Bazett in ClockTower (時計塔のバゼット)   作:kanpan

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♦登場人物
バゼット:  アイルランドから時計塔にやってきた少女魔術師。15歳
ウェイバー: 時計塔で講師見習いをしている青年魔術師。21歳




第2章 Stranger in Magi Association
第1話


ウェイバー・ベルベットは自宅の書斎で明日の講義のための資料整理をしていた。リビングには来客を待たせている。本当は客人の相手をするつもりだったのだが、講師から依頼を受けて急ぎで仕事を片付けるはめになったのだ。休日だというのに…まったく下っ端の身分はつらい。

もっとも客人は気を使わなければいけないような相手ではない。暇つぶしの遊び道具を与えてあるからしばらくはそれで持つだろう。かといって待たせすぎて相手がおもちゃに飽きてしまうと面倒が発生するかもしれないから急がないと。

 

書斎から少しだけ離れてちらりとリビングの様子を見やる。今のところ彼女はウェイバーの思惑通りモニターに張り付いてくれている。

客人はルーン使いの少女魔術師バゼットだ。あの時計塔の騒ぎから半年ほど経った。なんだかんだあってバゼットはウェイバーに懐いており、時々ウェイバー宅に遊びにやってくる。

結局ウェイバーは周囲からバゼットの実質の後見人(おもりやく)のような立場にされつつあったのだった。

 

バゼットが時計塔にやってきて以来、様々な派閥の魔術師がコソコソと彼女にコンタクトをとり、有り体に言えば「ウチの派閥に入らないか」と誘いをかけてきたらしい。バゼットはそういうのは嫌いだから、と全てすげなく断ったそうだ。

 

派閥同士の権力闘争の微妙なバランスで成り立っているこの魔術協会において、何処の派閥にも属そうとしないバゼットが扱いがたい存在であることは間違いなく、彼女は明らかに孤立しつつあった。それを自覚できていないのは本人(バゼット)だけだ。

 

 

魔術協会は表向き、外部から新たなる名門を招いたとしてバゼットを歓迎した。実際はまるで腫れ物に触れるかのような扱いで誰もまともに関わろうとしない。

 

時計塔の名門貴族たちが誇る5代だの6代だのという魔術師の家系やら、生まれ持った魔術回路の多寡などは、神代から連綿と続くバゼットの一族フラガの前ではありがたみを失い馬鹿馬鹿しいものに見えてしまう。魔術協会の貴族たちがバゼットに抱く気持ちは複雑なものだ。

バゼット個人はそんなこだわりは我関せずなのだが、つまりそこが、貴族たちと同じ価値観を共有しようとしないところが煙たがられているのだ。

 

魔術協会の貴族たちはバゼットが名門出身であるだけの、実際は古典的なルーンしか使えない無害な魔術師であることを暗に期待していた。

そんな思惑はつゆ知らず、バゼットは時計塔に来て間もなくその家名に恥じない実力を披露してしまった。

望まれていたのは由緒正しい骨董品、飾り映えのする見栄えのいい人形である。

だがその実物が神代の武器を現代に再現する人間凶器だと誰が想像できただろう。

 

光り輝く余所者は無能な部下よりタチが悪い。

もしもバゼットが時計塔の中で力を得てしまったら貴族たちの立場が危うくなりかねない。

自分たちの配下になるならよし、だが平等な立場になられるのは困る。

そんなわけでバゼットを公然と面倒見ようという時計塔の貴族はだれもいなかった。

 

 

その代役としてバゼットのお目付役になりつつあるのがウェイバーだ。

ウェイバーの今の身分は時計塔の降霊科の講師見習いである。その身分の後ろ盾はかつてのウィバーの師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの一族であるアーチボルト家だ。

 

数年前、東洋の島国日本で聖杯戦争とよばれる魔術師同士の闘争が行われた。「聖杯」と呼ばれるあらゆる願いを叶える事が可能な願望器をめぐり、7人の魔術師たちがおのおのサーヴァントとよばれる強力な使い魔を召還し、互いに殺し合う。

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは魔術協会の代表としてこの聖杯戦争に参戦した。

ケイネスはサーヴァントとして征服王イスカンダルを召還するためにマケドニアから触媒を取り寄せた。ウェイバーはこの触媒を奪い、なんと自ら日本におもむき触媒を使ってイスカンダルを召還し、たかが降霊化の一学生にすぎない身の上でマスターとなって聖杯戦争に参加したのである。

 

