アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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27話 第一試合

 開始時刻まで用意できることは限られている。

 ガイはエレンの指示で部隊を率いながら進軍していた。

 森を生身で疾走し、木々の至るところに魔術を刻んで行く。

 

「ディアスさん、あたしは予定通りに!」

 

 リンの合図にガイは頷いて返す。

 太い木の枝を足場に跳躍していく彼女の姿に、感嘆の声が聴こえる。

 

「すげえ身のこなしだな。しかもスカートの中が見えないように動いてるんだぜ?」

 

 デュランの信じられるかよ、と言いたげな様子にガイ達は呆れた眼差しを向ける。

 こいつは何処までも欲望に忠実で、動体視力を無駄に発揮する。

 ガイは相変わらず残念な奴だと思いながら。

 

「身体がクナイの山だらけになりたくなかったら、準備を進めるぞ」

 

 森の至る所に起爆魔術を仕掛け、試合開始までに陣地に戻らなければならない。

 開始時刻まで戻らなかった部隊は即失格となり、頭数で不利に陥る。

 それだけは避けなければ、とガイは作業を急がせた。

 

「了解。指揮官殿の指示は絶対だからな」

 

 デュランはわざとらしく戯けるように言うと、茂みが揺らぐ。

 ガイは揺らいだ茂みに対して太刀を引き抜く。

 そのまま茂みを斬り払うと。

 そこにはAクラスの女子生徒が身を潜めていた。

 ガイに睨まれ怯える女子生徒にガイは容赦なく近付く。

 太刀の刃が陽光を反射し煌めく中。

 

「偵察か。これは都合が良い」

 

 彼の声を合図にデュランとジンが女子生徒の背後に周り込む。

 退路を塞がれた女子生徒──リノンは大声を叫ぶべく息を吸い込んだ。

 しかしガイは見逃さず、彼女の口を掴むことで塞ぐ。

 

「選べ。このまま脱落するか、情報を吐くか、背後のハーバーは絶賛女に飢えてる危険な奴でな。どうなるか保証はできねぇぞ?」

 

 ガイの脅し文句にリノンは震え涙を浮かべる。

 そんな様子にデュランが心外そうに睨む。

 

「5秒待つ」

 

 彼がそう言い放つと太刀に炎が宿る。

 同時に掴まれた口に圧力が加わる。

 リノンはガイが本気でこちらを排除すると悟った。

 それでもクラスの情報を吐く訳にはいかない。

 強情心を見せるリノンにガイは口角を吊り上げる。

 

「Aクラスの指揮官はエイブルだな? 攻めの要はグリアーゼ。防衛の要はエルスタン……」

 

 Aクラスの情報を話し出す彼にリノンの身体が強張った。

 この日のために情報はクラス内だけで共有してたはずだった。

 なのに情報が漏れている。

 誰が情報を漏らしたか、それともCクラスには諜報に長けた人物が居る。

 そして目の前のCクラスの指揮官。

 彼は間違いなく後方に控えるような人じゃない。

 リノンの様子にガイは太刀を握り締める。

 

「選択と対応を間違えたな」

 

 その言葉を最後にリノンの後頭部に強い衝撃が走る。

 試合用の拘束魔術で拘束したリノンを森の中に放置したガイは、遺跡群の方に視線を向ける。

 

「なあガイ。あんな脅し方はちょっとどうかと思うぜ」

 

 ジンの抗議にガイはお優しい奴だと肩を竦めた。

 

「ここが本物の戦場ならアイツは基地にでも連れて行かれ拷問を受けていただろう。そこを揺さ振るだけで済ませたんだ、優しい方だろ」

 

「分かってはいるけど。それでも納得はできそうにない」

 

「ブルークスは女子に優しいよな。正義感ってやつ? けどよ自分を貫くのは大事だけど今は試合中だろ」

 

 デュランの論じる言葉にジンは漸く納得する姿勢を見せる。

 どうにもガイとジンは根本から馬が合わない。

 勝つためなら必要最低限の非道を行えるガイ。

 勝負は正々堂々と非道を許せないジン。

 デュランは2人の異なる性格に肩を竦めた。

 どうにか自分が2人を取り待たなければならない。

 とはいえ、試合開始後はそれぞれバラバラに動く手筈だ。

 

「頼むから2人とも仲良くしてくれよ」

 

「俺はいつだって友好的だがな」

 

 仏頂面を崩さず冗談を飛ばすガイにデュランは叫んだ。

 

「とても友好的には見えねえけど!?」

 

「……デュランはもう少し落ち着くべきだな。現に今だって倒れたリノンのスカートに視線向けてるし」

 

 見たそうで見えない絶妙な角度にデュランは視線を忙しなく向けていた。

 その事を指摘されるとガイがため息を吐く。

 

「倒れた女子に不埒を働くってのは犯罪だ。頼むからクラスメイトから罪人を出さないでくれよ」

 

 こういう時だけは2人の仲は途端に良くなる。

 何故だろうか?

