アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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3話 戦闘訓練と不穏

 レナと別れたガイは、食堂で夕食を済ませ男子寮の割り当てられた自室に戻ると。

 

「おっ、入学早々女子生徒とデートした強者がお帰りなすったな」

 

 金茶髪の髪を上げ、両耳にピアスをした男子生徒がそんな茶々を飛ばす。

 同室の男子生徒にガイは記憶を探る。

 彼は誰なのか、ガイの記憶には無かった。

 

「誰だ?」

 

「3年間共に生活するってのにそりゃあ無いぜ!」

 

「記憶にねぇ」

 

「あー、お前さんは昨日部屋に来るなりシャワー浴びて即寝たからなぁ」

 

 確かにガイは用を済ませて即寝たことは覚えていた。

 

「まあいいや、俺はAクラスのグレイ・グリアーゼだ。改めてよろしくな色男!」

 

 いい笑顔で答えるグレイにガイは頷き、自身に用意されたクローゼットの鍵を開け中を漁る。

 

「帰ってもうシャワーか? それよかデートの感想を聴かせてくれよ!」

 

 気さくに話し掛けるグレイにガイは諦めた。

 経験上、この手合いは話さない限りしつこいと。

 

「感想か。壁の呪文の断片で話が盛り上がった」

 

「……デートってか、遺跡探検の感想?」

 

「アンタが想像する小洒落たデートじゃないんだよ」

 

「もったいねえなぁ。アトラス家の御令嬢って言えば貴族の御子息が放っておかない美少女だろ」

 

 美少女。グレイの言葉にガイは眉を深めた。

 彼女の外見は正に美少女。

 ただ彼女が秘める内面は、崩れそうになろうと立ち直る芯の強い少女。

 それがガイがレナに改めて認識した印象だった。

 他人がレナに懐く印象などガイにとってはどうでも良い。

 重要なのは内面だ。

 いくなら外見が良くとも中身が劣悪な人間なら近寄りたくもない。

 

「気になるなら誘ったらどうだ?」

 

「いやぁ俺はそれよりも担当教官が気になるね」

 

 照れ臭そうに話すグレイに耳を傾ける。

 

「Aクラスの担当教官がそりゃあもう美人で、抜き身の刃みてねぇに鋭くてさぁー!」

 

「一目惚れしたのか」

 

「ドストライクだったね!」

 

「それは良かったな」

 

 そんな問答にグレイは親指を立て、着替えを持ったガイはシャワー室に足を運ぶ。

 

 夜が訪れ、消灯時間を迎えた生徒は静かに寝静まる中。

 ガイはオルディスと念話魔術で会話していた。

 

「随分と今日は大人しかったな」

 

『デートの邪魔をするのは野暮だろ? と言ってもまだそんな感情はねぇか』

 

「あったまりえだ」

 

 ガイは色恋沙汰に興味が薄い。

 同時にクローズ教授の話しで語り合ったのは楽しいひと時とさえ感じていた。

 ただ楽しい時間を共有し合える、気の合う知人。

 ガイとレナの関係は知人が適切だ。

 例え側から見ればデートをしている輩。

 それは他人の視線が決めた評価に過ぎない。

 

「それで、何で黙りだったんだ? 顔見知りの騎士人形にビビってたのか」

 

『ば、バッカ! そんなじゃねぇし。……け、決して操縦士越しから睨まれてビビった訳じゃないぞ』

 

「明日には戦闘訓練と操縦科が有るんだ、嫌でも会うだろ」

 

『天使ちゃんとは会い辛れなぁ』

 

『レナが天使の操縦士なのか』

 

『おう、少なくとも選ばれて6年ぐらいだな』

 

 恵まれた家庭で産まれ育ち、操縦士に選ばれた。

 彼女は真っ直ぐな瞳で騎士人形を知りたいと答えた。

 

『強敵だな』

 

『覚悟を持つ人間は時に底知れない力を発揮する。ガイ、油断は最大の敵だ』

 

『ご忠告どうも。俺はもう寝る』

 

『えぇ〜!? 一晩中語り明かそうぜぇ〜』

 

