アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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23話 未来の不穏

 中間テストがいよいよ明日に控える中。

 クオン教官とエレナ教官は理事長室に呼び出されていた。

 ゼオンは2人に茶を出すと。

 

「その後テロに関する動きだが、西のアルダイム都市に潜伏しているとの情報が入った」

 

 ソファに座る2人に話を切り出す。

 

「このまま叩きに?」

 

 テロリストを野放しにして置く理由は無いが、まだそれが陽動の可能性が有るのも事実。

 

「前回のように陽動の可能性が高い。引き続き教官陣にはこの場で警戒して貰うことになるだろう」

 

 生徒と市民の安全が何よりの最優先事項だ。

 その事はこの場の誰もが理解していた。

 しかしエレナ教官は1つ切り出す。

 

「理事長、テロリストが次にどう動くかは?」

 

「残念だが連中に作戦と呼べる物は存在せん。連中にとってアドリブが作戦なのかもしれんな」

 

 存在しない作戦。

 どう動くか予想も推測もできないが、敵の穴を突くことは可能だ。

 しかしアドリブともなれば、その場凌ぎの対応で済まされてしまう。

 そもそも軍が敵を叩く際、相手がどう動くのか情報を入手しそれに応じて作戦を立案する。

 軍部にとって【解放者(リベルタ)】は厄介な敵なのもかしれない。

 クオン教官とエレナ教官が思考を巡らせると、ゼオンが思い出し様に呻る。

 

「ああそうだ。対抗戦にリリナ姫が観戦なさる」

 

 お姫様が兵器を使った試合の観戦。

 世間の評判もそうだが、テロ事件があったばかり。

 耳を疑いたくなる連絡事項にクオン教官は思わず聞き返した。

 

「それは本当なんですか?」

 

「あくまでもお忍び。生徒の試合を観戦するのは、偶然興味を示し立ち寄った高貴な御客人としてな」

 

 高貴どころの話ではない。

 クオン教官はそんな言葉をグッと呑み込んで、痛む額を抑えた。

 

「クオン君、仕方ないけど姫様のためよ」

 

「理解はしているが危険過ぎる」

 

 まだテロリストが壊滅した訳ではない。

 対抗戦中にテロリストが乱入するとも限らず、彼女の身に何か有ればそれこそ操縦士は後ろ盾を喪う。

 

「君の心配事も充分理解している。しかし姫様は生徒に寄り添いたい、自国の問題を早期に解決するための決断を成された」

 

「国王が黙って無いと思いますが」

 

「心配には及ばんよ。ヘクトリア王は対抗戦の前日から1週間ほどヤマト連合国で会議だ」

 

 国王不在の機会を狙ってリリナ姫が動いた。

 内政官や大臣が居るため問題も無ければ心配もない。

 唯一気掛かりなのはヘクトリア王の護衛だ。

 

「今回は誰が護衛に? 近衛兵から選ばれるとは思うが」

 

 クオン教官の質問にゼオンはわざとらしく肩を竦め。

 

「今回はヤマトの将軍も護衛に着くが彼は操縦士だ。であれば私が選ばれるのも必然と言えるだろう」

 

「選ばれちゃったんですね」

 

 エレナ教官は同情心をゼオンに向け、深いため息を吐く。

 ヘクトリア王の見栄に付き合わされる彼も大変だ、と。

 

「私の件はまだ良い……問題は秋の外交だ。今年はリリナ姫がデュネス帝国主催の通商会議に向かうことになっている」

 

 軍部の精鋭操縦士が護衛に着く。

 それだけならゼオンが頭を悩ませる様子を見せない。

 クオン教官は王立政府と何か有ったのだと悟り。

 

「まさか今年は軍部から人員を動かすなと?」

 

「あぁ秋の護衛にガイ・ディアスが選ばれることが決まった」

 

 予想外の名にクオン教官は眼を見開く。

 エレナ教官は赤茶髪で髪をラフに纏めたガイの顔を浮かべ、クオン教官に振り向いた。

 

「ディアスって……クオン君の生徒よね」

 

「ああ、政府は彼を指名した」

 

「バカな! ディアスはまだ1年生で姫様の護衛など」

 

 早過ぎる。

 それ以前にガイの性格上、王族の護衛を引き受けたがらない。

 しかし政府の命令となれば操縦士は逆らうことができない。

 

「……王と政府の考えはこうだ。姫様の身は何が有っても守り、身の安全の保証を得なければならない。そこで政府はこう考えたのだ、都合の良い捨て駒が必要だと」

 

 クオン教官は拳を強く握り締めた。

 滲む血が理事長室の床に垂れようがお構い無しに、怒りを露にする。

 

「捨て駒? わたしの生徒を捨て駒扱いする気か! この国は!」

 

「少佐の怒りも理解できる。そこで秋の護衛に少佐をどうにか挟み込むことはできた」

 

「クオン君は閣下と並ぶ英雄ですからね。バカな政府も下手な行動には出られないと」

 

