主さまはご老人!?   作:元大盗賊

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とある朝の誰もいない川辺

 星形の城壁で囲まれている国ランドソル。

 ここアストライア大陸最大の城塞都市でもある。国民の多くをヒューマン族で占めるランドソルは広い国土を持っているが故に、人の往来が盛んでアストライア大陸有数の経済大国でもある。

 またランドソルでは、国民にギルドへの所属を義務付けている事もありギルド管理協会の本部が置かれ、冒険者にとっても重要な国である。

 そんなランドソルの施政を司る君主としてランドソル王家が君臨している。彼らは国全体を見渡せるほどの大きな城に住み、国を統治しているのだ。そのランドソル城の玉座に一人の()()()が座っていた。

 

「ねぇキャル、他に何か変わったことは起きてない?」

 

 王宮の玉座の間で、その人物は目の前で跪くキャルに問いかけた。

 自身の名前を呼ばれ、体を震わせたキャルは恐る恐る顔を上げて、玉座に座る人物を見る。白い着物を羽織る白狐の獣人は、閉じた扇子を手のひらで弄んでいた。

 

「いえ、そのようなことは決してございません陛下。監視している、あのプリンセスナイトには何も動きはございません……。それに陛下がお気に召す事は……」

 

「そう。じゃあ……」

 

「っ!!」

 

 陛下と呼ばれた獣人が、手を少し上げようとしたところで、キャルは両腕を顔の前に掲げて、ぎゅっと目を力強く閉じて歯を食いしばる。彼女がやりたいと思って行った行動ではなく、反射的に体が勝手に動いたものだった。

 

「何? 急に怯んで」

 

「え……?」

 

「今の私はとても気分が良いの。だから、あなたの醜い悲鳴は聞きたくないの、分かる? どうせ言っても分からないだろうけど」

 

 ただキャルの身には何も起こらなかった。

 目を開けて陛下へと視線を移すと、陛下はいつもと変わらない表情を見せていた。玉座から退屈そうにキャルを見下ろしているのだ。

 

「でも、あなたが何か気がついていないなら残念ね。……最近今まで聞いたことのない特徴をする魔物の情報を耳にするようになっているの。丁度私の大嫌いな人たちの中に、魔物を生成する事ができる奴がいたから、関係ありそうかなって思っているのよね」

 

「そう……でしたか。あたしもギルド管理協会に足を運んでおりますが、そのような話は……」

 

「まあいいわ。一応王宮騎士団を使うけど、どうせ偽情報(フェイク)でしょう。倒したところで何か得られるわけではないし。あなたはそのまま彼の監視を続けてね」

 

「はい、かしこまりました陛下」

 

 

 王宮を後にしたキャルは、広く晴れ渡っている青空を見上げる。太陽が空の真上から地表へ、強い日差しが降り注いでいた。川に行ってすぐにでも水浴びしたいという気分を抑えつつ、ギルドハウスへと道のりをとぼとぼと歩いていく。今日ギルドハウスは、人が出払っているのだ。遠征クエスト明けの貴重な休日。誰にも邪魔されずシャワーを浴びて、昼寝が出来るのだ。

 陛下からの()()()をもらわずに終わった事と昼寝が出来る事で気分が快調な彼女は、軽い足取りで舗装された道を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「キャルちゃん! 実は大事なお話しがあります」

 

 熱々のトマトリゾットを4杯目のおかわりをしたペコリーヌは席に座ると、スプーンに一度も手をつけていない隣に座るキャルへとずずずっと近づく。

 

「ちょっと、熱々の器をこっちに押し付けないで! ……そこのおっさんが、ユウキなことくらい知ってるわよ」

 

 リゾットの器ごと持って近づくペコリーヌを押し返して、目の前に座る年老いた男性をチラッと見る。

 

「主さま、お身体が弱っておりますゆえ、いつも以上によく噛んでくださいまし」

 

「……んっ!」

 

