アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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騎士人形の本格起動お待たせしました。


4話 起動する騎士人形

 一悶着を終え、3時限目の操縦科が始まる。

 

「先ずは騎士人形の召喚説明に辺り、改めて注意事項を説明しておこう」

 

 クオン教官は整列する生徒を見渡し説明を始めた。

 

「原則としてアダムス学院の敷地外における遺跡都市内及び郊外での騎士人形召喚、搭乗を禁じている」

 

「ただし例外は有る。今後授業で行われる行軍訓練、来月に控えるクラス対抗戦。非常時における自衛手段としてならば例外的に召喚、搭乗可能だ」

 

 クオン教官の説明に、眼鏡に物静かな印象を与える女子生徒が挙手する。

 クオン教官はエレン・パステカルに視線を向け。

 

「パステカル、質問を許可しよう」

 

「はい。例外とは有りますが、遺跡都市に配属されている警備隊は私達を護ってくれないんでしょうか?」

 

「いや、諸君が生徒で有る以上は我々軍隊は護る責務と義務が有る。だが警備隊も操縦士で編成された軍の一部署ゆえに彼らが出動に迫られたのなら敵も我々と同じ操縦士だ」

 

 生徒の安全、市民の安全を考慮した例外的自衛手段。

 その事に対して生徒は一様の反応を示した。

 人々を護る守護者、騎士人形を自衛手段の一つ。

 力を持つ者の責任と義務。

 そして制限だらけの操縦士に与えられたある意味での活躍の機会に、6人は疑問を顔に出していた。

 一様に納得する生徒を見渡したクオン教官は、疑問を浮かべる6人に視線を移す。

 この6人は国が示す道、都合の良い魅力的な餌に食い付かない確信をクオン教官は得た。

 同時に制御が効かない操縦士は国にとって排除される危険性を孕む。

 クオン教官は一度思考を授業に戻す。

 

「さて、今から諸君が戦闘に巻き込まれように生き延びる手段を教えよう」

 

「先ずは内に潜む相棒に意識を集中せよ」

 

 生徒は言われた通りに騎士人形に意識を集中させる。

 すると意識の中に視えるのは、それぞれ形の違う騎士人形の全身だ。

 見慣れた光景といつもとは違う箇所に、ガイは一人だけ口元を歪めた。

 昨日までオルディスの腰に無かった筈の武器が備え付けられている。

 

「彼らは操縦士が扱う得物をマナ鉱石を錬成し、作り出す初期能力を有している」

 

「あのぉ〜初期能力って何ですかね?」

 

 リンの質問にクオン教官が答える。

 

「試作型《プロトタイプ》を含めた全騎士人形に備えられた共通能力のことだ。因みに初期型を除いた後継機にはそれぞれ特異な能力を有している」

 

「試作型と初期型の騎士人形が不利ということですか?」

 

「そうだな。初機型を操る者としても学生時代は同級生に相当手を焼いたが、騎士人形との同調率次第では充分に勝てる機体性能差と言えるだろう」

 

 クオン教官は話が逸れたと言わんばかりに一度咳払い。

 やがて意識を集中させた彼の背後に淡い翠色の粒子が舞う。

 自然エネルギーのマナが溢れ出る様子に生徒は息を呑む。

 そしてマナを媒介にクオン教官の背後に、中世の騎士を彷彿とさせる7メートルの白い騎士人形が、その姿を現実に現界した。

 

「すげぇ、本当に何もない場所から現れた」

 

 デュランが感嘆の声を漏らした。

 中には騎士人形に対する恐れを抱く者、長年の相棒と共にあれる事を喜ぶ者。

 一クラスに様々な生徒が集められた、とクオン教官は感心を寄せながら生徒に言葉をかける。

 

「さあ諸君も彼らに語りかけ、現れる様に促すんだ」

 

 ガイはオルディスに念話魔術で語り掛ける。

 

『出て来い』

 

『おいおい! そこは出て来てくださいとか、もっと頼み方が有るだろう!?』

 

「ささっと来い」

 

