アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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13話 リベルタ

 いつもの授業。

 緩やかに流れる時間。

 最早日常の一部となった操縦士学院の生活に、生徒が安穏と過ごしていた時だった。

 放送機から拡散魔術による声が全校生徒に響く。

 

「操縦士諸君は何の為に生きる? 強制入学、法により縛られた自由という名の檻。……諸君は鎖に繋がれた獣だ」

 

 聴き慣れない誰かの声に生徒が眉を歪める。

 

「今すぐ放送を止めさせろ!」

 

 男性教官の怒声に、女性教官が眉を吊り上げた。

 

「ダメです! 停止魔術が受付ません!」

 

 学院から校内に放送をするには、放送用の拡散魔術で校内に設置された放送機に声を送る必要がある。

 つまり放送を行なっている何者かが、学院に侵入し実行していると男性教官は考えた。

 よりもよって教官の大半が王都に出ている状況で。

 しかし男性教官の考えは次の言葉で否定されてしまう。

 

「教官! 放送室に誰も居ませんでしたよ!」

 

 放送委員の生徒が駆け付け、彼の言葉に男性教官は眉を歪める。

 

「どこからか魔術で干渉を?」

 

 街の何処から。考え込む男性教官を他所に放送は続く。

 

「虐げる者達を操縦士が護る必要は有るのだろうか? 操縦士諸君は自由で在るべきだ。真なる自由を求める者を我々【解放者(リベルタ)】が歓迎しよう」

 

 その名は、グランツ王国で多発的にテロを起こす組織の名だった。

 構成員も背後関係も不明だが、1つ判っている事は構成員の全員が操縦士であること。

 

「馬鹿な! テロの言葉に誰が動く!?」

 

「ああ、諸君が賢明ならば我々はラピスに対しては何もしないだろう。しかし刃向かうというなら所詮は政府に飼い慣らされた猛獣、我々は諸君を殺しに行こう」

 

 その言葉を最後に拡散魔術が途切れた。

 本の一瞬訪れた静寂に生徒は息を呑んだ。

 学院にこのまま居れば、軍隊入りさせられ戦場で死ぬ羽目になる。

 強制的に従わせる国に生徒は、愛国心を抱くどころか。

 このままテロに関与して国に自由を齎した方が良いのでないか。

 そんな思考が毒のように広く広がる。

 同時に理性という名の中和剤が頭の中に広がった。

 此処でテロに関与すれば、自分の家族は如何なるのか。

 軍部によって家族の安全は確保されている。逆にそれはこう言った事態を見越した人質でしかないのだと。

 毒と理性の衝突に生徒が混乱に陥ると。

 一刻も経たない内に状況が変わり始めた。

 

 校舎の外に映り込む騎士人形。

 遺跡都市ラピスのあちこちで現れる騎士人形達の姿に、いよいよ生徒達は混乱に呑み込まれるのだった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

「1年生は各教室に待機! 2、3生は校舎防衛班に分かれつつ市民の避難誘導!」

 

 長い黒髪に切れ目の女性教官──リンドウ・ツキカゲが放送で指示を飛ばす。

 同時に彼女は苛立ちから舌打ちする。

 

「クオンとゼオン理事長の不在が痛いな」

 

 王都方面でテロリストが活動を再開させ、農村に対して襲撃を行った。

 それが3日前のことで、クオン教官が昨日王都に出動した理由の1つでも有る。

 そしてテロリストが潜伏していたのもこの街だ。

 昨晩にレナ・アトラスから告げられた情報、そして明け方のリンドウ教官の調査でテロリストが潜伏している証拠を掴んだ。

 しかし、結果的に間に合わずテロリストの活動を許してしまった。

 

「悔やんでも遅い。ならばテロを撃ち砕くだけだ」

 

 リンドウ教官は校舎の窓から外に飛び降り、騎士人形を喚ぶ。

 銀の騎士人形──シルバが都市の空を舞う。

 

 銀の騎士人形が空を舞う姿に、ガイは眉を歪める。

 

「確かAクラスの担当教官の機体だったか」

 

「うん。8年前の時にも活躍していたわね」

 

