アダムス操縦士学院   作:藤咲晃

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7話 クラス対抗試合に向けて

 新入生が入学してから速くも2週間を迎え、生徒達がまともに騎士人形を動かせるようになった頃。

 

「来月の中旬で君達は一ヶ月を迎える。その日、君達の成果を示す場としてクラス対抗試合が設けられる」

 

 ホームルームにクオン教官から告げられた。

 

「今日から当日まで操縦科は模擬戦を基礎に行うこととなる。今日の2時限目までに誰が誰と模擬戦したいか考えておくように。わたしからの知らせは以上だ」

 

 ガイは考えた。 

 誰と模擬戦したら自分にとって一番良いのかを。

 彼が思考を巡らせている内に、ホームルームは終わりを告げ、一日が始まる。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 1時限目の歴史を終えたガイは、第三グラウンドに移動する傍ら。

 

『オルディスは誰と試合がしたい?』

 

『おー、天使ちゃんとの戦闘は良い意味で経験になるだろうぜ。単純なパワーなら紅蓮が一番だが、能力の厄介さで言えば黄金だなぁ』

 

 黄金の騎士人形ヴォルグを操るザナル。

 彼の武器は槍。

 ガイにとって経験の無い武器種だ。

 そこまで考えたガイは、面倒臭そうに顔を顰める。

 ホームルームの終了時にザナルが、この時を待っていたと言わんばかりに敵意を向けていた事を思い出したからだ。

 どの道向こうから挑んで来る。

 授業の公正な場所で。

 それならガイの最初の行動が決まる。

 彼はそのままの足取りで第三グラウンドに向かった。

 

 授業が始まる5分前にCクラスが隊列を組むと、クオン教官が満足気に頷く。

 

「開始前で少し速いが、今のうちに誰と対戦したいか決めるように」

 

 生徒が行動を起こす直前、ガイが挙手をした。

 彼の行動にクオン教官は物珍しいそうな視線を向け。

 

「ディアスの質問を受けよう」

 

「今回の模擬戦。勝敗の結果で遺恨を遺した生徒による逆恨みの可能性は?」

 

「ふむ。創設以降、勝敗の結果によって生徒の家族、親しい者に報復に出ると言った事例が有った。だが此処は公正の場だ。例え貴族の介入が入ろうとも軍隊には君達の家族、関係者を守る責務がある」

 

「ディアス、他に質問は無いか?」

 

 そう言う事ならもっと速く聴いておけば良かった。

 次から質問はなるべく早目にしておこうと結論付け、ガイは満足そうに笑った。

 

「満足だ」

 

「ならば早速取り掛かるように」

 

 クオン教官が言い切ると同時に、殺意を滲ませたザナルがガイの背後に近付く。

 

「ディアス。公正の場での挑戦を断ったりはしないだろう?」

 

「ああ。その方が互いに面倒臭くなくていい」

 

 ガイは不敵な笑みを浮かべザナルの挑発を受けた。

 デュラン、レナ、リンにわずかに緊張が走る。

 この2週間の間でザナルのガイに対する間接的な嫌がらせが続いた。

 それでも彼は全てを受け流し、興味すら示そうとはしなかった。

 それが今日、報復対象が軍部に守られていると知ると彼は応じた。

 つまりガイは今までの鬱憤を晴らすつもりなのだと3人は理解する。

 

 不穏な気配が漂う第三グラウンドに、いよいよ騎士人形が召喚されると。

 広々としたグラウンドに対戦相手と共に散らばる。

 そして。

 

「これより模擬戦を開始する! 用意はいいな?」

 

 クオン教官は一呼吸分の間を開け。

 

「始め!」

 

 号令をかけた。

 開始の合図にガイは霞の構えを取りながら、オルディスのブースターにマナを噴射させ加速をかける。

 間合いに入るよりも速く、ヴォルグが空に飛翔した。

 右手に槍を携え、機体の左掌を向けるヴォルグにガイは訝しむ。

 

『何か能力でも使うってのか?」

 

『どうするよ相棒? 突っ込むか』

 

 単純な提案にガイは思考を挟む。

 ガイの思考を読んだオルディスが笑い声を漏らす。

 そしてガイはオルディスを飛翔させた。

 

「はっ! 罠と知らずに突っ込むとは!」

 

 軽蔑と傲慢さを滲ませたザナルの声がヴォルグから響く。

 そして彼は。

 

「《愚民よ我が威光に膝付け》」

 

