アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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20話 部隊戦の終わり

 次の対戦はエルトラム隊対イルグリム隊。

 両チームの機体が間合いを開け、開始の合図を待つ間。

 兎を彷彿とさせる男子生徒──ハル・エルトナムが念話魔術を使った。

 

『みんな聴こえる?』

 

 念話魔術が成功しているか自信が無い。

 不安が声に現れると真っ先に茶髪の女子生徒アルフィスが反応を示す。

 

『聴こえてる』

 

 彼女に続いて薄紫色で華奢な体付きをした生徒、アルトが返事を返す。

 

『ちゃんと聴こえてるよ』

 

 2人の返答にハルは安堵の息を漏らした。

 と、試合開始まであまり時間が無い。

 ハルはすぐに話しを持ち出す。

 

『……作戦なんだけど、如何攻めようかな?』

 

『こっちの武器は弓矢。魔術も錬金術ともそれ相応に扱えるけれど……この部隊に前衛は居ないよね』

 

 アルフィスの指摘にハルは苦笑を浮かべる。

 確かに自分は錬金術師で近接戦闘には向かない。

 そしてアルトも魔術師で武器は槌矛だ。

 

『魔術で一応剣を形作ることはできますが、援護はお任せてしも?』

 

 アルトの提案にハルとアルフィスが考え込む。

 実のところアルトは華奢に似合わず脳筋だ。

 扱う魔術も火力が高いものばかりで、前衛を任せるなら彼しか居ない。

 2人は同じ結論を導き出し、

 

『じゃあ援護は任せて。どんな距離からでも射抜いて見せるわ』

 

『それじゃあ錬金術で徹底的に妨害しますね』

 

 錬金術を使用するには素材と錬成陣にマナが必要だ。

 だからハルは武器を持たない。

 自前で用意した素材と大地に転がる小石から砂までが錬金術にとっての武器だからだ。

 如何攻めるかは決まったが、誰から落とすか話し合うよりも早く。

 

「両者、共に準備は良いな? ……始め!」

 

 クオン教官の開始の合図が齎された。

 桜の騎士人形リーチェが後方に退がり、わずかに遅れて紫炎の騎士人形ヴォイドが退がる。

 弓矢を構えるリーチェ。

 アルフィスは目の前の光景に息を呑む。

 目前に刀を振り下ろす鉄紺の騎士人形ミストラルの姿が在ったからだ。

 迫る刃にリーチェは弓の玄で受け止めようと試みる。

 瞬間、地面が光り鋼の壁がミストラルの刀を弾く。

 

「錬成、速い!」

 

 驚くシズナの声を他所に、灰の騎士人形ギルガリムが唱えた魔術が鋼の壁を砕く。

 

「突っ込むのが早いよぉ〜」

 

 甘えるような声が特徴的なリリィに、シズナは詫びる。

 

「すまぬ」

 

 束の間、橙の騎士人形シリアが雷を纏った槌矛をミストラルに横払う。

 ミストラルはシリアの動き合わせ槌矛を避けた。

 同時に刀の柄でシリアの腹部を突く。

 腹に伝わる衝撃にアルトは眉を歪め、シリアが槌矛を薙ぎ払う。

 

 ミストラルは後方に距離を取ることで槌矛を避ける。

 同時に着地する瞬間、地面が脈動を起こす。

 揺れる地面に脚を取られたミストラルに、リーチェが放った矢が飛来する。

 飛来する矢を深緋の騎士人形エンリョウが横合いから殴り落とした。

 離れた地点から弓矢を構えるリーチェに、ギルガリムが魔術を唱える。

 

「《揺蕩う風は時として全てを吹き飛ばさん》」

 

 しかしそれよりも早く、シリアが雷を纏った槌矛を地面に突き刺す。

 雷撃が地面を走り、ギルガリムを穿つ。

 リリィの声にならない悲鳴がグラウンドに轟く。

 それでもギルガリムが動く。

 強風がリーチェを巻き込む。

 

「くぅぅ!!」

 

 強風に囚われ、揺さぶられる機体の中でアルフィスが堪える。

 妨害系統の魔術、そしてそこにエンリョウが加速する。

 正拳突きを構えるエンリョウにアルフィスは焦る。

 リーチェのブースターを噴射させるが、機体を流してしまう風によって姿勢制御も儘ならない。

 