 窓の外から出動する警備部隊の騎士人形や教官達の騎士人形を、2人は眺めていた。

 そんなガイとレナにジンは声をかける。

 

「なあ、俺達も何か行動を起こさないか?」

 

「俺達には待機命令が出てんだろ」

 

「黙ってあの光景を見てろって言うのかよ!」

 

 街中で騎士人形同士が部隊に分かれ、敵味方入り乱れ市街地戦を展開している様子にジンは強く拳を握り込む。

 

「経験の浅い俺達は邪魔になるだけだ」

 

 部隊間で連携を取り、テロリストを追い込む警備部隊。

 そして警備部隊の集中攻撃がテロリストの機体を1機刺し砕く。

 すると機体は爆散し、破片が民家に降り注ぐ。

 悲鳴を挙げる住人、破片に押し潰れる者、爆散に巻き込まれ行動不能に陥る騎士人形。

 そんな戦場にガイは強く眉を歪めた。

 

『騎士人形が爆散? おいおい、どんな装備を積んだってんだ?』

 

 騎士人形には機体が爆発するような火薬は使用されていない。

 全て魔術、錬金術、人形技術で構成された機体だからだ。

 なのにテロリストの機体は爆散を引き起こした。

 可笑しな事にガイが思考を並べた、その時だった。

 Cクラスのすぐ外にテロリストの騎士人形が1機降りたのは。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 黒茶髪の男──ヴァンは黒鉄の騎士人形越しから、睨むガイを見据えた。

 こちらを敵として認識する者の眼だ。

 そんな目にヴァンはゲオルグの背部から大剣を引き抜く。

 

「こちらに投降するならば命は助けよう」

 

 譲歩の言葉を吐き出す。

 

「ふざけるな!」

 

 怒声と共に斬撃が飛来する。

 ゲオルグは一度校舎から後退し、斬撃を避けた。

 校舎とゲオルグの間に割って入るシルバに、ヴァンは舌打ちした。

 

「お前が残っていたか」

 

「ふん、此処で貴様を捕縛する」

 

 ブースターを噴射させ曲刀で斬り掛かるシルバに対して、ゲオルグは大剣を振り抜く。

 刃を受け止め、ブースターを噴射させながら互いの騎士人形が空を飛ぶ。

 繰り出される刃。

 弾かれ、軌道を変えれ、また刃が振われる。

 何度も刃を交えるシルバとゲオルグに、見守っていた生徒が息を呑む。

 高度な操作技術と剣技に誰しもが見惚れていた。

 そんな中、ガイは太刀の柄を強く握り締める。

 

「ディアスさん、どうしたんですか?」

 

「いや、爆散した騎士人形が何なのか考えていた」

 

「普通じゃないですよ」

 

 ガイとリンが戦闘から視線を外し、普通じゃない騎士人形に頭を悩ませた。

 騎士人形は何で製造されているのかは知識として知っている。

 しかし製造するための人骨ベースや魔術が誰にも再現できない。

 加えて騎士人形1機分の質量を錬成するだけの技量が必要となる。

 どこの軍隊も騎士人形を量産化するには至らない。

 なのに爆散する騎士人形が存在する。

 

 2人が頭を悩ませる中、単眼の騎士人形が教室を覗き込んでいた。

 こちらを観察するように、ぎこちなく頭部を動かす様子が不気味さを醸し出しす。

 やがて単眼の騎士人形は拳を教室の窓ガラスに向け、引き放つ。

 

 割れる窓ガラス、破片が飛び散る中、ガイはリンとレナの背中を引っ張り、廊下側に投げ飛ばす。

 突然投げ飛ばされた2人は、床に打ち付けられた痛みに眉を歪めながら、素早く立ち上がる。

 するとそこには、単眼の騎士人形の腕に握り締められ、血を流すガイの姿を写り込んだ。

 

「で、ディアスさん!!」

 

「おいこら! ディアスを離しやがれ!」

 

