アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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19話 少数部隊

 第3グラウンドにCクラスが集合すると、現れたクオン教官に誰しもが眼を見開く。

 右頬に切傷を作ったクオン教官の様子に、エレンは思わず訊ねた。

 

「あ、あの……一体何が?」

 

「何でもない。今日も欠席者無しだな、では5時限目の授業を始める」

 

 絶対に何か有った!

 生徒は心の叫びは届かない。 

 しかしクオン教官を相手に詳細を聞き出す事は叶わない。

 だから生徒は敢えて彼の傷の存在を無視することを選んだ。

 

「本日はホームルームで通達した通り、3人1組に分かれ部隊を作り模擬戦を行ってもらう!」

 

 7組に別れる人数だ。

 初回の頃とは違って誰も余らない理想の人数。

 

「参考までに部隊はどの様に決めるべきでしょうか?」

 

 エレンの質問にクオン教官が間を空けず答える。

 

「バランス重視が理想だが、敢えてそこを崩す事も構わん。例えば前衛一辺倒、後衛のみの部隊、前衛1人に対し後衛2人、考えられる限りの編成を試すのも良いだろう」

 

 このクラスは後衛を得意する生徒がそこそこ居る。

 両方熟る生徒が数人。

 中には何方とも言えない支援型の生徒も居る。

 エレンはその事を踏まえ、実際に対戦と観戦をしてから対抗戦の陣形を決めようと考えた。

 そんな彼女を他所にクオン教官は1つ付け足す。

 

「対抗戦のルールにも直結するが、指揮官を討ち取った部隊が本日の勝利とする」

 

 考えを纏めていたエレンは、突然の横槍に頭の中が真っ白に染まる。

 今、彼は何と言ったのだろうか?

 冷静に記憶探ると指揮官を倒した部隊が勝利と。

 それをクオン教官は何食わぬ顔で言った。

 

「……えっ」

 

 既に狙いを定める生徒の視線にエレンは冷汗を掻く。

 指揮官とは狙われる立場に有る。

 それは理解していたが、まさかクラスメイトから狙われるとは予想もしていなかった。

 クオン教官はエレンが呆けるのもお構い無しに話を続ける。

 

「指揮官が居ない部隊は相手部隊を全滅に追い込めば勝利となる」

 

 彼の説明に生徒は行動を開始する。

 

「ディアスさん、あたしと組みません?」

 

「ハーバーとフォンゲイルと組む」

 

「……そうですか。それは残念です、レナ、エレン組みましょう」

 

 リンの誘いにエレンは考え込んだ。

 撹乱型のリンとイルソンの能力。

 前衛型のレナと高機動戦闘に防御結界を備えたネメシス。

 そして魔術師のエレン。

 エレナはリンの小さな両手を握り締め。

 

「その誘い受けます! というか非常に助かります!」

 

「部隊戦として戦うには丁度良いわね。私もエレンに参加」

 

 ガイは興味深そうに3人の部隊を見ては、早速デュランとザナルに誘いを掛ける。

 2人は1つ返事で承諾し、早速騎士人形の召喚に移った。

 

「俺は兎も角、フォンゲイルを誘うのは珍しいな」

 

「こいつは部隊戦だ。フォンゲイルの【重力展開】にお前の【超加速】が合わされば面倒臭えだろ」

 

 言われた2人は互いの機体を見合わせ、確かにと頷く。

 ザナルが動きを封じている間にガイとデュランが一撃叩き込む。

 理想的な動きを想像した2人は、逆にどう動けば互いの動きを阻害するのかを考えた。

 そうこうしている間に各部隊が決まり、いよいよ対戦が行われることに。

 

 ▽ ▽ ▽

 

「初戦はフォンゲイル隊とブルーク隊。ゾーピス隊とマーキュリー隊だ!」

 

 互いに距離を取り並ぶ中、ガイは真っ先にジンに警戒を強めた。

 能力が割れている茜の騎士人形ピュリアと浅緋の騎士人形キルセイン。

 ビュリアの制圧力が高い能力【魔弾幕】

 キルセインの部隊戦に於いて厄介な【支援陣】

 2機ともガイにとっては厄介だが何方の能力を、どの能力を自由に使えるバルラが尤も厄介だ。

 オルディスは太刀を抜き霞の構えを取る。

 同時にガイは念話魔術を使用し、

 

『聴こえるか? 先ずはブルークスを引き離す』

 

『おう! あいつはマジで厄介だからなぁ』

 

『重力展開と防御結界を同時に使われては敵わん。君の判断を支持しよう』

 

『2機は頼んだ』

 

 一撃で倒し切れなかった保険としてバルラを引き剥がす。

 そうすれば少なからず、後衛のピュリアとキルセインが倒し易くなる。

 ガイが大筋の作戦を頭の中で展開すると。

 

「互いに用意は良いな? ……はじめ!」

 

