アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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9話 Cクラスの指揮官

 2時限目の操縦科を終え、教室に向かう道すがら。

 

「ディアス。次は負けない、僕こそがレナに相応しいと証明してみせよう」

 

 背後からザナルの挑戦状のような言葉に、ガイは振り向く。

 

「なら普段の態度も改めろ。そうすりゃあ少しはアトラスからの評価も変わるだろうよ」

 

「……努力はしよう」

 

 彼もこのままではレナが振り向かない。

 そう理解してガイの言葉を素直に受け止めた。

 素直な姿勢を見せる彼に、ガイは話ができる奴だと直感的に理解を示す。

 だからこそ今後の学院生活のために鍵を刺す。

 

「なら誰が誰と話そうかも自由だ。人ってのは束縛を強いる奴を嫌う傾向に有るからな」

 

「むむ……父上の教えでは好きな子ほど束縛しろと」

 

「お前の父には悪い噂しか聴かねえが、そいつは権力者の常套句だな。第一お前は本気なのか?」

 

  ガイの問いにザナルは、少しだけ考えてから聞き返した。

 

「本気とは?」

 

「本気でアトラスが好きなのかって聞いてんだよ」

 

 ザナルはレナとはじめて出会った社交界を思い出す。

 その時父親に『あの娘と縁談を結べ』と言われ、実際に父親の言う通りに近付いた。

 最初は父親の言いなりに、その内何度か出会うと彼女の可憐さに気付き、次第にザナルは心の底からレナに惚れていた。

 

「……最初は父に言われるがままに近付いた。それでも僕のこの想いは本物だ!」

 

「ならお前の努力次第だな」

 

 これでザナルの敵意から自分は外れ、鬱陶しい視線からも解放されるとガイは思っていた。

 しかしガイの思惑とは裏腹に、ザナルは意を決した男の眼をガイに向け。

 

「ふん、そういうお前は僕の好敵手だな。せいぜい彼女の前で互いに不様を曝さないように励むとしよう」

 

 そんな言葉を残してザナルは立ち去る。

 校舎の廊下で1人で取り残されたガイは、面食らった表情を浮かべた。

 

「なぜそうなる?」

 

 1人廊下でポツリと呟くと。

 

「やぁ、ディアスさんのアドバイスが的確だったからじゃないですかねぇ」

 

 音も無く背後から忍び寄ったリンの声にため息が漏れる。

 

「盗み聞きしてやがったな」

 

「何のことでしょう〜? あたしは偶然通り掛かった廊下から話し声が聴こえたタイミングで靴紐が解けたので、結び直していただけですよ」

 

 何の事やらと恍けるリンに対して、ガイは口角を吊り上げる。

 

「知らなかったのか? グランツ王国じゃあそれを盗み聞きって言うんだよ」

 

「そうなんですねぇ。いやぁ良いことを知りました」

 

 そう言ってリンは廊下を足速に立ち去り、ガイも3限目に遅れては拙いと判断して歩き出した。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 3限目の操縦科は座学。

 クオン教官は黒板を前に生徒を見渡す。

 

「さて。諸君も2時限目の模擬戦で騎士人形による戦闘を体験したな」

 

 実際に騎士人形から操縦士に伝わる鮮明な痛み。

 機体を動かしながら戦闘思考を行い魔術を操り、戦略を考える大変さ。

 改めて身を持って知った体験に生徒が頷く。

 

「よろしい。騎士人形の能力についても各々理解が深まっただろう」

 

 確かに2時限目で能力について理解が深まると同時に謎が魔を差した。

 生徒の視線がジンに注目する中、彼は非常に居心地が悪そうに身体を揺らした。

 

「来月のクラス対抗試合のために、クラスメイトの能力を把握させ、指揮官を決める段取りだったが……」

 

 クオン教官は授業の予定を話すと同時、珍しくため息を零す。

 

「先ずは君達がブルークスと話し合う時間が必要のようだな」

 

 発動できる能力の数や制限。

 ガイはそんな言葉を思い浮かべると。

 

「ああ、早速話し合って構わない」

 

 クオン教官が声にした。

 

「教官は干渉しないんですか?」

 

 長い桃色の髪をポニーテールに結んだ女子──マリアの問いに、クオン教官は肩を竦める。

 

「どの道君達の判断でクラスの代表たる指揮官を決めねばならんのだ。教官のわたしは邪魔だろ?」

 

 マリアは納得した様子を見せる中。

 

「バルラに付いて本当に何も分からないんだけど」

 

 ジンの弱音混じりの声が教室に響く。

 それに対してガイは。

 

「分からない? じゃあ何で能力を発動できたんだ」

 

「頭に流れて来たんだよ。こうすれば能力が発動するって」

 

 ジンの話しからバルラにはしっかりと意志が有るのだとガイは考えた。

 

「なら能力は幾つ使える?」

 

「頭に流れた情報通りなら……20。というか多分Cクラス全機分」

 

 ジンの自信なさげな声に、Cクラスの誰しもが沈黙した。

 静寂が漂う教室。

 しかし決して静寂は長く続くことは無かった。

 

