アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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22話 放課後の勉強会

 髭を細長く伸ばした狐顔の男性教官──アルトハイム教官が黒板に、グランツ王国内で起こった歴史を書き足す。

 

「イストラル期0087年、グランツ王国は初代バルムンク王の手によって建国開始。当時は周囲諸侯との騎士人形戦が尤も活発であり……」

 

 アルトハイム教官の丁寧な説明にノートに書き足す生徒、心地良い声に惰眠を貪る者。

 これはテストに向けて復習を兼ねた授業だった。 

 ガイはノートにペンを走らせながら、それ以前の歴史に興味を向ける。

 イストラル期以前の古代文明は謎に満ちていた。

 世界各国に点在する古代遺跡、天空城、古代文明を解明した者は未だ誰もいない。

 唯一核心に迫ったというクローズ教授が17年前に謎の失踪。

 彼の愛弟子達も謎の死を遂げているという。

 

 ガイはぼんやりと図書館で調べた事件に付いて思い浮かべると。

 終鈴が鳴り響きアルトハイム教官が教科書を閉じる。

 

「これで本日の授業は終わりである。本日から1週間はテスト勉強強化期間、課題も出すゆえ励むように」

 

 最後に1週間分の課題を生徒達に配り、彼は教室から退室していく。

 

 時間がゆっくりと流れ、放課後を迎えた頃。

 各教科から出された課題が鞄を圧迫する。

 ガイは面倒臭そうに顔を顰めると。

 

「ディアスさんもバイト休みですよね?」

 

 もう当然の如くこちらの予定を把握しているリンに、ガイは振り返る。

 そこには既にお馴染の顔触れが揃い踏み。

 

「休みだが、面倒事じゃないだろな?」

 

 ミコトの件からここ数日の間、ガイは落ち着ける時間を過ごせなかった。

 非常に嫌そうな顔を浮かべるガイにレナが苦笑を向ける。

 

「ミコトの件は私達がちゃんと証言したからその内鎮まると思うわ」

 

「ディアスも災難だよなあ。でもエイブルも天然ってのが末恐ろしいわあ」

 

「その件はもう良いだろう。ミコトも謝ったんだしさ」

 

 今朝ガイはグレイ経由でミコトに呼び出され謝罪を受けた。

 諜報活動と間の悪さから正直た不幸な事故。

 ガイはそう結論付け、彼女の謝罪を素直に受け止めた。

 

「まあ、あたしが不必要に威圧したのも原因ですけど。ディアスさんからミコトはどうでした?」

 

 確かに庇護欲を掻き立てる性格をしていたと思う。

 それでもガイにはミコトの魅力が何一つ理解できなかった。

 

「何も」

 

 彼女に対して感じた事を素直に答えると。

 

「そうですか」

 

 リンは頬を綻ばせながら少しだけ笑った。

 最近のコイツはよく笑う。

 それが今のガイがリンに対して抱く印象だ。

 

「ねえ、カフェ・エンジェルスで勉強するって話だよね? ガイも一緒にどう?」

 

 マスターの淹れるコーヒーを一杯飲みながら勉強。

 それは非常に悪くない。

 寧ろ静かな時間が送れるとガイは考えた。

 

「構わねえよ。丁度給料も入ったばかりだからな」

 

 放課後の予定が決まったガイ達は早速、カフェ・エンジェルスに足を運んだ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 カフェ・エンジェルスで4人席を確保したガイ達は、早速それぞれコーヒーを注文し、ノートと課題を広げた。

 

「なんで操縦科の課題が1番多いんだよ」

 

 項垂れるジンに、ガイは理解している範囲から解答欄を埋め始める。

 

「確認問題が殆どだ。有り難えだろ」

 

「本当に有り難えけども! 騎士人形の人格に対する感想を書け……詰みじゃん!!」

 

「ブルークスさん、他の生徒にも迷惑ですからお静かに」

 

 頭を抱えるジンを見兼ねたガイは。

 

「人格に対する感想だ。テメェが思った事を書けば良いんだよ。例えばいつまでも心を開かない照れ屋だとかな」

 

「な、なるほど」

 

 理解したのかジンは、騎士人形の人格に対する感想を書き出して行く。

 ガイは次の問題文で一瞬ペンを止めた。

 騎士人形の能力に対する戦術理論と対抗策を書け。

 流石は軍部の人間。

 ガイは少しだけ頭を悩ませながら、自分が見て実際に対応した能力、それらの有効活用から部隊戦を想定した戦術を書き始める。

 