「コイツで1機め!」

 

 赤髪のリョウが叫ぶ。

 しかしエンリョウの正拳突きは鋼の壁に阻まれてしまう。

 

「もうここは僕の領域だ」

 

 ハルの声にシズナは気が付く。

 第3グラウンドに広がる錬成陣に。

 そして地面に不規則に撒き散らされた宝石、炎が封じ込められた瓶。

 そしてマナ鉱石がバラ撒かれていた。

 

「ありゃ? いつの間に」

 

 リリィはグラウンド全土に広がった錬金術を訝しむ。

 魔術師として戦場全体を見渡していた。

 そしてヴォイドが素材を振り撒く様子は確認していたが、錬成陣を構築している様子が無かった。

 ではいつの間に?

 リリィが目を離したのは、電撃を襲われた時だ。

 

「これより錬成を開始します。かなり痛いので頑張って逃げてください」

 

 そんな警告を発するハルに、シズナ達は訝しむ。

 すると錬成陣が光り、グラウンドの至るところに大砲が生成される。

 古来から攻城兵器として活躍する大砲。

 爆発を利用して鉄球を撃ち出す兵器だが、ハルはそんな魔術は使えない。

 クラスメイトのことを理解している上で、シズナ達は更に警戒を強めた。

 するとシリアが槌矛に炎を纏わせ、大砲の側に降り立つ。

 そしてシリアは大砲に向けて槌矛を思いっ切り振り抜く。

 炎にやって破壊力が増した槌矛が、大砲に込められたマナ鉱石の鉄球を放った。

 

 グラウンドに轟く衝撃と爆音。

 そしてリョウが叫ぶ。

 

「結局力技かよ!! 大砲の意味は?!」

 

 リョウの叫びも虚しくシリアは次の大砲に向けて移動を開始。

 エンリョウはシリアを止めるべく加速する。

 だが、矢がエンリョウの頭部を穿つ。

 頭を射抜かれた想像も付かない痛み。それはリョウの意識を刈り取るには充分すぎる一撃だった。

 シズナとリリィは操縦席の中で冷や汗を流す。

 

 シリアを放置すれば大砲が、止めに動けば矢が射抜く。

 かと言ってリーチェに向かえばヴォイドに妨害される。

 

「リリィ、他に魔術は?」

 

「全部吹き飛ばせる魔術は使えないかなぁ〜」

 

「仕方ない、一か八かだ」

 

 ミストラルは刀を構えたまま、能力を発動する。

 グラウンドに突如として漂う霧。

 霧は次第に濃霧となりグラウンドを飲み込んだ。

 濃霧以外に何も見えない視界にアルフィスが舌打ちする。

 これでは魔術どころか矢による狙撃も、錬成による援護もできない。

 リーチェが周囲を警戒していると、濃霧の中からミストラルが飛び出す。

 気が付いた時には刀がリーチェを斬り伏せ、アルフィスは意識を失った。

 

 残り2機、ミストラルは続いて背後からシリアを強襲。

 気付かれる前に斬り伏せると同時に能力が解除される。

 

 ハルは目を疑った。

 濃霧が発生したわずか20秒の間に、リーチェとシリアが行動不能に追い込まれていた。

 同時にミストラルは濃霧の中でこちらを見失わないことに舌打ちする。

 

「かなり強力な能力ですね」

 

「デメリットの方が大きい」

 

 味方も巻き込む使い所の難しい能力。

 そうハルは結論付け、錬成を行う。

 大地に炎を加え鋼の壁を作ったように、今度は地面を槍に作り替える。

 頭の中で固めたイメージ通りにハルは錬成する。

 グラウンドに突如として生える槍に、ミストラルとギルガリムは飛翔することで難を逃れた。

 そしてギルガリムは魔術で杖の先端に火球を作り出す。

 ヴォイドの頭上に落とされた火球が火柱を作り、機体を飲み込む。

 ハルを炎に体が焼かれる痛みが全身を襲う。

 炎に焼かれる幻覚と現実の痛み。

 決して外傷は負わないが、意識を刈り取るには十分な威力だった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 勝利を飾ったイルグリム隊だ。

 ヴォイド達を運び終えたミストラルとギルガリムはグラウンドに眼を向ける。

 今まさに最後の試合が行われようとしていた。

 