ウェイバーにイスカンダルを奪われたケイネスは別の触媒を用いてケルトの英雄ディルムッドをランサーとして召還し聖杯戦争に参加した。折り合いの悪い師弟はこうして互いに殺し合う間柄になった。

 

聖杯戦争の結果は皮肉な事に、優勝候補と目されたケイネスは死亡、不肖の弟子ウェイバーはサーヴァントを失い聖杯を入手できなかったものの五体満足で生き残った。

有望な人材を失ったアーチボルト家は現在時計塔で没落の危機に瀕している。時計塔に戻ったウェイバーはそれに責任を感じ、アーチボルト家の元でケイネスが時計塔で積み重ねてきた研究成果の整理と解釈に携わっている。今の彼の任務はかつて憎んだ師ケイネスの業績をとりまとめて編纂し、アーチボルト家に返すことなのだ。

 

ウェイバーの元に時折バゼットが訪れていることは当然アーチボルト家も知っており、今のところは黙認している。アーチボルト家も他の貴族同様に表立ってバゼットの面倒を見たくないが、バゼットの動向には関心がある。

それに他の貴族たちもバゼットを完全に野放しにしておくのは危ないと考えているフシがあて、成り行き上ウェイバーは非公式なバゼットの監視役と見なされる状態になっている。

 

 

そんな事情でウェイバーはバゼットが時計塔およびロンドンで生活するにあたってのサポートをあれこれとしている。

例えば住居の手配だ。

バゼットは時計塔の学園で揉め事を起こし、後見人が用意した宿舎を出てしまった。

ウェイバーはバゼットが代わりの住居を見つける際の保証人を引き受けている。そもそも外国からきて間もない少女が一人で家を借りられる筈がない。

 

住居に関するバゼットの希望は質素で、普通の若者が暮らすアパートの部屋があればそれでいいというものだった。

ウェイバーはバゼットの様子を見る為にバゼットが暮らすアパートを訪ねてみた事がある。

若い女の子が一人暮らしする家に行くのは、やはり心が浮き立つというか、緊張するものがあったのだが、彼女の部屋の中を一見してウェイバーが密かに抱いていたワクワク感は一気に消し飛んだ

 

部屋の中にはまともな家具が無く、代わりにどこから見つけてきたのか天井からサンドバッグが下がり、床には鉄アレイが転がっていた。

「……これどうするんだよバゼット」

殺伐とした内装を目の前にしてウェイバーが呆れ顔を隠さずに尋ねると、

「どうって…」

バゼットはサンドバッグに軽くワンツーを叩き込んだ。ダダン!という音を響かせサンドバッグが左右に揺れる。

 

バゼットに話をきくと、彼女は暇な時間をたいてい部屋の中でこのようにして体を鍛える事に費やしているらしい。

ウェイバーはその場で何も返す言葉も見つからず、早々にバゼット宅から退散したのだった。

 

このようにバゼットの社会常識や生活力はかなり心もとない。もっとも15歳で親元を出てきたばかりの少女なのだからやむないことではある。ウェイバーとしてはバゼットが遊びに来るたびに少しづつでも新しいものを教えてやろうと気を配っているつもりだ。

 

 

今リビングでバゼットはモニターに集中していた。そこに映っているのは家庭用ゲーム機の画面だ。彼女がプレイしているゲームは「アドミラブル大戦略IV」。第2次世界大戦を舞台に枢軸国を操って連合国と戦う、マニアに人気のウォーゲームである。

ウェイバーは日本でこのゲームを入手して以来熱心なファンとなり、帰国後もプレイしつづけている。

 

最初バゼットは「ゲームはほとんどやったことがない」とウェイバーの操作説明を渋々と聞き、その後もやる気がなさそうにウェイバーとの対戦プレイに付き合っていた。それが時計塔の講師から急用が入ったので、ウェイバーが代わりの対戦相手を用意したところ、それから1時間以上は経つのにバゼットはいまだゲームに没頭している。

 

その対戦相手は人間ではない。バゼットの横にメタリックな球体がいる。球体は腕のように2本の触手を延ばし、ゲーム機のコントローラーを操作している。

この球体は月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)。元々はウェイバーの師、ケイネスが使用していた礼装の1つだ。ウェイバーはこの月霊髄液を改良し、家事ができるメイドゴーレムとして使役できないか実験しているのである。その実験の1つとしてウェイバーのゲームプレイの対戦相手としての機能も仕込んでいる。

 

バゼットは月霊髄液が相手となると真顔になってゲームに取り組み始めた。おかしな事に、バゼットはしばらく前のある出来事がきっかけで月霊髄液にライバル意識のようなものを抱いているようなのだった。

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