まだ日が昇らない土曜の早朝。
1年生は蒸気列車に乗り、対抗試合が行われる会場に移動するために。
列車が汽笛を奏で、軍の護衛部隊に護られながら遺跡都市ラピスを出発する。
「皆さん、リンさんが集めた情報を基に立てた作戦は覚えましたね?」
指揮官のエレンの言葉にCクラスは肯く。
部隊戦以降、各クラスは連携や戦術を主軸に置いた鍛錬を積んで来た。
その期間は短いながらも部隊運用としては形になる程度のもの。
しかしクオン教官の指導が生徒の自信に繋がり、特に彼らは優勝の褒美にやる気を出していた。
「もちろんだ! 何せ優勝クラスには屋内プールが優先的に使えるんだからな!」
気迫を宿したデュランの声に、Cクラスの女子生徒は何とも言えない表情を浮かべる。
どの道水練が始まれば水着になるのは必然。
だが、こうも堂々と男子から言われては羞恥心が芽生える。
「ハーバーさんは、えっちな残念な人なのでこの際無視しましょう」
「そうねぇ。年柄だから理解はできるけどオープンは頂けないわぁ」
女子の非難の視線がデュランに集中する中、ガイはクラスメイトの男子に視線を移す。
「良かったろ? 口に出さずに済んで」
鼻の下が伸び切った彼らに苦笑を浮かべる。
「そう言うガイだって気合い入ってるじゃん」
ジンの指摘にガイは鋭い笑みを浮かべた。
「同室のグリアーゼの勝ち誇った顔が癪に触るからな」
「そっちかぁ。それにしてもナギサキは良く情報を集めたよな、偉いぞ〜」
「おやおや、ブルークスさんもあたしの頑張りを理解しているようですね。ディアスさん? 素直に褒めて良いんですよ」
リンはガイに歩み寄り、つま先を伸ばしながらも頭を差し出した。
しかし当の彼はため息を吐くばかりで。
「勝ったらマスターのコーヒーを奢ってやる」
「コーヒーですか? パンケーキも付けてくださいよ」
主従として命令を出す形になったが、リンはそれを抜きにしても良く動いてくれた。
彼女の何がそうさせるのかは判らないが友人としてもここは一つ奢るべきだろうと結論を出す。
「仕方ねえな」
安い報酬にガイは肩を竦めつつも、背中に向けられる生温かいレナの視線に顔を歪めた。
「なんだアトラス?」
「微笑ましいなぁって」
ガイは嫌そうな顔を浮かべ黙りを決め込む。
学生の、しかも最底辺の身分が忍びと主従関係を結んだ。
結んでしまった以上ガイの地位は上を目指さなくてはならない。
元々底辺だ。あとは上を見据えて登り詰めるだけの話しが余計なものも背負ってしまった。
『相棒は何だかんだ言って意志の強い奴が好きだからなぁ』
『そんな事はねえが、いつの間にか個の強い奴が周りに集まって来るだろ』
ガイはスラムの知人の顔を浮かべ小さく笑う。
そんな彼の表情を見ていた、
「あっ、珍しく笑ってる」
「きっとオルディスと会話中なんですよ」
レナとリンは少しだけオルディスを羨んだ。
ガイはいつもは表情をあまり崩さない。
確かに笑うこともあるが、その笑みには企てが含まれていた。
あとは嫌そうな顔、仏頂面と面倒臭そうな表情が目立つ。
特に良く知らない者から見たガイは、非常に愛想が悪く恐い人と印象を受けるだろう。
2人がそんな事を浮かべているとエレンが手を叩き、注目を集める。
そして彼女は僅かにBクラスとDクラスが乗る車輌に視線を向け、
「皆さん、詰めに入りますよ。今回の作戦の要はディアスさんですからね」
作戦について話し出した。
走る列車の窓に張り付いたハエ。
リンはそのハエに気付くとエレンの話に合わせる。
「そうですね。ディアスさんのオルディスが融合合体を果たし他クラスの騎士人形を蹂躙。我々は後方から撃ち漏らしを片付ける簡単なお仕事です」
わざとらしいリンの仕草にCクラスは頷いて見せる。
会場の古戦場跡に到着するまでの2時間。
長い蒸気列車の旅の最中、諜報戦がせめぎ合う。
だからこそこの男は何も変わらない態度で。
「試合会場の古戦場跡は、森、山岳地帯、平原が拡がっていたな」
「うん、都市メルトアと遺跡都市ラピスの境に在る場所だったわね。そこにも古代遺跡が有るけど」
「潜伏しながら進むには絶好の土地だな。此処で一度試合のルールを確認しておくか」
「確かルールには騎士人形の召喚及び登場は操縦士の任意と有りましたね」
確認するように呟くエレンにガイは相槌を打つ。
作戦を決めたのは試合のルールが知らされる前だった。
当初は全員が騎士人形に登場しそれぞれ動く段取りだったが、任意となれば話が変わる。
「こいつは陣営に設置されたフラグの取り合い。だが指揮官を失ったクラスは即敗北だ」
フラグを取りに敵陣に攻め込む部隊。
フラグと指揮官を守る守備部隊が必要になる。
ガイ達はルールの確認を含め、到着のまでの時間を適度に話し合う。
嘘と真実を織り交ぜるながら虚言の作戦が各クラスの耳に届くように──