 有無を言わせないガイにオルディスは召喚に応じる。

 そしてクオン教官と同じように背後に出現するオルディスにガイは振り返った。

 漸く頭の中で姿と声だけは認識していた相棒を喚ぶことができた。

 第三グラウンドに現れた蒼い騎士人形──オルディスに生徒達が注目する。

 中世の騎士を彷彿とさせる7メートルの機体。騎士背部の二機のブースター、腰に納められた太刀。

 クオン教官の白い騎士人形と似た造形に誰しもが二機を見較べた。

 

「ほう、ディアスの騎士人形はオルディスだったか。わたしの相棒クォールから何度か話には聴いている」

 

「殺し合いの歴史か?」

 

「いや、オルディスは全ての騎士人形の原形となった試作型だと」

 

 オルディスは試作型だという点にガイは素直に喜びを露わにした。

 能力に付いて剣術と魔術と合わせる必要が無い。

 能力の理解を深める手間が掛からない点をガイは単純明快で良いと。

 しかし周囲からは同情の視線がガイの背中に突き刺さる。

 

「試作型ってことは、特殊能力も無いってことだし一番機体性能も古いってことなんじゃ?」

 

 栗色髪の生徒アルト・アルディーニの疑問にクオン教官が答える。

 

「ふむ……単にそうとは言い切れないが、それは諸君が実際にオルディスと立ち合い理解し実感しろ」

 

 単純で分かり易い説明に生徒は納得した表情を浮かべる。

 同時にザナルの勝ち誇ったような忍び笑いがガイの耳に届く。

 

「しかし誰よりも早くに召喚するとは。……君は操縦士に選ばれて何年になる?」

 

「10年にはなるか」

 

 ガイの答えにクオン教官は納得した素振りを見せた。

 

「大抵物心が付く頃からか。なるほど、道理で速いわけだ」

 

 そしてクオン教官は周囲の速く喚ぶように挑発する。

 

「さあ君達も呆けて無いで喚ぶんだ。でなければ授業に遅れが生じる」

 

 彼の挑発はプライドの高い生徒、負けず嫌いの生徒に効果を発揮した。

 レナが白銀の騎士人形を、リンが琥珀色の騎士人形の召喚に成功させると、続々と生徒が第三グラウンドに騎士人形を喚ぶ。

 そして最後にジンが召喚した漆黒の騎士人形を迎え授業が進む。

 

『……あの機体』

 

 オルディスの疑問と疑念が孕んだ声にガイは意識を傾ける。

 

「どの機体だ?」

 

『なんでもねぇ。それよりも教官殿の話しを聴いてやんな』

 

 黙りを決め込んだら喋らない。それがオルディスだとガイは納得する。

 ガイは意識をクオン教官の声に向けた。

 

「次はいよいよ搭乗だが、生憎と騎士人形には搭乗席の入り口が無い。彼らの胸に淡い光を放つ球体状の核が僅かに視えるだろう?」

 

 言われて生徒は各々の騎士人形に視線を向ける。

 クオン教官の言う通り、騎士人形の胸部分には僅かに核が視える。

 

「召喚時と同じ要領で核に向けて意識を集中させるんだ」

 

 言葉で説明を行ったクオン教官はすぐに実践してみせる。

 クォールの前に立ち、意識を集中させるクオン教官をマナの球体が包み込む。

 球体は宙を浮かび、核に吸い込まれるように消えていく。

 そんな光景を目の当たりにした生徒が混乱を浮かべると。

 

「これが搭乗までの一連の流れだ」

 

 クォールからクオン教官の声が響く。

 

「恐れることは何も無い。さあ搭乗するんだ」

 

 促す声。

 戸惑う生徒達の中で、ガイとレナ、リンが同時に動く。

 三人は同時に意識を集中させ、これまたクオン教官と同じように機体に吸い込まれた。

 

 オルディスの操縦席に座ったガイは、付き纏う違和感に眉を歪めながら周囲を見渡す。

 全方位に広がる外の光景。

 座席の両端に埋め込まれたスフィア盤。

 

『おお! 遂にガイが俺に搭乗する日が来るなんてなぁ! お兄ちゃんは嬉しいぞぉ!』

 

「誰がアニキだよ」

 

 冷ややかなガイの突っ込みに。

 

「兄弟みたいに仲が良いんだね」

 