 クオン教官の開始の合図に、オルディスが2機のブースターによる加速をかける。

 振り下ろされる太刀にバルラが後方に飛ぶ。

 そのままガイはオルディスを踏み込ませ。

 

「《炎よ刃に宿れ》」

 

 太刀に炎を付与させ、2振り目を放つ。

 バルラが加速をかけ更に後方に退がるが、炎を纏った刃がわずかに腹部を掠める。

 

「いつっ?!」

 

「おまけだ」

 

 オルディスが振り抜く拳。

 ジンは操縦席で見開く。

 圧縮される炎が拳に集う様子を。

 遺跡内部ディアス見せた魔術とは明らかに質が異なる。

 ゆえにジンの直感があの一撃は不味いと告げる。

 彼は自分の直感に従い、能力を発動させる。

 炎の拳が迫る中【防御結界】が拳を阻み、轟音がグラウンドに轟く。

 しかし圧縮された炎が衝撃によって解放され爆発を引き起こす。

 

 轟音と砂塵が舞うグラウンドに、デュランとザナルは冷静にピュリアとキルセインを追い詰める。

 しかし2機も負けじと能力で迎撃に入った。

 ピュリアの周囲にマナの弾丸が雨の様が展開され、更に機体に赤い光が宿る。

 キルセインの【支援陣】による援護。

 それを受けたピュリアはマナ出力を増大させ、マナの弾丸が膨れ上がる。

 

「待て待て! ちょっと待とうかぁ!!」

 

 あんな大量で騎士人形の拳よりも2回り大きい弾幕を喰らっては意識が確実に飛ぶ。

 そんな判断からデュランは2人に待ったをかける。

 

「ハーバーさん。貴方も男なら男らしく散りなさい」

 

「散れとか言った!? 清掃な顔して言うことはえっぐ!」

 

「やっちゃっえマリア、ザナルはこっちが抑えるから」

 

 トリアの声援にピュリアは弾幕を解き放つ。

 殺到する弾幕にゴリアスは全ブースターからマナを噴射させた。

 同時に能力【超加速】を発動させ、弾幕が到達するよりも早く、弾幕を抜け出す。

 同時にピュリアの背後を取りハルバートを振り払う。

 背後から与えられた一撃がマリアに激痛を与える。

 

「きゃああ?!」

 

 重量級のゴリアスから繰り出される一撃をまともに受けたピュリアは、その場で機動停止に陥った。

 

「うぅ〜攻撃増加よりも防御増加にすれば良かった!」

 

 自身の失敗を叫ぶトリアに、ヴォルグが容赦なく槍を振り抜く。

 キルセインは後方に退がり回避を試みる。

 しかしヴォルグは地面を踏み抜く同時にブースターよる加速をかけた。

 迫る槍にトリアが眼を瞑る。

 鈍い金属音、いつまでもやって来ない衝撃に不審を感じた彼女は眼を開く。

 そこには2機の間に割って入り、ヴォルグの槍を弾いたバルラの姿が在った。

 

「大丈夫か!?」

 

「た、助かりました! けどマリアは……」

 

 戦闘不能のピュリアにジンは強く拳を握り締める。

 

 音速で飛来したバルラにザナルは眉を歪めた。

 オルディスがやられた。現状からそう判断すると。

 上空から兜割りの体勢で奇襲をかけるオルディスの姿に、安堵の息が漏れる。

 

「うわっ!? もう追い付いたのか!!」

 

 バルラが強引に体勢を左側に引く。

 重力と加速を合わせた一刀が大地を斬り裂いた。

 

「おら! 逃げんじゃねぇ!!」

 

 大地を斬り裂く太刀筋に4人は冷汗を流す。

 絶対そんな一撃を受けたら死ぬ。

 

「し、死ぬって!」

 

「テメェには防御結界があんだろう」

 

『天使ちゃんも能力をほいほい使われてすげえ怒ってんぜ! ……ホント、ご愁傷様』

 

 袈裟斬りに振り抜かれた太刀をバルラは辛うじて避ける。

 同時にジンは今までの戦闘を思い出す。

 ガイは炎系統の魔術しか使わない。

 それしか使えないのか。疑問が過ぎる中、ジンは1つ賭けに出る。

 

「トリア! 俺に支援と対炎熱術を!」

 

「わ、分かりました!」

 

 キルセインの能力と支援魔術を受けたバルラは、翼を開く。

 騎士剣を構え、オルディスに加速をかける。

 振り抜かれる一撃、炎が来ても魔術が弾く。

 ジンは仲間による安心と連携に勝利を浮かべた。

 オルディスさえ戦闘不能に追い込めば、まだ巻き返せると信じて。

 

 ガイは迫るバルラの動きに合わせた。

 剣が振り抜かれ機体に当たる寸前。

 オルディスはわずかに機体の重心をズラすことで、剣先を避ける。

 その結果、加速で勢いが増したバルラは急停止が効かず、オルディスに背後を取られた。

 まだゴリアスとヴォルグが健在な状況でこの体勢は不味い。

 キルセインが魔術を唱え迎撃に入る。

 しかし2機は既にオルディスの間合い既に手遅れで。

 

