ガイはグラウンドを見渡すと、まだ勝敗が付いていない組みが2組。
レナとエレン。そしてジンとデュランの組み合わせだった。
何方も気になる対戦にガイはオルディスの操縦席越しから静かに、彼らの動きを注視すると。
白銀の騎士人形ネメシスと白菫の騎士人形ネビルが、同時に動き出す。
「痛いと思うけど!」
騎士剣で突きを繰り出すネメシスに対して、ネビルが杖を掲げる。
「痛いのはごめんなので」
「《偽りと幻想の刃を写出せよ》」
杖を触媒にネビルが魔術を放つ。
展開される魔法陣。そこから現れる刃にネメシスが騎士剣を強引に引き戻し、六枚の翼を拡げ飛翔する。
つい寸前まで居たネメシスの位置に幻想の刃が空を貫く。
「魔術師にとって魔術は全て」
ネビル越しから聴こえるエレンの静かな声。
すると放たれ、地面に突き刺さった幻想の刃が独りでに地面から抜かれ再び宙に浮かび上がる。
幻想の刃は、上空で静止するネメシスに向けて飛んだ。
迫る幻想の刃をネメシスは騎士剣で払う。
刃を斬り払い、払い落とすネメシス。
しかしネメシスが何度も斬り払おうと幻想の刃が踊る。
「これは……」
術者の意識が逸れない限り、対象を襲い続ける魔術が在る。
レナは本から読んだ知識を探り、エレンが操る魔術の攻略に移った。
ネメシスを取り囲む幻想の刃。
それに対してネメシスは鋭い回転斬りを放ち、まとめて刃を斬り払う。
迫るタイミングはここ!
レナはそう判断してネメシスをネビルに向けて急降下させた。
「魔術師に対して接近は有効。でもそれは生身の戦闘に限る」
エレンの声にレナは。
「そうね。でも魔術師が対象に有効だを選択し続ける以上、やりようは幾らでも有るわ」
ネメシスが間合いまで接近した、その瞬間。
ネビルの周囲に50もの弩砲砲が浮かぶ。
「掛かりましたね」
エレンが静かな声を呟く。
そして弩砲が一斉にネメシスに向けて放たれる。
耳をつん裂く炸裂音と衝撃音。
着弾の威力に砂塵が舞う。
一斉射撃による弩砲に観戦していた誰しもが息を呑む。
全弾撃ち尽くした弩砲はマナに還り、やがて砂塵が止む。
砂塵が晴れ、エレンは絶句を浮かべた。
ネビルの特殊能力【弩砲錬成】で同時展開。
威力を最小限に止め、人が死なない程度に抑えた。
しかし50の弩砲による20秒間の一斉射撃ならば、武術を嗜んだ者でも絶えず襲う激痛に耐えられるはずがない。
「……そんなのアリ?」
そう耐えられないだろうし、反応して全てを防ぐことは叶わない。
だがネメシスは
ネメシスの全方位を囲む球体上の障壁が全てを防いだのだとエレンは理解する。
「間に合ったわ」
実のところレナが魔術師の意表を突くには、手段がこれしか残されていなかった。
レナの扱う魔術ではエレンに通用しない。
それは幻想の刃で理解していた。
だからレナは敢えて罠に飛び込み、ネメシスの能力を発動させ意表を突いた。
ネメシスは翼を拡げ【防御結界】を取り払う。
そして騎士剣をネビルの首筋に当てると。
「降参するなら今の内よ」
「降参。頑丈そうな結界を打ち破る術が思い付かない」
レナはエレンの降参を受け入れ、騎士剣を鞘にしまう。
レナとエレンの対戦が終わると同時に、生徒の戸惑う声がグラウンドに広がる。
ガイは愚か意識を取り戻したザナルも絶句していた。
漆黒の騎士人形バルラが、ネメシスとヴォルグの能力を同時に発動させ紅蓮の騎士人形ゴリアスの動きを止めていたからだ。
ゴリアスは他の騎士人形と違い14メートルを誇り、分厚い装甲の重量型。
そんな機体が重力に縛られ、槍斧の矛先が防御結界に阻まれる光景にレナとエレンまでもが有り得ない物を見る眼差しを向けていた。
騎士人形の能力は初期能力を除いて原則一機に一つ。
本来能力を2つ発動ことは有り得ない。
生徒は授業を通して、機体の能力に付いて理解を深めていた。
いま、目の前で例外が現れるまでは。
「どうなったんだよ!?」
「わ、分からないんだ」
デュランの戸惑いにジンが戸惑いながら返す。
そしてバルラが視界からブレた。
ゴリアスの背後に突如として現れたバルラは、長剣を振り払う。
背部を斬り付けられた激痛がデュランを襲う。
同時にデュランは理解した。
いま何をされたのかを。
「ゴリアスの【超加速】まで使えんのかよ」
「な、何でだろうな?」
「操縦士のお前が分かんないじゃ誰も分かんねえよ!?」
ゴリアスが背後に振り返ると、バルラは片膝を付けて停止していた。
「……な、なんじゃあそりゃぁぁぁ!!」
動力源で有るマナ切れ。
つまりバルラは一度に何度も複数の能力を使用した結果、マナ切れを起こした。
状況を冷静に分析したガイは操縦席で苦笑を浮かべる。
『何だって能力を複数も使えんだ?』
『こっちが聞きてぇよ!』
オルディスなら何か知ってるじゃないかと訊ねれば、彼の悲痛な声が返ってくるばかりだった。
「ふむ、バルラに付いては謎が多いが……模擬戦は一通り終わったようだな。時間まで身体を休めるように」
クオン教官のその言葉で授業は締め括られ、生徒達は騎士人形から降りては、痛む身体を休めることに。