 レナの声が機体内に響く。

 視線を向けるとそこには白銀の騎士人形の姿が在った。

 白銀の騎士人形は天使を彷彿とさせる六枚の翼を拡げた姿に、ガイはなるほどと舌を唸らせた。

 彼女の騎士人形は正に天使と表される程に美しさを兼ね備えている。

 またオルディスと違って全身の装甲が軽量化され、全体的に細っそりとした機体だ。

 

「聴こえてたのか?」

 

「うん。外の声も生身と変わらないぐらいに」

 

 言われてガイは気が付く。

 搭乗しようと奮起する生徒の声と呪詛を吐く声に。

 同時にクオン教官の咳払いも。

 ガイとレナは私語を止め、生徒達の様子を観察することにした。

 それからクラスメイト全員が騎士人形に搭乗するのは五分後のことだった。

 

「本題に入ろう。操縦席には見ての通り操縦桿が無い。騎士人形を自身の身体、自分は彼らの心臓と脳だと認識するんだ。スフィア盤は思考伝導を効率化させる補助にしか過ぎない」

 

 操縦席に座ってから付き纏う違和感。

 オルディスと同調している感覚。

 それは言葉で説明しきれない不確かな感覚であり、魔術的な繋がりだ。

 

(投影魔術による同調……身体を動かすのと当たり前のようにやればオルディスは動くのか?)

 

 生物が身体に動かす時、脳は命令を全身に送る。

 無意識に近い感覚で行わる行動。

 ガイは敢えて意識せず、いつも通りに念じる。

 するとオルディスの右腕が上がる感覚が、ガイの右腕に伝わる。

 同様に左腕を動かすと、同じく動いた箇所に感覚が鮮明に伝わる。

 右脚から左脚を交互にして歩く。

 これも同様の感覚が鮮明に伝わる。

 指を一本一本動かせば、指の関節が人間と同様に動く。

 

(これが投影魔術による影響だと? 兵器を唄いながら兵器とするならば欠陥だな)

 

 ガイは騎士人形を欠陥兵器と認識を改めた。

 動いた感覚は正に人体と同じ。

 オルディスが斬られでもすれば、機体に伝わる痛みを操縦士も受ける。

 同時に相手を傷付ける場合も同じ感覚を操縦士は受ける。

 騎士人形に搭乗しながら生身と変わらない。

 兵器越しによる殺しは、生身で行う殺人と同じ。

 つまり騎士人形の搭乗は人体が7メートルに巨大化したのと変わりないのだとガイは、自身の中で結論付けた。

 レナの言う通り巨大化した殺し合い。何故騎士人形の必要が有るのか、改めてガイに疑問が巡る。

 

 動くオルディスを眼にしたザナルが拳を握る。

 黄金の騎士人形が拳を握り締め、やがて背中の槍を抜く。

 

『やるのか?』

 

 黄金の騎士人形──ヴォルグの声が響く。

 

「クオン教官、自分とディアスの対戦を許可して頂きたい」

 

「ほう? やっと腕を動かした程度のひよこが言うじゃないか」

 

「操縦諸々含めた練習を兼ねた対戦なら文句は無いでしょう?」

 

「駄目だ。飛行訓練も有る、それに基礎ができずいきなり戦闘ができるとは思えん。何なら走ってみせろ」

 

 ザナルは不服そうにため息を吐きながら、ヴォルグを走らせる。

 最初は好調なスタートダッシュを切ったヴォルグだったが、異変はすぐに起こった。

 徐々に右脚からバランスを崩し、不安定な動きにザナルは焦る。

 慌てて姿勢を直そうとするが左脚部のスラスターがマナを噴出させ、大きく上がった影響により完全にバランスを崩す。

 結果ヴォルグは体制を立て直す暇も無く転んだ。

 転んだ衝撃、ヴォルグが打ち付けた箇所がザナルに鮮明に、生身で転んだ時と同様の痛みが襲う。

 

「いっつ!?」

 

「それが騎士人形から受ける影響だ」

 