 煩いオルディスの声を遮断して眠りにつく。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 2日目の朝。

 校舎の食堂は朝食を摂るべく武器を携行した学生で溢れていた。

 慣れた様子で席を確保し、カウンターから料理を受け取る先輩。

 対して入学して日が浅い一年は席を確保するのも一苦労。

 行列を作るカウンター、バイキング形式の作法に生徒は料理を器に盛る。

 ガイもそれに倣い、適当に料理を皿に盛った。

 適当に空いた席で座り、いざ朝食を食べ始めると。

 

「悪い! 隣いいか?」

 

 許可を求め、応対する前に隣に座り込んだ生徒に僅かに視線を向けた。

 大量の肉料理を皿に盛ったデュランが既に食事を始めている。

 ガイは淡々と食事を続け、デュランが頬張った肉を飲み込むと。

 

「そういえば昨日は如何だったんだ? かなり嫉妬されてたろ」

 

 噛み込んだ海老を飲み込んだガイは、面倒臭そうに答える。

 

「別に何にも無かったが、鬱陶しいかったな」

 

 視線の事を含め答えると、デュランが苦笑を浮かべた。

 

「あー、アトラスに夢中の伯爵家の御子息が居るからねぇ。ウチのクラスに」

 

 その言葉に誰が付き纏っていたのか答えを得る。

 ただガイは他人の色恋沙汰をどうこうする気は無い。

 通常なら喧嘩を吹っかけられれば対応するが、相手は貴族ともなれば方法も変わって来る。

 

「なら堂々と誘ってやればいい話しだろ」

 

「それがさ、その御子息様は何度もアトラスに振られてるらしいんだ」

 

「なるほど」

 

 何度もアプローチを掛けた相手が何処の馬の骨とも知らない男を誘った。

 それは男からしたら非常に面白くない。

 特に意中の相手であれば尚更に。

 

「大変だろうけど、頑張れよ」

 

 デュランの最後の言葉にガイは反応を示さず、朝食を食べ終える。

 

「時間、無くなるぞ」

 

 時計に僅かに視線を向けたガイに、デュランは慌てながら肉を頬張り飲み込む。

 テーブルの横に立て掛けていた槍斧を背負い、先に行くガイを追う。

 

 1時限目の錬金科を終え、2時限目と3時限目の操縦科における戦闘訓練。

 校舎から離れた第三グラウンドにそれぞれ武器を携行したCクラスが集う。

 この学院には体操着のような物は無く、運動機能を兼ね備えた制服のままで戦闘訓練が行われる。

 遅刻者無しにクオン教官は満足気に頷くと。

 

「よし、早速二人一組のペアを作れ」

 

 Cクラスの生徒は21名。

 必ず一人余りが出る。

 

「余った者はわたしと組む」

 

 クオン教官の声に生徒は一斉に動き出す。

 レナはガイの腰に携行された太刀から、少なくとも剣術を嗜んでいる。

 そう考えガイに声を掛けようとしたが、

 

「あ! レナさんはあたしと組みません? あたし騎士剣術に興味がありまして」

 

 声の主に振り向く。

 ヤマト連合国、東方の血を引く小柄で黒髪の少女──リン・ナギサキ。

 レナは一瞬だけガイの方に視線を向け、誘いを断るか迷った。

 初日から男子に声を掛け、街を歩く。

 そして今日もガイを誘う。

 自惚れる気は無いが、自分の行動は目立つ。

 ガイに対して快く思わない男子も居る。

 そう考えたレナは、

 

「良いわよ。私も東方剣術に興味が有ったから」

 

 リンの誘いを受けた。

 そして一人余りクオン教官の隣、刃三本分の間合いを開けたガイが静かに佇んでいた。

 レナは仏頂面を更に深めるガイに内心で小さく謝る。

 

「わたしと組む幸運者はディアスか」

 

「それは如何も」

 

 ガイはクオン教官の太刀に視線を向けつつ、太刀の柄を握り締める。

 

「ではこれより準備運動を開始した後、戦闘訓練に移る!」

 

 クオン教官の言葉に従い、生徒は準備運動で身体を解す。

 準備運動を終え、

 

「では改めて説明しておくが……これは訓練だ、殺し合いじゃない。己の()()で相手を無力化させるか降参に追い込め、それが戦闘訓練のルールだ」

 

