トリガーライブ・スター! 作:内原戸哲夫
世界は闇に包まれた。
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旧支配者の咆哮が暗黒に響き渡る。人々の希望となる光の戦士は、その邪神の前に敗れ深淵にへと沈んでいった。
避難用のシェルターに集められた人々。誰もが絶望の色に染まり、明日を諦めている。そこにいる幼い妹を抱きしめた少年。混乱の中で両親と逸れ、2人きりとなり施設の隅で震えていた。
闇への恐怖、親が居ない不安、そして絶望している周囲の雰囲気が更に彼らの心に影を落とす。
「………っ!」
妹をぎゅっと抱き締める。
大丈夫……大丈夫……。周りの絶望にあてられて震えている彼女に、何より自分自身に言い聞かせる様に彼は何度も何度も呟いた。でも、胸から湧き出る根源的な恐怖が彼の震えを加速させる。
そんな時、皆が観ていた避難所のモニターから、たった一つ残された希望である作戦が失敗したという情報が流れた。落胆する大人達。この世界には、遥か超古代に生きた者達の様に滅びるしか道はないのだろう。
大人の誰もがそう思った時、子ども達はその名を呼ぶ。
────ティガ!!
その場にいた子ども達が、そして世界の子ども達が、光となって空を駆ける。まだ希望を信じている少年少女達は、未来を諦めていなかった。
行く先は一つ。自分達のヒーローの元だ。
抱えていた妹が手を伸ばす。そして彼女も光り輝いていく。表情からは絶望は消え、無垢な笑顔となっていた。
自分も光に……!
そう思い手を伸ばそうとした時……───
握られる心臓。
掻き混ぜられる脳。
不協和音が響く耳。
暗転しノイズが覆う視界。
不愉快な味が拡散する舌。
身体の内側を這っていくナニか。
形容し難い恐怖が自身を包む。狂気に囚われて逃れる事が出来ない。深淵にへと、己の全てが堕ちていく。
嫌だという声も出ない。逃げる為の足も動かない。手も伸びる事はない。
気付けば妹は、光となって飛翔していく。
待って、行かないで、置いてかないで。そんな思いを吐き出す事だって出来ず、自分は闇に呑まれ───
「ッ!?」
澁谷 ショウゴはベッドから跳ねる様に起きる。時刻は午前4時を過ぎた所だ。まだ寒さの残る朝だが、彼の身体中から汗が流れていた
額の汗を袖で拭い、布団を剥いでベッドから降りた。汗を吸って変色した寝巻きとシャツを雑に脱ぎ捨てる。
それから彼はベッドに腰を下ろした。
「………最悪」
あの日の夢。鮮明に、強烈に憶えてしまっているそれはずっと彼を苦しめ続けている。目を向けた方に置かれていた鏡は、隈の酷く
頭を軽く振り、脱ぎ捨てた服を取って洗面所へ向かう。シャワーを浴びて汗を洗い流し、メイクで隈を誤魔化さなければ。家族にこれ以上余計な心配を掛けさせない様にする為に、少し震える身体を彼は動かす。
15年前のあの日光に成れなかった者は、消える事無き狂気の沼から未だに抜け出せずにいた。
眠る事が出来なかったショウゴは外を出歩いていた。出た時は暗かったが日は少しずつ昇り、歩きながら見上げる空は明るくなってきている。
すぐに目線を落として前を見る。早い時間帯ではあるが既に疎らながら歩いている人もおり、車も走っていた。
《次のニュースです。日本時間午前2時頃、アメリカ・オレゴン州のポートランドに怪獣が出現しました。出現したのは岩石怪獣サドラで、現地のTPUが対処し───》
信号で立ち止まった時、隣りに居たサラリーマンが見ていたスマホからそんなニュースが聴こえて来た。
2015年の末、とある怪獣が都心に現れた。何の前触れも無く現れ、後に四次元怪獣ブルトンと呼ばれる事になるその怪獣は四次元空間を自在に操るという摩訶不思議な能力を使い、時空間を歪めて多次元宇宙を無理矢理繋ぎ、本来この宇宙には存在しない筈の怪獣や宇宙人が現れた。
ギャラクシークライシスと名付けられたこの事件は銀河系規模で起きた生態系破壊であり、地球にも大量の別宇宙の地球怪獣が現れて大暴れ。その中にはフィクションの存在であった怪獣までいた。当時のTPC、そしてスーパーGUTSの活躍により被害は最小限に抑えられたが、それでも多数の死傷者、行方不明者が出る最悪の事件となった。
ウルトラマンが消失した2010年以降低下していた怪獣災害はと異星人による侵略行為は増加していき、世界は再び怪獣頻出期と呼ばれる時代に突入。翌年には静間財団の支援によりTPCはTPUとなり、怪獣災害対策、異星人による侵略への対応、宇宙・太陽系内惑星・銀河系内惑星・外宇宙への進出、友好的な他星の住民達との平和的交流・公平な同盟の締結、などなど様々な面に力を入れて、人々を守り地球を発展させていく。