 両機が間合いを取り、クオン教官の開始の合図が放たれる。

 同時に動いたのはオルディスとイルソンだった。

 オルディスがネビルに向けて加速する中、イルソンが横合いから手裏剣を投擲。

 オルディスは太刀で払い落とし、その隙にイルソンの幻想の刃が飛ぶ。

 

「弾くことも無駄となれば!」

 

 ヴォルグは重力展開を使い幻想の刃を地面に拘束した。

 空間から手裏剣を取り出し、投擲を続けるイルソンに対して、ゴリアスが空から奇襲を仕掛ける。

 槍斧の矛を真下に突き出すゴリアス、そこにイルソンの次の魔術が飛ぶ。

 水流がゴリアスを押し流し、ネメシスがヴォルグに斬り掛かる。

 

 ガイは戦場の様子に面倒臭そうに舌打ちを鳴らす。

 厄介な能力を保有する3機。

 特にリンはガイをひたすら妨害していた。

 太刀で弾くことを止めれば手裏剣が、オルディスの関節部に突き刺さる。

 機体の関節部を損傷しては戦闘に支障を齎す。

 

「面倒臭ぇ」

 

 オルディスは太刀に炎を纏わせ、イルソンの投擲間隔の隙を突く。

 地面に炎の太刀を叩き向け、広がる炎がイルソンの視界を遮る。

 その間にオルディスはネビルに向けて飛ぶ。

 【弩砲展開】を警戒しながら、オルディスは斬撃を繰り出す。

 

「っ!! 流石に警戒してますか!」

 

 ネビルは距離を取りながら、オルディスに風の魔術を唱える。

 同時にイルソンに迫るゴリアスに炎の魔術を、ネメシスを止めているヴォルグに雷の魔術が襲う。

 オルディスは風の魔術を太刀で斬り払うことで防ぐ。

 しかし背後から飛来した鎖がオルディスの腹部に巻き付く。

 加速を掛けようにも引っ張られる様子に、ガイはリンに声を掛ける。

 

「ナギサキ、離すなよ」

 

「……ぜ、絶対に離しませんよ」

 

 忍びとして主人の言葉にリンはつい応じてしまう。

 そんな彼女の声にガイは鋭く悪い顔を浮かべた。

 

『相棒が悪人ヅラになったなぁ!』

 

 オルディスの茶々を入れる事にガイは笑う。

 そしてオルディスは左手で鎖を掴み、その場で遠心力を加え始めた。

 抑えていた筈のイルソンは逆に引っ張られ、振り回される。

 

「うわぁぁ!! め、目がぁぁ!!」

 

 鎖を手放そうとすればガイは間違いなく、ネビルかネメシスに激突させるように動く。

 そうさせないためにもリンはイルソンのブースターを噴射させる事で回転を止める。

 しかしその間にオルディスは巻き付いていた鎖を外すが、ネビルは離脱しネメシスの隣に降り立つ。

 

「チッ、邪魔臭え」

 

「じゃ!? 幾らディアスさんでも許しませんよ!」

 

 イルソンが加速し、オルディスに小太刀を振り抜く。

 太刀で刃を弾く。

 弾かれなおイルソンは小太刀を繰り出す。

 その度にオルディスは弾く。

 剣戟の応酬で火花が散る中。

 ゴリアスが背後からイルソンに狙いを定めると。

 

「ぐうわぁぁ!!」

 

 ザナルの悲鳴が響き渡った。

 一瞬、目を向ければ騎士剣で斬られたヴォルグの姿が映り込んだ。

 ネメシスの操縦士レナが武術で一枚上手だった。

 そしてヴォルグの戦闘不能はオルディスとゴリアスに劣勢を齎す。

 抑える者が居なくなったネメシスがオルディスに向かう。

 

『蒼はこっちがやるわ!!』

 

 殺意を感じさせる女性の声に、オルディスは小さな悲鳴を漏らす。

 

「ガイ! ネメシスがごめんね!」

 

「ちょっとレナ、ガイはあたしに任せてくれるって話しじゃないですか」

 

「私もデュランの方に行きたいんだけど、ネメシスがね」

 

『積年の恨み! 覚悟しろ!!』

 

 オルディスに対する凄まじい殺意を滲ませるネメシスの声に、リンは何も言えなかった。

 同時にガイは冷汗を流す。

 