 新調された前掛けを身につける老化したユウキへとコッコロは、リゾットを掬ったスプーンを彼の口へと持っていく。

 ユウキの変化した姿を除けば、これまで行われていた美食殿の食事風景である。とはいえ、彼の変化があまりにも大きすぎるために、キャルの食事スピードはこれまで以上に低下していた。

 

「あんたらよくユウキが変化しているのに、平然としていられるわよね。あたしなんてまだこいつがユウキだなんて信じられないくらいなのに……」

 

「そんなことないですよ、キャルちゃん!」

 

 山盛りにしているリゾットを綺麗に切り崩したペコリーヌは、一つの山をスプーンで掬い口に放り込む。

 

「はむっ、わらひらって……」

 

「あんたはそれを食べ終わってから話しなさい!」

 

「……んぐっ。私だって、最初コッコロちゃんから経緯を伝えてもらった時はキャルちゃんと同じ気持ちでしたよ! でもまあ、慣れですかね?」

 

「はい。キャルさまも時の流れに身を委ねていれば、いずれ主さまの今のお姿には慣れると思われます」

 

「いや、あたしはできればそれに慣れたくないのだけど……」

 

 机の上にできた汚れを綺麗に拭き取るコッコロの様子を見ながら、キャルはコップに入る飲み物に口をつける。

 

「というか前々から思っていたけど、コロ助はどっちかというと今のユウキの姿を喜んでいる風に見えるのよね。それって……」

 

「そうですね、私は今の機会は良い経験だと考えております。私たちはいずれ歳を取っていきます。一時的ではありますが、お年を召された主さまのお世話が出来る貴重な機会は滅多にございません。不慮な事故ではありますが、最大限に活かしていきたいと思っているのです」

 

「そ、そう……。ポジティブな考えね。新しいお世話グッズを購入していただけあるわ」

 

 キャルは目を輝かせてユウキのお世話をするコッコロから、チラッと居間の端に置かれているコッコロの買い物袋へと視線を移す。

 ユウキ専用の暖かな寝巻きに、歩行補助のための杖等の主さまのお世話セットてんこ盛りが袋の中を占めていた。

 

 コッコロ曰く、彼女はアメス様という神の神託を受けてユウキのお世話をしているという。彼女自身もお世話をすることは嫌いではないため、ユウキの姿がどのような形であれ、こうして世話をし続けていくのだろう。

 

「まあいいわ。ところでペコリーヌ、ユウキを病院に連れてったんでしょ? 結果はどうだったのよ」

 

「……んんっ! よくぞ聞いてくれましたキャルちゃん! それ何ですけど、ユウキくんは呪いをかけられているみたいなのです」

 

「呪い……?」

 

「はい。ユウキくんとコッコロちゃんを襲ったのがどんな魔物か聞いていますか?」

 

「ええ聞いているわ。穴だらけの鎧を着た骨の魔物でしょ。骨が動く魔物なんてあんまり聞いた事がないけどね」

 

 もしかして、陛下のおっしゃっていた魔物って……。

 

 キャルは、昼間に王宮で聞いた話を思い出しながらペコリーヌの話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 呪術。

 恨みや妬みのような生き物の感情と、自然界に存在する霊力と相まって具現化した力であり、現在のアストルムに広まる魔法よりも歴史は長いとされている。今では、呪術よりも使い勝手の良い魔法の力が確立されているために呪術を用いる人は少なく、ときにはその力が死者によって使用されるとも言われている。

 ユウキの知り合いで、医者をしているトワイライトキャラバンのミツキに姿が変わってしまったユウキを見てもらった際、呪詛が身体に埋め込まれていると一目見て分かったという。

 

「なるほどね、通りで魔力の痕跡が残っていないわけだわ。よっぽどの高位魔法じゃない限り擬態魔法っていうのは使うと、どこかに魔力が身体に残るのよね。まあ高位魔法を扱えるのは、あのネネカぐらいだからあの人以外が擬態魔法なんて使ったら、普通はバレるもんだけど……」

