アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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2話 街巡りと視線

 3時限目の魔術科を終え、放課後を迎えた頃。

 ガイは改めて知識を振り返った。

 世界の大地、龍脈を流れる自然エネルギーのマナ。

 マナは龍脈から地上に溢れ大気を巡回し、また大地に還る。

 そして魔術の行使に人は人体にマナを取込み、呪文詠唱、魔法陣展開による世界を改竄し結果を現実に顕す。

 また濃度の高いマナは空気に触れる内に結晶化現象を起こし、鉱物として成長を果たす。

 自然現象により生成されたマナ鉱石は、各国の生活基盤を支える燃料として利用され、現在における錬金術にも必要不可欠な材料だ。

 魔術とマナの知識再確認を終えたガイは帰り支度を始めた。

 鞄に教科書を詰め込むガイにレナが歩み寄り。

 

「おっと? キミは約束を忘れちゃったのかな?」

 

「忘れてない。帰り支度は迅速に済ませた方が良いだろ」

 

「それもそうだね」

 

 ガイは鞄を片手に立ち上がる。

 嫉妬と羨望入り混じった視線がガイに突き刺さる。

 何かしら反応しては面倒だ。

 直感と元来面倒臭がり屋な性格が合わさり、彼の対応は迅速だった。

 

「行くか」

 

 無視して早急にこの場から立ち去ること。

 それが一番手っ取り早いのだと結論付けていた。

 

「おお、急ぐねぇ」

 

 レナは足早に教室から出るガイを追って、振り返る。

 

「みんなまた明日ね!」

 

 そんなあいさつを残してレナはガイを追いかけた。

 

 特に面倒も無く校門を出た二人は、学院から最も近い商店街に足を運んだ。

 人混みを避けながら少し入り組んだ通路の道すがら。

 ガイは壁に視線を釘付けにされる。

 マナで刻まれた呪文の断片。

 この街がまだ遺跡だった頃の名残が街の随所に刻まれ、歴史を感じさせるには充分な存在主張だった。

 

「壁の呪文が気になるの?」

 

「完成された呪文は何だったのか、意味は何なのか気になるからな」

 

「いつの時代から刻まれたのか、我々が生きる文明以前の時代。失われた時代の断片が遺した秘蹟、世界の謎に迫る鍵の一つ」

 

 レナの一文一句にガイは興味深そうに耳を傾ける。

 考古学者クローズの書籍に記された文。

 クローズの書籍には決まって歴史に対する意欲を唆る言葉。

 その次に。

 

「『解き明かしてはならない歴史、私は後世に語り継ぐ』だったか」

 

 警告の言葉が続く。

 本の内容を言い当てたガイにレナは感心を寄せ、

 

「クローズ教授の考古学書を読んだんだ。古代遺跡バーロンの考察も?」

 

 古代遺跡バーロンに刻まれた壁画。大地から這い出る異形の動物群と死に絶える人類にクローズ教授はこう記した。

 

「世界を滅ぼす厄災によって古代文明は滅び、永き時を経て人類はまた再誕したのならば、我々は備えなければならない」

 

「殆ど覚えてるんだ」

 

「暇があれば読んでいたからな」

 

「そっかぁ!」

 

 嬉しそうに眼を輝かせる彼女に、ガイは疑問をぶつける。

 

「やけに嬉しそうだな」

 

「そりゃあさ、同じ出身地で共通の趣味を持つ人って中々出会えないもん! 嬉しいに決まってるでしょ!」

 

「なら何処か落ち着ける場所を探して語り合うか?」

 

「それも良いわね! 本を持ち寄って静かな場所でさ」

 

 元気の良い奴。 

 それがガイがレナに抱いた印象だった。

 それから商店街の雑貨店を覗き、小洒落たカフェを通り過ぎる。

 ガイはレナとラピスの商店街を巡り歩く中、物陰からぶつける嫉妬の視線に僅かに視線を向けた。

 同じクラスの男子生徒の視線。

 校門を出てから付き纏う視線と敵意。

 ガイが顔を顰めると。

 古びた書店の前で不意にレナが足を止めた。

 

