Bazett in ClockTower (時計塔のバゼット)   作:kanpan

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バゼット求職編スタート。



第3章 What is Suitable Job?
第1話


かつて神話の時代のアイルランド、アルスター地方にて剣と魔法で活躍した赤枝の騎士団。

その精神を受け継ぐバゼットも戦闘力では先人たちに恥じるところはない。

だが、現代の赤枝の騎士には神代には存在しなかった新たな能力が求められている。それは経済力だ。

 

古代(いにしえ)の戦神の短剣だけならば大英博物館の展示品や貯蔵物になっていても問題なかったのだが、あいにくとその現身(うつしみ)は今の社会を生きている少女なのだ。

現代において、人はパンのみにて生きるにあらず。

生きる意義というものが重要なのである。

 

バゼットはロンドンの街中の公園のベンチに座り込み、アルバイト求人雑誌を真面目に読みふけっている。

 

時計塔にきて間もない頃に校舎を壊した代金はウェイバーが取りなしてくれてアーチボルト家が立て替えたらしいし、今の住居の家賃も結局アーチボルト家持ちだ。金を払えとは言われてないのだが、やはり一人前の人間たるもの自分の生活費は自分で稼げるようにならなければ。

 

それにだ、この前に月霊髄液を追って町に出た時に女子学生のシルヴィアが喫茶店で働いているのを見かけた。時計塔の学生たちは時折ああやって街でアルバイトをしているらしい。

私もやってみたいとバゼットは思った。そもそも学校に通っていない身の上だというのに社会経験において学生に遅れをとるわけにいかないではないか。

 

しかし、現在の時点でバゼットは既に3軒の喫茶店のアルバイトをクビになった。

1軒目は洗い場の仕事で皿を片っ端から壊してしまい、2軒目では厨房の手伝いで食材もろともにキッチンをぶった切った。3軒目ではアルバイトの女の子たちにセクハラしてくる店長を軽く殴った結果病院送りに。

 

ああ、社会は厳しいですね。

 

喫茶店はとりあえず諦め、他の仕事を探して求人雑誌を見ながら電話をしたが、5件連続で今後のご健闘をお祈りされたところだ。

特技はと聞かれて人を殴る事です、って答えたのはいけなかったのか? たぶんいけなかったのだろう。

さっきはこのベンチにまで「あなたの幸せをお祈りさせてください」という人がやってきた。お祈りはもういいです。

 

放心して座り込み、バゼットは呆然と空を見上げた。

目の前には青い空、白い雲。

相反してなかなか晴れない自分の前途。

ホントに戦闘以外で私がまともにできることはないのだろうか。

このままではダメ人間になってしまう。

 

「こんにちはお嬢さん」

急にバゼットの視界に、にょきっとアヤシイ中年男の顔が現れた。

「わ」

「ああ、驚かせてしまってすみません」

突然の闖入者に驚いてのけぞるバゼットに中年男はぺこりと頭をさげるとに丁寧に話しかけた。

「私はカメラマンでして、今写真のモデルになってくれる女の子を探しているのです。

 実は今日待ち合わせていた女の子が来なくて困っています。

 もし良かったら代わりにモデルになっていただけませんか。

 もちろんお嫌でしたら無理にとはいいません。ですが貴女はとても美人ですし、できたら是非お願いしたい…」

バゼットは即答した。

「引き受けましょう」

困っている人を助けないわけにはいきません。人の役に立つというのは良い事です。

「ありがたい!ではこのすぐ近くにスタジオがあるので、一緒に来てください。歩いてほんの数分ですよ」

 

 

ロンドンの裏路地の雑居ビル。ビルの表には飲食店やらスナックやらバーやらの看板がでているのだが、どれもくすんでいてまともに営業しているのかどうか怪しい。

実際はここはマフィアのアジトになっている。

男はこのビルの中の一室の奥のゆったりとしたソファに腰掛けていた。この男はマフィアのなかの1グループの頭であり、この部屋では彼のグループが日々のシノギのあれこれをこなしている。

 

彼の部屋の中に今、一人の若い女が連れ込まれてきた。

手下のチンピラがさきほど公園でひっかけてきたそうだ。

「ひひひ。おとなしくしな。お嬢さん。

 俺たちのいうことを聞けば痛い目にあわないですむぜ」

 

違法な賭博、麻薬の売買、銃器の密売、詐欺、恐喝など、このビルの中では様々なシノギが行われている。

彼のグループがこの部屋のなかでおこなっているシノギは街中でたぶらかして連れてきた女を裏稼業の仕事に売り飛ばすことだ。

 

マフィアグループの頭は手下が連れてきた女を眺めて品定めをする。

ダークレッドのショートカット。女にしてはやや長身で、すらりとした体型。

やや目元が鋭くてクールな印象だが、整った顔立ちの美人だ。

左目の下にある泣きぼくろも色っぽくていい。

 

スタイルは申し分ない。

一見スリムに見えながら服の上からでも大きさがよくわかるバスト、対照的に引き締まったウエストライン、滑らかなカーブを描いているカタチのよい尻の下にはしなやかさを感じる長い脚が伸びている。

 

手下のチンピラたちは女の肩に手を回して、馴れ馴れしく脅しをかけ続けている。

「ここまで来たらいまさらタダで帰れるわけがないだろ。

 おとなしく言う事をききな。悪いようにはしないからよ」

女は黙ったまま手下の顔を見ている。こんな場所に連れ込まれているにも関わらず動じる気配のない冷静な眼差し、引き締まった口元、落ち着いた佇まいは凛々しさを感じさせる。

