Bazett in ClockTower (時計塔のバゼット)   作:kanpan

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インターン中のようなもの?

※今回から「残酷な描写」つきです。
苦手な方は今回と次回を飛ばしてエピローグを読む事をお勧めします。

あと、今回はバゼットのルーン魔術の独自解釈が多目です。


第4話

バゼットと執行者たちは森の中を進む。

遠くにターゲットの魔術師の館らしき建物が見えた。もうこの辺りにはその魔術師による結界が貼られているはずだ。

こちら側に執行者クラスの者が3人もいれば並の結界を破るのは容易い。とはいえ、結界に侵入する者に対して自動的に反撃する仕掛けが施されている場合もあるのだ。3人は用心しながら結界の中に踏み入っていく。

 

拍子抜けだが外敵を攻撃する仕掛けが動いた様子はなかった。バゼットと執行者たちはそのまま館に向かって近づいていった。

同時に徐々に大きな魔力の気配が接近してくる。それは1つの相手が発している気配ではない。大勢から発せられているものだ。敵の集団がこの先にいる。

 

バゼットが執行者たちの表情をちらりと見ると、坊主頭のアロルドは不敵な笑みを浮かべており、長髪のバルタザールは感情を表に出さないポーカーフェイスだ。バゼットは新しい革手袋をとりだし手にはめ直す。拳を握り込んで眉を引き締め進んで行く。

 

結界の奥へ歩みを進めることしばらく、バゼットたちの目前にその敵の群れは現れた。

それらは人型をした何かであり、その数は10や20ではない。50か100か?大群と言って良いくらいだ。

 

「ほう、はじめからお待ちかねだったみたいだぜ」

敵の群れを見たアロルドは、胸の前で一発拳を打ち付けると他の2人の方に振り向いてにやりと笑う。

「いくぜ、本日2回目の狩りの始まりだ!」

 

バゼットたちは3手に別れて敵に向かう。

バゼットが右手、アロルドが中央、バルタザールが左手だ。

始まりの号令と共にバゼットは敵に向かって疾駆した。走る速度を上げると同時に高揚感も上がっていく。

———今度こそ競争に勝利してみせる。

 

人型をしているこの敵たちはホムンクルスだろうか?と目の前に迫る敵の姿を捉えながらバゼットは考えた。

ホムンクルスが人型なのは一般的なのだが、大抵同じ所で使われているホムンクルスは同じような姿をしている。同じ術式で大量に生産される事が多いからだ。

ここに居る人型たちは見かけがみな違う。少年少女から老人まで、ジーンズにTシャツのような衣服を身につけている者から高価に見えるスーツやドレスを身につけている者までとバラバラだ。

 

「はっ———!」

敵の中に突撃したバゼットはまず体を沈めて目の前の小柄なホムンクルスに体当たりをかます。体当たりされた相手が後ろに吹っ飛び、後方にいた数体を巻き添えにして倒れた。バゼットは倒れた相手を踏みつけて、そのさらに後ろにいる敵に拳と蹴りを見舞って打ち倒す。

今の攻撃でざっと6体くらいの相手を吹き飛ばした。バゼットの周りにわずかな空間が出来上がった。これで格闘時の立ち回りがやりやすくなる。

 

バゼットは一旦拳を振るうのを止め、周囲ににらみを効かせながら構えを直した。その時、頭の後ろに気配を感じて身を翻す。

後ろから火球が飛んできたのだ。バゼットにかわされた火球は木立にぶつかった。バジュッ…という音とともに木が幹の中程から折れて倒れる。

 

バゼットが後ろにいた敵の方に向き直るとその手元に炎が宿っているのが見えた。バゼットは自分を取り巻く敵たちを、なるべく頭を動かさず視線だけで見渡した。火球だけではない。他の敵の手元にも、氷の刃や雷撃などの攻撃魔術がこちらを狙って構えられている。

———このホムンクルスたちは魔術も使うのか…。

 

 

「うおりゃぁぁぁ!」

坊主頭の魔術師アロルドは組み付いてきた相手を豪快に投げ飛ばした。そのアロルドの後ろから別の敵たちが次から次へと組み付いてくる。敵は先にアロルドに組み付いた仲間を考慮に入れる事もせずその上から更に覆い被さる。このまま仲間もろとも圧死させる勢いである。それを、

「ぬあああっ!」

気合い一閃、アロルドは自分の上に団子状になった敵の塊を吹っ飛ばして立ち上がった。仁王立ちになったアロルドの肉体は筋肉が膨張して以前の倍くらいの大きさになっている。彼は魔術回路を起動させる事により、筋肉を自在に増強させる事ができるのだ。

