アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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26話 王国の宝と対戦表

 試合会場に生徒達よりもひと足早く到着していた集団が居た。

 兵士に案内される形で桜色のスカートドレスを着こなした少女が段差を上がる。

 腰まで届く白髪、帽子を被り分け目が片目を隠した少女は用意された席から試合会場を見渡す。

 古戦場跡の全体を見渡せる山頂の古城。

 少女は今か、今かと心を躍らせていた。

 そんな彼女の様子を見兼ねたメイド服を着こなした青髪の少女が、

 

「リリナ姫、もう直ぐですから」

 

 静かな声で論じ、少女──リリナは小さく頬を膨らませる。

 

「分かってますとも。でもこの場で姫はダメよ、レイ? 昨日散々練習したでしょ」

 

 リリナの指摘にレイは小さく口元を抑え、周囲に視線を向ける。

 護衛の操縦士が自分は何も聴いて居ないと言わんばかりに視線を背ける。

 彼らの行動にレイの頬に熱が帯びる。

 失敗による羞恥心、それも有るが主君に対して名を呼ぶのは恐れ多く、何よりも恥ずかしい。

 それでも期待の眼差しを向けるリリナに従者としてレイは答える。

 

「り……り、リリナ」

 

 やはり恥ずかしい。

 レイの顔は赤く染まり、名を呼ばれたリリナが喜びを顕に手を叩く。

 

「はい! リリナです!」

 

「……こほん。それにしても落ち着きませんね」

 

 レイの指摘にリリナは小さく笑みを溢す。

 楽しみ過ぎて昨夜は寝付けず、騎士人形の資料を遅くまで読み漁った。

 兵器として注目され国の戦力として利用される騎士人形。

 リリナは騎士人形に別の可能性を感じ取っていた。

 ただの兵器としてではなく国を守る守護神としての側面を。

 

「この対抗戦も戦争を想定したものと聴いていますが、生徒の皆さんは勝つために試合に挑むのでしょう?」

 

「えぇ、何でも優勝クラスにはご褒美が与えられるとかで生徒の皆様はやる気に満ち溢れているとか」

 

 何かを得るためにクラスが一丸となる。

 操縦士でも人並みの青春を謳歌できるのは、王族としても喜ばしい限りだ。

 それでも王族として彼らに選択の自由を与えられないかと悔やむばかり。

 

「……青春も良いですけど、彼らは自由なのでしょうか?」

 

「自由とは何か? それを問うには人の自由の在り方を理解しなければなりませんよ」

 

 レイの知的を感じさせる物言いにリリナは耳を傾ける。

 

「例えば放課後に学生がアルバイトに励み、得た給金で何かを買う。これも人並みの自由と言えるでしょう」

 

「縛られた中でもですか?」

 

「縛られているからこそ、自由の在り方が良く判るのではないでしょう」

 

 本当に彼らを理解するには同じ土俵。

 操縦士に選ばれなくてはならない。

 騎士人形と邂逅するかどうかは運命だ。

 例え操縦士に成れ無くとも彼らを理解し寄り添う事はできる。

 人はこの考えを傲慢と言うだろう。

 自分には身分も地位も有る。

 他人にとって操縦士に寄り添う姿勢は、ただの同情心。

 あるいは王族の戯れにしか見えないのかもしれない。

 幾らリリナが否定しようとも他人の眼から見た評価とは、所詮そんなものだ。

 

「生徒の皆さんとお話し機会するが有れば良いのですが」

 

 何かを考え結論を出したリリナにレイは思考する。

 どうにか時間を作れないか。

 しかしこの観戦もゼオンに相当無理を言って頼み込んだこと。

 ふとレイは一つ思い出す。

 そう言えば秋の護衛に選ばれた者が生徒の中に居たと。

 

「生徒全員は無理でもリリナの護衛となる者ならば、もしかしたら話はできるかもしれません」

 

「まあ! それは是非ともお話ししたいですね」

 

 2人の会話を聴いていた護衛の操縦士は渋い顔を浮かべた。

 件の生徒は操縦士部隊の間も有名だが、歩兵部隊をはじめとした一般兵にとって彼は面白くない存在だ。

 最近警察までもが例の生徒の周辺を嗅ぎ回っているとの情報も有る。

 そんな中で彼と姫様が出会えばどうなるか。

 兵士の1人がわざとらしく咳払いを鳴らす。

 

「姫様。無礼を承知で発言のお許し頂きたい。……例の彼にも立場や様々な問題が有ります。今は接触を控えるべきかと」

 

 リリナは兵士の言う事も一理あると考え、渋々ながら納得する。

 

 風に乗って聴こえる汽笛の音にレイは手を叩く。

 

「あっ。リリナ、そろそろ時間のようですよ」

 

 彼女の知らせにリリナはいよいよ心を躍らせた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 試合会場に集まった生徒達は、山頂の古城に眼を奪われる。

 テラスの椅子に座るグランツ王国のお姫様が護衛と共に、そこに居たからだ。

 王族と何度か会話を交わす機会に恵まれていたレナとザナルもやはり驚きが隠せない様子で。

 

「えっ!? どうしてリリナ様が……」

 

「姫様は操縦士に強い関心を持っていると噂は聴いたことが有るが、まさか観戦に?」

 

 たちまち生徒の間で響めき声が上がる。

 古城よりも周囲を見渡す1人を除いて。

 