 クオン教官の説明に緊張が走る。

 そしてお互いに間合いを取り始めた頃。

 

「はい! ……ん、教官!」

 

 不自然な間を空けたリンにクオン教官が眉を寄せる。

 

「何だナギサキ? さっきも言った通り殺しは厳禁だぞ」

 

「違いますよ! 何本勝負でしょうか?」

 

「ふむ……制限時間は授業終了までだ、その間何本勝負しようが構わん。尤も次に控える操縦科は体力を消耗するためおすすめしないがな」

 

「他に質問は無いな?」

 

 クオン教官は生徒を見渡し、ガイに向き直る。

 

「では、戦闘開始!」

 

 放たれた合図に火蓋が切っておろされる。

 同時にガイは抜刀し、霞の構えを取る。

 たちまち金属音の衝突、魔術の爆音が耳に響く。

 グラウンドに広がる余計な雑音を排除し、目の前の人物に意識を集中させる。

 居合の構えを取るクオン教官、隙を感じさせない佇まい。

 身体から滲み出る殺気と闘志が、クオン教官は強者だと理解できる。

 同時にガイの行動も制限される。

 下手に間合いを詰めれば、幾ら攻め辛い霞の構えとはいえ、居合によって斬り捨てられる。

 無言で出方を窺うクオン教官にガイは深く呼吸する。

 

 そして彼は動き出した。

 大地から大気に巡るマナを媒介に短く詠唱を唱える。

 

「炎よ刃に宿れ」

 

 刀身に炎を付与し、ガイは霞の構えから一気に振り下げる。

 自身の戦闘を終えた生徒達は彼の行動に目を疑う。

 幾ら太刀とはいえ、クオン教官に刃は届かない。

 それほどガイとクオン教官の間合いは離れていた。

 だが、そんな疑問も一瞬にして消える。

 振り抜かれた刃が炎を纏った斬撃を飛ばしていた。

 クオン教官に向かって真っ直ぐ飛ぶ斬撃。

 一瞬腰を落としたガイが同時にその場から消える。

 ガイの動きにレナは感心を寄せ、視線で彼の動きを追う。

 レナと相対していたリンもまた構えを取りながらもガイに注視していた。

 

 クオン教官は感心したように笑った──その時だった。

 甲高い金属音が響く中、炎の斬撃に一筋の一閃が走り、背後に回り込んでいたガイの首筋に刃が当てられていたのは。

 一瞬の出来ごと、殺し合いなら死んでいた事実にガイの額に汗が滲む。

 

「隙がねぇ」

 

 炎斬は目眩しで背後から強襲する算段だった。

 初撃と二撃は確実にいなされる。

 本命の三撃目で炎を纏った拳を放つつもりの行動が、初撃で全て対応。

 クオン教官は斬撃を斬り払った上で、そのまま勢いで回転斬りを放ち、自身の首筋を捉えた。

 一連の動作と明確な敗北にガイは降参の意を示す。

 

「発想も動きも瞬発力も良かったが、背後を取り一瞬だけ油断したな」

 

 ガイは両手を挙げ降参の意を示す。

 

「降参を受けよう。……しかし君の剣術は同じ東方剣術でも魔術を軸に据えた剣術──魔刀流か」

 

 ガイは離れた刃に、太刀を納刀しながら頷く。

 

「そう言う教官の流派は?」

 

「生憎とわたしのは我流だ」

 

 独学で身に付けた剣術にガイは驚きを隠せなかった。

 ガイがスラム街の老師から教えを受けて10年。

 東方剣術は騎士剣術と違い型が多岐に渡る。

 そのため流派一つ一つに伝授される型の数は違うが、一つ覚え瞬時に放てるようになるまで血反吐を吐く苦労をした。

 見本となる老師が身体の使い方、魔術の扱い方を一から教え漸くガイは魔刀流を習得するに至る。

 しかし目の前に居る男はどうだ?