その丸太のようになった腕を振り回し、周囲の敵どもをなぎ倒す。彼の腕の軌道上にあった敵の頭はまるで風船のように破裂してその破片をまき散らした。

しかし、周囲の敵の数は多い。腕を振り回して一体ごとに仕留めていたのでは埒があかない。

 

アロルドは両手を組み、そこに魔力を集中する。手先が帯電し、火花を放ち始める。それを頭上に振りかぶり、敵の群れに向かって振り下ろした。電撃が敵を次々と捉え焼き尽くしながら森の中をほとばしっていく。これで20体くらいが一気に消えた。

目の前の敵を一塊片付けて一息ついたアロルドは隣で戦闘をしているバゼットの方を伺う。

「さあてと、あのお嬢ちゃんはどうしてますかね…」

 

 

火の魔術は氷のルーンで打ち消す。

風の魔術で作られた魔弾は移動のルーンで軌道を反らす。

雷の魔術での雷撃は雷神のルーンで相殺する。

 

バゼットは敵から打ち込まれる様々な魔術攻撃に対して、逐一それらに対抗するルーン魔術を発動していた。そして相手の魔術を受けきると自らのルーン魔術をそのまま拳や脚に載せて相手に打ち込み敵を粉砕している。

 

なんとも器用な…、とアロルドは不覚にも感嘆してしまった。魔術師はおのおの属性というものを持っている。火、風、水、地などと呼ばれるものが一般的な属性であり、魔術師たちは自分の属性にあった魔術を使うのが常である。アロルドの場合は雷系統の魔術を得意としているので強力な雷撃を放つことができるのだが、そのかわり火焔を出したり、突風を吹かせたりだのはできない。

 

その点バゼットが扱うルーンには他の魔術にない汎用性がある。ルーンはそれぞれが魔術的な意味を持つ文字の集合だ。その組み合わせにより無限ともいえるパターンの効果が現れる。そのため魔術師個人の属性にかかわらず多くの種類の魔術を扱う事が可能なのである。

———あくまで理屈上は。

 

ルーンは占いにも使われるように多少魔術の素養がある者なら誰でも扱える手頃な魔術である反面、強い威力を出そうとするならばそれは術者の力量にそのまま依存する。

ましてだ、バゼットのように戦闘中に激しく動き回りながら正確にルーンを刻んだり、あらかじめ仕込んだルーンに魔力を通して発動させることにより自在に魔術を使うなど、もはや職人芸というか曲芸の域に達している。

あれがフラガのルーン魔術か。1人の人間を幼少時から格闘術と魔術の鍛錬漬けにして受け継がれる技。まさしく秘伝といえよう。しかも今バゼットが披露しているのはそのなかでも表面的な技術に過ぎないのだ。

 

 

バゼットはルーン魔術を付加した格闘術を駆使して目の前の敵の一群を片付けた。わずかにできた余裕をつかって隣のアロルドの方を伺うと、向こうは両手から放った雷撃魔術で数十体の敵を一気に葬りさったところであった。

思わずバゼットの表情に苦みがはしる。今度は討伐競争に勝てるだろうと踏んでいたのに。さっきの雷撃でまた討伐数(スコア)をひっくり返された。

アロルドもバゼット同様に格闘戦を得意とするらしいが、バゼットは格闘術勝負ならひけはとらない自信を持っている。

だが、ああいった火力の強い遠距離攻撃手段を持たないのがバゼットの戦闘術の欠点なのだった。

 

それを一体どうやって補おうか。次の敵の群れに向かいながらバゼットは思索を巡らす。

あまり優雅な案ではないが、手を思いついた。

脚に強化のルーンを施し、敵に突進する。一瞬の判断で群れの中で比較的細くて軽い相手を選ぶ。

sowelu(ソエル)!」

ルーンを詠唱し魔術が発動すると相手が炎で包み込まれた。

「はあっ!」

バゼットは全速力で助走をつけて炎の人型となった相手を敵の群れのなかに蹴り飛ばして放り込んだ。瞬く間に炎に包み込まれる敵陣。

即席の火の玉魔術の一丁上がりだ。

 

バゼットは同じ要領で火の玉を作り上げて蹴り込んでは敵の群れを焼き尽くして行った。

これで攻撃力は十分だ。ほどなくして全ての敵を殲滅できるだろう。敵地の中で加減も憂いもなく思う存分に振るえる拳と脚。爽快感さえ覚える。

 

 