 グラウンドに転んだヴォルグをガイは冷静に見つめる。

 なぜ転んだのか。

 原因は単純なことだった。

 まだ騎士人形の感覚と人体の感覚の差異が有る。

 単純に大きさによる歩行時における脚幅と騎士人形が出す速度のバランスが噛み合わず、加えて脚部のスラスターの誤作動によって機体はバランスを崩した。

 まだ完全に操縦士と騎士人形が同調していないが故に起こった結果に過ぎない。

 逆に武術を嗜む物が慣れるにはそう時間を有さない。

 

「フォンゲイルのように焦れば不様を曝すことになるだろう。さて5分与える、その間に必要最低限の操作と感覚を身に付けるんだ」

 

 クオン教官のスパルタ指示に騎士人形が動く。

 不慣れな感覚に覚束無い脚取り。

 目の前に広がる光景にクオン教官は、誰しもが最初はこんなものだと見詰める。

 しかし、その中でも頭一つ抜けている生徒が驚くことに6名も居る。

 幸か不幸か彼らには素質が有る。

 クオン教官は過去の自分と彼らを見比べながら。

 

(良くも悪くも有意性、危険性を示す明確な根拠となるか。彼らの未来はまた縛られてしまうのか)

 

 遠くない未来に彼らの身を案じた。

 特にその中でもスラム街出身のガイは親の庇護も無い。

 彼には何一つ後ろ楯が無い。

 生徒より頭一つ抜けた操縦技術は、要らぬ誤解を与えるだろう。

 彼はテロリストと通じながら、密かに操縦訓練を受けていたのではないか?

 クオン教官はガイの素性を理解しているため、それは有り得ないと断定する。

 しかし不幸にもクオン教官一人の保証では国は納得しないのが現実だった。

 生徒を護るために理事長も当然動くがこの国は王権制度だ。

 国王がガイをテロリストと認定すれば、軍部は王命に従わなければならない。

 

(結果は全て彼次第か)

 

 クオン教官はガイから視線を外し、漆黒の騎士人形を操るジンに視線を向ける。

 

「五分経過だ。次は飛行の仕方を説明しよう」

 

 時間通りにクオン教官は説明を続けた。

 

「操縦に付いては人体の延長戦だったが、飛行は我々には無い感覚だ。飛び方も全て個々の感覚に委ねられる」

 

「教官、それは説明ですか?」

 

「無い部位の感覚説明など生憎とわたしは不得意でね。敢えて言うなら飛ぶイメージを固めろ」

 

 そう言うや否や、クオン教官が操るクォールが背部のブースターからマナを噴出させ飛翔する。

 目の前で飛び立つ騎士人形に生徒は感嘆の声を漏らした。

 

「飛ぶのにマナを消費するのか」

 

『おう騎士人形の動力源はマナだ。気を付けろ? 核に蓄積されたマナは待機時に龍脈内で回復するが、稼働中の回復には限りが有る」

 

 オルディスの説明を念頭にガイは背部に意識を集中させる。

 実際にクオン教官はやって見せた。

 ガイの中で固まったイメージを元に、オルディスが屈む。

 そして一気に地面を踏み出し、跳躍すると同時に二機の背部ブースターと脚部に備えられたブースターからマナが噴出される。

 勢いよく飛び立つ騎士人形、襲う重力抵抗にガイは顔を歪めた。

 そのまま重力抵抗を振り切り地上を離れ、空に到着したガイは周囲を見渡す。

 いつもより近くに感じる太陽と天空城。

 ガイは機体を滞空させクォールに頭部を向ける。

 

「ふむ、やはりディアスが速いか」

 

 ガイ自身も不思議だった。

 なぜこうも速く操作に慣れるのかが。

 

「同調率の関係なのか?」

 

「それも有るが試作型にはリミッターが無い。オルディスの次に製造された初期型のクォールにもリミッターは無いが、その分機体が受ける影響は他機と比べ物にもならんだろう」

 

 クオン教官の警告とも取れる言葉。

 ガイはオルディスの頭部を動かすことで頷いて見せた。

 すると上空を滞空する彼らを他所に、黄金の騎士人形が間に割り込んだ。

 これにはクオン教官は素直に驚きを見せた。

 順当に行けばレナとリン辺りが次に来るだろう予想を超え、ザナルが操るヴォルグがこの空に上がってきた。

 彼の高いプライドと反骨精神がそうさせたのか、クオン教官は興味深そうに眼を細める。

 そして次に漆黒の騎士人形が空を飛翔した。

 