 デュランが悩むのを他所に、2人は作業を再開させた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 リンは気配を殺し遺跡の壁際に身を潜める。

 周囲に細心の注意を払いながら物影から覗き込む。

 

「リノンが偵察に向かったが相手はガイだ。恐らく無事で済まされないだろ」

 

 グレイの言葉にAクラスの面々が顰める。

 

「ディアスさんは可能な限り早急に堕としたいですよね」

 

 ミコトの指摘に同意を示すように頷くAクラス。

 そして彼女は空を見上げながら。

 

「指揮官のディアスさんを堕として次の試合に備えなければなりません。ですけど、敵陣を攻める事も忘れないように」

 

 ミコトが指揮官らしく話を広げ、リンは仕入れた情報が正しいのだと結論付けた。

 そして敵陣の真ん中に設置されたフラグ。

 そこを守るように警戒するAクラスの二つの少数部隊。

 3人編成の部隊だ。攻めてとなる部隊は4部隊。

 しかしAクラスの生徒は20名。

 何処かの部隊は2人だけになる。

 それとも単機編成で向かって来るのか。

 リンは別の物影に移動し情報を続ける。

 

「俺達はガイが指揮官だって情報を元に作戦を練ったが、アイツは指揮官に向いていると思うか?」

 

 同室のグレイが知るガイという男は、面倒臭がり屋だ。

 特に誰かを引っ張って行動するよりも自分で行動した方が早い。

 そういう男だと確信を抱いていた。

 だから彼は真っ先に敵陣に突っ込む筈だ。

 グレイはそう思考しながらミコトに視線を向ける。

 

「グリアーゼさんの懸念も判ります。ですが他の指揮官に該当する人物は、アトラスさんぐらいでしょうか?」

 

「ウチもそっちの線が濃厚だと思うなぁ。でもCクラスにはパステカルの魔術師も居るし、油断できないかもぉ」

 

 鋭い意見を飛ばすAクラスにリンは興味深に観察する。

 武器と機体は既に割れている。

 同時にリンは壁と集められた兵糧に魔術を2種類施す。

 

(これがどう転ぶかはエレン次第ですね)

 

 同時にこの手は一試合に限られる。

 既に他のクラスが偵察部隊を出し、此方の試合を観戦しているからだ。

 リンはここに来る道中、お粗末な隠形を見破りながら姿を悟られず行動した。

 

「……結局指揮官を割り出すよりも敵陣のフラグを奪った方が速そうですね」

 

「だな。戦術よりも各個撃破が性に合うよな」

 

 リンは内心で、それで良いのか? Aクラスと突っ込みを入れながらその場を静かに立ち去る。

 

 そして彼女は陣地に戻るとすぐさまエレンに持ち帰った情報を伝えるのだった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 15時を迎え、拡声魔術からクオン教官の声が響く。

 

『刻限だ! 第一試合開始!』

 

 彼の号令にガイとリンは同時に駆け出す。

 

『いやいや、まさかの2人だけの部隊なんてなぁ!』

 

『その方が都合良い。それに1人削った』

 

 念話魔術でオルディスと話しながらガイは速度を緩めず森に向かって疾走する。

 それに続くリンは彼の隣を並走し。

 

「やぁ、まさか主従で行動できる日が来るなんて忍び名利に限りますね」

 

「油断するなよ。グリアーゼは恐らく一筋縄でいかねえ」

 

 ガイの警戒にリンは頷く。

 性格はおちゃらけているが、彼が扱う大剣と魔術は単純に1年生の中で頭ひとつ飛び抜けていた。

 それにガイも負けてはいないが、部隊戦となると勝負は分からない。

 

「さっき程伝えた通りですが、向こうは指揮官に確証を持たなかった様ですね」

 

「逆にこっちは指揮官を知ってる」

 

 森の中に入り疾走を続けていたガイとリンは、不意に足を止める。

 Aクラスの少数部隊と遭遇したからだ。

 彼らは同時に動き出す。

 

『来いオルディス』

 

『お願いしますよイルソン』

 

 ガイとリンは森の頭上に騎士人形を召喚した。

 

「う、嘘だろ!?」

 

「た、退避しろ!」

 

「立て直して召喚を!」

 

 その場から慌てるように逃げ出すAクラスの小隊に、2機の落下衝撃が襲う。

 

 森から響いた轟音を合図にエレン達も同時に動き出す──

 

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