ー音が、響いていた。
元来、戦闘のために使われるその部屋では荒々しい破壊音が轟く筈である。しかし今は、驚くほど静かで穏やかな音が規則的に響いている。この音を聞いた人達は、まるでその空間だけこの世と切り離されているかのような錯覚を受ける。
「…」
「…」
訓練室にいるのは2人。1人は身を純白に包んだ少女であり、方やそんな彼女よりも頭3つ分は大きいであろう老人であった。祖父と娘に間違えられそうな2人は今、剣を打ち合っていた。そこに言葉の一切はない。互いが卓越した技術を持っており、2人の打ち合う光景を目にした人々は言葉を失う。たとえ荒事を嫌う令嬢であっても、平穏を知らない野蛮人であったとしても、その打ち合いに見惚れ、剣と剣が響かせる音に聞き入るであろう。もはやこれは一つの芸術であった。
「…」
「…」
会話はない。彼らは剣で対話をしているのかもしれない。互いに決定打はない、否、与えようとしていない。お互いの技を確かめ合うように続けられていたこのやりとりが終わったのは、これから3時間後であった。
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「ヘラグさん、今日はありがとうございました。非常に貴重な体験ができました。」
「それはこちらの台詞だ。まさかこの年になって貴公のような者に会えるとは思わなかった。」
「貴方がもう少し若かったのなら、私の弟子との試合を申し込んだのですがね。」
「勘弁願うな。彼女の相手は私でも厳しい。」
「技術だけなら圧倒的に貴方に軍配が上がりますが、あの子にはそれを覆す身体能力がありますからね。」
「全くもって羨ましい限りだ。技のない力に価値はないが、その逆もまた然り。」
長い打ち合いが終わった後、そのまま2人は訓練室で話をしていた。遠慮なく話している2人てあるが、初対面である。今朝、廊下でばったり出くわした2人は、その場で足を止めた。そのまま立ち尽くすこと数分、どちらともなく訓練室へ向かい、冒頭へと至るのである。
「スカジはもう少し技をもって欲しいんですけどね…。いかんせん、感覚派な子なんですよね。」
「そういった感覚を持つものは限られるからな、私であれば長所を伸ばすな。技術は他の者に与えればいいが…。」
「軍でならそうでしょうが、私が教えるのはスカジだけですからね。将来性を考えるなら技術を詰め込んだ方がいいと思うんですよね。」
どうやらヘラグ相手だとコミュ障が引っ込むイージス。彼女はどうやら弟子の育成方針に悩んでいるようだ。
「なら気長に待つしかなかろう。特別、彼女に才能がないわけではないだろう?」
「もちろんです。ただ、私が言葉で丁寧に教えた内容を『すぱぱぱっ』とか『シュシュシュ』なんて要約されると不安になるんですよ。正直、きちんと身についてるのが不思議でたまりません。」
「…大変だな。」
「全くですよ。」
そう言って2人は苦笑する。
その後も2人は会話を続けた。どうやらお互いにそれなりの収穫があったようで、夜遅くまで話は続き「また会おう」と約束しあい満足そうに訓練室を去るのであった。
ちなみに、この日の2人の打ち合いの記録は大変素晴らしいものであり、以降、より多方面からの映像をあるために訓練室のカメラの数と性能が大幅に上げられたらしい。
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「ーということがあったんですよ。」
「…」
と、今日のやりとりをスカジに話すイージス。得られるものがあったからか、満足に会話ができたからか、非常に上機嫌である。今も、スカジがいるというのに楽しそうに鼻歌を歌いながら風呂で濡れた髪を乾かしている。一方、スカジのご機嫌は斜めであった。
「私は5年かかったのに1日でなんて…。」
「おや?何か言いました「何でも無いわ。」…そうですか。」
「(何故でしょう?何だか機嫌が悪いみたいですが…。)」
「(少し露骨だったかしら…。)」
スカジが少ししゅんとしている中、イージスは少し考え込む。そうして少し経った後、彼女はスカジに微笑みかけながら優しく慰めた。
「ほらスカジ、ヘラグさんと戦えないからってそんなに悲しまないでください。なんなら、今度はヘラグさんのスタイルで戦ってあげますから。」
「…」
「ねっ?」
「…ふふふ。」
「?どうしましたか?」
「いえ、なんでもないの。髪はもう乾いたでしょう?そろそろ寝ましょうか。」
「はい、そうですね。電気消しますよ。」
「ええ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…あのースカジ、抱きしめる力が強いので緩めて欲しいのですが。」
「…」
「あのー起きてますよね?」
「…」
「なんで強くするんですか⁉︎やっぱり起きてますよね⁉︎」
多分重装兵を圧殺できるくらいの力が込められています。ちなみにイージスは説得諦めてそのまま寝ました。
ヘラグおじ様いいですよね。The・武人って感じのイケおじはもっと増えていいと思います。