それから約10年。人類は技術を駆使して怪獣や侵略宇宙人と戦いながら更なる発展を目指した。強力な敵によりピンチになった事も多々あったが、それでも諦めずに未来を掴む為に立ち向かう。様々な試練を乗り越えながら未知なる世界へと進むこの時代を、人々はネオフロンティア時代と呼んだ。
信号が変わって進むショウゴ。暫く歩いていると、聞き覚えのある声が耳に入った。
「響かせましょう! この街に!」
顔を上げると歩道橋の上で朝日に照らされる可可と妹のかのんの姿を見つけた。陽光を背に街を空を見上げる彼女達は、ショウゴにはとても眩しかった。自分とは違う、光を心に宿した姿。
「あ、かのんさんのお兄さん!」
「え? 本当だ、おーい!」
手を振ってくる2人。それに対して手を軽く上げた後、彼は2人の元へ向かった。
「朝練か?」
「はい!」
「お兄ちゃんは何してたの? 私が家出る前から外に出てたみたいだけど」
起きて窓を開けた時、走っていた可可を見つけてかのんは外に飛び出した。その際ショウゴの靴が無かった事に気付いている。
「まあ……散歩だ」
「こんな朝早くからデスか?」
「お爺ちゃんじゃん」
「うるせぇ」
かのんの額を軽く小突く。
「そうだ! お兄さんも聴いて下さい! かのんさんの歌を!」
「かのんの歌?」と可可の言葉を復唱して首を傾げた彼に対して彼女は元気良く「はい!」と答えた。一方かのんは少し恥ずかしそうだ。
「あのね、今度のライブで可可ちゃんと歌う曲が完成したんだ」
「それって、あのハンバーグだの焼きリンゴだのってやつか?」
「ち、違うよ!?」
歌える様になり、ダイキとの
だがそんな歌をライブで使う訳も無く、何のことかイマイチ分かっていない可可を横に、彼女は揶揄ってくるショウゴの胸をポカポカと叩いた。
当然だが大したダメージではない。
「まあ……聴かせてくれよ」
彼の言葉に手が止まる。
見つめてくる兄の瞳からは優しさを感じられた。
ショウゴと可可の2人が見つめる中、かのんは歌う為にスゥ……と息を吸い───
その時、背後で轟音が鳴り響く。何かと思い勢い良く振り返った3人の目には、天を突く様なドリルが映されるのだった。
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ナースデッセイ号の中にはGUTS-SELECT各隊員の専用個室が用意されている。待機時などはこれを利用して自由な時間を過ごしており、設備が充実していることからここで数日寝泊りする隊員も少なく無く、中にはここを居住地としている隊員もいる。
円淵 ダイキもそんな1人。空中要塞であるこのナースデッセイ号だが、専用のスピーダーを利用することで地上にもすぐ降りられる為問題は無い。まあ、降下する時間は決まっているので寝坊は決して出来ないのだが……。と言っても彼は毎日花の世話の為に早起きをしているのでそんな心配も不要だろう。
今日も早起きをして花に霧吹きを掛けているダイキ。その表情は相変わらずの笑顔だ。
「フフッ、みんな美味しい〜?」
植物に声を掛けるとよく育つ。1848年に刊行された書籍にてその様な事が言及されている。一世紀以上経っているがそれに対する研究は行われておらず、有り得ないとは言えないがそれを裏付けるデータも無い。結論の出ない事ではあるが、ダイキからしてみればそんな事はどうでも良く、大切な花達に言葉を掛けるのは普通のことだった。
そんな時、艦内に警報音が鳴り響いた。突然の事に困惑したが彼はすぐ様隊員服のジャケットを手に取り、部屋を飛び出して着ながら走った。
「何かあったんですか!?」
司令室には既に辰巳隊長、鉄心、ひまり、アユ、マルゥルがいる。
前面にあるモニターは、今しがた地上に現れた怪獣の姿を映し出していた。
「コイツ、グビラか?」
「しかし、以前現れたグビラは海中や海辺付近に生息してた筈だが」
深海怪獣グビラ。2016年、神奈川県の相模湾に最初の個体が正式に確認された水棲の怪獣。水中を約マッハ5という驚異的なスピードで泳ぎ、最大の特徴は鼻先にあるドリルだ。これで海底や海辺付近の山、地面などを掘り進み潜ることが出来る。
過去数度現れた際は海の近くに出現していたのだが、今回のこの個体は周囲に海どころか水も殆ど無い陸地に出現した。
「このグビラの姿、きっと陸や地底で生きられる様に進化した同種族かもな!」