「……ねえここに寄ってみない? 少し歩き疲れちゃって」

 

 少し疲れ気味のレナにガイは頷く。

 古びた書店──フルグス書店に立ち寄る。 

 古めかしい骨董品と本棚が並び、カウンターで色白の男性が眼鏡を煌めかせた。

 

「いらっしゃい! 何をお求めで! 君達操縦士でしょ!? それとも恋人に大人気の恋愛シリーズなんかどう?」

 

 息つく暇も無く喋り続ける店主に二人はドン引きした。

 

「立ち寄っただけだ」

 

「あらそうなの? 久し振りのお客さんだしお茶でも飲む?」

 

 遠慮の無い店主にガイは肩を竦める。

 

「此処は来客に茶を出すほど暇なのか?」

 

「ちょっと失礼でしょ!」

 

「あははー! 別に事実だから良いんだよ」

 

 ガイは本棚に陳列された書物に視線を移した。

 考古学書、歴史書、童話から様々な書物。ガイの興味を惹くのに止まない数々のタイトル。

 しかし書店の本は10ページまでしか試読できない。それ以降は封印魔術によって閲覧できないように細工が施されているからだ。

 興味を惹かれる本棚に2人が釘付けになっている頃、店主が店の奥に引っ込む。

 

「うーん! 慣れない街はやっぱり疲れるわね」

 

 レナは背筋と腕を伸ばした。

 ガイは店の古時計に視線を向けた。

 時刻は午後16時を過ぎていた。

 寮の門限は18時。

 

「門限まであと2時間か」

 

「ふえ? もうそんなに時間が過ぎちゃったんだ」

 

「茶を飲んだら解散だな」

 

「そこは普通さ、女の子を寮の近くまで送るものじゃない?」

 

「寮の別れ道までは同じ帰路だろ」

 

「あ〜そうだったわね」

 

 忘れていたのか、レナは笑って誤魔化した。

 

「お待たせ。生憎とコーヒーしかないけど、そちらのお嬢ちゃんは大丈夫かな?」

 

「平気よ」

 

「それは良かった」

 

 ガイは淹れたてのコーヒーをひと口飲んでから。

 濃くと苦味に程よい甘さが合わさったコーヒーにガイは素直な気持ちを表す。

 

「……美味い」

 

 店主は小さく笑みを零す。

 

「気に入って貰えて何よりだよ。そうだ! ウチでバイトしてみないかい?」

 

 店主の好意にガイは考え込む。

 在学中の間は学費、学食、学院で許可されている備品は全額免除されているが、当然ながら娯楽用品は別だ。

 衣類や娯楽用品に金は必要になる。

 特にガイの場合は誰からも資金援助を受けることができない。

 だから彼は必然的に労働しなければ、満足いく学院生活を送ることさえ叶わない。

 

「時間に融通は効くのか?」

 

「もちろん。放課後から門限までの時間帯ならいつでも歓迎さ」

 

 他でバイトを探す手間と寮と比較的に近い書店。

 操縦士と知りながら好意的な店主にガイは答えを出す。

 

「なら明日の放課後から雇ってくれ」

 

「よし! 無愛想で仏頂面だけどカッコいい店員ゲット!」

 

 一言余計な店主にガイが顰めるとレナが微笑んだ。

 

「あっさり決まって良かったね」

 

「互いの名前も知らないのにな」

 

 失念していと色白の眼鏡の店主が頬を掻く。

 

「あー、紹介が遅れたね。僕はヴェイグ・フルグス」

 

 改めてガイはヴェイグに向き直る。

 

「俺はガイ・ディアスだ。今日から卒業まで世話になる」

 

 ガイの名を聴いたヴェイグは微笑みながら左手を差し出した。

 求めてられた握手にガイは応じる。

 

「それじゃあ明日、バイト申請用紙に担当教官のサイン付きで持って来てくれ。あれが無いと恐い教官に僕まで睨まれるからね」

 

 ガイは頷くと、

 

「おっと、僕は倉庫の整理が有ったんだ。2人はゆっくりして行って良いから!」

 

 慌しく倉庫に引っ込むヴェイグにレナは可笑しそうに笑う。

 

