Bazett in ClockTower (時計塔のバゼット) 作:kanpan
ウェイバーは「アドミラブル大戦略IV」をプレイ中のバゼットと月霊髄液に近寄り、横から画面を覗いてみる。
意外な事にバゼットが僅差で勝っていた。
「あれ、思ったよりゲーム上手いじゃん、バゼット」
バゼットは脳筋…いや考えるよりも先に手が動く人間だと思っていたが、案外と戦略が上手かった。ゲームの画面から察するにおとりを巧妙に配置して相手に攻撃させ、いつのまにかその逆をつく戦法が得意なようだ。
バゼットからは
「そうですねえ。私の
という返事が返ってきた。
直接敵と戦ったりはしないウェイバーにとってはあくまで想像の範疇だが、確かにバゼットの武器は使いどころにコツが要る。あの武器を使うには一方的に相手をボコボコにして相手が必殺技を使うようにしむけるだけでは駄目で、相手が必殺技を使うタイミングでバゼットが迎撃体勢を整えていなくてはならないし、迎撃できる位置にいないといけない。あれは思いのほか頭も使う武器なのである。
月霊髄液に教え込まれている戦略はウェイバーがここ数年かけて練り込んだ、自信のある戦略であった。ウェイバーは多少悔しい気がしたが、そこはポーカーフェイスを装った。
……よし、次までに迎撃能力を強化した戦略を組み込もう。
ウェイバーがやってきた事でバゼットはゲームを中断したので、それをきっかけに世間話を始めた。
「ところでバゼット最近どうしてる?」
「ええと、時計塔の中であれこれ仕事を探してやってます」
バゼットに尋ねてみると、どうやら幾分危険な場所に出向かないと手に入らない素材の入手、実験室から逃げ出した魔獣の捕獲、試作品の戦闘ゴーレムの耐久試験だのということをやっていたらしい。
依頼主は当然時計塔内の魔術師たちで、たまに掲示板のような所に張り紙で依頼が貼ってあったり、暇そうな魔術師を見つけて声をかけたりして人集めをしているのだ。
「どれも簡単に済んでしまうので退屈ですし、地味で人目に止まりませんね。また前に戦ったくらいのレベルのゴーレムでも出てくるといくらか歯ごたえがあるのですが」
とバゼットは物騒な事を言う。
以前時計塔の地下でバゼットが仕留めたゴーレムはかなり強力なタイプであり、あともう少し対応が遅れたら執行者チームが始末にやってくるところだった。あんなのが時々暴れていたら時計塔の建物はとっくに崩壊している。
時計塔は魔術師見習いのための学園もあるものの、基本的には魔術の研究機関である。あまり表立って荒事をする場所ではない。
なかには攻撃魔法を研究している魔術師もいるが、おおむね戦闘屋よりも研究者のほうが高く評価される。
例えばウェイバーの師ケイネスは様々な経歴のなかに武功も加えようとしたのだが、もともと複数の魔術分野の研究で高い評価を得た上でのことである。
ウェイバーの見たてでは、バゼットはそこそこ頭がいい。「アドミラブル大戦略IV」はだいぶ複雑なシステムのゲームなのにすぐ把握してしまったし。
ウェイバーにとっては苦々しい事だが、彼は自分が行う魔術は結局のところせいぜい人並みなのだと自覚した。だが逆に他人の能力を見いだし、評価することには人一倍得意なのだ。
「時計塔の警備担当の仕事でも貰えませんかねえ」
などと言っているバゼットにウェイバーは言ってみた。
「バゼット、君のルーン魔術を体系化して論文にまとめてみない?」
時計塔の研究畑の魔術師たちにアピールするには腕っ節よりもそちらのほうが正攻法になる。
「え。す、すみません。私はそういう細かい事は苦手なのです」
バゼットの反応は案の定だった。惜しいなあ、とウェイバーは思う。
ルーン魔術は古来から伝わる魔術だが、体系化された知識は少ない。ましてフラガ一族に伝わるルーンの秘伝に関してならなおさらだ。それならば時計塔の頭の古い学者魔術師連中だって見ないふりはできないだろう。
僕が手伝ってやればバゼットはきっといいところまでいけそうなのに。けれど今のウェイバーはケイネスの業績をまとめる事で手一杯なのだった。
