Bazett in ClockTower (時計塔のバゼット)   作:kanpan

13 / 19
ウェイバーさんの人生相談所。
今日のお客は自虐モードのバゼットさんです。


第2話

「知らない人について行かない」

という幼稚園児レベルの説教の内容に、さすがにバゼットはむくれている。

 

ウェイバーは警察に補導されそうになっていたバゼットをギリギリで連れ戻して、街中の喫茶店にきている。

ここはウェイバーが時折おとずれるイングリッシュ・ティーの店だ。

紅茶とケーキやスコーンをつまみながら、ウェイバーはバゼットから先ほどの顛末の一部始終を聞き出していた。

 

大雑把にまとめると、公園でアルバイト雑誌を読んでいたら怪しい男に声をかけられ、ついていったらマフィアのアジトで、成り行き上壊滅させてしまった、ということになる。

 

「なんでそんなのについていくんだよ」

バカにしたように目を細めて聞いてくるウェイバーにバゼットはむっとして答えた。

「私の故郷ではあのように騙してくる人はいませんでした。

 なので、困っている人は助けるべきものと思ったのです」

バゼットの故郷は小さな村で、たとえ自分が知らない人がいても後で知り合いにその風体を尋ねれば、あれはどこそこの誰それさんだよ、とすぐわかる狭い世間だった。なので通りすがりの人間でもあまり警戒心を抱く事なく、道を聞かれれば案内するし、頼み事はできるだけきくものだと思っていたのだそうだ。

 

別に美人だとかいわれて調子に乗ったわけではありません、とバゼットは言い訳のように付け加えていた。

「いや、そんな風に思ってないから。都会はいろんな誘惑があるからさ」

不機嫌そうなバゼットをウェイバーは慌ててとりなす。

「あ、いえ、ウェイバーに怒っていたりはしませんよ。

あんなものに引っかかった自分自身がしゃくに障るのです」

ウェイバーの態度に気まずさを感じたのか、バゼットは声の勢いを落としてそう言うと、気持ちを誤摩化すかのように目の前のスコーンをかじった。

 

要するにバゼットは単にアルバイト先を探していただけだったのである。

結果として起こった出来事の規模としては信じがたい事であるが。

 

「バゼット、なんでそんなに働こうとするの?」

魔術協会と折り合いが悪いとはいえ、バゼットは由緒正しい名家の出身であり、協会内で下「には」置かない丁重な扱いを受けている。

もっともそれは、カタチだけの居場所を与えて何も求めないという飼い殺しとも言える扱いに過ぎないのだが、金銭の苦労はないはずだ。

 

ウェイバー経由でアーチボルト家が何かと生活に関わる面倒を見ているし、金が足りないというのなら多少は協会に無心することだってできるだろう。

バゼットの返答は意外だった。

「だって…、働くのは社会人の義務ですから」

へ?と思わずウェイバーはバゼットの顔を見つめてしまう。

バゼットは茶化して言っているわけではなかった。真顔だ。

そのあまりに魔術師らしからぬ、善良な一般市民的な価値観をこの少女の口から聞こうとは。

 

「人に認められる為には、きちんと組織に属し、役に立たたないとダメじゃないですか」

とバゼットは続ける。

なんとも生真面目な性分なのだ。

まあ、時計塔の学園の学生がアルバイトをしている所を見かけて対抗意識を抱いているだけなのかもしれないのだが。

 

「それに、自分の生活費を他人に頼っているようでは一人前の人間として恥ずかしいと思います。

 壊した校舎の修繕費や生活費をいつまでもウェイバーのお世話になっているわけにはいきません」

それは一般的価値観としては大変立派な心がけなのだが、魔術師の常識からするとずれている。魔術師というのは己の魔術理論の研究にのみ心血を注ぎ、その研究成果が評価されることこそを望むものだ、というのが魔術師たちの常識だ。

 