鰭状になっていた前足は鋭い爪が有り、モグラの様にシャベル型に変化していて鼻先のドリルと併用して地面を掘り進めるに適した形となっており、過去の個体より体表が若干褐色を帯びゴツゴツとしている。
「成る程、オカグビラってことか!」
「いや、そのまんまじゃねぇか!?」
鉄心の命名にマルゥルがツッコミを入れる。モニターに映るオカグビラは咆哮し、右前脚を一歩前へ踏み出した。
「七瀬隊員、ファルコンで出撃! 静間、円淵の両隊員は地上に降りて避難活動の支援!」
「「ラジャー!」」
「喜んで」
各隊員がオカグビラに対応する為に動き出す。
ひまりによって飛ばされたGUTSファルコンは現場に到着し、二つの機関砲から弾丸を放って奴の動きを止めようとする。しかしオカグビラは止まらない。
「だったらぁぁぁ!」
ファルコンはハイパーモードに変形。右腕部に該当する機関砲の下からワイヤー付きのアンカーを飛ばしてオカグビラの皮膚に突き刺しそれを引く。
「Cuooooooo!!」
「止まりなさあああいッ!!」
オカグビラとGUTSファルコン。一匹と一機の力比べが始まった。
地上に着いたダイキとアユ。ダイキは逃げ惑う人々を避難場所へ誘導しながらオカグビラの様子を見た。奴は先程からひたすら、何かに取り憑かれたかの様に前進しようとしている。
「こっちはいいから、アンタはあの怪獣を止めに行きなさい」
「う、うん」
オカグビラに妙な違和感を感じながらも、アユにそう言われた彼はGUTSスパークレンスをホルダーから引き抜き駆け出した。
人気の無い場所に着きハイパーキーを手に取る。
───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE
───BOOT UP!ZEPERION!
マガジンにキーを装填。そして銃を展開してスパークレンスモードにした時、彼の目にとある光景が飛び込んで来た。
オカグビラの前方。必死に走っているかのんと可可、そしてショウゴの姿だ。
「くそ!? 2人とも急げ!」
「そ、そんな事言われてもぉ!?」
「た、助けてくだサーイ!?」
何故彼女達があんな所に居るのかはダイキには分からない。ただ、急いで助けなければオカグビラに踏み潰されてしまうという事だけは十分に理解出来る。
「み、みんな!? ウルトラマンッ、トリガーーーッ!!」
───ULTRAMAN TRIGGER!MULTI TYPE
『セェアァァッ!!』
ダイキは即座にトリガーへと変身。そして飛び出した勢いそのままに、オカグビラに横から突撃するのであった。
タックルを受けて吹っ飛び、その先に有ったビルに衝突。更にはその瓦礫が自身の身体に降り掛かり、押し潰されていくオカグビラ。ビルを巻き込んでしまったのは大きな損害だが、あの状況なら仕方が無いだろう。因みにファルコンはトリガーがタックルしたのと同タイミングでアンカーを切り離し、巻き込まれるのを回避した。
起き上がりながら瓦礫を押し除け、オカグビラは原因となったトリガーに目を向ける。一方トリガーも、奴に対して構えた。
「Coooooooohッ!!」
『セアッ!』
「ウ、ウルトラマン!?」
背後から聴こえた先程までとは違う轟音に、思わず足を止めて振り返った3人。その先に居たのは怪獣に対して身構えている巨人・ウルトラマントリガーの姿。
「助けに来てくれたんだ……!」
「流石はウルトラマン! 頑張って下サイ!」
彼の登場を心から喜ぶかのんと可可。
「ウルトラマン……トリガー………」
一方ショウゴは、その巨人を少し濁った瞳で見詰めるのであった……。
ショウゴのトラウマになっている“あの日”。皆さんお分かりでしょうがあの最終決戦です。そこで彼は光になる事が出来ませんでした。
クトゥルフで例えるならSAN値チェック失敗で大量減少からのアイデア成功で発狂、って感じです。
その狂気は未だに彼の心を支配しています。
ギャラクシークライシス。聞いたことある人もいるでしょうが、ほぼそれです。
これによってティガの世界にも様々な怪獣が現れるようになりました。
そしてオカグビラ登場。トリガー本編ではこの前にあの俊敏策士が現れるのですが、奴の本格登場はもう少しお待ちを……。
オカグビラですがオリジナル設定でより陸上や地中での棲息に特化した姿になっています。
次回、トリガーvsオカグビラ。そしてスパスタの物語は3話に入っていきます。どの様になっていくか、是非お楽しみに。
感想、高評価等、お待ちしております。