 クオン教官は英雄という呼ばれ眉を寄せた。

 

「その呼ばれ方は嫌いだ。しかし、ディアスの安全もわたし次第ということか」

 

「姫様もディアス君、そして少佐が無事に帰還出来るのであれば、戦争の火種にならない程度ならば手段を問わない」

 

 クオン教官は安全策を考えた。

 秋の護衛に必要な人材、影から守護できる人物を。

 この国で思い当たる人物は幸いにも1人だけ。

 しかし彼女も自分の生徒だ。

 

「理事長、リン・ナギサキも護衛に組み込むことは可能ですか?」

 

 クオン教官の姪の名にゼオンはしばし考え、結論を出す。

 

「まだ可能だとも。では早速私は政府の下に向かうとしよう」

 

「理事長の留守は私達にお任せください」

 

 エレナ教官の見送りの言葉にゼオンは神妙に頷き、王都に飛び立つことに。

 理事長室に残された2人は息を吐く。

 クオン教官は怒る気持ちを抑えながら、冷静に気持ちを切り替えた。

 そんな彼にエレナ教官が。

 

「クオン君、頬の傷消えたわね」

 

 彼女の指摘にクオン教官は眉を歪める。

 怪我の原因はリンドウ教官との鍛錬だった。

 お互い熱が入り過ぎた結果、互いに傷を付け合うことに。

 

「……彼女と鍛錬するとどうも熱が入る」

 

「だからって怪我はしないように。あんまり無茶な事すると薬を錬成してあげないわよ」

 

「それはリンドウ教官にも言ってくれ」

 

「ふふん、大丈夫よ。リンドウ教官は……こってり絞ったから」

 

 微笑むエレナ教官に、クオン教官の肩が震えた。

 お淑やかに見えて一度怒り出すと彼女を止められる者はいない。

 それが英雄と呼ばれ他国に恐れられたゼオンであろうとも。

 

「……気を付けるようわたしの方でも注意しよう」

 

「そうしてちょうだい。それにしても明日のテストが楽しみねぇ」

 

「中間テストだが?」

 

「結果次第では期末試験を難しくできるもの」

 

「カリキュラムの範囲内で程々にな」

 

 エレナ教官はやんわりと微笑んだ。

 こうなった彼女は何を言っても無駄。

 長い付き合いになるクオン教官はその事を理解しているため何も言わず、理事長室から退室するのだった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 同時刻、ラピスの古代遺跡内部。

 かつて偽装による立入禁止にされた遺跡調査を正当化するため、ガイ達を臨時の助手にした考古学者は。

 遺跡の下層部まで降り進んでいた。

 降りれば降りるほどマナが無くなる様子に彼は訝しんだ。

 

「遺跡の下層部ではマナが無くなる。何故龍脈を流れるマナが感じられ無くなるのか?」

 

 何処の古代遺跡もそうだった。

 遺跡下層部はマナが無くなる不自然な現象。

 誰も解明に至らない。あのクローズ教授ですらそうだった。

 考古学者は薄暗い通路を慎重に進む。

 やがて聴こえる風の音、そこにわずかに紛れ込む様な獣の呻り声。

 

「……この音。音の方向に進めば階段が有るか」

 

 考古学者は壁伝いに音は方向に進む。

 やがて通路の最奥に到着すると、そこには最下層へ続く階段が有った。

 

「やはり……ラピスの遺跡にも」

 

 考古学者は階段を覗き込んだ。

 そこに広がるのは闇。何も光も通さない闇だった。

 ランタンの火で照らそうが、何故か闇が光に照らされない。

 そして闇の底から複数の呻り声が響く。

 何かを叩き付ける音、それが次第に強まり不快な音が考古学者の耳に響く。

 

「明らかにこの先に何か居る! 学者の間で議論が交わされ続けた古代生物が!」

 

 考古学者は知的好奇心から階段を一段、足を付けると。

 不意にクローズ教授のあの言葉が蘇る。

 偉大な人物の警告が男の足を止めるには十分だった。

 遺跡内部に潜む古代生物。その正体と生態系の調査。

 何故遺跡内部で生きながらえたのか、マナが消失する空間と何か関連性が有るのか。

 考古学者は溢れ出る好奇心に息を呑む。

 我々には解明しなければならない歴史が有る。

 考古学者は迷いを振払い進捗に階段を進んだ。

 闇の中を進むと何か壁のような物に行き着く。

 両手で壁らしきものを触れる。

 鉱石、石、木、魔術結界。そのどれでもない感触に考古学者は落胆した。

 

「やはり最下層には進めないか。きっと何処かに鍵があるはず」

 

 考古学者が来た道を引き返そうと振り返る間際。

 闇の中でこの世のものとは思えない、冷たく冷え切った眼孔と眼が合う。

 考古学者は闇の中で倒れた。

 恐怖心か? 

 身体から抜け出る脱落感と何故倒れたか理解が及ばないまま、男の心臓は生命活動を停止させた。

 

 彼の死が事件を齎す事をまだ誰も知らない──

 

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