一度の厄災も、千年に一度の大厄災も薙ぎ払った。

 

 何度も、いくらでも、殺して、壊して、滅ぼして、いくつもの亡骸の塔を築いていく。

 

 私はそれでも良かった。悪政だろうと、暴君だろうと、それがモルガンの望んだことなら。彼女がそれを望むなら、それは私の望みだ。

 

 彼女が望むなら、いくらでも殺そう。女王の統治の邪魔になる全てを滅ぼした。嫌悪していた妖精たちと同じことを私はしていた。

 

 けれど、それは間違いだった。

 

 女王がブリテンを支配した数百年。モルガンはめっきり笑わなくなってしまった。あの時の、この島のどの花よりも美しい笑顔を咲かせない。

 

 いつも苦しそうで、悲しそうで。あの日沈んだ絶望の湖から、彼女は帰らずのまま。

 

 そして気がついた。気がついてしまった。

 

 どれだけ上手く支配しても、妖精國が永遠に続こうと。モルガンが幸せになることはない。

 

 女王でいる限り、モルガンは永遠の不幸にいる。

 

 ある時、二人でキャメロットの城から城下町を眺めた。妖精たちを冷たい目で見下ろしながら女王は私に答えを求めた。

 

「私の国はどうだモードレッド? あの頃とは違う。氏族同士の諍いも、厄災で滅びかけることもない。良い国になったと思うか?」

 

 私は、良い国だと答えた。女王は満足だと言う。

 

 でも、ならば、何故。「あなた」はそんな悲しい顔をするのですか? 良い国になったといいながら、モルガンはそれを認めていない。おそらく、本人はそれに気づいていない。無意識に直視することを避けてすらいるのかもしれない。

 

 許せない。モルガンにあんな顔をさせてしまっている自分が許せない。

 

 この頃から、私は女王の統治を壊すことを決めていた。

 

 誰に言われたからではなく。私の意思で、モルガンを傷つけることにした。

 

 女王をブリテンから救うために、妖精國を滅ぼすことを決意した。

 

 マーリン。汎人類史の並行世界からやってきた、モルガンとは違う楽園の妖精と出会ったのは、私が叛逆を決意して数百年も経った頃だ。

 

 彼女は現在を見通す千里眼で妖精國の現状、私の意思を見通し、私にその方法を授けてくれた。

 

「モードレッドの名を持つ君に協力するのは、少し思うところはあるけれど。これはこれで面白い結末を見られそうだ」

 

 彼女はそんなことを言っていた。

 

 私はマーリンの助言に従って最果てに向かい、そこで封印されていた星の兵器、星が鍛えた最強の幻想兵器であるエクスカリバーを持ち帰った。

 

 あとは鏡の氏族のエインセルが残した予言の歌にある、予言の子がやってくるのを待った。

 

 心のどこかで、そんな日が来なければいいのにと願いながら。

 

 

 

 ●

 

 

 

 マーリンを抱えてキャメロットの街を駆け抜ける。私を捕らえようと襲いかかる妖精兵を可能な限り殺さないようにしながら、私は走り抜け3枚目となる城壁を破り、もうすぐ街の外というところで、聞き慣れた飛行音を避けた。

 

 舞い降りる青の鎧。最速の妖精騎士ランスロットが下手人を捕まえるべくやってきた。

 

 キャメロットから脱出するために考えられる最も厚い障害。

 

「……その妖精を庇って、女王陛下に武器を向けたのは本当?」

 

 まだ信じられないという声色。両腕のアロンダイトはらしくもないほど、躊躇いに揺れていた。

 

「……本当のことだ。そこをどいてくれランスロット。君とは戦いたくはない」

 

「陛下より、そんなにもその妖精が大切か!」

 

 アロンダイトが振われる。目で追うのがやっとの斬撃が踊り舞う。

 

 普段ならまだしも、今は片腕でマーリンを抱えている。満足に剣を振ることもできず、赤雷も飛ばせない。

 

 アロンダイトの軌道に沿って剣を置き、なんとか致命傷だけは防ぐ。それも長くは続かない。

 

 実力はランスロットの方が上。それは分かっていたことだ。

 

 圧倒的な手数を前に、少しずつ傷が増えていく。せめて虫の息のマーリンに、これ以上傷を増やさないよう、時々自分の方から刃に当たる。

 

 それをランスロットは気に食わなかったらしい。

 

「女王の妖精騎士がなんて情けない姿。そんなにその妖精が大切か。恥を知れよ裏切り者。どうして裏切った!」

 

「裏切らなければいけない、理由があった!」

 

「そんなもの、あるはずがないだろ! 従う者はどんなことがあっても、最初に誓った人に従っていくべきだ!」

 

 これは従う者としての、吟味の違い。私はそれに否と言う。

 

「相手の綺麗なところしか見ない君はそうだろうな!」

 

「何が⁉︎」

 

「主人が間違っているのなら、正すべきだ。たとえその結果、愛した人から憎まれようと」

 

 救うために傷つける。矛盾した目的のため、私は女王を裏切ることにした。

 

「都合の良いことばかり! ——アロンダイト!」

 

 もう聞いていられないと、ランスロットが決着をつけようと決めにきた。溢れんばかりの魔力がアロンダイトに注がれ、隠されていた本当の刃が飛び出した。

 