 居合の型を独学で覚え、練られた技の冴え。

 炎斬を斬り払い、背後に回り込んだガイに回転を放ち首筋を捉えた。

 全て一手で済ませるほどの力量。

 

「マジかよ」

 

 ガイが漸く吐き出せた言葉にクオン教官が笑みを浮かべる。

 

『とんでもねえ化け物が居たもんだ!』

 

 オルディスの絶賛する声が頭に響く。

 

「ふむ、まだ決着の付かない生徒が多いか」

 

 クオン教官の声にガイは改めてグラウンドを見渡す。

 まだ決着の付かない試合が続いていた。

 技と技に対する応酬、攻撃魔術と防御魔術の攻防。

 早速グラウンドは一種の戦場化している。

 学生の身が戦闘をこなせるのだから侮れない。

 特にガイが注目したのは、レナとリンの戦闘だった。

 身軽に素早くレナの背後に周り込み小太刀を振り抜く。

 対してレナは防御魔術で小太刀を防ぐ。

 振り向くレナに対してリンは、彼女の視界から消える。

 真正面から打ち合うことを避けた立ち回り。

 レナは消えたリンに対して即座に反応して見せ、騎士剣で弧を描く。

 瞬間、甲高い金属音が響く。

 真横から迫るリンの小太刀がグラウンドの土に突き刺さる。

 レナは肩で息を吐き、呼吸を整えてからリンに微笑んだ。

 

「今日は私の勝ちね!」

 

「むぅ、次は負けませんよ」

 

「あのお転婆に対応するとは」

 

 感心を伴うクオン教官の声。

 リンをよく知ったような口調にガイは、知り合いなのだと察する。

 ガイが観戦しているとしばらくして、漸く生徒同士の決着が付く。

 

「時間も丁度か。3時限目もここで騎士人形の操縦訓練だ」

 

 そう告げると丁度良いタイミングで鐘が鳴る。

 休み時間に入ったCクラスはグラウンドから動かず、身体を休める。

 そんな中、ガイに紫色の髪の少年が近付く。

 ザナル・フォンゲイルは手に持った槍を強く握り締める。

 敵意を隠さない視線で睨むザナルにレナ達の間で緊張が走った。

 

「君は戦い足りないんじゃないのかい?」

 

「テメェの力量を再認識できた。それで充分だ」

 

「なるほど。つまり君は僕が相手にする価値に値しないと」

 

 喧嘩を売るなら買う。

 スラム街の日常ならそれで事足りる。

 しかしガイはその考えを改める。

 曲がりなりも相手は伯爵家の御子息、彼に手を出せばスラム街の連中に被害が及ぶ。

 あそこにはガイを慕う者、協力関係に有る者、勉学の恩師と剣術の師がまだ生活を余儀なくされている。

 無駄にプライドの高い貴族の癇癪は時として他者の生活を破綻させてしまう。

 最悪の想定と先のことを考えたガイは肩を竦めた。

 

「好きに解釈して構わねえよ」

 

 ザナルの挑発を受け流す。

 ザナルは敵意を放っているがまだ理性的だった。

 完全に頭に血が昇った者は、問答無用で武器を振り回す。

 それだけしない辺りまだザナルはまともの分類だ、とガイは思う。

 

「ふん。話してみれば取るに足りない男だったか」

 

 ザナルはガイに視線を向け、レナの下に歩み寄る。

 訝しむレナにザナルは取り繕った笑みを浮かべる。

 

「レナ、君は付き合う者を選んだ方が良い。でなければ家名に傷を付けることになるだろう」

 

 レナは一瞬ガイに視線を向けた。

 ガイは自分が彼に手を出せば、親しい人達に危害が及ぶと考え耐えた。

 彼の考えを汲み取ったレナは、敢えてザナルに何も言わない。

 その対応にザナルは鼻で笑い、満足そうに元居た場所に戻る。

 一連の出来事を静観していたクオン教官はため息を吐く。

 

「操縦科は生徒同士の模擬戦が多い。授業の一環ならば相手は結果に文句など言えまい」

 

 彼の声が耳に届いていたザナルが笑みを浮かべる。

 

「それはそれは。……つまり僕とディアスが授業の範囲内なら戦闘しても」

 

「異論は無いが殺しは厳禁だ。それは幾ら貴族の倅だろうと関係無い、禁を破った者は問答無用で拘束させてもらう」

 

 釘を刺すクオン教官にザナルは考える素振りを見せる。

 そして当のガイはどこ吹く風で、面倒なクラスに入ったと小さくボヤいた。

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