「おいおい、ちょっとこれはまずくねえか」

アロルドは隣でバゼットが巻き起こしている火の手と黒煙から逃れて風上に移動した。アロルドの背後に左手側で戦っていたバルタザールが現れる。

「アロルド、俺は後方支援にまわってくる」

そう告げるとバルタザールは戦場を離れて行った。間もなく離れた所で木々を借り倒す風の刃の音が響き始める。

 

アロルドは風上から慎重に場所を選びながらバゼットの方に近づいて行った。もはや倒すべき敵はほぼ焼き尽くされている。辺り一面の森と共にだ。

「おおい、バゼットー!」

アロルドの声が聞こえたらしくバゼットが振り向いた。アロルドはあっけらかんとした大声で叫ぶ。

「狩りは終わりだ。

 お前やり過ぎだぜ。結界の中で山火事を起こす気なのかよ!」

辺りには木や肉の焼けた匂いが一面に立ちこめていた。

 

 

「は!?」

一足早く戦線離脱したバルタザールが周囲の木々を切り倒して山火事の範囲拡大を防いだので結界内の森の全焼は免れた。

今夜はここでキャンプをはる、というアロルドとバルタザールの発言にバゼットは目を丸くしていた。

「……敵の結界のなかだというのに?」

バゼットの怪訝な表情を無視して、バルタザールは焚き火と夕飯、アロルドとバゼットはテントの設営な、と役目が割り振られる。

ほら、テント建てるぞーとのんきな声を張り上げるアロルドにせかされてバゼットは渋々と作業を手伝うのだった。

 

……今夜、ここで寝るのか私は?この執行者たちと一緒に?

バゼットは作業を手伝いながら心の中に不満と不安を募らせる。ふとアロルドの方を向くとその微妙な表情から心境を読み取られたのか、

「ああ、そのテントはおまえが寝るのに使え。俺たちは夜まで話をしなきゃいけない事があるからよ」

と声をかけられた。その心遣いはありがたいやら、めんどうくさいやらで、何とも言えない気分でバゼットは夕暮れの空を見上げた。

 

テントは着々と組み上げられた。アロルドはこの手のことに手慣れているらしく、バゼットは指示通りに手を動かしているだけで作業はあっさりと済んでしまった。

バルタザールのほうの作業はまだ時間がかかるようで、バゼットたち2人に暇な時間が訪れる。

 

格闘家が2人いれば力自慢が始まるものだ。

あまり無駄口をきかないバゼットとなんとか打ち解けようとアロルドがバゼットに腕相撲でもしないかと水を向けてみた所、彼女はさっそく乗ってきた。

その結果、アロルドは今窮地に陥っている。

 

いかに素晴らしい戦闘能力を持っていようとも相手は女の子、それに最初から全力を出すなど恥ずかしくてできないが、手加減の度合いは見誤った。

開始直前にアロルドは手首を返され、テーブルに腕がつくまであと半分というところまで腕を倒されている。

———この馬鹿力が…。

女の子だなどと油断すべきでなかった、とアロルドは力を入れ直し体勢を持ち直す。その際に彼はうっかり魔術回路を起動させてしまった。アロルドの特性によって彼の腕の筋肉が増強されて盛り上がる。

「おっと、すまん。これはわざとじゃなくて…」

ズルと言われる前に魔術回路を止めようとしたが、

teiwaz(テイワズ)

バゼットは間髪入れず強化のルーンを発動していた。彼女の目を見るとかなりマジだ。

「ぬが…!」

再び腕を倒されそうになりアロルドは魔術回路をつかって筋肉を更に強化する。するとバゼットは強化のルーンを倍かけして対抗する。

腕相撲に使っている台にヒビが入り、周囲の空気が振動し始めた。

 

「はいはいはい!そこまで!」

夕飯の鍋を抱えたバルタザールが戻ってきた。

「なんでマジカル腕相撲対決を始めていますか君たちは!

 せっかく山火事での崩壊から守った結界が壊れるでしょうが」

勝負は水入りとなった。

 

 

夕飯といっても内容はレトルト食品や缶詰にすぎなかったのだが、それでも焚き火を囲みながらであれば普段より雑談がしやすいものだ。

夕飯をつまみながらバゼットは執行者たちから今回のターゲットの封印指定魔術師についての解説を聞いていた。

 

仕事を受けた際に聞いた通り、この魔術師は封印指定を受けてすぐ海外に逃亡したのだが10年ほど前に戻ってきてここに隠れ住んでいた。ずっと問題を起こす事なく過ごしていたので、魔術協会は特に手出しはせずに執行者に監視だけさせていたのだが、半年ほど前から結界の外に魔獣などを放つようになった。そして最近になって監視をしていた執行者が行方不明になった。これをきっかけにこの魔術師の封印指定が執行される事になったのだそうだ。