「レナ、自機の機体はどの部類に入るのかという問題なのですが、これは後継機型などですかね?」

 

「そこは、結構最初の頃に触れた軽量型〜重量型のことじゃないかしら? ほら問題文に機体重量が何トン以下でこの分類って注釈がされてるでしょ」

 

「あっ本当ですね。ではあたしの機体は軽量型っと」

 

 個々で異なる騎士人形に対する解答は、模範解答が存在せず自分で考え正解を導き出す他にない。

 当然背部のブースター構造が全く異なる機体も存在するため、機体の特徴を抑えなければ点数が取れない。

 

「あっ。ブースターの出力に関する問題だけど、ネメシスは翼でマナを噴射してる訳じゃないのよね」

 

 ネメシスはブースターの代わりに翼が装備されている。

 推進力となるマナを翼が羽ばたく同時に放出。

 翼の後ろに圧縮された空気が風を引き起こし、機体を押し出すイメージだった。

 ペンの先を顎に当て悩んだレナは、ガイに視線を向ける。

 既に解答欄の半分が埋まった課題に、レナは彼に質問することに決めた。

 

「ねえガイ。自機のブースター搭載機における機動可能マナ出力は何パーセント平均か答えよって問題なんだけど」

 

 ガイは問題文を見て、

 

「そいつは機体の総体重量、核に蓄積されたマナ量から逆算すんだよ。そうすりゃあ機動可能に必要な平均マナ出力が割り出される」

 

「そっか。例えネメシスにブースターが無くてもそれなら割り出せるわね」

 

 レナはすぐに計算に取り掛かり、解答欄に答えを書き出す。

 操縦科のテストは自分の騎士人形に対してどれだけ理解しているのかを問われる。

 

「うっし終わり!」

 

 意外にも静かに黙々と解いていたデュランに、レナとリンが意外そうに驚く。

 

「意外と速いわね」

 

「えっ? ハーバーさんは勉強できたんですか」

 

「君達、失礼じゃないかね? とは言っても騎士人形の事は操縦士に選ばれてからずっと興味を抱いてからなあ。だから勉強に意欲的なんだ」

 

 次に解き終えたガイは、早速次の課題に取り掛かる。

 そんな彼の様子を見て、リンはコーヒーにひと口付けた。

 

「ディアスさんは判らない所って有るんです?」

 

「歴史の話になるが、クローズ教授の失踪理由だな」

 

「あーなるほど……って、それテストも何も関係無いですよ!?」

 

「だからガイは歴史の授業が上の空だったのね」

 

 ガイはコーヒーにひと口付け、コクのある味を舌で感じながら頷く。

 

「ディアスの気持ちはよく分かるけどよ、今は課題に集中しような」

 

「仕方ない、今度アトラスとじっくり語り合うか」

 

「えへへ、誘ってくれてありがとう」

 

 互いの趣味の付き合い。

 リンはそう理解しながらも釈然としない感情に囚われ、マスターに声を掛ける。 

 

「すみませんマスター! こっちに特製パフェを!」

 

「承った」

 

 マスターは短く答えると厨房に引っ込んで行った。

 パフェでも食べて気分を一旦変えよう。

 リンはそう考え課題に集中した。

 

「ここのデザートは全部マスターが?」

 

 ジンの疑問にレナはペンを走らせながら相槌を打つ。

 

「ええ、絶品よ」

 

 全員が課題に集中する中、ジンはバルラについて頭を悩ませる。

 念話魔術で会話を試みよとするが、返ってバルラと思われる呻り声。

 それは何処か赤子のような声でジンはまだまだ意思疎通には時間が掛かりそうだと1人肩を落とす。

 出来れば相談したかったが、ガイもみんな課題に集中していて大変そうだ。

 ジンの遠慮に、ガイは気が付きながらも敢えて何も聴かずにいた。

 

 静かな店構えマスターの淹れたコーヒー。

 落ち着ける場所での勉強は捗りを見せ、出された課題の殆どを終わらせるに至る。

 なお特製パフェはマスターが気を利かせたのか、4人前の大きさで運ばれるのだった。

 思い掛け無い伏兵にガイ達は苦戦を強いられながらも何とか完食するに至る。

 

「しばらく……パフェは沢山ね」

 

「ご、誤算でした。マスターが気前良すぎるなんて」

 

 とは言っても使った脳に糖分を送るには充分な量で、解散後の勉強も捗ると一同は考えのだった。

 

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