 

「さすがキャルちゃん! 呪いについても知っているのですね! ミツキさんも、相手が相手なのでユウキくんを元に戻すには、術をかけた魔物を倒す必要があるって言っていましたよ」

 

「……ふんっ、それくらい魔法を使う身として当然の知識よ」

 

 キャルの頭を撫でようとするペコリーヌの手を避けながら、充分に冷ました彼女手作りのリゾットを口に運ぶ。

 エリザベスパーク印のまろやかでコクのあるチーズが口の中で溶け、いつもより煮込まれたお米とトマトの甘味と酸味がバランスよく混ぜ合わさる素晴らしい一品だった。

 

「それにしてもユウキの呪いが解けていないとなると、厄介な呪いを受けたみたいね」

 

「……はい。ミツキさんに何度か試してもらったのですが、強力なものらしくミツキさんでもお手上げでした。呪いの力は感情がより強い呪術を施すと言われています。特に、死者となると……」

 

「なら、術者が呪いを解かない限りユウキの姿が元に戻らないわね。じゃあ明日にでも討伐隊を組んでもらうようにお願いするしか……」

 

「いえ、今日の夕方には編成されていましたよ」

 

「嘘っ!? 早くない?」

 

 ギルド管理協会で世話になっている緑髪の職員が目に浮かぶ。話を聞いてすぐにクエストの準備を進めるとは思わなかったために、思わず声を荒げる。

 

「ふぅん……カリンもやるときはやるわね」

 

「ああ、ギルド管理協会ではなく有志の人たちが主体となってパーティを組んだのですよ。ユウキくんが大変なことになっているって聞いた彼の知り合いたちが集まってくれて、明日にでも偵察や聞き込みを行って情報を集めるそうです」

 

 ペコリーヌ曰く、トワイライトキャラバンに自警団(カォン)という有名ギルドが、骨の魔物討伐に向けて準備を進めているという。もっとも、噂を聞きつけ、病院で変わり果てた姿になったユウキを見てしまえば、仕方のないことである。

 またギルド管理協会としても、そのような強力な魔物の討伐は望ましいものである認識があり、協力をするという。被害者がまだ一人とはいえ、滅多に人が入らない森ではないため、今後も被害が増加することが懸念されたためだ。

 

「……そうなのね。変な噂が広まらなければいいけど。それはそうと、ユウキ(こいつ)はどうするのよ? もしかして魔物討伐に一緒に連れて行くとか言わないでしょうね」

 

「いえ、ユウキくんは安静にさせるようにします。その代わりとはなるのですが、コッコロちゃんに骨の魔物討伐について協力をさせてほしいとのことでした。唯一の目撃者でもありますので、相手の居場所などの情報を知りたいと」

 

「かしこまりました。……少々名残惜しいですが、主さまが元に戻るためであれば参加させていただきます」

 

「それではキャルちゃん!」

 

「何よ、急に……。口にチーズついているわよ。あんたまで行儀悪くしなくても……」

 

「私達で、ユウキくんのお世話をしましょう!」

 

「……へ?」

 

 

 ***

 

 

 ユウキにかけられた呪いは、身体の細胞の機能が低下させるという性質だと推測された。

 なぜそのような呪いを使用したのかは、不明である。ただ、呪いによって引き起こされた事によって弱った相手を、呪術者が仕留めるためではないか、という考えが有力となっている。

 老化というのは、途中で終わるものではなく、毒のようにどんどんと身体を蝕んでいくもの。

 細胞機能の低下によって擬似的に引き起こされた老化は寿命を短くさせているに等しいものだ。下手すると、そのままぽっくりと老衰してしまうことも考えられる。

 それを防ぐためにも、呪いを受けたユウキは健康的な生活を送り魔物が討伐されるまでの間、老化を遅らせる必要があった。

 

