アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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11話 暗闇の古代遺跡

 商店街を抜け、商店街と観光街の境目にガイ達は訪れていた。

 ここに古代遺跡の入口有り、彼らは考古学者の先導に従う。

 分厚い石の扉の前で一度考古学者が足を止めた。

 そこに『立入禁止』と書かれた真新しい看板が、扉の真ん中を陣取っていた。

 

「本当に看板が有るんだな」

 

 デュランがそう呟くと、ガイは看板まで近付く。

 どっしりとした足取りで看板に近付くガイに、レナ達は様子を見守る。

 

「入って欲しいんだか、そうじゃないんだか……!」

 

 ガイは右脚で思いっきり看板を蹴り出した。

 放物線を描きながら空を舞った看板は、重力に従い地面に落下。

 無惨にも砕け散った看板に考古学者は。

 

「ず、随分と荒ぽいんだね……頼むから遺跡を傷付けないでくれよ」

 

 内部で無意味な看板を置いた誰かが敵対するなら、ガイ達は不審人物を拘束し、軍に突き出す必要性が有る。

 

「狭い内部で武器を振り回そうなんざ考えて無いさ」

 

「そ、そうか。あー伝え忘れていたのだが、遺跡は下層に進むに連れマナの流れが悪いのか、あらゆる魔術が使えなくなる」

 

 考古学者の忠告にガイとレナは知っていると頷き、デュランとリンは知らなかった情報を即座に頭に叩き込む。

 

「今日は簡易的な調査だけど、ガイは明日……」

 

「悪いが明日はバイトだ。しかも新刊が入荷するだとかで、忙しくなるそうだ」

 

「えっとさ、こういう状況だからバイトは休むとか」

 

 デュランが選択肢を提示すると、ガイが応えるよりも速くレナが口を挟む。

 

「今回の件はかなり無理言って手伝って貰ってるのよ。それなのに大事なバイトを休んでまで手伝ってもらう訳にはいかないわ」

 

「そういう事だ」

 

 ガイがそう伝えると、重々しい扉が音を奏でながら動く。

 そして完全に開き切った扉を最初に考古学者が足を踏み込んだ。

 彼にガイ達が続き、燭台に照らされた石の階段を降り始めた。

 

 階段を降る道中、デュランは扉の開閉音に付いて疑問を抱いていた。

 

「結構な音がしたけど、流石に寮までは届かないよな」

 

「ああ、寮どころか商店街まで届かねえな」

 

 毎晩遅くに誰かが調査に訪れている。

 それが軍部なら学院の教官達に通達が行き、生徒達に伝えられる。

 『絶対に軍部の邪魔をするな』と。

 だからこそガイ達は今回の件に強い不信感を募らせた。

 

「テロリストが拠点に利用するなら……いえ、流石にあまりにもお粗末ですよね」

 

「学院が在るラピスは警備が厳重だ。だからこそ隠れるのにも持って来いだが」

 

「偽装した看板は逆に目立つよね」

 

 3人が足を止めず頭を悩ませると、考古学者が遺跡の壁を優しく手でなぞり。

 

「こうは考えられないかい? 敢えてお粗末な偽装を見せることで、ここにマヌケなテロリストは居ない。そう思い込ませるための罠だと」

 

 考古学者の考えに、ガイは顎に指を添え考え込んだ。

 確かに彼の言う通り一理あり、本当にテロリストが潜伏しているなら街と学院が危険に曝される。

 

「テロリストかぁ……俺達4人だけで? 騎士人形を喚べない状況で相手を? 危険だなぁ」

 

 冷静に現状と戦力を考えたデュランの声に、ガイ達は頷くことで同意を示す。

 彼の言う通り、自分達は武術を学んだ学生に過ぎない。

 片や敵が目的のためなら殺人を厭わない連中ともなれば、なおさら危険だ。

 

「それでも少しは、クオン教官に伝えられる証拠を見付けないとね」

 

「ま、偽の考古学者の1人2人拘束すりゃあ、目的は達成したと言えんだろ」

 

 ガイのそんな言葉に4人は頷く。

 

 会話もそこそこに長く続いた階段を降り終えると、幅広く何処までも続く通路が待ち構えていた。

 幾つにも枝分かれした別れ道と燭台の頼りない灯り。

 不気味な雰囲気を醸し出す通路にデュランが、若干声を上擦らせながら。

 