 オルディスが回転斬りを放つ。

 しかしまたしても防御結界が刃を阻む。

 だがガイは決して力の一切を緩めない。

 火花が散る中。

 

「うわぁぁ?!」

 

 トリアの悲痛が響く。

 機動停止に追い込まれたキルセインが崩れ、機体の影からザナルが現れる。

 ガイに意識を向けているトリアを、ザナルは不意を突くことで頭数を減らした。

 

「ザナル、お前!」

 

 防御結界を展開しながら叫ぶジンに、ヴォルグが槍を構える。

 

「これは戦いだ。君はそんな事も理解していないのかい?」

 

「そんなことはないけど!」

 

「ブルークスの言い分も分かるけどよ、目の前の相手に集中したら如何だ?」

 

 刃を一度引かせるオルディスの姿が映り込む。

 そしてガイの声が機体から響く、

 

「随分と長く保つようになったじゃねえか」

 

 能力を多発的に使用。

 それでも未だ訪れないマナ切れ。

 あの1機だけで戦局を変えてしまう大打撃になり得る機体性能。

 軍部もテロリストも欲しがる人材だ。

 

『テロリストの本命はコイツか』

 

『バルラは未知の機体だ。狙われて当然』

 

 オルディスの冷静な声にガイはため息を吐く。

 そしてオルディスは霞の構えを取り直し、腰を深く落とす。

 ジンは更に能力を展開することを選択した。

 防御結界を展開しながら使用可能な能力を。

 バルラの周囲に展開される25の弩砲に、ヴォルグとゴリアスが距離を離す。

 バルラの狙いは射程内のオルディスだ。

 弩砲の照準がオルディスを捕らえるよりも早く、オルディスが動く。

 防御結界に守られながら制圧射撃を展開するバルラに、観戦に回っていた生徒は息を呑む。

 複数の能力を同時に展開可能な上に機体スペックも高い。

 対するオルディスは無能力、機体スペックも平均。

 そもそも2機では差が有り過ぎた。

 それでもジンは一度もオルディスに対して有効打どころか、機体に掠りさえしていない。

 単純な操縦士の技量と同調率の違いが戦闘に現れていた。

 観戦する生徒は、そう判断して結果を見守る。

 オルディスは弩砲の死角を見極めながら、決して動きを止めず魔術詠唱に入る。

 

「《炎よ姿を変え、喰らい付け》」

  

 オルディスは25の弩砲が集中する一箇所に、太刀を振り絞る。

 刃に纏わり付く炎の獣にジンは眼を見開く。

 そしてオルディスは振り絞った太刀を、一気に解き放つ。

 放たれた炎の獣が弩砲に飛来し、獣の突進によって弩砲が砕かれる。

 地面に落ちる残骸と消える炎の獣。

 オルディスはバルラに加速をかける。

 バルラの残りのマナではもう能力を展開することは叶わない。

 ジンは防御結界を解除し勝負に出る。

 上品に騎士剣を突くように構えた。

 オルディスの太刀を真正面から受け止める。

 決意を顕にバルラはオルディスが間合いに入る瞬間を見極める。

 

 だが、間合いに入るわずか数ミリのところでオルディスは2機のブースターを最大出力の加速を、断続的に繰り出した。

 凄まじい速度を誇るオルディスに、バルラは咄嗟に突き繰り出す。

 左脚と左肩のスラスターを噴射させることで、オルディスは迫る刃を躱す。

 しかし同時にガイの舌打ちが響く。

 

「チッ! 速度が速すぎた」

 

 オルディスの速度は太刀を抜く暇を与えず、結果バルラを素通り。

 ガイはすぐさま行動に移す。

 加速速度に乗ったオルディスは、ブースターの噴射を止める。

 速度に乗った状態のオルディスはスラスターをわずかに噴射させることで、機体を旋回させた。

 同時に十分な間合いを確保したオルディスが刃を払う。

 バルラの背部に容赦の無い一刀が繰り出され、激痛がジンを襲う。

 叫ぶ気力も無く点滅する視界中、ジンは意識を失う。

 バルラは停止し、クオン教官の声が響き渡る。

 

「勝負あり! 勝者は敗者の機体を安全な場所に退けるように」

 

 初戦を勝利で飾ったフォンゲイル隊は、ブルークス隊を運ぶのだった。

 同時進行で行われていたゾーピス隊とマーキュリー隊の試合は両部隊のマナ切れ。つまり引き分けの結果で終わりを迎えた。

 

 クオン教官は、彼らの戦闘に部隊連携が欠けていると評価を下す。

 とはいえ、試合開始前に念話魔術で事前にどう動くか決めていたのは評価に値すると。

 連携は頭では理解しても状況によって異なる。

 こればかりは経験を地道に積んでいくしかないのだ。

 

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