 

 太陽が地表を照らし始め、草についた朝露が乾き切った頃。

 普段着に着替えたキャルはユウキを見守るためにギルドハウスの近くにある大きな岩に座っていた。いつもなら、朝食後にもう一眠りでもするところであるが、そんな気分にはなれなかった。無理矢理起こされてしまったということもあるが、何より目を離せない理由があった。

 

「んで、運動をすると言っても何をするのよ?」

 

「じゅんび、だいじ」

 

 準備体操をするユウキは、ふらつきながらも念入りに身体を動かす。

 健康のために何か体を動かそうというペコリーヌの提案に、ユウキはいの一番にいい考えがあると言っていた。ユウキくんにお任せします、と彼女は何をするかという説明受けずに話を進めてしまった。ただ、彼の見守り役となってしまったからには何をするのか知るべき内容であった。

 

 一体何の準備なのかと、疑問に思うキャルだったが、彼が杖代わりに持ってきていた稽古用の木製の剣が目に飛び込んできた。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

「……?」

 

「ちょっとこっちまで、歩いてきて。()()()()()()使()()()()()

 

 頭に疑問符を浮かべるユウキは、地面に置いてあった剣を持ってキャルの方へと歩いていく。距離としては、目と鼻の先。普通であればなんでもない距離であるが、ユウキは数歩歩いたところで何もない場所で躓いた。

 

「あっ」

 

 姿勢を崩して、倒れるユウキであったが彼が地面とキスをすることはなかった。彼の身体は地面へと倒れ込むことなく、中途半端な姿勢でその場に留まっているのだ。

 

「それ見なさい、あんたまだまともに一人で歩けないでしょ」

 

 キャルは、右手に持つ愛用の魔杖をユウキに向けながら近づく。地面へと倒れかかっているユウキの姿勢を正して、持ってきていた杖を剣の代わりに握らせた。

 

「良かったわね、あたしが重力魔法をちょっと齧っていて。そうじゃなきゃ今頃あんた大怪我して、コッコロが蜻蛉返りしているわよ。ちょっとはあんたが今どんな状況になっているのかよく考えてから行動しなさい」

 

 キャルの役割は魔物の討伐が終わるまで、呪いの進行を遅くするために体を動かすユウキを見守ること。食事やクエスト受注についてはペコリーヌに任せて、コッコロが魔物の討伐から帰るまでの間の日中はユウキのお世話をする事になっている。

 

 一人で歩く事もままならないユウキが、いつも行っている剣の稽古が行えるはずもない。ギルドハウスで壁に寄りかかりながら、見るからに不安定な足取りで移動する彼のことを彼女は気づいていた。

 

「ごめんなさい……」

 

 叱られてシュンと落ち込んでしまうユウキを見て、キャルは眉と耳をピクリと動かす。

 

 そういやユウキって、見た目は歳とっているけど中身はいつものアイツのままなのよね……。

 

 ユウキは最近になって常識や知識を覚え始めてきたものの、彼の精神はまだまだ幼い子供に過ぎない。年老いた見た目を意識して叱った事を少しだけ心苦しく感じたキャルは、ため息を吐いて尻尾を少しだけ左右に振る。

 

「ま……まあ、いいわ。とにかく、今のあんたは足腰を鍛えなさい。剣の稽古をするのはそれからよ。それじゃ行きましょ」

 

「どこに……?」

 

「その辺をテキトーにぶらつくわ。とにかくたくさん歩くわよ」

 

 

 老化を防ぐと言っても、具体的に何をすればいいのかわからないままだった。そもそも、一般的に言われている老化と彼の呪いは類似しているだけで、全く一緒だとは判明していない。もしかしたら、呪いが解けるまで身体に何ら問題がないかもしれない。安静にしていた方がいいかもしれない。でも、彼女はそうは思わなかった。

 

 