 呪文を唱え、地上に魔法陣が展開された。

 瞬間、オルディスに凄まじい重力が襲う。

 飛翔していたオルディスが失速し、重量に加えられた重力によって地上に向けて落下する。

 重い感覚にガイは2機のブースターを噴射させた。

 機体は地面に叩き付けられ、落下の衝撃がガイの全身に想像を絶する激痛を与える。

 彼は声を押し殺した。

 外傷の無い痛み。これは幻覚的な痛み。

 そう思い込むことで激痛に耐える。

 オルディスを動かそうとするが、機体は重く起き上がれない。

 

『何が、起きてる?』

 

『黄金の特殊能力【重力展開】だ。操縦士の任意の方向に、好きなタイミングで発動できる厄介な能力だ』

 

『こいつは魔術の一種か?』

 

『おう! 純度の高いマナが密集する騎士人形だからこそ可能だけどな!』

 

 オルディスの解説にガイはなるほどと理解する。

 自分はまんまんと能力に嵌り動けなくなった。

 同時に重力という大規模な魔術行使。

 機体の動力源であるマナの消費量も計り知れない。

 空から見下し槍を構えるヴォルグにガイは口元を吊り上げた。

 重力が発生している場所はオルディスが居る位置。地面から空までの空間。

 ヴォルグがオルディスの上空に入った瞬間、機体は重力落下を始め槍がオルディスを容易く貫く。

 思考を挟み込む余裕が有るのは、ザナルが慢心を見せ完全に油断しているからに他ない。

 ガイは打開するべく行動を起こした。

 

「《揺らめく炎は時として、燃え盛り焼き焦す》」

 

 魔術の発動場所はヴォルグの真上。

 生身で遠距離に魔術を発動させることは無理だが、騎士人形は純度の高いマナの塊のような物。

 魔術の発動に必要な触媒は揃っている。

 

 上空に構築された魔法陣にヴォルグが警告を発する。

 

『上空に魔術反応! 退避しろ!』

 

『なに!?』

 

 ザナルは言われるがまま機体を後方に後退させた。

 魔法陣から灼熱の熱線が放たれ、ヴォルグの脚部を掠める。

 焼けるような痛みがザナルを襲う。

 

「あっ、熱いいぃ?! 貴様ぁぁぁ!!」

 

 熱の痛みに激情に狩られたザナルは集中力を欠いてしまった。

 その結果【重力展開】が消失し、オルディスの自由を許す。

 起き上がり、霞の構えを取るオルディスにザナルは槍を突き刺す形で、4機のブースターによる加速を掛けた。

 上空から凄まじい速度で迫るヴォルグ。

 ガイは全神経と意識をオルディスに注ぐ。

 そしてヴォルグの槍が太刀の間合いに入った瞬間。

 甲高い金属音がグラウンドに響き渡る。

 矛と刃がぶつかり火花を散らす。 

 ヴォルグが間合いを取るべく後方に一度飛んだ。

 ガイは決してその隙を見逃さず、霞の構えから太刀を振り下ろす。

 ヴォルグは咄嗟に槍を払い、太刀の剣筋を逸らす。

 それでもなおオルディスが間合いを詰め込む。

 

「チッィィ!」

 

 忌々しげに舌打ちするザナルは、ブースターの出力を上げオルディスと距離を離す。

 十分な間合いを取ったザナルがいよいよ攻勢に転じる。

 槍を一回転。ヴォルグは高速の突きを放ちながらオルディスに向けて加速した。

 対するガイは霞の構えを取り直し。

 

「《炎や刃に宿れ》」

 

 刃に炎を付与させ迫り来る、連続の突きに対してオルディスは横斬りに一閃放つ。

 瞬間、甲高い金属音がグラウンドに響き渡る。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 半ばから折れた槍がグラウンドの地面に刺さり、ヴォルグの装甲に太刀の刃が食い込む。

 オルディスが装甲から太刀を引き抜くとヴォルグが地面に中座の姿勢で崩れた。

 オルディスは太刀を鞘に納刀し、ヴォルグに頭部を向ける。

 

「……やっちまったか?」

 

「安心しろディアス。ヴォルグからフォンゲイルの生命反応が有る、どうやら彼は気を失っているようだ。それに破壊された機体は姿が消え、同時にそれは操縦士の死を意味する」

 

 クオン教官の返答にガイは操縦席に背中を預け、深く息を吐いた。

 

「全身が痛え」

 

 ガイは全身の痛みに顔を歪めせた。

 

「オルディス、模擬戦が終わったのなら対戦相手を隅っこに運び、君も観戦するんだ」

 

 クオン教官の指示に従い、オルディスはヴォルグをグラウンドの隅に運ぶ。

 そしてガイは機体越しからCクラスの観戦を始めた。

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