「ほう、フォンゲイルとブルークスがわたしの予想を超えたか」

 

 予想を超えた二人に素直な称賛の声を与える。

 そんなクオン教官にジンが漆黒の騎士人形──バルラの六枚型ウィングを動かして見せる。

 

「教官、質問なんですが」

 

「ん? 他の生徒が上がって来るまで質問を受け付けよう」

 

「どうして俺の機体は他の騎士人形と似た部分が多いのでしょうか?」

 

 ジンの疑問にガイが耳を傾けた。

 言われてみればジンの操る騎士人形はレナやリン、他の騎士人形と似た装備が数多く施されている。

 盛りに盛った装備、それでいて絶妙なバランスで製造されたと思われる構造だ。

 ガイの観察を他所にクオン教官が質問に答える。

 

「君の機体に関してだが、わたしにも分からないことが多い。騎士人形は多種多様だが、同クラス全員の騎士人形と何処かしら似るとは、前例もない。ましてや漆黒の騎士人形に付いては記録や文献で眼にしたことがない」

 

「それって、バルラは特別ってこと?」

 

 何処か浮き足立つ声にクオン教官は顔を顰めた。

 機体内でジンの顔は興奮に染まっていることが容易に想像できたからだ。

 昨日までは置かれた現状に否定と不満を抱いていた生徒が、特殊な騎士人形に浮かれている。

 これは悪い兆候だ。

 

「君の機体を特別とは思わないことだ。それにバルラは何と?」

 

「……そ、それが、バルラは何も一言も喋ってくれないんだ。まるで言葉を理解していない赤子みたいな反応で」

 

「なに? 意思疎通が難しいければ今後に支障が出るだろう。しかし、君一人の為にカリキュラムを大幅に変更することはできない」

 

 ジンもクオン教官の言葉に理解を示しながら、それでも不満気な表情を浮かべた。

 操縦士に選ばれて三日目。一体どうやって意志疎通を可能とするのか分からないからこその不満だった。

 

 ガイは一連の会話を耳に。

 

『騎士人形には人格が備わっている。それが普通だと思っていたんだが』

 

『や、そりゃあ普通つうか完成と共に人格も産まれるからよぉ。俺にもバルラの現状は分かんねぇな……いや、産まれたばかりなら説明が付くか?』

 

 オルディスの声にガイは押し黙った。

 騎士人形に対する知識不足に合わせて不確定要素に対する考察は、頭が余計に混乱する。

 そう考えたガイは一度バルラの事を思考の外に追いやった。

 クオン教官とジンの問答を他所にヴォルグが槍を振り抜く。

 そのまま槍の矛先をオルディスに向け、挑発する様に素振りを始めた。

 槍の矛がギリギリ当たらない間合い。

 振り回される槍にガイは鬱陶しいさと陰湿さに眉を歪めた。

 それはまるで与えられた新しい玩具に浮かれる幼子の様な行動だ。

 そんな者を相手にするよりも無視して空を眺め、天空城の考察を考えた方がずっと有意義だとガイは結論付ける。

 当人はそれで何も問題無い。この場に正義感の強い者が居なければ無視一つで終わり、ザナルも堪らない奴と諦めた可能性が高いだけマシだった。

 

「おい! こんな場所で槍を振り回すなよ、他人に迷惑だろ!」

 

 ジンが声を荒げるまでは。

 

「なに、貴族たる僕に平民風情が意見するか? この場に誰よりも不満を抱いていた君が!」

 

「そ、それは今は関係無いだろ! 迷惑だから止めろって言ってるんだ」

 

 両者はガイを挟んで睨み合う。

 それも長くは続かなかった。

 

「いい加減にしろ! 貴様らの時間は無駄な口論をする時間では無い!」

 

 クオン教官の怒鳴り声に二人の動きが止まる。

 

「……しかしブルークスの言動も正論では有る。フォンゲイルもお父上の名を汚したく無いのなら弁えろ」

 

 それっきり2人は黙りを決め込み、全員が空に上がり軽い飛行操縦で授業は終わりを迎えるのだった。

 

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