 完全励起によって、アロンダイトの輝きが増してゆく。まともに食らったのなら、無事で済むはずがない。

 

 ランスロットは最速の妖精騎士。回避は無理だ。

 

 ならば正面から迎え撃つしかない。量産型聖剣では無理だ。以前模擬戦で試して、ダメだった。

 

 ここで抜くことは、後々不利に響くことが分かっているが、他に選択肢もない。

 

 隠していた黄金を解き放つ。女王すらも知らない、私の妖精法則。その一つ。

 

 背後の空間が波打って、中から隠されていたエクスカリバーを引き抜き構える。

 

 鋒の向いた聖剣にランスロットは怪訝そうな顔。それはそれまで

 

「それが君の切り札? まあ、なんだっていい。ここで君は僕に敗れるのだから! 真名、偽装展開。清廉たる湖面、月光を返す。──沈め、 『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』!」

 

 展開されるアロンダイトの二刀流。その二つの鋒は私とマーリン、その両方を正確に貫く軌道。

 

 一か八か。聖剣に魔力を流し込む。

 

 けれど一度だけ輝いて、何も起こらなかった。

 

 ——否決。これは聖剣を振るうに能わず。

 

 知らない声が頭の中に響いた。

 

 聖剣は応えてくれなかった。ただそれだけ。

 

 間抜けに振りかぶる動作は空回りして、もうどうしようもない隙を生み出す。

 

「覚悟!」

 

 アロンダイトが私の身を割いた。流麗な一撃は、容易く私を二つに両断して転がる。近くに同じようになったマーリンが落下した。

 

「こんなことになってしまって、残念だよ仮面卿。否、モードレッド……。——⁉︎」

 

 一度は好意を抱いた相手。せめて安らかに埋葬してやろうとモードレッドだったものを拾い上げたランスロットは息を飲む。

 

 それはただの花の束だった。自分は確かに斬った相手を拾い上げたはず。しかしそこには、色とりどりの花があるだけ。

 

 やられたと、ランスロットは自分がいつの間にか、幻惑の魔術の、その術中にいたことを今更自覚した。

 

 周囲を見渡しても、どこにもモードレッドとマーリンはいない。二人は最強の妖精騎士から、命からがら逃げおおせたのだった。

 

 拾い上げた花を捨てて、ランスロットは穴の空いた城壁、その向こうに目を向けた。

 

「よくやるよ。いいさ、次は逃さない。君がここに来ることは分かっているんだ。なら、僕は君を待ち構え、今度こそ捕まえてみせよう」

 

 ——もう、君は僕のものだ。

 

 避けられない運命が一つ、また積み重なっていく。

 

 

 

 ●

 

 

 

 キャメロットから脱出した後、私はマーリンを連れて、郊外にある誰も知らない拠点の一つに身を寄せた。

 

 傷ついたマーリンをベッドに寝かせ様子を見る。

 

「……ひどい傷だ。これはもう……」

 

 既に虫の息の身で、ランスロットを騙しきる大規模な魔術の行使は、引き返せない度合いでマーリンを衰弱させていた。

 

 それがなければ、まだ一命を取り留める可能性があったのかもしれない。

 

 私のせいだ。あの時、私が聖剣を使えていたのなら、マーリンは魔術を使う必要はなかった。

 

 私が殺してしまったようなものだ。

 

「気にすることはないよモードレッド。これは私が望んでやったことだ」

 

 意識を朦朧とさせながら、マーリンは何とか言葉を紡いでいく。

 

 酷く弱っているくせに、心配をかけまいという声色。らしくもない彼女の振る舞いは、それだけ後がないことを示していた。

 

「申し訳ないのだけれど、どうやら私はここまでみたいだ」

 

「マーリンすまない、私のせいで君は……」

 

「おおっと、それ以上は言いっこなしだ。私は自ら君に協力をすることを決めて、こう言う結末も、まあ、織り込み済みではあったよ」

 

 それ以上言うことは無粋だと、マーリンのか細い白魚のような指が私の唇を塞いだ。

 

「大丈夫、またきっと会えるよ。次の私がきっと君の力になる。それはきっとだ」

 

 花の魔術師はでも、と名残惜しそうに呟く。

 

「でも。叶うのなら、君の道行を見守る役目は、今の私がやりたかった。それだけは少しだけ心残りかな」

 

「ありがとうマーリン。これまでやって来れたのは君のおかげだ。大丈夫、きっと次こそは上手くやってみせる」

 

 ハッタリだ。何故使えなかったのかも、どうやったら聖剣を使えるのかも、私には分からない。

 

 それでも去りゆく友人にせめて心配をさせまいと、そんな言葉をかけた。

 

 それを当然分かっていて、マーリンは苦笑する。

 

「はははっ、それは楽しみだ。君は自信がないかもしれないけど、安心していい。いつだって最後に勝つのは、愛と勇気って相場が決まっている。君は君の女王様を救える。今までたくさんの人の物語を見てきたマーリンお姉さんが言うんだ、間違いない」

 

 もう、お別れの時間。

 

「君の道行に、花の祝福が溢れんことを」

 

 それが私の友人の最後の言葉だった。

 

 妖精の体は崩れ、後に残ったのは溢れんばかりの花束。

 

 私の友人の祝福に満ち溢れた遺言は、どこまでも鮮やかに、私を濡らしていた。


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