バゼットとウェイバーが世間話をしている間に、月霊髄液は家事仕事に戻っていた。
月霊髄液は散らかっていたリビングを片付けたあと、今は台所で食器洗いやら片付けやらをしている。
バゼットは世間話の合間に月霊髄液を仕事をちらちらと眺めていた。
彼女が知っていたこの手の人工使い魔のような代物は戦闘用でしかも基本的には暴れるだけのゴーレムやホムンクルスばかりだった。
「ところで、ウェイバー。あの月霊髄液って便利ですね。ここにきて初めてこういう礼装を見ましたよ。
このような物を作れるとはウェイバーはすごいです」
「いやあ、急に褒められると照れるなあ。
実はもともとは僕が作ったものじゃなくて、僕の師匠だった人が作ったんだ。
最初は戦闘用のゴーレムだったけれど、今は平和利用の為に家事やゲームができるように改良してるんだ」
家事をする月霊髄液を眺めながらバゼットはぼんやりと考える。
故郷から出てきて約半年。正直いって、自分の
以前ウェイバー宅で食器洗いを手伝おうとした結果、コップをたて続けに3つ割った。
そういえば実家ではなにも家事を手伝っていなかったことを思い出した。
その際にウェイバーから、自分のアパートで過ごしてる時はどうしてるんだ?と聞かれたのだが、飲み物の場合は缶で買ってきて飲み終わったらその場できちんと
握力を鍛えられるしエコロジーでいいと思うのだが、と答えたところ、ウェイバーは額に手をあててうつむいてしまった。
ああ、やはりまずい気がする。
このままだと私はゴーレムかホムンクルス並に暴れるだけの人間になってしまうのではないだろうか。
考え事で伏した顔を上げ、もう一度バゼットは台所の月霊髄液に視線を映す。
月霊髄液はブルブルと震えながら戦車のような姿に変形していた。
「月霊髄液…?」
「ワタシハ、アドミラブルダイセンリャク、ノ、ソウコウセンシャ、デス」
ウェイバーも驚いて月霊髄液の方を向く。
「月霊髄液……!い、いかん。バグだ!
「アドミラブル大戦略IV」の影響を受けて自分の事を殺人兵器だと思い込んでしまったらしい」
「そっ、そんなバグあるんですか!?月霊髄液に?」
なんてことだ。
「テキヲ、ハイジョ、シマス」
月霊髄液はそう宣言するやいなや、戦車に付いた銃から弾丸らしきものをリビングのなかに撃ち始めた。
「と、とまれ、月霊髄液———!正気に戻るんだ!」
叫ぶウェイバーをバゼットはリビングの後方に引っ張り込み、テーブルを前に倒して強化のルーンを発動して即席の盾にする。
ダダダダダダ…と弾丸が盾に突き刺さる音が響く。
「どうしましょうウェイバー…」
「あまりに突然すぎて、対策が考えつかない…」
唖然としている二人の目の前で、月霊髄液は再び変形し始めた。
「ガイブノ、テキヲ、センメツ、シテキマス」
戦車のようだった外見が、もとの流体に戻る。そして月霊髄液は換気扇穴からするりと、外へ出ていってしまった。
「やばい、逃げた。捕まえないと」
魔術師の礼装がロンドン市内に逃げ出したとあっては魔術協会としてはかなり良くない事態である。もし月霊髄液が一般人に危害を加え、魔術が一般社会に影響を及ぼすと懲罰ものだ。
「ウェイバー、私が月霊髄液を捕まえてきます!」
バゼットが立ち上がる。
「バゼット、助かる。僕は使い魔を放って月霊髄液の行き先を探る。
連絡用にこれ持っていってくれ」
とウェイバーはポケットの携帯電話をバゼットに渡した。
バゼットはそれを受け取って、まっすぐ台所の窓にダッシュする。
「あ、バゼット」
彼女が飛び出す前に、これだけは言わないと。
「窓は壊すな……」
がっしゃ—————————ん!!!
ウェイバーの言葉は間に合わず、
バゼットは台所の窓をぶち破って外に飛び出していった。
後のバゼット(hollow ataraxia、プリズマ☆イリヤ)を見るに、「窓やドアを蹴破らない」という教育を誰かがちゃんとしてあげるべきだったかと思う。