 小さな川のほとりへとユウキを連れて行ったキャルは、歩き疲れたユウキを休ませて背負っていた袋を漁る。

 

「そんなふうになるんだったら、剣の稽古なんて無理でしょ?」

 

「……つかれた」

 

 息絶え絶えになりながら、ユウキはしゃがれた声で答える。ペタッと背中を倒して草むらに体を預けていた。

 

「はい、これ水筒。飲みなさい」

 

 コッコロから託された主さまお世話セットから、革製の水筒を彼に渡す。

 大した距離を歩いていないのにも関わらず、疲れ切った姿を見せながら、必死に水分を求めるユウキを見て、本当に変わってしまったと彼女は思わざるを得なかった。これまで、美食殿の活動を通じてあちこちを渡り歩いてきた彼の体力は残っていない。外見だけでなく、内面をも蝕む呪いの力を彼女は解くことはできない。試しに使える回復魔法を全て試したものの、どれも効果がなかった。

 

 もしかしたら、トゥインクルウィッシュのユイという少女なら、何か解決方法があるのではないかと一度勘繰ったことがある。ただ、今の彼の姿を見せてしまえば、その少女が正しい判断を行ってくれるとは思えない。第一、無闇に今の彼の状態を他人へ見せてはいけない。それが、街で混乱を引き起こさないようにするための対応なのだ。

 

「……ねえあんた」

 

「……?」

 

「何で剣の稽古をしようとしたのよ。朝っぱらからギルドハウスで足元がおぼつかないのはあんたも知っていたでしょ?」

 

 草むらにへたり込む彼の横へとキャルは座る。

 水筒から口を離し、少し考えてから思い出したかのように口を開く。

 

「ぼくにできることは、これだから」

 

 ユウキはずっと剣の稽古を続けていた。

 ときには、知り合いの剣士に頼み込んで技を教えてもらうほど。記憶がなく、周りのみんなに支えられていることに対しての恩返しなのだろうか。みんなのため、と彼なりに考えて続けているものだった。魔物討伐の際にも、誰よりも一番に剣を構えてみんなを守ろうとする。例えみんなに守られながらの勝利であったとしても。

 

 

「ねえ、ユウキ。あんた、魔法についてどこまで理解している?」

 

 キャルは草むらから立ち上がり、お尻についている草を払いながら問いかけた。

 

「……? うーん……キャルが上手なもの?」

 

「まあ、そうね。あたしは魔法が得意だわ。ってそうじゃないわよ!あんたそれでよく魔法を使う骨の魔物から逃げたわね。コロ助の話を聞いている限りじゃ、いつ死んでもおかしくない状況だったらしいじゃない」

 

「……?」

 

 何事かと状況を理解できずに首を傾げるユウキを横目に、キャルは自身の魔杖を拾い上げる。

 

「いい?今はもう魔物はいないからなんとでも言えるけどね?骨の魔物は、岩を操るっていたじゃない?それはつまり、あたしみたいに魔法を撃つタイミングが分からないまま襲ってくるの。下手したらあんた……考えたくはないけど死んでいたかもしれないのよ」

 

「……うん」

 

「本当に分かっているの……?まあいいわ。だから、魔法のまの字も知らないあんたがきちんと歩けるようになるまで、あたしが魔法とは何なのか教えてあげる♪ どうせ散歩する間暇でしょ? 魔法の原理も知らずに、一緒に冒険なんてやりたくないわ」

 

「……? いつもキャルと行っているよね?」

 

「……うっさい! とにかくあたしが勝手に教えてあげるって言ってんの。老人を歩かせるだけなんて、退屈すぎて仕方ないんだから! 魔法を知っていたら多少は戦いやすくなるでしょ! あんた、無駄に被弾して見てられないのよ」

 

 主さまお世話セットを背負い直したところで、スッと空いている手をユウキに差し出す。

 

「休憩終わり。ほら、さっさと行くわよ」

 