「忙しい店主と無愛想で仏頂面のガイが並ぶところを想像すると……ちょっと面白いわね」

 

「……そいつはどうも」

 

 ガイは一気にコーヒーを飲み干すと。

 

「ねえ騎士人形のこと、ガイはどう考えてるの?」

 

 そんな不安そうな質問を問い掛けられた。

 ガイにとっての騎士人形は実に単純明快だ。

 

「昔から付き合いの長い相棒、腐れ縁とも言うな」

 

「そっか。私は少し怖くなったかな、王都を襲った騎士人形の事も」

 

 8年前に王都で起きた操縦士によるテロ事件。

 紺碧の騎士人形は王都で操縦士の自由を訴えながら暴れ、駆け付けた銀の騎士人形と戦闘行動に突入した。

 結果、紺碧の騎士人形は破壊され事態は収縮したが、死傷者を多数出すことに。

 あの事件はスラム街で発生し、戦闘被害の殆どはスラム街に集中していた。

 ガイが事件に対して懐く感情はムカつきだった。

 

「あの事件は良く覚えてる。同時にムカついた」

 

「ムカついた?」

 

 ガイは今もなお崩れた路地裏を頭に浮かべながら、ゆっくりと答える。

 

「比較的被害の少ない平民街は迅速に対応されたが、スラム街の被害は今も放置されたままだ」

 

「テロに対してじゃなくて軍に対する苛立ち?」

 

「いや、テロリストが事件を起こさなければ何も無かった。騎士人形なんて兵器を操縦士の自由の為だとか謳いながらやってる事は力に物を言わせた暴力だ」

 

「結局のところ自由なんて主張もそこそこ自由に暮らしていた身からしたら有り難迷惑だ。だからムカついた」

 

 ガイがムカついた最大の要因は、軍による操縦士の監視が強まったことだった。

 未学生の操縦士は些細なきっかけでテロに加担する。

 そう言った経緯から軍は未学生の操縦士に対する警戒を一掃に強めた。

 正に悪循環が生まれたが、幸いなのは軍が操縦士を弾圧しなかったことだ。

 それもグランツ王国の抱える情勢問題が最大の原因だとガイは考えた。

 特にグランツ王国は北方と南方に広がる二大国家に挟まれている。

 北方のデュネス帝国と南方のガルドラス帝国は世界の覇権を争い長年緊張状態に有る。

 二大国家に挟まれたグランツ王国にとって貴重な戦力は無駄に浪費できない。

 

「そっか。私は大きく膨れ上がった殺し合いが恐いなって感じたよ」

 

 人と遜色ない動きで互いに殺し合う騎士人形。

 人から騎士人形に変わった殺し合いはレナの言う通り、膨れ上がった殺し合いだ。

 

「騎士人形を純粋な兵器とするなら、行われるのは殺し合いだな。だが、騎士人形を何かを守るために使うならソイツは兵器か?」

 

「人が操るなら守護者にもなり得る。その可能性は私達次第ってことね」

 

「理解が早くて助かる」

 

 騎士人形の在り方も操縦士次第で変わる。

 ただ純粋な兵器として求められ続けた結果に、ガイは目を瞑る。

 誰も騎士人形が何の為に求められ作られたのか分からない。

 後世の人が歴史を紐解き、兵器としてカテゴリーした結果が騎士人形は兵器という認識が広まった。

 ガイは考える。

 少なくとも3年は騎士人形に付いて学べる。

 

「3年も有れば相棒に付いて理解が深まるか」

 

「私も騎士人形の事を知りたいって思ったから覚悟を決めたんだけど、少しぐらついちゃったかな」

 

「多少ぐらつくぐらい良いんじゃないか? ぐらついた土台をその時その時補強してやればそう簡単に倒れやしないだろ」

 

「迷ったら考えて自分なりの答えを見つける。……うん、それが精神的にも気楽ね」

 

 レナは飲み終えたコーヒーカップをトレイに置き、

 

「有意義な時間が過ごせたわね。そろそろ時間だから帰りましょか」

 

 彼女に提案にガイはドアを開ける事で賛同した。

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