「ウェイバー、私はこのままでは『ニート』になってしまいます」

バゼットが言った聞き慣れない単語を聞いて思わずウェイバーは聞き返した。

「なんだよその『ニート』って?どこの国の言葉?」

「この国のですよ。ウェイバーの本棚にあった本に書いてあったんです」

ウェイバーはバゼットが家に遊びに来たときに、本棚の本はなんでも見ていいよ、と言ってある。本棚には魔術に関係する本の他にも雑多なジャンルの本が入れてある。バゼットが言っているのはどうも社会学系統の調査報告書のようだった。

 

それに、NEETという言葉が説明してあったのだそうだ。

正式には

Not in Education, Employment or Training

(教育、雇用、職業訓練に参加していない)

 

「それ私の事ではないでしょうか」

とバゼットは肩をすぼめながら言った。

「いやいや、バゼットの歳では問題ないよ。普通は学校に行っている年頃なんだし」

とウェイバーはとりなすのだが、

「私は学校に行っていないですから…」

このように聞く耳を持たないのだった。

 

ちゃんとした居場所を得て、人から認められたいという気持ちは、魔術師の常識をひとまず脇において考えれば、年頃の青少年のありきたりの気持ちではある。

それはウェイバー自身もかつてはそうだったのだし、よくわかる。

とはいえ、まだ能力が身に付いていない無力な青少年ならともかく、バゼットは既に人並み外れた能力を持っているのに一般的な居場所を求めるなんて変わっているなと感じてしまう。

 

バゼットは口に持ったカップの紅茶を一気にあおった後、下を向いてため息をついている。

ウェイバーが思うに、バゼットはあれこれ考えすぎて自分で勝手に傷ついている様子だ。

慣れない社会に出てきてなかなか馴染めず悩んでいるのだろうとウェイバーは思った。

 

社会の荒波にもまれる戦神の剣。

だが、物理的には周囲のほうが傷つきそうである。

バゼットが普通の仕事を求めようとも、

現代社会ではその身の力を振るう余地はほとんどないのだ。

 

それにだ、話が変わるのだが、今時計塔では複数の学生や講師が行方不明になるという事件が起こっている。

以前にも学業や研究についてこられなくなった学生がいつの間にか時計塔から姿をくらますことは時折あったのだが、最近の事件はやや様子が違って素行に問題のない者が突然消息を断つ。それも行方不明になるのはどうも時計塔の中ではなく街中に出かけている間なのではないかという噂が流れている。

それで時計塔では今、学生向けには一般社会での労働や交流は控えるようにというアナウンスがでており、講師たちも一般社会との交流を自粛している。

おそらく以前は街でアルバイトをしていた学生たちも今は働くのを止めているはずだ。

 

魔術協会の中で適当な仕事をバゼットに紹介できればいいのだけど、アーチボルト家側としてはバゼットの扱いは微妙で、あまり深入りしないようにとも釘を刺されている。

 

ウェイバーはふと思いついてバゼットに尋ねてみた。

「バゼットはフリーランスの魔術師として仕事をしてみるつもりはないの?

 時計塔の中にそういう魔術師に仕事を斡旋する場所があるよ」

魔術師の力はその世界で生かすのがまっとうだ。

「フリーランスってなんですか?」

「まあ単純に訳すと傭兵ってことさ。特定の組織に属してはいないけど、誰かからの依頼を請け負って仕事をする。

 優秀な成果を残せばそれが認められて名指しで依頼をもらうようになって稼いでいるヤツもいるよ。

 バゼットの能力を活かせるような戦闘よりの仕事もある。時計塔のなかでたまに依頼がでる仕事よりも難易度が高いし報酬もいいよ」

と説明すると、バゼットは興味を示したらしい。

「ふむ、そういう仕事をしてみるのもよいかもしれません」

さっきまでうつむきがちだったのが背筋を伸ばし、表情にやる気が戻っている。

 

バゼットにフリーランス魔術師への仕事斡旋をしている場所を教えると、

「では、ウェイバー、仕事を探しに行ってきます!」

と言い残してバゼットは店をでていった。

 

良い仕事が見つかるといいのだが。




第3章でバゼットが暴れないのはこの話だけです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。