「な、なんか出そうだな」

 

「な、な、何かって何ですか? あれですか? あの、ちょっと稀に台所に現れる主婦の敵的なあれ?」

 

 意外にも怯えた様子で瞳を忙しなくリンの様子に、ガイは肩を竦めた。

 

「台所のあれとは縁がねえが……幽霊てのは──」

 

 ガイが最後まで言い終える前に、リンがレナの腕にしがみ付く。

 

「いません!! 幽霊なんて、そんな浮遊するナニカなんていません!!」

 

 怯えた様子で強く否定するリンの姿に、レナは男2人に咎めるような眼差しを向けた。

 

「女の子を怖がらせて恥ずかしくないの?」

 

「えぇ〜そんなつもりは無かったんだけどなぁ」

 

「悪かったよ。まさかナギサキがアレに恐がるとは想像もしてなかった」

 

「べ、別に、こ、怖くはないですよ? ただ……その物理的な攻撃が通用しない相手が怖いのであって」

 

 物理が通じない存在は、確かにこの世に存在する。

 そう言った存在に対して魔術が有効なのだが。

 リンの焦りと恐怖心からガイは、彼女はソレと相対した時、冷静では居られず魔術が発動できない。

 魔術を発動するには冷静でなければならないからだ。

 

「雑談も良いが、ロープを地面に設置した。これを伸ばしながら進むよ」

 

 考古学者の指示に、ガイ達はロープを握る。

 考古学者の先導に従い通路を進んだ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 しばらく複雑に入り組んだ通路を進むと、ロープに異変が生じる。

 ロープがわずかな揺れを発し、次第に強く引っ張り寄せられた。

 出口までの目印を失っては門限まで帰れなくなる。

 そう考えた4人は強くロープを握り締めることで、抵抗した。

 するとガイ達の居る背後から足音が響く。

 反響する足音、走り出したのか徐々に近付く音に誰しもが警戒を強める。

 ガイが拳を握り締めると。

 暗がりから影が飛び込む。

 4人は考古学者を守るために、即座に影に拳を放つ。

 

「ちょ?! 待ってくれ!!」

 

 聴き覚えの有る声にレナ達が動きを止める中、ガイの拳がその人物の真横を貫いた。

 

「……なんでテメェが此処に?」

 

 ガイ達の背後から現れたのは、Cクラスのジンだった。

 本来この場に居る筈の生徒は4人だけ、それも考古学者の助手を建前が有ってこそ。

 

「なんでって……立入禁止の遺跡に不審な人物が入り込んだのを見たからだよ」

 

「お前が正義感の強い男だとは理解している。だが今回は不味い……何で不味いか分かるか?」

 

「……そりゃあ調査権限も無く無断で遺跡に入ったからだろ」

 

 何が不味いのかしっかりと理解してるなら遺跡には入らず外で誰かを待つか、教官に伝えて欲しかった。

 

「理解してるなら話が速え」

 

 ガイは考古学者に振り返った。

 すると彼は仕方ないと肩を竦めながら、微笑んで見せた。

 

「助手1人追加ね。出た時に何か聞かれたら口裏合わせましょう」

 

「ブルークスは教授に頼まれて先に遺跡の入口で待っていた。だけど不審な人物が入るところを目撃したため、先に先行した……こんな感じか?」

 

 デュランのシナリオにガイ達は頷く。

 それ以外で他人を納得させる言い訳が無いのも事実だからだ。

 

「それでブルークスが見た不審人物ってのはどんな風貌だった?」

 

「遠目から見ても分かる鍛え抜かれた身体付き。紺色のコートを羽織って、背中に大剣を背負ってたぞ」

 

「髪の色は?」

 

「確か、緑色だった」

 

 緑髪、鍛えられた身体付き、紺色のコートと大剣。

 ガイ達は不審人物の情報を頭の中に叩き込み、来た道を振り向く。

 

「ふむ……今日の調査は此処で引き上げよう」

 

 考古学者が来た道を引き返すと、ジンがそれに待ったを掛ける。

 

「何処かに不審人物が居るのに見過ごすのか!?」

 

「ブルークスの気持ちは分かるけどよ。俺達が此処に居るのもかなりギリギリの状況なんだぜ? そこに加えて門限まで破ったらさ、幾ら助手とは言え教授だって庇えないだろ」

 