 

バゼットがそんな話を手持ち無沙汰に聞いていると、

「ほれ」

とアロルドがバゼットに小さな器を差し出した。中には暗赤色の液体が入っている。バゼットが受け取ったものかどうか戸惑っていると、バルタザールが割り込んできた。

「おい、子供に酒を勧めるな」

それを聞いたバゼットは酒杯をさっと受け取った。はっはっはとアロルドが哄笑し、バルタザールは渋い表情になる。

 

バゼットは酒杯の中を覗き込んで、中身の匂いをかいでみた。やたらに濃い果汁のような匂いがするのだが…。試しに一口含んでみてその味に閉口する。

何だ、この苦い飲み物は。

 

いつの間にかアロルドのほうは妙に上機嫌になっており、バゼットはあれこれと個人的な事柄についての質問攻めにあっていた。

「ウェイバーとつきあってんの?」

「…違います」

「じゃあ恋人はいるのか?」

「……いません」

「うーん、それなら時計塔の中で好みのタイプのヤツは?」

「………」

セクハラ気味の質問の連続に、バゼットは黙り込んだまま軽蔑の視線をアロルドに送り始める。

 

「こらやめろ、そういう質問」

ようやくバルタザールが割り込んでくれ、話題の方向を強引に切り替えてくれた。バゼットの格闘術の流派は何だとか、ルーンは何歳から使ってるんだ、とかの仕事関係の話である。

バゼットは話の流れで自らの礼装”フラガラック”の能力の簡単な説明をしていた。

 

「…つまりフラガラックの能力は相手の切り札となる攻撃に対してギリギリで迎撃(カウンター)したときにこそ最大になります。そうでなくても普通の武器として攻撃に使う事もできますが、その場合は威力は数段階落ちます」

アロルドが自分の酒杯に酒を注ぎながら口を挟む。

「あー、ようするにそいつ、後だしジャンケン、ってこと?」

がた、と思わずバゼットはその場に立ち上がり、アロルドを睨みつける。

「まあまあまあ、バゼット、酔っぱらいに構うな」

マジカル何か第2ラウンドが始まりそうなのをバルタザールが止めた。

 

バゼットは座り直して、手元の苦い酒を口に運ぶ。一口飲むごとに喉が焼け付く気分がする。

———ああ、大人ってなんでこんなにうっおしいのだろう。

 

酔っぱらいのアロルドはまたしても話しかけてくる。

「なあ、そういえば今日片付けたあいつら。一体何だと思う?バゼット」

その顔は笑ったまま、目だけが鋭く戻っている。

またこっちを試しているのか。まだ実践の経験が浅くても敵の種類ぐらい見分けがつく。バゼットは生真面目に回答してみせた。

「あれはホムンクルスなのでしょう。ただし一般的には同じ型のホムンクルスを大量生産する筈だ。

 今日のように様々な姿のホムンクルスがあんなにたくさんいるのはめずらしい。それに一体ごとに別々の魔術を扱えるとは、あれを作った魔術師は確かに封印指定を受けるような高度な腕前をもっているのでしょうね」

 

その返事を聞いたアロルドは凄みを効かせた視線をバゼットに返して言った。

「あれは人間だ。

 人間だったものだ。

 行方不明になっていた時計塔の魔術師たちだよ。

 あの封印指定の魔術師がさらっていたんだ。魔力を奪い取り抜け殻を人形にして使っていたのさ」

「………………」

 

バゼットは黙って手元の酒杯に目を落とした。先ほどまでは何でもなかった酒の暗い赤色が血のように見えてくる。

自分の能力は一体何なのか?言われるまでもない。神代の宝剣を再現する者。人の姿をした武器だ。

そうだ、剣には剣としての使い道(いきかた)がある。

他の物になることはできないのだと。

 

その後は執行者たちとどんな話をしたのか、覚えていない。

 

 

バゼットはいつの間にか、こてっと地面に転がって寝てしまった。

「ほら、酒なんか飲ますから酔いつぶれてるだろうが!」

バルタザールがアロルドを責める。

「寝顔だけみてるとかわいいんだけどなー」

アロルドは頬杖を付きながらすやすや寝こけているバゼットの寝顔を眺めている。

「お前変な事すんなよ」

「しねーよ。第一、寝顔がかわいいからといってもな。

 さっきまで獲物を食い殺しまくっていた虎が今寝ているからもふれるといわれて、触るヤツいるか?」




執行者の仕事がそんなにヌルいはずがないのだった。
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