 

手下が年齢を聞いた所、見かけよりだいぶ若かったらしく、

「手を出したらヤバいんじゃないですかね」

と日和っていたが、オトナっぽく見えるのだし化粧をさせれば十分18歳以上で行けそうだ。

頭は手元のファイルを引き寄せ、女を売り飛ばす客先を見繕い始めた。なかなかの上物だからこいつはどこにでも高く売りつけられる。

 

手下のヤロウは気の強そうな女だ、とか言ってたが俺はこういう女が好みなんだ。

気丈で易々と言う事を聞かない女を力でねじ伏せて服従させ、俺の命令に逆らえない奴隷に調教してやるのが最高に気分がいい。

どれ売り飛ばす前に、体のほうもじっくり確かめておかないとな。服の上からでは分からない事だってある。売り物の品質チェックはかかさない良心的商売がウチの信条だ。

 

「だれも助けにきやしねえよ。ここでは殺しだって罪に問われないんだぜ」

しつこく絡み続ける手下の言葉に対して

「なるほどそれは良かった」

いままで黙っていた女が初めて喋った。

その直後、人を殴る鈍い音が聞こえた。

 

「おいこら、商品(オンナ)を手荒く扱うな」

頭が顔を上げると、女を捕まえていた手下どもが吹っ飛ばされていた。

他の手下どもが慌てて女につかみ掛かるが、逆に投げ飛ばされたり、腹を殴られ悶絶したり、脚を蹴り飛ばされて無様に床に転がっている。

 

「頭!下がってください!

 女ァ、動くと撃つぞ」

部屋の奥にいる手下がピストルを取り出し女に向けて構えるが、女は何も気にしないで近寄ってくる。

「くたばりやがれ!」

手下がピストルを発砲した。だが弾は女に当たらず、というか女の方が弾をいとも容易くかわして、瞬く間に手下の頭を掴み、壁に叩き付ける。手下はそのままずるりと床にくずおれた。

 

マフィアグループの頭はあわてて携帯をつかむ。ビルの中の他のグループの頭に電話をかけ、相手が出るやいなや叫んだ。

「連れてきた女が暴れてる。なんとかしてくれ」

そこまで言った所で電話が奪い取られた。そして襟首を掴まれて引き寄せられる。

 

目の前に女の鳶色の瞳がある。獲物を狙う野生の獣のようだ、と感じた時

「ガツッッ!」

という衝突音と共に彼はおでこに強烈な衝撃を受けた。

目に火花が散ったのを見た後、彼の意識は暗転した。

 

 

ロンドン警察の刑事はマフィアのアジトで騒動がおこっているとの情報を入手し現場に向かった。

その雑居ビルはかねてからアジトとして利用されていることを警察も把握していた。

特に最近は街中で女の子に声をかけ、暴行の上売り飛ばすという悪行をおこなっているという報告をうけていた。だが今まで犯行現場を押さえることができず摘発ができなかったのである。

 

刑事がビルに踏み込んだとき、もう騒動はおさまってしまったのか人気を感じなかった。そのままビルに踏み込む。

入り口の付近に赤毛の少女がいた。マフィアどもがさらってきた娘だろう。

「安心しなさい私は警察だ。君はここでじっとしているように」

少女に声をかけてからビルのなかへ入る。廊下をすすみ警戒しながら部屋のドアを開けた。

 

部屋の床には無造作に10人ほどの男が転がっていた。皆、手や脚を折られて動けなかったり、頭を打って気絶していた。刑事は他の部屋も覗いてみたが、同様に動けない状態の男たちがマグロのように床に放置されていたのだった。

 

刑事が入り口にもどるとあの少女は言いつけ通りその場でじっと待っていた。

「ええと」

刑事はまさか、もしやと思いつつも、今出てきた部屋を指差しながら少女に尋ねる。

「あの部屋の中の有様、もしかして君が?」

 

 

刑事に

「とりあえず一緒に警察まで」

と言われ、バゼットはパトカーに載せられロンドン警察署に連れてこられた。

警察署の玄関でパトカーを降ろされた後、刑事は

「ここで待っているように」

とバゼットに言い残して署内に入っていった。

 

刑事が視界から消えてすぐに「プルル」とバゼットのポケットの携帯電話が鳴った。

バゼットがでるとウェイバーの叫び声が響く。

「バゼット!右、右向いて」

言われるがままに右のほうを向くといつの間にかウェイバーがいた。慌てた表情で建物の影から手招きしている。

バゼットは携帯電話をしまい、ウェイバーの元に駆け寄った。ウェイバーはバゼットの腕を掴んで走りだした。

「なんで補導されそうになってるんだよ。逃げるぞ!」

バゼットが抗弁する間もなく、二人はとりあえずその場から逃走したのだった。

 

 

刑事が警察署の玄関に戻ってくると少女はもうどこかに去っていた。

「残念だな」

とつぶやくと、刑事は玄関の受付係に封筒に入った書類一式を手渡した。

「もしあの女の子が戻ってきたら、これを手渡して上げてください」

 

その封筒の表面には

『ロンドン市警察 警察官募集要項』

と記載されていた。

 




バゼットの組織への所属意識とか、正義感などバランスを考えると警察官はわりかし似合う仕事なんじゃないかと思う。
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