 デュランが槍斧を機体の腕に叩き付けるが、硬い装甲に矛が弾かれるのみ。

 ガイを助けなければ。

 なのに生徒の足は動かない。

 怪しく赤い光を放つ単眼の騎士人形に、生徒は足元が崩れるような感覚に襲われていた。

 同時にガラスの破片が突き刺さり、出血と痛みに悶えるジンの姿まで有る。

 

 こんな状況の中で、ガイは口元を吊り上げ笑った。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 グラウンドでは2、3年生と思われる騎士人形がに単眼の騎士人形と戦闘を繰り広げていた。

 訓練通りの部隊運用で確実に追い込み、奮闘する生徒達。

 そして学院に避難した住民を騎士人形が盾になりながら、敵機の攻撃から護る。

 

 単眼の騎士人形に掴まれた状態で外に引っ張り出されたガイは、オルディスに念話魔術で呼び掛ける。

 

『来いオルディス』

 

『何処に?』

 

『こいつの真上だ』

 

『しょうがねえなぁ』

 

 ガイの呼び掛けに従ったオルディスは、指示通り単眼の騎士人形の真上に顕れる。

 そして重力に従い落下したオルディスが単眼の騎士人形にのし掛かった。

 重みで地面に倒れ込む単眼の騎士人形とオルディス。

 そんな公開にCクラスの面々は悲鳴を挙げた。

 あれではガイが潰されると。

 

「ディアスさんっ!」

 

 しかしオルディスは立ち上がり、腰の太刀を引き抜く。

 ガイはオルディスの落下を利用し、単眼の騎士人形が動きを止めるのを待った。

 そして同時に念話魔術でオルディスに搭乗させ、拘束から逃れたのだと。

 クラスメイトは状況を理解し、安堵の息を吐く。

 

「何で全く同じ騎士人形が存在するんだかっ!」

 

 苛立ちを吐き捨てるように、ガイは単眼の騎士人形に太刀を一振り。

 ガイが想像していたよりもずっと簡単に、刃が装甲を斬り裂く。

 余りにも脆すぎる機体にガイは眉を歪める。

 一太刀入れられた衝撃か、単眼の騎士人形の動きが止まる。

 敵機を無力化した事にガイは安堵の息を漏らす。

 同時にグラウンド周辺を見渡す。

 上空では相変わらず激闘を繰り広げるシルバとゲオルグ。

 そしてグラウンドには起動を停止した単眼の騎士人形が煙を挙げ、生徒達が操る騎士人形が拘束するべく近付いていた。

 不意にガイの脳裏に、爆散した騎士人形の姿が浮かぶ。

 あまりにも脆い機体、機体から煙を挙げ様子。

 どれも騎士人形には当て嵌まらない現象と同型機。

 刹那の中、ガイは考え込んだ。

 騎士人形の形をした何かが目の前に存在する。

 テロリストが何故そんな物を保有しているのかは判らない。ただ、ガイが理解したことと言えば、不用意に近付くのは危険すぎることだけ。

 だからガイはオルディスの内部で叫ぶ。

 

『そいつに近付くな!』

 

 ガイは念話魔術を生徒達の騎士人形に向け、警告を鳴らす。

 彼の警告を受け取った生徒達は、同時に機体を後退させると。

 鈍い轟音が校舎全土に響く。

 燃え広がるグラウンドとあちこちに落ちる破片。

 

 ガイはすぐさま何が起こったのか理解を示す。

 単眼の騎士人形が一斉に爆発を起こしたのだと。

 理解したと同時に、ガイの背中に衝撃が襲う。

 

「っ? なんだ……」

 

『まずいまずい! 自爆野郎が取り付きやがった!』

 

 オルディスの背後に組み付く機体にガイは舌打ちを鳴らす。

 他に気を取られ過ぎた。

 その結果がこれだ。

 

『至近距離からの爆発か。お前は耐えられるか?』

 

『ガイ。俺は耐えられるが、お前が耐えられるかは保証が無い』

 

『なら良い。機体が破壊されないなら生存の確率は上がる』

 

 単眼の騎士人形は蒸気を発しながら凄まじい熱を宿す。

 燃えるように赤く染まる機体はやがて蒸気を放出して。

 自爆を引き起こし、グラウンドに爆音と生徒達の叫び声が響き渡った。

 

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