「「「はあぁ!!!?」」」

 

 一部クラスメイトの叫び声が教室内に響き渡り、クオン教官が眉を吊り上げる。

 話し合い干渉はしないが、静かにしろと目で語る彼に対して生徒は静まる。

 そんな中、ガイは1人だけ。

 

「おいおい何の冗談だよ。じゃあ何か? バルラとの対戦はオルディスを除いた20機を纏めて相手にするってことか?」

 

『なんか、仲間からハブられた気分だなぁ〜』

 

 能天気なオルディスの声が頭の中に響く中、ガイは面倒臭そうに顔を歪めた。

 

「……それって、なんだか物語の主人公が仲間の力を借りて戦うお話みたいね」

 

 確かにそんな物語は有る。

 勇者と呼ばれる登場人物が、魔王を倒す旅の最中出会った仲間達から力を借りて、最後には魔王を討ち倒す物語が。

 そんな物語のような能力を有した騎士人形を操るジン。

 

「ならば、物語に倣いブルークスを指揮官に任命するか?」

 

 ザナルの提案にレナが意外そうに呟いた。

 

「意外ね。指揮官を真っ先にやりたがると思ってたわ」

 

「君が望むのであればやるさ。ただ、僕だって自分に対するクラスの評価を理解していない訳ではない」

 

「ふーん。少しは周りが見えるようになったんだ」

 

 レナは本当に意外そうな反応を見せては、わずかにガイに片目を向ける。

 彼との模擬戦がザナルに良いきっかけを与えたのだと理解する。

 そもそもガイがザナルに敵意を向けられる原因が自分に有った。

 今度機会を見て彼に何かお礼とお詫びをしなければ、とレナは静かに考える。

 

「待ってくれよ。指揮官を俺に? 他にも誰か相応しい人が居るだろ。例えばレナとかさ」

 

 ジンが指揮官の件をレナに振った。

 

「私? 私は前に出て戦ってる方が性に合ってるかな。それに全体を見渡しながら戦闘に集中できる自信が無いわ」

 

 いつの間にかジンの騎士人形から指揮官決めに話題が逸れている。

 その件に関して1人、物静かに問うた。

 

「指揮官を決める前に、バルラについて考えませんか? ディアスさんが仰るように1機で20人分の働きができるんですよ」

 

 このクラスにとって間違いなくバルラの存在は強みだ。

 同じ能力を他クラスに使用し、錯乱させることも可能になる。

 ガイはバルラの強みを考えると同時に致命的な弱点を指摘した。

 

「確かに戦術面でバルラの存在は大きいが、模擬戦を観ただろ? 複数の同時能力使用はマナが保たねえことを」

 

「使用のタイミング次第では強力な切札ですよね?」

 

「ああ。強力な切札だが、適切な判断で手札を切れる魔術師が居ればの話だがな」

 

 挑発気味に返すガイにエレンは、むっとする。

 

 ガイは指揮官ならエレンしか居ないと考えていた。

 彼女は骨の髄まで魔術師だ。

 魔術師は相手の弱点を探り、どう攻めるか思考を並べる。

 魔術戦に於いての基礎と知識がエレンには備わっていた。

 後衛は全体を見渡す事を常に心懸ける。

 だからこそエレンが指揮官に相応しい。

 他にも魔術師がCクラスに居るが、癖が強い者が多いのが現実だった。

 

「ブルークスとバルラの件はどの道当人が知らねえんじゃ、何も分からねえ。なら先に指揮官を決めちまった方が手っ取り早いだろ」

 

「そうですが、ディアスさんがやらないんですか?」

 

「お前の眼鏡には俺が指揮官をやる男に見えるのか? 考えるよりも身体が動くタイプだぞ俺は」

 

 ガイとエレンの話を聴いていた生徒は考え込む。

 万が一自分が指揮官をやるとなれば、どうなるかを。

 バルラというイレギュラーを的確に使いつつ、全体を見渡す。

 生徒の殆どが自分には無理だと結論に至り、エレンに視線を向ける。

 クラスメイトの視線に気が付いたエレンが小首を傾げた。

 

「あの? どうしてみんなで私を見るんですか?」

 

「うにぁ〜、指揮官に相応しい魔術師が居るなぁと思って」

 

 眼を細めながら語るトリア・ハーキュリーの言葉に、同意を示すように他の生徒が頷く。

 クラスメイトの反応にエレンは頬をひきつらせ、ガイに視線を向けた。

 

「こんな簡単に決めてしまって良いんですか?」

 

「魔術師なら後方支援はお手の物だろ」

 

「むっ……それを言われるとパステカル家の魔術師として挑発を受けるしかありませんね」

 

「Cクラスの指揮官はパステカルに決まりだな」

 

 クオン教官の締め括りに生徒は賛同を示し、正式にCクラスの指揮官はエレンが務めることとなった。

 まだ授業終了まで時間が有る中。

 

「俺のバルラ……」

 

 ジンがバルラについて頭を悩ませていた。

 それでも彼の満足行く解答が得られないまま──事件が起こった。

 

 

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