 デュランは言葉を選んでジンを諭した。

 不審人物が軍部が探りを入れていると知れば、何処に移動してしまう。

 そうなれば全て有耶無耶に終わってしまうと考えて。

 

「……不審人物よりも門限が大事なのかよ」

 

「門限は建前だ。18時に本来全生徒が各寮に居る筈が、操縦士で有る俺達が遅くに遺跡から出て来てみろ? たちまち教授の立場諸共、全部台無しだ」

 

「何でだよ。住人の不安だって有るだろ」

 

「住人が不安を抱くのは不審人物に限った話しじゃねえ。先日テロ事件を起こしたテロリスト、それに操縦士が住人の不安の種だ」

 

 門限によって学院全生徒は寮に帰る。

 つまり街の中に操縦士は警備部隊以外に居なくなるということ。

 それが住人にとって心休まる時間帯だ。

 

「ジンが納得してないのも分かるけど、操縦士の私達が門限を破って遺跡に居たら……それこそテロリストに繋がっているって、学院のみんなも疑われちゃうのよ」

 

 ジンはそこまで言われて最悪の状況が想像できた。

 故に彼は拳を握り締めることで、溢れ出る正義感を押し殺す。

 漸く納得し、歩き出すジンを他所に──突如、通路の先から鋭い音が響いた。

 鋭い風の刃が考古学者に向けて飛ぶ光景が視界に映り込む。

 風の刃にいち早く反応したリンが咄嗟に、教授に覆い被さる。

 刃の唸る音、地面に斬撃痕を刻む鋭さ。

 彼女は自分と考古学者の死を悟ってしまった。

 

 このままではリン諸共両断されてしまう。

 誰しもが息を呑み、悲鳴を押し殺す中。

 2人の間に太刀の刃が割り込んだ。

 太刀を盾に風の刃を受け止めるガイの姿に、リンが息を呑む。

 

 風の刃を受け止め、酷い悲鳴を奏でる金属音が全員の耳を打つ。

 悲鳴をあげる刃と火花にガイは顔を歪める。

 

『このままじゃ、ガイは愚か考古学者ごと真っ二つだぜ!』

 

『そんな事は分かってる』

 

 頭の中に響くオルディスの声に、ガイは左拳を強く握り締めた。

 刃の軌道を変える。

 そのためにガイは左拳が火傷することも覚悟の上で、呪文を唱えた。

 

「《炎よ拳に宿れ》」

 

 魔術はガイの指定に従い、左拳を炎で燃やす。

 燃える痛みに耐えながらガイは、風の刃の横合いから炎の拳を叩き込んだ。

 横から加えられた衝撃により風の刃は、通路の壁に軌道が逸れた。

 魔術を消したガイは、火傷を負った拳を振り払う。

 リンは立ち上がり、遠退く気配を追うべく駆け出す。

 同時にガイの右手が道を塞ぎ、

 

「追うな。蝶々なく仕掛けて来る奴だ……罠の1つや2つは有る」

 

 リンの行動を制した。

 

「あ、あの……」

 

 咄嗟の判断で、結果的にガイに怪我を負わせたことに、リンは申し訳なさから顔を伏せる。

 

「テメェの奢りでコーヒー一杯だ。それ以上は受付ねえ」

 

 面倒臭そうに答え隣を素通りしたガイに、リンは一瞬理解が追い付かず呆けた。

 自分は一体なにを言われたの? と。

 聞き返そうと振り向くと、腰を抜かした考古学者に肩を貸すガイの後姿が瞳に映り込む。

 

「コーヒー一杯で謝罪も不要みたいね」

 

「火傷を負ったのに……それだけで済ませるんですか?」

 

 リンの問いにガイは答え無かった。 

 誰かが命を落すことと比べれば、火傷は傷の1つにも入らない。

 彼はそんな自論を浮かべながら、考古学者と出口に向かって歩き出す。

 

「ぼやぼやするな。いつ2撃目が放たれるか分からねえんだ」

 

 彼の言葉にデュラン達は、背後に警戒を強めながら遺跡を後にするのだった。

 その後、夕暮れに染まり門限が近付く中、商店街で考古学者と別れたガイ達はそれぞれ寮の帰路に着く。

 結局のところ偽装の件や遺跡に出入りしていた者の正体は掴めずに終わった。

 

 

 

 

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