 むすっとした顔で手を差し出すキャルを見て、笑みを浮かべたユウキは、彼女の手を借りながら立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 ユウキたちが魔物に襲われてから3日後。

 有志で募ったパーティによって、正体不明の魔物が討伐されたという知らせがギルド管理協会に届いた。最近になり増加しているという魔物の凶暴化により現れた突然変異の一部だとして、今回の騒動は収束していった。そして、魔物が討伐されたことにより、ユウキにかけられた呪いは解かれ、元の姿へと戻っていた。

 

 

「あれ? ユウキくんはどこに?」

 

 食器の洗い物を終え、リビングに戻ってきたペコリーヌへとコッコロは答える。

 

「あぁ、ペコリーヌさま。主さまはお外で剣の稽古をしに行っていらっしゃいます。本日は何やら魔法を頑張るとおっしゃっていました。主さまは魔法が使えないはずなのですが……」

 

「ああ、なるほど。()()ですね! ふふっ、もうキャルちゃんったら♪」

 

「ペコリーヌさま?」

 

 一体何のことか想像もつかないために、首を傾げて疑問符を浮かべるコッコロにハッと気づいたペコリーヌは、彼女の手を引いて玄関扉へと近づく。

 

「実はですね、コッコロちゃんが魔物討伐に赴いてもらっている間、キャルちゃんがユウキくんに魔法の仕組みとその攻撃への対策について教えていたんです。体が動かせない分、知識をつければ冒険に役立つって。きっとその特訓ですね」

 

「なるほど。さすがはキャルさまです。主さまのためを思っていただいていたのですね。ですが、わたくしが戻ってからそのような話題を出していなかったような……」

 

「それはですね……」

 

 ゆっくりと扉を開けて、足音を立てないようにしながら、彼女らはギルドハウスの裏手にある開けた場所が見える場所へと移動した。物影に身を隠しながら、人の声が聞こえる方に視線を動かす。

 

 

「いい? こう、剣の広い部分で魔法を打ち返す事ができるの。こっちの細い場所で斬れるけどおすすめはしないわ。言っておくけど打ち返せない魔法もあるから、馬鹿みたいに何でもやろうとしないでよね」

 

「うん、わかった」

 

 そこでは、ユウキと少しだけ密着して剣の振り方を教えるキャルの姿があった。太陽が昇り始めた頃に活動をしているキャルの姿は、コッコロにとっては新鮮に見えた。

 

 

「キャルさま……! 寝室に戻られていなかったのですね」

 

「ほら、キャルちゃんって()()()()じゃないですか。コッコロちゃんが帰ってきた時も『お世話するのが面倒だったわ』なんて言っていましたけど、おしどり夫婦みたいに付きっきりでユウキくんを助けていたんですよ」

 

「なるほど……。キャルさまは恥ずかしがり屋さんでございますから、わたくしに隠されていたのですね。ふふっ、キャルさまは()()()()でございますね♪」

 

 彼女らはお互いの顔を見て小さく笑い、自身の姿が見られないように注意しながら二人の特訓をひっそりと眺めているのであった。

 

 




 
 本当のところはもっとキャルちゃんがユウキくんと一緒にいるときに一人だけ妄想を捗らせてしまい、あたしたちってこうしてみたらなんだか夫婦みたいじゃない?しかもこいつは変に年寄りになっているし、二人で結婚して、お互いに歳をとって、いつも一緒に歩いていた道を足腰が弱くなってしまったユウキを支えながら歩いている風景に見えるんじゃない?という自分の思い描いた未来予想図が頭の中を過って、急に恥ずかしくなり、心配されるユウキにうっさい馬鹿って罵る姿を思い描いていたのですが、このような形で収まりました。

キャルちゃんって何だかんだママ要素を持っていると思うんですよね。コッコロの代わりになったら何だかんだ面倒を見ていましたので。
ツンデレママ…いいですね!


まだ終わりません。
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