「で、ディアスさん? あそこに居る人よりも周囲の環境が大事ですか?」

 

「試合と王族の道楽。優先順位は試合に勝つことだろ? 分かったなら少しでも地形を頭に入れておけ」

 

 王族が見守る中、ブレないガイにリンは頼もしさを覚えながらも不安に駆られる。

 青髪のメイドがガイをずっと遠目から凝視しているからだ。

 

「ディアスさん、一応確認しておきますね。王族の従者、その関係者に無礼を働いた覚えは?」

 

 リンの突拍子もない質問にガイは記憶を探る。

 スラム街にわざわざ足を運ぶ物好きは、老紳士の貴族ぐらいだ。

 それ以外でガイに心当たりは無かった。

 

「いや、覚えがねえが……」

 

 それでもメイドの視線が本人に知らずの内に何かしたのでは無いのか?

 そう錯覚させるには充分で、ガイは悩む素振りを見せた。

 悩む彼を他所に開会式が始まり。

 

「諸君も既に気になっているとは思うが、彼女は本来この場に居るべきお方では無い」

 

 リンドウ教官の凛とした声が響く。

 やがて彼女はわずかに息を吐き、

 

「では彼女が何者なのか? 答えは簡単だ。偶然観戦に訪れた高貴なお方、それ以上でもそれ以外でもない」

 

 彼女の説明に生徒は唖然とした。

 それは幾ら何でも無理が有る。

 第一不敬では無いのか?

 不敬罪として処されないのか。そんな不安を宿す生徒達に観客席の少女はただ微笑むばかり。

 事前に姫様には詳細なルールを説明しておいた。

 リンドウ教官は説明の手間を省き、迅速に会を進める。

 唖然とする生徒にリンドウ教官が咳払いを鳴らし、ポケットから折り畳んだ紙を広げる。

 

「これより対戦表を発表する。……第一試合、Aクラス対Cクラス! 第二試合、Bクラス対Dクラス!」

 

 最初に呼ばれたCクラスが対戦相手に顔を向けると。

 彼らは強い闘志を滲ませていた。

 

「クラス代表は速やかに前に出るように!」

 

 リンドウ教官の指定にレナが前に出る。

 同様にAクラスからグレイが前に出た。

 Bクラスから紫髪で気弱そうな生徒が。

 そしてDクラスからは筋肉猛々しい生徒が前に出る。

 それに対してリンドウ教官は平然とくじの入った箱を差し出す。

 

「このくじには諸君が選ぶ陣地が書かれている。何処の陣地を引き当てるかは運命次第と言えるな」

 

 リンドウ教官の話にレナは思考を巡らせる。

 潜伏が容易く罠を仕掛け易い森の中が陣地として適している。

 同時に山岳地帯の砦も風下を取れる関係から有利と言えるだろう。

 そして遺跡群が遮蔽物が多く3つの陣地の背後を取る位置に在る。

 一番の外れはどの陣地にも挟まれた平原だ。

 ここは平原を避けるべきだと判断してレナはくじを一枚手に取る。

 そして彼女はくじを勢いよく引き抜く!

 

「……ほう、Cクラスの陣地は平原か」

 

 最悪の陣地を引き当てたレナはその場で崩れ落ちた。

 そしてCクラスの生徒に向けて彼女は精一杯叫ぶ。

 

「ごめーん!!」

 

 こればかりはレナを責められない。

 彼女は運に負けた。

 ならば実力で勝て問題無い。

 ガイ達は改めて決意を固めると。

 

「アトラスは運に見放されたな」

 

 笑いを堪えながらグレイがくじを引く。

 山岳地帯か森か。

 一年生に緊張が走る中、リンドウ教官がくじを読み上げる。

 

「ふむ。Aクラスの陣地は遺跡群か」

 

 若干嬉しそうな口調で語るリンドウ教官に、クオン教官がジト目を向けた。

 そんな教官達の様子を他所に気弱な生徒──リクがくじを引く。

 

「Bクラスは森だな。地形を巧く使った戦術に期待する」

 

 そして最後に残された一枚のくじをリンドウ教官が引く。

 

「Dクラスは山岳地帯だ。くれぐれも山頂に座すお方を戦闘に巻き込まないように」

 

 彼女の忠告にDクラスは神妙に頷く。

 ある意味で一番やり辛い場所をDクラスは得た。

 

「さてクラスの陣地も決まったな。これより各クラスは陣地に移動し、第一試合開始15時まで陣形を整えるように」

 

「なお第二試合は第一試合の決着後となる」

 

 つまり第一試合が長引けば長引くほど生徒は、古戦場跡でサバイバル生活を送ることになる。

 

「ああ、そうだ。各陣地には生徒の兵糧を配備してあるが、くれぐれも消失しないように」

 

 兵糧攻め。

 戦場に於いて有効な戦術の一つだが、Cクラスは平原。

 多少のおうとつした地形は有るが、兵糧攻めを考慮しなければ後の試合に支障が出る。

 

「レナ、ここは一先ず陣地に移動しましょう」

 

 エレンの掛け声にレナは頷く。

 そしてエレンとレナは、非常に悪い表情を浮かべるガイ達を決して見逃さなかった。

 

 こうしてCクラスは平原の陣地に移動し、偵察部隊を出しつつフラグ周囲の防備を固めるのだった。

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