『お前、どれだけ怨みを買った?』

 

『む、昔の話だって!』

 

 それが遺憾となり現代でも向けられている。

 ガイはその事に深いため息を吐く。

 振り払われる騎士剣をオルディスが避け、横合いから迫る小太刀を避ける。

 そんな光景にデュランは焦る。

 

「クソ! ディアスの援護に向かいたいが、ネビルを倒した方が速いか!!」

 

 ネビルの幻想の刃に重量級のゴリアスは苦戦を強いられていた。

 槍斧を回転させ、払うように振ります。

 それでも踊る幻想の刃は、デュランにとっても非常に厄介な魔術だった。

 魔術を操作しながら弩砲の展開を始めるネビル。

 デュランは操縦席の中で深く息を吸い込む。

 敵の攻撃をタイミングよく避ける。

 第1試合でガイが見せた動きにデュランは賭けに出る。

 

 幻想の刃と弩砲が同時に射出され、ゴリアスに迫る。

 その瞬間、ゴリアスは音を置き去りにネビルの背後に周り込む。

 躱され、地面に直撃にする弩砲と幻想の刃。

 そしてゴリアスは槍斧を振り上げ、腕の動きが止まった。

 

「なっ?!」

 

 蔓がゴリアスの両腕に巻き付き、その腕を取り押さえていた。

 ブースターによる加速で離脱を試みるが、それよりも速く蔓がゴリアスの全身に巻き付く。

 

「魔術師の背後を取れば楽勝でも思いました? 貴方は奇襲に繰り返し過ぎましたね」

 

 ゴリアスに弩砲が振り向く。

 そして弩砲の集中砲火がゴリアスを襲った。

 

「ハーバーが堕ちたか」

 

 ガイは冷静に状況を分析し、如何に3機を倒すか思考を重ねる。

 そして答えを導き出す。

 オルディスは太刀に燃え盛る業火を付与させ、腰を軸に刃を振り払う。

 ネメシスの防御結界によって防がれ、リンが背後から小太刀を向ける。

 なおも業火を纏った刀身が防御結界に食らい付く。

 防御結界を展開中のネメシスから攻勢に出ることは叶わない。

 しかしオルディスの背後はイルソンが取り、ネビルが既に詰めの一手を打とうと魔術を唱えている。

 そして一向に諦める様子を見せないオルディスに、イルソンが小太刀を振りかざす。

 

 その瞬間、オルディスは太刀を手放した。

 すかさず振り下ろされた小太刀の刃を避け、イルソンを殴り飛ばした。

 

「ぐっ!? お、女の子を殴るとか……」

 

「バーカ、機体越しなら殴った内に入らねえよ」

 

 同時にネメシスの防御結界が消失する。

 オルディスは加速をかけると同時に太刀を拾い、ネビルに向かう。

 直進するオルディスに対してネビルは飛翔する。

 ガイはその瞬間を見逃さず、オルディスが地面を蹴る。

 同時に2機のブースターが大出力のマナを噴射する。

 ネビルが杖をかざして魔術を繰り出すが、それよも早くオルディスが太刀を振り抜く。

 機体がすれ違う一瞬、斬られたネビルが地面に落下した。

 

「リン、もう防御結界は展開できないわよ」

 

「ここは同時に攻めましょう」

 

 エレンの戦闘不能を受けて、ネメシスとイルソンは動き出す。

 しかし2人は一つ失念していた。

 

「指揮官の戦闘不能を確認! よってフォンゲイル隊の勝利とする!」

 

 クオン教官の勝利宣言に2人はやっと思い出す。

 指揮官を討ち取った部隊が本日の勝利とすると。

 

「「あっ」」

 

 そして思い出す。

 ガイが必要以上にネビルに向かっていたことを。

 あれは早期に決着を付けるための行動だったのだと。

 行き場を失った闘志にレナは深いため息を吐く。

 最後の最後で諦めなかったガイに逆転され、敗北を喫した。

 

「ガイ、次は負けないからね」

 

「次も勝ってやる」

 

 とは言ったもののまともに3機と戦闘していれば、負けていたのはガイだ。

 ガイはオルディスの中で息を吐く。

 

 こうして授業は終わりを告げ、ガイはさっさとアルバイトに向かうのだった。

 

 

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